【R18】琴葉と旦那様の関係

巴月のん

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2)琴葉と『家族』と旦那様

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・・・またかと琴葉は呟いた。

三ヶ月前から時折起きた時に部屋が変わることがある。
今日も例によっていつもの屋根裏から無駄に広いこの寝室に連れ込まれて寝かされていたようだ。
実際この部屋は琴葉の屋根裏の三倍ぐらいは広い。ベッドだってキングダブルベッド。布団ももちろんふかふかの羽毛布団。一般の家にはなかなかないクッションだって無駄にたくさんある。もちろん家具はアンティーク家具で統一されているし、壁も屋根すらすべてが豪華。さすがは城野宮家といったところだろう。
しかも、着ていたパジャマまでシルクのネグリジェにすり替わっている。まさかと思い、下着を確認すればそっちの方も変わっている。

「・・・旦那様の仕業ね。何をしたいのかしら、あの人。」

ため息をついてすぐに布団から降りて屋根裏へ戻ろうとする。するといいタイミングで黒川がドアを開けてきた。
黒川は長年この屋敷の執事をしており、巽の世話係も任されていたほどのベテランである。三ヶ月以前・・・ここに来た時からいろいろと気にかけてくれていたが、三ヶ月前からより過保護になったような気がするのは気のせいではないはず。
一礼をしてきた黒川に向かい合った琴葉は長年で培われたメイドとしてのお辞儀を返した。

「・・・おはようございます、このような姿で申し訳ございません。黒川執事長。」
「おはようございます、奥様。この黒川に敬語は不要と何度も申しております。それに、その姿は寝起きであれば当然のこと。さぁ、旦那様の命令でこちらの食事を運ばせていただきます。どうぞテーブルの方へお座りくださいませ。」
「それは無理ですわ、今日は賄いの担当なのです。」
「ご安心くださいませ。早朝の内に変更をすませてございます。」
「・・・・・・旦那様がしたいことが相変わらずわからないわ。」

諦めたようにテーブルのある方向へ行く琴葉。その後をついていった黒川はキャスターから温かな食事をテーブルに並べだした。

「・・・ずいぶん多いですね。ベーゴンエッグにサラダとスープにパンにデザート。」
「めっそうもございません。これでも奥様に言われて減らした方でございますよ。」
「黒川執事長・・・三ヶ月前にいきなり旦那様が私と正式に結婚をしたと報告をしたことで大騒ぎになったのは覚えてらっしゃいますか?」
「・・・はい、もちろんでございます。」
「それは、姉の本来の姿を知ったからと聞いたのですが、本当なのでしょうか?」
「でしたら、この食事を食べていただければ、この黒川が知る限りのことをお伝えしましょう。」

相変わらず、くえない人。そう思いながら、琴葉はしぶしぶとスプーンを取り出した。ゆっくりとスープを取り、パンをちぎって食べはじめると、黒川が説明し出した。

「あれは三ヶ月前・・・正確には四ヶ月と二週間のことでございますが、旦那様が血相を変えて私をお呼びになられました。」

『黒川、すまないが詳しく調査してもらいたいことがある。』
『何かトラブルでもおありになったのでしょうか?』
『・・・琴華の動きを調べてほしい、それから琴葉の恋愛歴の方ももう一度洗ってくれ。今度は細かく詳細に・・・できれば、琴華と琴葉の行動を比べた時にはっきりと解るようにしてもらいたい。』
『・・・すぐにお調べしますが、何かあったのかだけはこの黒川にも教えていただけませんか?』
『見間違いだとは思いたいが・・・琴華が他の男と寝ているのを見てしまってな。』
『琴華様が?確か・・・妊娠されていたはずでは・・・。』
『ああ。だからこそ、慎重に調べてもらいたい。』

「旦那様はそうおっしゃいました。それで、この黒川が調査させていただいたところ、三ヶ月前に事実がわかったのでございますよ。」
「・・・・それで?」
「いろいろな証拠がでてまいりましたが、決定的だったのは・・・やはりこの4年間でしょうか。この屋敷はご存じのとおり、厳重な警備で守られております。この4年間、琴葉様がここから出られるはずがないのに、なぜかお店やホテルに琴葉様の名前が記載されておりました。」
「姉も迂闊なものですね。」
「・・・ですが、彼女が迂闊だったお蔭で旦那様はかろうじて思いとどまれたのです。妊娠の方も調べて追及したところ、旦那様の種ではないと解りました。」
「・・・でしょうね。」

デザートを食べ終えた琴葉はごちそうさまと手を合わせる。それを見届けた黒川は一礼して、テーブルに残った皿をすべて回収していった。その隙をついて琴葉はドアの方へ向かった。それに慌てる様に黒川が声をかけるが一足遅かった。

「奥様、旦那様からはクローゼットにある服をお使いになるように言われておりますが。」
「・・・着る必要性を感じません。これから、屋根裏に戻ってメイド服に着替えますので失礼いたします。」

あっさりとドアを開けて出て行った琴葉を見送りながら黒川はため息をついた。もちろん、琴葉はしっかりとネグリジェと下着も併せてしっかりと洗い、昨日使った服とともに丁寧に部屋へ戻しておいた。

・・・やはりかと巽はため息をつかざるを得ない。
仕事のためにスーツを着て玄関ホールに出ていく時はきまってメイドや執事が見送りに来るのだが、その中に琴葉もメイド服を着て混じっていた。
もちろん周りは必死に止めたのだが、それを素直に聞く彼女ではないし、来るようにしつけたのはほかならぬ巽自身だ。文句を言えない代わりにせめて何か意思表示はしなければいけない。

「・・・おはよう、琴葉。」
「おはようございます、旦那、さ・・・・っ・・ん、んんっ・・・・!」

挨拶がわりにと、人前も憚らず、琴葉に無理やり口づける。もちろん、舌もしっかり入れておく。こうでもしなければ想いはなかなか伝わらない。毎日を積み重ねて少しでも本気だと解ってもらわなければ意味がないのだ。
ようやく満足して唇を離した巽が再び琴葉を見れば、不機嫌モードになって唇を必死に袖で擦っているのが見えて、内心傷ついたが、そ知らぬふりでにっこりと微笑んでやった。

「朝ご飯は口に合わなかったのかな?不機嫌な様子だよ?」
「旦那様の挨拶の仕方が嫌なだけです。いちいちキスせずともよろしいでしょう。」
「今はキスは琴葉にしかしていないんだがな・・・もう行くが、あまりメイドの仕事を頑張りすぎるなよ。」
「・・・行ってらっしゃいませ。」

ひらひらと手を振って出ていく巽に苦々しく思いながらも琴葉は他のみんなに合わせてお辞儀をして見送った。
この後は窓ふきにかからなければとため息をついて玄関ホールを出て行こうとする、その時だった、麻衣が近寄ってきたのは。昨日のような気さくさと打って変わって丁寧なのは人の目があるからだろう。

「おはようございます、奥様。」
「・・・おはようございます。麻衣さん、何かご用でしょうか?」
「電話がございまして、今日の16時頃、琥一こいち様と晃次こうじ様がこちらに伺うとのことです。」
「・・・あの方々が私に会いに来るわけないと思うのですが。」
「とにかく、奥様とお話がしたいとのことでした。それでは失礼いたします。」

一礼して下がっていく麻衣をよそに琴葉は困惑していた。とりあえずはと、歓迎の用意をするために動かなければと思い、まずはおやつをお願いするために台所へ向かった。

「・・・本当に来られたのですね、琥一様に晃次様、お久しぶりです。」

感情を隠して目の前にいる2人にお辞儀をする。もちろん、服装はメイド姿だ。そんな琴葉に琥一も晃次も顔を見合わせてがっくりと肩を落とした。

「・・・せめて、人前では昔のように兄様と呼んでくれないかな。さすがに他人行儀はきつい。」
「琴葉、本当はね、父も美琴みこと姉も来たがっていたんだ。でも、琴華ことかを見張る人間が必要だったからさ・・・とりあえず、俺達が来たんだよ。」
「とりあえず、執事長に許可をいただきましたので、客間の方にご案内いたします。どうぞお入りくださいませ。」

二番目の兄である晃次の言い分を遮って恭しく案内するために歩き出した。それに再び兄二人がため息をつき合ったのはいうまでもない。客間で一息ついた二人は改めて、琴葉に向かい合う。

「三ヶ月前にね、巽から連絡があったよ。いろいろとこちらでも調査して全部事実だと証明された。」
「・・・琴葉からすればおせぇと怒っても仕方がないことだけれど。」
「いえ、怒ってはおりません。むしろ、信じていただく事はもう諦めていたのでびっくりしています。」
「とてもそうは見えないのだけれど。それで、巽からもいろいろと聞いた。この4年間お前がどういう風に暮らしてきたのかも含めて。」
「実家もそう大差ないことをしてきているけれど・・・もし、琴葉がその、良かったら、離婚して家に帰ってきてもいいと思ってさ。」
「・・・家の中の雰囲気もね、だいぶ変わったよ。だからね、もう気兼ねしなくともいい。母と琴華は俺達が抑えておくから。それぐらいはできるようになったし、父も後悔している。」

何とか必死に言う兄二人に琴葉は表情を変えずに淡々と断りを入れた。

「申し訳ございません。こちらで仕事をしている方が楽なので、お断りします。」
「・・・そう。それなら仕方がない・・・琴葉の意思は尊重したいから、無理は言わないけれど、その巽とはどうなっているのかな?」
「旦那様は『旦那様』です。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「・・・・・黒川さーん、すぐに来てくれ!!」

抑揚のない声に耐えられなかったのだろう、2人とも思わず顔見知りの黒川を呼んだ。実言うと、琥一は巽の同級生だし、晃次も連れられてよく遊びに来ていたため、顔見知りなのだ。2人の声が聞こえたのだろう、慌ててやってきた黒川に対して、琥一と晃次は矢次に質問を浴びせた。

「・・・実家でもあまり笑わなかったけれど、ここまで酷くなかったよ!なんでこんなに笑顔がないの!?」
「旦那様が旦那様ってどういう意味なんだい?巽から酷いことをしていたとは聞いていたけれど、ここまで達観できるものか?」

2人の慌てるような質問に黒川は冷静に一つ一つ答える。その間、ずっと琴葉は口を閉ざしていた。

「晃次様、奥様がこうなっておられるのはおそらく巽様のせいかと。それ以上のことはお察しください。琥一様、『旦那様』というのは多分ですが、この屋敷の主としての意味かと思われます。」

黒川の返事を聞いた大の大人2人は顔を引きつらせた。

「・・・巽のやつ、俺達に話したこと以上に嫌われるようなことをしたんだろうな。いや、俺達も何年以上前から様付けで呼ばれるほど嫌われているけれどさ。」
「なるほどな、つまり雇い主としか見ていないと・・・。いや、まだ俺達はいい方だろう、父母なんてずっと琴葉から名字と様付けで呼ばれているんだから。」
「ああ、そうだった。考えてみれば、琴葉が唯一素直に呼んでいるのは美琴姉だけだな。」

2人の言葉を聞いて琴葉は訂正するために首を振った。

「いえ、美琴様のことは、4年前に家族ではないと実家から縁切りされた時に姉呼びを止めております。琴華様のことを姉と呼ぶのも旦那様の前だけです。」
「琴華の方はどうでもいいけれど、美琴姉が聞いたら絶対に怒るよ、それ・・・。」
「会う機会もないので問題ないかと思われます。用事はこれだけなら、おかえりいただくことになりますが・・・。」
「・・・今日はもう帰るけれど、今度は美琴も連れてくるからな。」
「美琴様にそこまで迷惑はかけられません。それぐらいなら二度と来ないでくださいませ。」
「・・・長年誤解していたのは悪かったと思うよ。でも、せめてこれからの心配ぐらいはさせてほしいんだけれどな。」
「そう思うなら、美琴様を連れてこないでくださいまし。・・・あの頃、一番私を気にかけて下さった方にこれ以上の迷惑はかけられません。」
「だからこそ、連れてくるんだってば・・・ああもう、帰ったら美琴姉に怒られる・・・。」

琴葉の一つ上の兄である晃次はぐったりし、巽と同じ年齢である琥一は眉間に皺を寄せていた。ちなみに美琴は琴葉の三つ上だ。よろめきながら帰っていく2人を見送りながらぼんやりと立っていると、黒川が話しかけてきた。

「私が口出しするのも憚れますが、やはり美琴様にお会いになっては・・・。」
「・・・美琴様には本当にお世話になりました。家族の誰もが琴華様を信じる中、ずっと私をかわいがって下さった。それに、4年前も私のために必至に擁護してくださった。とても感謝しております。だからこそ、これ以上の迷惑はかけたくありません。」

家族を久々に思い出してしまったのはやはり、兄二人が来てしまったせいだろう。様付けはしているが、一応は[元家族]という認識はまだある。
ため息をついて、休憩したいので部屋へ下がりますという琴葉に黒川は頷くしかなかった。

屋根裏でそっと手帳から写真を取り出す。そこに写っていたのは、笑っている自分と琴華と、そして私たち二人の肩を支えてくれていた姉である美琴の3人。
まだ幼く、琴華とも仲が良かった頃のものだ。優しくて強かった自慢の姉である美琴とはずっとあの日から会えていない。

「・・・・美琴姉様。」

ポツリと呟く。思い出すのは最後に会った4年前のあの日。

『・・・さっさと行くぞ。』
『はい、巽様』
『少しお待ちくださいませ、城野宮様。少しぐらい離れ離れになる妹とお別れぐらいはさせてください。』
『・・・・・よかろう。』
『琴葉・・・私の大事な愛しい妹。貴方を守れない無力な私を許してちょうだい。』
『・・・いいえ、いいえ、美琴姉様は必死に私を守ってくださいました。』
『いつか必ず城野宮様も解ってくださる時が来るわ。だから、どうか心を強く持って。いつか必ず会いましょうね、琴葉。』
『・・・・・はい!』
『もういいだろう、行くぞ!』

(離れ離れになって最後に覚えているのは悲しそうな顔をした姉の顔・・・。)

あれからもう4年も経つとは早いものである。ずっと忘れて・・・いや、必死に忘れようとした家族達と今になって再会するのは皮肉なものだ。
旦那様と付き合っていた姉の方とは何度も顔を会わせているが、あれは別枠だろう。

ぼんやりとしているとノックの音が聞こえた。まさかと思い振り返ると・・・ドアを開けて立っていたのは、主である巽だった。慌ててベッドから立ち上がり、一礼する。

「・・・おかえりなさいませ、旦那様。このような狭い部屋での挨拶となってしまい、申し訳ございません。」
「ただいま、我が最愛の琴葉・・・そんなことは気にしない。それより、何故泣いていた?目元が腫れているぞ・・・琥一と晃次がきたと報告があったが、そのせいか?」
「最愛という虫唾が走る嫌がらせの言葉はやめてくださいませ・・・いいえ、写真に写る美琴様を見て懐かしく思っていただけでございます。」
「ああ、あの頃、君を必死に守ろうとしていた姉君か。今思えば、彼女は才女だったな。君の本質を見抜いて大事にしていたのだから。」

そっと目元に口づけしてくる巽に再び眉間に皺が寄ってしまう。離れようとすると今度は抱きしめて持ちあげられた。琴葉がそれに抗議しようとする間もなく、お姫様抱っこで朝と同じ場所に連れていかれた。どう考えても連行としか思えない。

「・・・またここに・・っ・・・旦那様、一体何をしたいんですか!」
「何度も言わせるなよ、ここは俺達夫婦の寝室だ。そしてそこでやるべきことなど一つだけ。」
「・・・・昨夜もそのために連れてきたのですか?」
「昨夜はお前がいなくて寂しいのを我慢できなかったから、肌の温もりを味わうためにこの部屋につれてきた。心配せずとも何も手をだしていない・・・寝顔が可愛らしかったからついキスはしたがな。」
「・・・湯たんぽがわりですか、私は。」
「ああ、いいな、それ。・・・今夜はぜひ身体の芯から温めてほしいな。」
「そう言いながら押し倒して脱がさないでください・・・ああもう。」

諦めたようにため息をつく琴葉と、メイド服のファスナーを外しながらうなじや鎖骨に口づけていく巽。ぼんやりと天井を見ながら琴葉はなすがままにすべて脱がされてあっという間に裸となって横たわっていた。

「・・・・相変わらず綺麗な肌だ。」
「傷だらけの肌を見てよく言えますね。」
「・・・・ああ、その傷も俺のせいでついたようなものだからな・・・。」
「はいはい・・・どうぞ、旦那様のお好きなようにお命じ下さいませ。」

投げやりに言う琴葉だが、それも無理ないと巽は解っていた。3ヶ月前まで琴葉に対しては手酷い方法で抱いていたのだ。それを少しずつ変えたものの、4年間で身についた抱かれ方はそう簡単に抜けない。気づけば、琴葉は巽が動きやすいやり方を覚えていた。それは言い換えれば、彼女の気持ちや痛みを無視したやり方をしてきたということだ。

「・・・俺が気持ちよくなるより、お前に気持ちよくなってほしいからゆっくりほぐしてやろう。」
「けっこうです、そんな愛撫などいりませんよ。」
「つれないことをいうな。これでも・・・マシになったんだ。」

琴葉の背中についた傷は鞭の跡。その上をキスマークで丁寧に埋めていく。その間にもあらゆるところを弄って全身を温めようと抱きしめた。時々彼女の唇を舐めとりキスをしながらも、肌への愛撫も忘れない。

こんなに丁寧に奉仕したり愛撫したりしても、あまり彼女は反応を示さない。だが、それは当然のことだろう、と巽は解っていた。
なぜなら、彼女は医師の診断により、性的不感症と診断をうけていたからだ。二ヶ月前に、彼女に入れていた避妊具を外してもらうために産婦人科に行ったことがきっかけで判明したのだが、原因が他ならぬ巽自身だとは他から言われるまでもなく気づいていた。

・・・いつからかは覚えていないが、琴葉はこっちの都合のいいように喘いでくれていた。逆に言うと、こちらの反応に合わせてパターン化していたということ。恐らく、不感症のせいで冷静に判断して淡々と処理できていたのだろう。

今だって喘ぎ声が一切聞こえない。
形のいい胸を揉んでも、柔らかいお尻を触ってもまったく反応がない。

いろいろ調べて必死にあれこれと方法を試しているが未だに成果はでていない。とりあえず、医師の診断を受けた後の琴葉には無理に喘がなくてもいいといったところ、ぴたりと止んだ。それこそ、こっちがショックを受けてテクに自信をなくすぐらいには。

「・・・・好きだよ、琴葉。誰よりも大事な俺の奥さん。」
「旦那様・・・後は好き勝手にしてください・・・眠いので・・・。」
「ちょ、待て待て、まだ最後までいっていないだろう、せめて一回だけでも、おい、おーい、琴葉・・・・・・・・ダメだ、寝てしまったか。」

巽の言葉をよそに寝てしまった琴葉の寝顔はとても穏やかで、いつもは巽に見せない緩んだ口元が笑っているようにも見えた。
巽はがっくりと肩を落としながら、そっとネグリジェを着せた。意趣返しに下着は着せてやらないことにした。例え朝に文句を言われてもこのまま抱きしめて寝てやろうと決めたのだ。
寝息を立てる琴葉をぼんやりと眺めながらも、柔らかな髪の毛を撫でる。

(くそ、この悶々としたコレをどう処理したらいいんだよ・・・。トイレで寂しくやるのも嫌なんだが。いっそ・・・シャワーを浴びるかな。そしたらちっとは頭も冷えるか・・・。)

一度走りだしたら止まらない男の悲しい性を嘆きながらよろよろとシャワーへと向かう。そんな巽をよそに琴葉はすっかりと夢の世界に旅立っていた。


もちろん、次の日の朝は巽が恨みがましい目で見つめているのを一向に気にせず、ホールでお辞儀をする琴葉の姿があったことはいうまでもない。


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