【R18】たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情

巴月のん

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13)カルマリアの闇

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ひとしきり暴れた黒の魔物は興味を無くしたようにゆっくりと消えていった。街中は後片付けに忙しく、兵士や騎士が入れ違い、立て直しを図っているようだ。
城の中も落ち着いた頃、ケイト達は国王に面会を申し入れた。


「馬鹿な、あれが精霊だと・・・!?」


思ってもなかったことにスコット国王は立ち上がり、呆然としていた。ザンは腕を組み、何かを考え込んだように動かないが、アリエッタの隣でケイトは真剣な表情で語っている。

「俺の精霊達が反応して教えてくれています。あの精霊は…悲しみながら誰かを探しているのだと」
「馬鹿な」
「しかも、あの精霊はどうやら、この国を守護するほどの力を持っているらしい。心当たりはありませんか?」
「確か古い伝承を伝え聞いたことがある。この城を支えている大樹の精霊がこの地に緑を潤したのがこの国の始まりだとか。もしかしたら、この大樹が枯れているのもそのためなのか?」
「この国には緑が一切なく、砂漠に囲まれている。精霊の加護がないせいと考えてもおかしくないのでは?」
「そのように結びつけて考えたことはなかったが…一理あるかもしれぬ」

ケイトの言葉に、聞いていた貴族達や騎士たちが騒めいている。スコットも否定できる要素がなく、唸るばかり。そこで口を開いたのは、カルマリア国の宰相だった。

「もしや、黒の忌み子が魔物と話が出来るのも、関係があるのでは」
「黒の忌み子か。ああ、アリエッタも言っていたな。その子がたまたま黒髪の聖女だったっていうだけではないでしょうか」
「宰相、すぐに聖女の記録と、この国を守護する精霊について書かれた書を探してまいれ!!」
「は、すぐに用意いたします!!」

慌ただしく、書記官や多くの大臣の手によって、大量の書物が持ち込まれた。それら一つ一つを確認しながらスコットが口を開いた。

「確かに、聖女は黒髪であってはならぬという決まりはなかった。聖女を召喚する際に何十年かに一度、黒髪の娘が現れるが、その時に限って魔物の活動が活発になっていることが確認されている」
「随分、聖女の召喚が多くないか?何十年かに一度だと?わが国では百年に1度ほどだぞ」
「恥ずべきことではありますが、我が国では聖女は短命でして。その、前政権までは黒髪でなくとも聖女に対する扱いは酷かったと聞き及んでいるので、環境が劣悪なことも理由にあるかと」

ザンが眉間にしわを寄せると、傍にいた大臣が密かに口添えしている。この話し合いの間にも、国王や宰相の会話は続いていた。

「国王よ、我々は長年の間、忌み子が魔物と引き合っているのだと思っていましたが」
「うむ。黒髪の聖女こそが黒の魔物…いや、精霊を治せると、女神様が考えて呼び寄せられたと考えれば納得がいく。なんということだ」
「女神様の考えを理解できぬまま、我々はずっと黒髪の聖女を忌み子として扱ってまいりました。その報いが現状を呼んだと考えれば、非常に納得がいきます。確かにこの黒の忌み子が出てきた時は、決まってこの国の滅亡か否かのギリギリの選択が必要な時ばかりでございます故に!!」

宰相が震えながらも頭を抱えている。大臣たちも呻きながらひそひそと囁き合っているこの現状こそが、アリエッタにとっては気に入らなかった。


(散々、聖女を利用して差別しておいて、他国の王子に言われたぐらいであっさりと翻すとか。この国が滅びかけているのも納得・・・。)


内心で毒づいていたアリエッタの前で、ケイトは一冊の本を開き、指さした。

「大樹の精霊は、緑の恵みをあたえるだけではなく、いかなる攻撃や魔法を無効化し、結界を張る力を持っていると書いてあります。あの魔物と同じ力では?」
「確かに。では、あの魔物は」
「大樹の精霊様でございますか!!!」
「精霊は信仰する人間と女神の力を持つ聖女の力によって生きる聖なる存在。この人種差別が酷い国では恐らく精霊に対する信仰も限りなくなかったのでは?」
「うぐ……そ、その通りだ。魔呪符や呪文に頼っており、精霊に詳しい人間もいなかった」
「それがあの精霊が魔物化してしまった理由かと思われます」

ケイトの容赦ない一言に、眩暈を感じたのか、国王は椅子に倒れるように座り込んだ。

「う、うむむむ。ど、どうすればよいのだ、我々は」
「こうなるとあの女神像を建てたのは僥倖かと。あの女神像を使い、信仰を広めてみては……」
「お待ちくださいっ!!!!」

宰相の言葉に聞き捨てならないと、アリエッタは異議を唱えた。

「それはなりません。少なくとも、あの女神像には魔呪符の呪いがかかっています」
「呪いだと?それは一体どのような呪いなのだ?」
「その前に、あの女神像を作ることを提案した人間の名前を教えてください」
「宰相よ、調べられるか?」
「はい、記録が確か、ここら辺に。ああ、ありましたな、メリー・バレット―ラ。前皇王の10番目の側妃だった方です」
「メリーだって?」
「あの忘れもせぬ、我が妃に呪いをかけた忌々しい人間の名前ではないか!!」
「やっぱりですか」

名前を聞いた瞬間、いきどおったザンとケイトに、スコットはたじろぎ、アリエッタはため息をついた。
訳が解ってない国王達に対して、アリエッタ達は説明した。ザンの妻であるアリア妃にかけられた呪いのこと、そしてメリーという暗殺者のことを。

「メリーの死体がすぐに発見されたことにも納得がいったよ。多分、正体がバレるのを恐れて殺したんだろうね」
「我が国も舐められたものだ」

禍々しいオーラを出した2人に怯えつつ、スコットはアリエッタに質問を投げた。汗びっしょりで青ざめていると思ったのは気のせいじゃなく、本当に彼の表情は青色に染まっていた。

「つ、つまり、その呪いというのは、まさかのまさかであるが……」
「残念なことに、そのまさか、です。アリア様にかけられた呪いの本体こそがあの女神像に仕込まれた魔呪符です。しかも、街の人が気軽に祈れるようにしていたことが呪いの継続に繋がっています」
「どういうことだ」
「魔呪符と呪文を結び付け、とある言葉が出たら必然的に呪いが発動するように仕組まれているってことです」
「そんなことができるものなのか?大衆の多くが祈るとなれば祈りの言葉も色々ではないか」
「ものすごく簡単にできますよ。だからこそ、あの女神像にはカタリアリア・ハールという名が付けられている」
「そうか、『カタリアリア・ハール』という言葉を呪文のキーワードにしたのだな。大半は名を呼んで祈るのが当たり前。それを逆手に取ったということか、ううむ。」
「言われてみれば、あの女神像の名前はしつこく確認されましたな。絶対に変えてはならないと必死に嘆願された記憶がありますぞ」

スコットの言葉を聞いた宰相が思い出したように言った一言がほぼ決めてになった。完全にあの女神像は、アリア妃への呪いをかけるために建てられたものだと。ザンは静かにスコットに声をかけた。

「我が友よ。貴方は言ったな、俺の相談に応じると。ついでにとケイト王子もあの魔物の正体を突き止め、貢献したと思う。その功績はあの女神像を壊すことで報いられると思うのだがどうだろうか」
「そう皮肉を言ってくれるな、我が友。とりあえず、まずはメリー・バレット―ラの拘束が先ではないかな。彼女が呪文を解いてくれるならそれに越したことはないだろうと思うが」
「む…」
「僕とて、この国の王だ。ようやく、国として機能し始めたこの国の在り方を今さら誰かに壊されたくはない。それが前国政を望む愚か者となればなおさらだ・・・ここは僕に任せて欲しい」
「はぁ、解りましたよ、その代わりその召喚の場には俺達も同席を求めます」
「もちろんだ。宰相、そのように手配を。それから、あの女神像については丁度良いタイミングだ。しばらく工事という名目で民達が近づかないように配慮を!」
「すぐに手配してまいります」

スコットの冷静な対応と宰相がすぐに下がったことで、ザンも矛先を収めた。
ケイトと何かを話しているようだったが、根っからの民衆気質のアリアは発言した後、じっと座り続けていた。


(・・・後少しで解決できそうで何より。問題は、私の探し物の方なんだよね。うーん。持って行けなかったあの本達はどこにあるんだろうか。)







その日は城に泊めてもらうことで落ち着いたが、アリエッタだけは固辞して宿に泊まりたいと言い張った。結局、ケイト達に押されて結局一緒に泊まることになる。必至に頼み込んで部屋だけは分けてもらったが。
その日の夜、アリエッタは忍び足でとある場所に向かっていた。


「危ない危ない。あの勘のいいケイト王子と一緒とか困るもんね」


ランプを持たずにすいすいと暗闇の中を歩くアリエッタは、誰の目にも見つかることなく目的地である図書室へ辿り着いた。

「さて、開いてるといいんだけれど」

静かにノブに手をかけると、鍵はかかっていない。静かに扉を開き、奥の方へと向かう。だが、そこでアリエッタはとある気配を感じ、立ち止まった。
そして、向こうでもアリエッタの気配を感じたのだろう、少しずつ近づいてくるのが解る。
おたがいに会話が出来るぐらい近い距離になった時、相手の指先に炎が灯り、顔が照らされた。彼がそこにいたことには驚かなかった。

「……さすがですね、ケイト王子」
「君も相当な手練てだれだよ。街中でも軽々と俺に追いつけるその俊足に、先ほどまでの一切気配を感じさせなかったその腕前はここでつちかったものなのかな?」
「どうしてここに?」
「あはは、答える気がないってことだね。正直、俺は君が何を探しているのか、そういうことには興味がないよ」
「だったら、ほっておいてくれませんか」

会話している間にすでに、ケイトはアリエッタの目と鼻の先に立っていた。
ケイトは静かな笑みで、アリエッタの髪の毛を弄りだす。ケイトの意図がつかめず、距離を置くのさえ躊躇い、動くことができない。
少しの間をおいて、ケイトはアリエッタの耳元でとんでもない発言をし、アリエッタの目を見開かせた。






「‐―――――でもね、君の正体には興味があるんだよね、カルマリアの聖女様」






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