【R18】たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情

巴月のん

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12)カルマリアの魔物

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(・・・なんで、こうなるのよ。)


何故か、アリエッタは、ケイトと一緒にザンに呼ばれた。そして、「カルマリアへ行くぞ」というお言葉を賜った。しかも、一緒に行きましょうと、実にピクニックに行くと言われてもおかしくないぐらいすごく気軽に告げられた。

(ザン殿下からすればそりゃ、行かざるを得ない場所なんだろうけれど・・・。)

「アリエッタ、そんな恨みがましい目でこっちを見ないでくれる?」
「じゃ、私はあなた以外の誰にやつあたりすればいいんですか」
「王子に不敬なことはできないという割にはよく八つ当たりをしてく……っ、痛いよ」

理不尽だと解っていても突っ込まずにいられない。

(うん、ケイト王子のいうことは正しい。でも・・・。)

「私も行かなきゃいけないってどういうことですか」
「父上には何らかの考えがあるんじゃないのかな。はいはい、いくらでも俺にやつあたりしてくれていいから」

余裕たっぷりにアリエッタを宥めて来ようとするケイトに再び裏拳で突っ込んだ後、ため息をついてフードを羽織った。アリエッタはかつてはかの国の奴隷だったことを隠すために目隠しとして被っている。ザンがフードを羽織っているのは目の色と髪の色が黒に近いせいだ。ケイトは魔法を使わない限りは大丈夫というが、念には念を入れてとフードを羽織っている。

何しろ、カルマリア国は未だに黒を忌み嫌う国なのだから。

「・・・ああ、見えてきましたよ。あそこですね」

馬車に揺られていた時、ザンの声が響いた。前を向くと、砂漠の蜃気楼に石垣に囲まれた街が見えた。ケイトが太陽の光を遮るように手を翳しながら口を開く。

「ふーん、あそこがカルマリア国の中心であるアザール城下町か」

再び戻ってきたカルマリア。
ラティスがザンの命を受けて街へ入る手続きをしている最中、アリエッタは街を観察していた。
奥には、枯れた大きな樹と絡まりあうように城が聳え立っている。中央には、噴水と…見慣れぬ女神像。


(アザール・・・以前と比べると清潔になっているし、街の中の様子もわりといい雰囲気だ。それに、あの中央に見える高い女神像は一体?)


アリエッタは以前はなかったものが立っていることを訝しく思っていたが、見覚えがある兵団がやってきたのを見て顔を隠した。兵団はアリエッタの目の前を通り過ぎ、ザン殿下の前に止まった。トップらしき男が馬から降りて、ザン殿下に近づいていく。

「・・・久しいな、ザン」
「久しぶりですね、スコット。いや、今は陛下と呼ぶべきでしょうか?」
「よしてくれよ、他ならぬ友人たる君だ。普通に話しかけて欲しい」
「相変わらずで何よりです」

見知った関係で握手を交わしあう二人を眺めながら、ケイト王子に聞いた。

「スコット・・・あの方は誰でしょうか?前にいた時は見かけなかったような」
「父の友人で、この国の新たな王に立った方だ。言い換えれば・・・この国に反旗を翻し、前政権をやっつけた勝利者だね」
「ちなみに前皇王のいとこの息子ですよ、彼は傍系という立場もあって、処刑を免れました」

ケイトの言葉にザンがつけ足しをする。
彼の言い分は間違っていないようで、スコットがうんうんと頷いていた。

「前政権を潰すために、ザン殿下にもご協力頂いたお蔭で、なんとか民を助けることもできたし、この国の滅亡は免れた。あの戦火も含めて、全てはこの国の平和のため、未来のためにも必要なことだったと今も思っている」
「ああ。だから、あの時にザン殿下が簡単に入ってこられたんですか」
「彼は唯一、この国を憂いていた。前の政権を潰して平和な国を作りたいと密かに打診をされた時が、最初の出会いだったのですよ」

(道理で、あの日、いきなり攻められたわけだわ・・・内通者がいたら手引きもそりゃ簡単だったでしょうね。)

「ザン、このお二人の紹介をしてもらえないかい?」

気になっていたようで、スコットの方からザンに質問があった。それに頷いたザンは自己紹介を始める。

「こちらは覚えているかどうか・・・息子のケイト王子です」
「もちろん、覚えていますとも。アリア様と一緒にお会いしたことがあります」
「あいにくと、こちらは小さい時だったので覚えておらず申し訳ありません。改めて、フィトケイラ・シャーウェルシ・トーリャです。お見知りおきを」
「改めてよろしく頼む。それで、こちらの白乳色の髪のお嬢さんは?」

僅かに見える髪の毛の先の色から判断したのだろう。
さすがに国王に対し、礼を取る必要があると、フードを降ろし、跪いた。

「恐れながらも、名を先に名乗る無礼をお許しください。我が名はアリエッタ、この地での姓は持っておりません」
「良い。だが・・・我が国の風習を知っているということはもしや、以前ここにいたことが?」
「はい、僅か数年ではありますが、この地に根付いていた時もございます」
「なるほど、道理で礼儀がしっかりしている。・・・今この場では立場は気にせずとも良い」
「は、ありがとうございます」

頷いたスコットに対し、アリエッタは躊躇いつつ、質問した。どうしても拭い去れぬ違和感を感じていたからだ。

「失礼ながら、一つ質問を。あの中央に見える女神の像は一体?」
「ああ、あれですか。あれはカタリアリア・ハールという女神像で……えーと、国民の癒しとするために、教会と女神像を建てたいと貴族達からの要望があったので、建てたと記憶している。布施は禁じているので、祈りを捧げるだけのものになっているのだが」
「おかしいですね」
「え、何がおかしいというの?」
「ザン殿下、スコット国王陛下、下がらせていただきますがお許しください」
「待って、どこへ行こうと?」
「あの像を見に行きます。あれは…多分…壊さなければいけないものですから」

ケイトに対して、それだけを伝えて走る。

(中央の噴水に向かって行けば、あの像に近づけるはず・・・)

「足、速くないか、アリエッタ」
「え・・・って、ケイト王子!?何故こちらに?!」
「女の子を一人で放っておけるわけないでしょう。俺も一緒に行くに決まってる」

いつの間にか傍にいたケイトに唖然としつつも、足を止めないアリエッタもさすがである。
少し街中を走り、商店街を抜けたその先に噴水が見えた。
そして、すぐそばにはバカでかい女神像。見上げると女神の顔が小さく見える。女神像の前には国民の行列が並び、祈りを捧げるために待っている。

「で、アリエッタ、この像が何か?」
「感じませんか?」
「な、なにを…あ、まさか」
「気付かれましたか。そうです、魔呪符の力が働いているんですよ」


(・・・目に見える女神像から複数の呪文の帯が見えているのは、今の所、私と彼だけみたいね。)


女神像に近づこうと列へ並び出したその時、地響きとともに揺れが発生した。いきなりの発生に慌てるも、民達が恐れているのは地鳴りではない様子だった。

「うわっ?」
「まただ、逃げろ!!!!」
「アイツがやってくる、子どもたちを優先して逃がせっ!!」
「急げ、お前達もさっさと逃げろ、兵士を呼べ、急ぎ城へ報告を!!アイツが、黒の魔物が、またやってきたと!!」

慌ただしくなった街中の様子に、ケイトはアリエッタに目を向けた。それに対し、アリエッタは不思議なほどに落ち着き払った様子で返事を返した。

「ねぇ、どういうこと?」
「この国が黒を忌み嫌う理由。それが不定期にやってくる魔物の襲撃です」

城の方でも、魔物の襲撃の報告を受けたスコットが慌ただしく指示を出していた。
そして、スコットは振り返ってザンに向かって懇願し出した。

「ザン、申し訳ない限りだが、少し待っていてくれ。もちろん、君が言っていたことについても協力すると約束しよう。だが、まずはあれに対して指示を出す必要がある」
「あれはいったいなんですか」
「通称、『黒の魔物』。我が国が長年黒を忌み嫌っているのもあれが理由だ。あの黒い魔物は何故か、不定期にやってきては街を壊そうとしてくるのだ。多い時は年に10回の時もあったと伝え聞いている」
「何故、殺さないのですか?」
「何度も試したが、討伐したと思っても霧散しては、再び形作ってさらに巨大な姿でやってくるのだ。しかも、魔法も含めていかなる攻撃も無効化された。少し前の政権では簡単に追い払えたと聞くが、今はそうはいかないのだ。幸か不幸か、あの魔物は暴れ終わった後は大人しく引き下がる。その間、被害が最小限になるように手配をするしか方法がない」

唸ったスコットの言葉にザンが思案していた頃、ケイトの方でも思案していた。もちろん、アリエッタと一緒に中央から離れて、奥の方へと逃げ込んでいる。地鳴りはまだ続いており、魔物はというと、ようやく姿が見え始めた。石垣を壊し、逃げ惑う民を余所に雄叫びをあげている。

「ちょっと待ってくれ。少し前は簡単に追い払えたのにっていう街の人の声が聞こえたけれど、どういうことだ?」
「記録にはあの魔物と会話ができるのは黒髪の娘だけだと。だから、魔物の子かもっていうことで黒髪の子は総じて黒の忌み子として嫌われているのです。前の皇王は、その黒髪の娘を使って追い払っていたみたいですね」
「魔物、ね。アリエッタ、悪いが城へ行って父上と合流したい。少し国王に進言したいことができた」

ケイトはちらっと魔物を見ながら、屋根の上へと這い上がった。アリエッタも頷いて、後を追っていく。




(さすがはブラパーラジュの王子。噂に名高い聖女と魔王の子なだけあってすぐ気づいたのね。そう、あれは魔物であって魔物じゃない。あれは・・・)







この国を守護する精霊の成れの果て。









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