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1)名乗らずの出会い
しおりを挟むここはブラパーラジュ国の王都リートットの城下町にあたる場所。
この街の中で、私は『魔法のらんぷ』へ配達するために歩道を歩いていた。
白乳色の長い三つ編みを揺らしながらドアを開けると、レジが置いてあるカウンターでだるそうにうつ伏せになっている青年が見えた。カウンターへと近寄ると、音に反応したのか、青年が顔をあげてこちらを見てくる。
「こんにちは、店長さん。いつものたこ焼きの配達です」
「お、待ってましたっ!」
呆れながら、鞄からたこ焼きを取り出してカウンターに置くとすぐに反応が返ってきた。しかも、さっきまでのテンションとは大違いですごく喜んでいる。
「これ、これ、このたこ焼きがこれまた美味しいんだよねー!!」
「・・・たこ焼きの配達を頼むのって、あなたぐらいのものですよ、店長さん」
「だって忙しくてなかなかいけないんだもん。近場のよしみでって、たこ焼き屋さんが言ってくれてほんとありがたい限りだよ」
「お父さんは甘いですから。まぁ、確かに五分もかからない近場なんで別に構わないんですけどね」
それに、店長が忙しいというのもまぁ理解できる。なにしろ、この『魔法のランプ』は知る人ぞ知る、魔呪符を扱っていることで有名なお店なのだから。
今日は営業していないので誰もいないが、お店が開いているのは多分、商品在庫の確認とかそういう作業のためだろう。
そして、こういう日には決まって、店長は私をカウンターの裏へと招待してくれる。これは、いつもの、たこ焼き配達のお礼にと入れてもらえる紅茶をごちそうになって帰るパターンだなと思いながらも椅子へと座った。
「はい、どうぞー」
「ありがとうございます。うん、相変わらず美味しい紅茶ですね」
「そう?そりゃどうも。さて、たこ焼き、いつものようにいただきますよ」
「どうぞ」
私が紅茶を飲む間に店長がたこ焼きを食べる。これまた、いつものパターンである。差し出された紅茶を飲みながら、思いだしたことがあったので話しかけてみた。
「そういえば、前の店長さん夫婦にお会いしましたよ。お元気そうでした」
「そりゃよかった。もう年も年だったしね。俺を雇ってくれたいい人達だからゆっくり余生を過ごしてほしいなあ」
「特にここは種類豊富でなかなか入りにくい魔呪符も売ってますよね。それだけでもすごいのに、国でここだけが政府認定されているお店ですもん・・・潰れなくて本当に良かったです」
「確かに、魔呪符ならここでって言われているぐらい有名だな・・・それを知らなかった俺も相当だけれど」
「そういえば、何もわからずにとりあえずって店長募集のチラシに飛びついたんでしたっけ。相当せっつぱっていたんですね」
「あーまーね。なんていうか、自由に使えるお金が欲しかったっていうのが大きかったかな」
たわいのない会話の中、ますます目の前にいる店長への疑問が深まる。
(ふーん、自由に、ね。やっぱり、この人どっかいい貴族とかで家出して来たとか?時折、綺麗な動作をするし、紅茶も見るからに高価そうだし、何より、世間知らずなところがあるんだよね。)
店長は相変わらず不思議な人だ。
ぱっと見た目は茶色の目に髪の毛で、どこにでもいるような青年だけれど、どこか謎がある。まず、食器や野菜を買う場所も知らない。交通ルールにも慣れていないのかたまに確認してくる時がある。それに、彼の家族や住処については一切不明で、近場にいる街の人でさえ何も知らないと首を振っている。
極め付けは、珍しい転移魔法が使えること。これについては、家に帰る時を見たことがないので、質問してみた所、転移魔法で帰っていると言われたことから解った事実だ。
この国では確かに魔法が使えるのは一般的なことなのだが、転移魔法については相当な技術と魔力がなければ使えない。つまり、彼は相当魔力が高いと思っていい。だが、それを一切明かそうとせず、ほぼ魔法を使わない生活をしている。ちょっとした作業でも難しい作業でも一切魔法を使わないのでその分仕事が遅いのだと笑っていた。
だが、観察してみると、彼の様子からして…
(魔法を使いたくないというより、人前で魔法を使いたくないっていう雰囲気なのよねー)
という感じだ。でも、敢えてつっこまないのは、自分もできる限り魔法を使いたくない派だからだ。
(私自身も使いたくないから、他人がどう使おうがその人の問題だと思えるけれど、他の人から見たら奇異な目で見られそうだな。)
そんなことを考えていたらいつの間にか紅茶を飲み干していた。時間もそろそろという頃合いということで立ち上がった。彼の方を見ると、彼もたこ焼きを食べ終え、紅茶を飲んでいた。
「ごちそうさまです。もう行きますね」
「ああ、ありがとう」
「また明日」
「あーうん、また明日ね」
困惑したような顔を見せながらも、お見送りしてきた店長に対して、手を振って店を出た。いつものように商店街を通って店へ戻ると、父がいつものように話しかけてきた。
「おかえり。ああ、店長の様子はどうだった?」
「かわりなかったよ」
「そうか。それならいいんだ。そうかそうか。お元気だったか」
(…自分で行けばいいのに、なぜか私に行かせたがるのよね。その癖、報告しろとうるさいし。)
困惑しながらも、彼の所へ行くのはまんざらでもないから別にいいとは思っている。実際、観察する分には楽しいし、彼は魔呪符のことも教えてくれるし、会話相手として楽しい人だとは思っている。きっとこれからもこういう付き合いが続くんだろうなとこの時の私は思っていた。
でも、今その考えは、たった今、覆された。いつもの様に配達しに行こうとした時、いきなり襲われて目隠しをされたまま連れ去られたのだ。
「あーもう!!なんで、私が誘拐されなきゃならないのよ!!」
揺れて動いていることから、荷車にでも乗せられていることが解る。手首を縛られ、目隠しされていて周りが見えないことから恐怖心が沸いてくる。怖さゆえに叫ばずにはいられない。
だが、返ってくる返事はない。やむを得ずしばらく無言でいると、揺れが止まった。何事かと思っているといきなり荒々しい男の声がして、腕をひっつかまれた。
「なんだって俺がこんなことを…こい」
「いたっ!なんで、私を?一体どうして?」
「お偉い貴族様の考えることなんぞ知らんよ。俺はお前を引き渡して金をもらうだけだ」
目が見えないまま引きずられていく。しばらく歩いた後ようやく、目隠しを外された。目の前には、踏ん反り返った男が座っており、目線をずらすと広く煌びやかな部屋の中にいることが解った。
目を降ろすと、手が動かないのは手錠を付けられていたからだと解る。しかも、魔封具で、魔法を封じられた形だ。空気を読んで、無言でいると、ようやく座っていた男が忌々しそうに話し出した。
「これが、あの王子の相手だというのか?さぞ美人であろうと見てみたかったが、どう見ても貧相な小娘ではないか。」
(貧相で悪かったわね!!!というか、何なのよ、王子って!!)
大声をあげたいが、何も解らない現状では黙っているほかない。怒りを抑えつつ、相手を睨みつけたまま立っていた。すると、相手の方が顔を見上げ、再び話し出した。
「まぁいい。我が皇太子の邪魔になる王子を排除できるならそれでよい。まったく、親子二代にわたってわしの邪魔をしてくれるとは・・・忌々しい。聖女様がおられなかったらとっくに排除できたものを。ああ、小娘、お前には人質になってもらう」
「…王子とかなんだとか訳が分かりません。私はただの配達人なので、返してもらえませんか」
「配達だと?はて、お前は『魔法のランプ』に配達に行ってお茶を飲むのか?ただの配達人がそんなことはせんだろう」
「あれは、店長が気遣って、休憩をとらせてくれているんです」
「あれを店長だと?…そうか、なるほどな。お前は父親から何も知らされていないということだな。お前の過去からして、てっきり知っているものだと思っていたのだが」
何故それをこの男が知っているのかと疑問に思う。ずっと隠していた過去。私が魔法を使いたがらない最大の原因であるそれは、自分でも正直思いだしたくなかった。
だが、聞かないわけにはいかない。
「過去というのは、もしかして私が誘拐されたときの?」
「そうだ。調べたのだが、その時にケイト王子に助けてもらっているだろう?」
「…はい、確かにそうですけれど。でも、その一度しか会っていません」
「どういうことだ?…おい、あれを持って来い」
男は近くにいた執事を呼び寄せ、とあるものを持ってくるようにと命じている。しばらく無言で待っていると、目の前に写真が差し出された。そこに映っていたのは、まさかの店長だった。ただし、服装はあのエプロン姿ではなく、煌びやかな服装をしていたが。
「店長っ!!」
「ほれみろ、やはりケイト王子を知っていたではないか」
「え…うそ、そんなはずないです。だって、私がかつて助けてもらった時は…」
(絶対ありえない。あの時に見た王子が店長と重なるわけがない。だって、すごく怖い子どもだったもの!!)
あれは、まだ私が8歳の時で、私を含めた数人の子どもが他国のスパイに誘拐された時のこと。
あの時、国境で、兵士たちが私達を助けに来て、解放してくれた。その中に、ケイト王子もいた。だけれど、目の前で繰り出される魔法は幼い私にとっては恐怖に感じた。
数多の魔方陣を繰り出し、次々と無数の誘拐犯を攻撃し炎で燃やすという恐ろしい魔法を見せた王子は、紺色の髪に無機質な紫色の目で平然と燃え盛る炎を見つめていた。
私と同じ歳ぐらいにしか見えない男の子が平然と攻撃しているなんて信じられなかった。
(・・・助けてくれたけれどあまりにも怖くて叫んでしまって。それに、差し出された手を振り払ってしまった。怯えていたけれど、その時に見た彼の傷ついたような目が忘れられない。)
彼が王子だということを知ったのもその後のことだった。
確かお父さんが話してくれたように思う。
「…ケイト王子は、紫色の目に紺色の髪ではないのですか?」
「ああ、それは父親である皇弟殿下の方だな。だが、ケイト王子は前皇帝陛下の血が強いのか、この写真のように茶色の目と髪をしておる」
「え……?」
混乱してくる。では私が助けてもらったという王子とは一体誰のことなのだろうか。皇太子殿下のことかと思ったが、それはありえないと思い直した。皇太子殿下のパフォーマンスを何度か見たことがあるが、皇妃様譲りの見事な金髪に青い目だったということを思いだしたからだ。
ケイト王子については様々な事情から姿を非公開されているから一般的に写真が出回っていない。大体、助けてくれた男の子がケイト王子だということについては、お父さんから聞いたことだし。
(お父さんがウソを言うとは思えない。じゃあ、この人が見ていたケイト王子というのは?それに、店長って一体何者なの…?)
ぼんやりと考え込んでいた時、いきなり廊下から慌ただしい音が聞こえた。座っている男も気づいたのだろう、訝しく思い、執事を様子見に行かせていた。
「おい、外のやつらは一体何を騒いでおるのだ?」
「さぁ……?」
何故か会話していた時にいきなり扉が盛大な音をあげて開いた。そこに現れたのは無数の兵士達。
慌てふためく私達を余所に一斉に取り囲んできた。
次々と変わっていく展開に追いつけず、私はひたすらパニックで叫ぶことしかできなかった。
「え?えええ?何、何が起こったのよ――――――!?」
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