17 / 49
17)大樹の精霊
しおりを挟むアリエッタは涙を拭い、立ち上がった。
隣にいたケイトは何かを考え込んでいたようだが、自分に関係ないと思い直して、さっさと目的の場所へ向かった。もちろん、この国の頂点に立つ男に会うためだ。
城の城壁近くで、部下たちを引き連れて唸っている様子が見えた。壁近くとなれば、外で黒の魔物が暴れている様子も見える。あれこれと指示を出しているのだろう、険しい表情をしている王を前に兵士たちもいつになく緊張している。
そこに場違いな雰囲気を伴ったアリエッタが登場となれば、一斉に注目されるのも無理ないこと。
「アリエッタ殿」
「もうすぐ、1時間が過ぎるので様子を見に来たのですが」
「見ての通りだ」
「ですね」
「本のほうはすでに回収してあるのだが」
「それは良かったです。でも、まだ私を出していただけないのですね」
王がだんまりになったのを確認したアリエッタは魔物のほうに目を向けた。
「結構暴れてますね。いいんじゃないでしょうか、この城が半壊しようと問題ないと思います」
「そういうわけにはいか…」
王が声を荒げるのを止めたのは、ケイトまでが登場したからだ。
訝しく思うも、すぐに警戒せざるをえなかった。なぜなら、彼は私を見て・・・・笑った。
(っ・・・なん、で、笑えるの?わたし、何か・・・見落としている?)
作戦はうまくいくはずだった。穴などないはず。
アリエッタは穴などないと思っていたが、ケイトはその思惑を完全にぶち壊した。
「悪いけれど、君の計画はぶち壊すよ。そのためにも俺は動く。王、ここは俺に許可を」
「な、なにをするつもりだね?」
「あの魔物を俺に任せてください。悪いようにはしません」
「そんな、できるはずが―――」
「アリエッタ、君は気づいていないみたいだけれど、我が国は精霊とともに生きる国だよ。当然、俺も、精霊が見えるし、精霊と協力し合うことができる」
「あっ!」
その言葉にようやく、思い立った。精霊と交信ができるケイト王子であれば、確かにあの魔物と話せるかもしれない。なぜなら、あれは、もとは・・・
「精霊だから……!!」
「でも、あれは聖女でなければ、不可能ではないのか?」
「あははー、俺を誰だと思ってるんですか」
「そういう、ことですか。あなたもまた聖女の血を引く人間ですものね」
「そ、そういうことか、なるほどな!」
ケイト王子の意図に気づいた王は驚いているが、自分としては面白くない。
(・・・忘れていたわ、そうよ。この人、聖女と魔王の子どもなんだった!)
「ということで、行ってくるよ。アリエッタも来る?」
「ええ、不本意ですがお供します。」
ケイト王子であれば、確かに不可能じゃない。
自信満々に飛び出していった王子の後を追って、城壁を駆け下りる。
地面をこする足音と同時に、聞こえてくるのはあちこちから響く悲鳴。そして、轟音。
あちこちが破壊され、瓦礫があちこちに落ちてくる。
器用によける王子の後ろについていくと、いきなり振り返った彼に声をかけられた。
「ねぇ、アリエッタ」
「うわ、と、突然なんですか!」
「あの取引、俺も諦めるつもりはないよ。君に理由があるように、俺にも理由がある。だから、先に謝るね。ごめん、俺は君をこの世界に縛り付ける鎖になる」
「そんなことを言われても」
「そのかわり、絶対に守るから」
「え?」
「君にこの世界にいてもらうためにも、俺は変わらないといけない」
突然の言葉にあっけにとられているアリエッタをよそに、ケイトは黒の魔物の前に立った。少し離れて立っていたアリエッタはケイトが息を整えていることに気づいた。
(・・・あ、魔法を、使うのね。)
アリエッタの言う通り、ケイトは魔法を使える状態にと力を開放させた。
その瞬間、あたりに風が吹き荒れ、その中央から、父親であるザンと同じ色をまとったケイトが立っていた。
『大樹の精霊よ。我の声が聞こえるなら聞き入れよ。我は聖女の血を引くものにして、精霊を友とするものなり』
王子の呼びかけに気づいたのか、魔物の攻撃が止まった。ゆっくりと王子のほうを見て動きだす様子からして言葉が通じているのだとわかる。
(・・・私は精霊が見えないけれど、なぜかケイト王子の言葉はわかるのよね。何故かしら。)
よぎる疑問を抱えながら、アリエッタは様子を見守っていた。
「ぎぎぎぎぎぎいいぃいいいいいいいいい」
『声が届いているのなら、どうか応えてください。何をお望みですか、どうすれば、怒りをおさめていただけるのでしょうか』
「ぃいいいぃぎゃ・・・・ぁ・・・・あ・・・・」
『大樹の精霊、俺の精霊たちがあなたを見ています、どうか、本来の姿で話してやっていただけませんか』
『・・・・・・ぁ・・・・・・・・』
『大樹の精霊様!』
会話にならないやりとりを何度か繰り返していくうちに、魔物の動きが次第におとなしくなっていく。少しずつ少しずつ軟化するのと同時に、精霊の言葉が漏れ出していた。
『・・・ぁあ・・・わ・・・は・・・・な、かった』
ようやく、言葉をとらえたと思ったのか、王子はさらに魔物に近づいた。迷ったものの、アリエッタも後を追って、魔物の目の前に立った。
ケイトが今度こそとばかりにさらに魔力を込めた精霊語を発したその時、ようやく魔物が言葉を話しはじめた。
『わ、らわは・・・・・・思った、だけじゃ』
『何を思ったのでしょうか』
『たすけ、たいと・・・ず、っと…ずっと、見てきた哀れな・・・いとし、子』
『愛し子・・・・もしや、聖女様のことでしょうか』
『そう、じゃ・・・・我がめが、みさ、まから・・・・授か、った・・・』
『女神様が遣わした聖女様を理不尽に扱った人達が許せなかったのですね』
『我が、声が・・・届く、ならば・・・なんとうて、やったわ。でも、届かなんだ』
少しずつ意識がはっきりし始めたのだろう、少しずつ言葉が流暢になっていく。その様子を眺めていたアリエッタは不思議な感覚にとらわれていた。
同じ空間にいるようで、少し違う感覚。
王子はおそらく、黒の魔物と話しているのだろうが、アリエッタの目には、女の子と話しているようにしか見えなかった。
花冠を被った緑色の長い髪に赤い目。背中に妖精のような羽を持ち、薄い緑の布をまとったその小さな女の子は、間違いなく、黒の魔物がいる場所に立っていた。
(もしかして・・・この子が・・・大樹の精霊!?)
<精霊は見た目より長生きだから、子どものようで子どもじゃないわよ>
唐突に理解した瞬間、頭に響く声に驚いたアリエッタはすぐに王子を見た。だが、普通に会話を続けていることからして、同じ経験はしてないようだとわかる。
気を取り直したアリエッタは、声に耳を傾けた。
(・・・・・一体、誰ですか。)
<んー、面白そうだから、今は言わないでおくわ。ただ、これは私の力ではなく、女神様の力よ。それよりも、ケイトを助けてあげて>
(は?なんで私が・・・)
<いいから、早く。保証する、ケイトは絶対あなたの助けになるわ。今は、理不尽に思えるこの世界だけれど、きっと・・・いつかは・・・・・から・・・>
途中で途切れたその声に思うことはあったが、不思議と動かされたとは思わなかった。
(・・・・なんだろう、懐かしくて、温かい・・・あの声は・・・・)
時間が経ったと思っていたのに、一瞬の時間だったようで、王子と魔物の話し合いは続いていた。
『精霊様、どうか怒りを鎮めていただけませんか』
『ならぬ。ならぬのじゃ・・・・もう、何度も、壊された、我が愛し子達の、苦しみはいかばかりか』
王子と一瞬目が合う。少し困ったように笑う彼を見たアリエッタは、先ほどの声を思い出した。
「…しょうがない、ですね。どいてください」
あの声に発破をかけられたとはいえ、ここで何もせず逃げるわけにはいかない。
王子を押しのけ、魔物の前に膝をつく形で座る。
「え?」
「聞こえますか、大樹の精霊」
『そち、は・・・・その、色はまさか』
「ええ、私にもあなたの本来の姿が見えます。怒りは最もですが、どうか収めてください」
『・・・じゃが』
「ご心配なく、自分のことは自分で片を付けます。今までの聖女様の分まで怒りを込めてやってもいい。それで、あなたはどうすればもとの姿に戻れるのですか?」
『・・・聖女が、わらわに、この国の守護を命じてくれば・・・だが、そなたは』
「そうですね、この忌々しい国のためになるつもりはない。だから、貴女を助けるためだけにやりましょう」
立ち上がった時、なぜか口をあけっぱなしで立っているケイト王子に・・・ちょっと不謹慎ながら笑ってしまった。
うん、せめてこれぐらいはね…?
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる