【R18】たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情

巴月のん

文字の大きさ
9 / 49

9)開けた扉から出てきたのは紫色の光

しおりを挟む


不機嫌そうに口を開いたケイトを前にアレスとマシューは臣下の礼をとりつつ、話し始めた。

「緊急事態ゆえ、お許しを。先ほどザン殿下の命により、メリーを捕縛しに兵士達を向かわせたところ、住処はもぬけの殻。しかも、女性の遺体を発見したと報告も受けております」
「遺体だと?」
「調べたところ、本物のメリーである可能性が高いということでした。そして偽者のメリーについては指名手配し、手を尽くして調査中です」

アレスの言葉を引き継ぐ形で今度はマシューが口を開いた。

「ザン殿下やラティス様がおっしゃるには、本物のメリーについて、戸籍は本国民だが、カルマリア国への旅行歴があったと。そのために身代わりとして最適だったのではないかと」
「惨いことを」

思わず呟いたアリエッタに全員が深く頷いた。

「同感です。それで、現在、ラティス様が魔力感知アビリティを駆使して、痕跡を追っている最中でして」
「ご苦労、さすが父上だな。恐らくすでに皇帝陛下への進言も済んでいるに違いない」
「どうやら水道の新設工事とともに話を通してあったようです」
「だろうね。ほんっとうに母上のこととなると迅速なんだから」
「それで、我々はどうしましょうか。動けと言うのなら、ご命令通りに」
「・・・・・・・」

腕を組んだケイトの表情が真剣な顔つきへと変わり、ピリピリした空気が肌を覆っていく感覚に身体が震えた。その雰囲気の変化にアリエッタはすぐに気づいた。

(これが皇族としてのケイト王子なんだ・・・。)

一瞬にして壁を感じたアリエッタはなんとか呼吸を整えてから、何事もなかったかのように振舞って、ケイトに声をかけた。

「あの、私はお邪魔なようなので、帰ってもよろしいですか」
「あ、ああ。ごめんね。おい、マシュー、アリエッタを送って行ってくれ」
「単なる一介の市民ごときには不要ですは」
「嫌そうな顔をするな。何か起こるか解らないんだから。殿下、失礼します。」
「失礼します・・・」

アリエッタは、マシュー同伴で廊下に設置されている魔方陣を利用して、城前へと転移した。先ほどまで張り詰めていた空気のせいで緊張していたのだろう、アリエッタはようやく肩から力を抜いた。家へ帰る道を歩きながらマシューと会話するが、その内容はやはり、先程の王子についての話題だった。

「やっぱり無理、無理。住む世界が違いすぎる」
「そういうなって、俺も一応は貴族だからそう言われるとなぁ」
「ごめん。でも、やっぱり無理だから・・・えっ、な、何が?」

アリエッタが驚いたのは店の前が騒がしかったからだ。
慌てたアリエッタが、マシューと共に人だかりを抜けて店の前へと着いた時には、もう店がぐちゃぐちゃな状態だった。屋台の屋根は壊れ、材料や道具が地面に錯乱している。まるで、誰かが複数で争ったかのような痕跡が残っていた。

「お、お父さん、お父さんはどこ?!」

パニックになったアリエッタは青ざめた様子で、口元に手を当てた。
群衆もいつもと違う店の様子に眉をひそめ、何かあったのかと野次馬も集まっている。兵士達も何人か来て、いろいろと調べている様子が見えた。

「落ち着こうぜ。とりあえず、家の中に入るが用心を」

マシューは店の前を調べていた兵士と一言二言話してから、アリエッタを後ろに守る形で家の中へと入った。

「家の中もぐちゃぐちゃだな」
「お父さんもいない。あ、まさか!!」

(ありえない。私の存在がばれるだなんて。いや、メリーが私の顔を覚えていたとしたらあいつらと繋がっている可能性もあるかもしれないのでは?!)

事実、アリエッタがメリーを認識したように、向こうでもアリエッタのことを認識した可能性だってある。
アリエッタは慌てて自分の部屋へと向かった。
驚くマシューを余所に、アリエッタは本棚の前で立ち尽くしていた。

「ない。やっぱり、カルマリアのヤツらが・・・」

大事なものが亡くなっていることに気づいたアリエッタは崩れ落ちた。慌てたマシューを余所に、アリエッタは汗びっしょりになって座り込んでいる。

『嫌だ・・・助けて、それを止めて、お願い!!』
『悪く思うなよ、お前を買い取ってくださるあるじの命令なんでな』
『いやああああああ!!!』

焦げ付く匂いの中、背中に押し付けられた焼きごての熱さといったら。
火傷にのたうち回ったあの時から私の人生はさらに最悪なものとなった。
檻の中に閉じ込められ、都合の良い時にしか出してもらえないあの地獄の日々。
その中で無理やり覚えさせられた言葉、無理やりやらされた行動。
それらすべては、この背中の忌々しい奴隷の印から始まった。
そして、未だに自分を苦しめる束縛の鎖となって自分を縛り付けている。

思いだしては恐怖を感じて涙が溢れだす。心配してくるマシューを余所にアリエッタは泣きながら呟いた。

「今も私を苦しめるんだね。そうまでして・・・私を追い詰めたいの?」
「おい、どうした、アリエッタ?!」
「きっとお父さんは連れ去られた。カルマリアのヤツらに」
「なんだと?」
「それも、多分私の所有者の関係者の可能性が高いわ」

『こやつが・・・・・だと?』
『そうです。これが例の娘になります』
『馬鹿な、話が違うではないか!?』
『しかし、能力を確かに確認しましたので、事実でございます』

アリエッタの様子に何かを悟ったマシューはすぐに通信魔法でケイトと連絡を取り合った。

「アリエッタ、魔法で殿下に連絡した。すぐにこちらに来られるから、話をしてくれないか?」

マシューに反応せず、黙り込んでいたアリエッタの前にケイトが現れた。彼を見た時、アリエッタはぐちゃぐちゃな泣き顔で叫んだ。

「アリエッタ」
「皇族だから。国で一番偉いから。だから、何をしても許されると?どんなに理不尽なことでも、どんなに横暴なことでも、トップがたった一言いえば是となる。そんなのが許されるとでも!」

どうしようもない気持ちと共にボロボロと零れていく涙と叫びが止まらない。そうやって震えていたアリエッタを包み込んだのは、ケイト王子の大きな手と身体。
そのあたたかな温もりを感じた時、ようやくアリエッタはケイトを認識した。

「お、王子・・・?」
「ここは、カルマリアじゃない。ブラパーラジュ国の王都リートットだ。そして、俺はフィトケイラ・シャーウェルシ・トーリャ。この国の王子の一人であり、魔法のランプの店長。そうだろう」
「て、んちょう・・・」
「ここは、妖精が住まう女神に愛された土地だ。カルマリアのように横暴なことなど許されるはずがない。君のお父さんも必ず助ける。だから泣かないで」
「ケイト、王子・・・ 」
「こんなに泣きはらしちゃってさ。ほら、いつもの笑顔を見せて?」

マントで涙を拭きながら何度も顔じゅうに口づけてくれるケイト王子。彼に舌で涙をふき取られた頃にようやくアリエッタは我に返った。
目のまえに映る茶色の目が、再会した時に見た紫色の目と重なった。

(綺麗・・・あれ?え、舐められてキスされているのって、私?)

気づいた時にはすでに差し入れられていた舌が糸を引いて離れていこうとしているところだった。その生々しい感触でキスしていたということをやっと自覚したアリエッタは思わず叫んだ。
ちなみにマシューは遠い目をして固まっていた。

「っな、な、なにをやってんですかあああああ!!!」
「あ、やっと覚醒したみたいだね。良かった、良かった」
「も、もっと別の方法で覚醒させてく、くださいっ!あううぅうう!!!」
「そんなに必死に口を擦らなくてもいいじゃないか。それに、普通のやり方じゃ、俺が面白くないだろう」
「面白さを求めないでくださいっ、この腐れ王子が!!」

しれっとそんなことを言ったケイトは口元を一通り舐めてから、真顔で聞いた。もっとも、アリエッタを抱きしめている腕を外そうとはしなかったが。我に返ったアリエッタがどれだけ引きはがそうとも、外れなかったので、アリエッタは項垂れた。

「で、ルアーを攫ったのはカルマリアの人間で間違いないんだ?」
「ん、恐らく、犯人達はメリーと繋がっている可能性があります。私の存在に気づかなければ、お父さんにまでたどり着けるはずがないもの」
「教えて欲しいな、そいつらはどんなヤツなの?」

ケイトはアリエッタの行動で確信をもったらしく、迷いのない視線を向けている。アリエッタは一瞬迷った後、意を決したように、背中のファスナーを外しだした。

「アリエッタ?!」

ケイト王子と向かい合っていたマシューの慌てふためく様子を余所に、アリエッタはケイト王子の目の前に背中を晒した。
背中の中心には、カルマリア国を象徴する紋章があり、その下にナンバーが刻まれている。ケイトが眉をひそめながら数字を読み取るが、意味を掴めないとばかりに声に出した。

「紋章はカルマリア所有って意味だってわかる。けれど、この『NO.∞』はどういう意味が?」
「これはカルマリアの中でも特殊なナンバー。終わりが絶対にないという意味での無限。カルマリアの皇帝は国にとって都合の良いアビリティや魔法を持っていた人間を探し出して奴隷にしていました。この印は普通の奴隷と区別するためにつけられた。いわば、国所有の特殊奴隷の証でもあります」

(あの時、魔法を使ってしまったばっかりに捕まってしまった。あれが不幸の始まりでもあった。)

「じ、じゃあ、アリエッタは・・・国の最高位にいる皇族達に捕まっていたっていうのか?」

マシューの言葉にアリエッタは噛み締めるように頷いた。

「私がいらぬ魔法を使ったばっかりに、私は特殊奴隷にされた。城の中にある牢獄へと入れられ、あいつらの望むままに力を使わされました」

ケイトは震える身体で話し続けるアリエッタを静かに抱きしめた。マシューも何かに気づいたのだろう、ケイトに対して疑問を口にした。

「け、ケイト王子、ザン殿下があの制裁を加えた時に皇族も処刑していらっしゃいますよね?」
「ああ。だが、処刑した皇族は皇帝とその血を引く直系の男のみ。妃や傍流の人間については確認が必要だ」
「おそらく皇族に近い人間であることは確かだと思います。私と会える人は城の中でも限られていましたから」
「アリエッタ、このことを父上に報告する。それから、君はしばらく皇宮で身柄を預かるよ。安全確保のためにね」
「え?」
「ルアーが行方不明である以上、君をここにおいていけないしね。やっぱり一番安全なのは俺の部屋かなぁ。よし、マシュー、ビビを寄越すからアリエッタの荷物を纏めてくれ」
「了解しました」

決定事項とばかりに頷いたケイトは混乱しているアリエッタを抱き上げ、転移魔法を展開させた。
あっという間の展開についていけず、再び、皇宮に戻ってきたアリエッタは思わず叫んだ。



「いやああああ、貴族や皇族なんかに関わりたくないのにぃいいい!!!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...