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18)とりあえず帰国
しおりを挟むちょっとケイト王子に誘導された気がしないでもない。だが、不思議と気分は悪くない。なぜか言葉がすらすらと出てくる。何かが私を動かしているのかもしれない。
「我が呼び声に応えよ、大樹の精霊よ。聖女として命じる。この国の守護を、この国に緑を呼び覚まし、加護を与えよ。女神の名のもとに、我が力を糧にこの国に結界を」
自分の声に反応してか、黒の魔物が光りだし、少しずつ黒の部分が薄れて光となっていくのが見えた。
驚く民衆たちをよそに、黒の魔物は緑色の輝きに包まれ、少しずつ元の姿へと変貌していった。
『・・・聖女が望むのであれば叶えよう、わらわは大樹の精霊。この国を守護する聖女を守りし者』
本来の姿を取り戻した大樹の聖霊は言葉を言い終えると手を振り、羽を動かす。地鳴りがしたのと同時に、あちこちで地面の起伏が起こる。何をおと驚く人たちの目の前で地面が割れ、緑の蔓があちこちから現れた。
一体何をと思う間もなく、城全体が木の枝や蔓に覆われ、枯れていた大樹が輝きを取り戻し、緑一面にあふれた。そして、大樹から上に上る光が昇っていく。
それを見た精霊が両手を広げた瞬間、光が無数の放射線のように国を覆う形で降り注いだ。
まぶしい光を浴び、目を瞑る。再び目を開けたその目の前にあったのは、それまで見ていた石と砂の町ではなく、緑色の光と、彩りの花に溢れた町となっていた。
「花が、花が…ずっと咲かなかったのに、おお、奇跡だ!」
「パパ、見てよ、木があるよ、ずっとなかったのに!」
「おい、井戸に水が溜まっているぞ、ずっと乾いた空気で諦めていたのよ!?」
「なんと…空に緑色の光が。大樹様の加護じゃ…伝説に聞くあの加護が我が国に蘇った!」
驚きと喜びに満ちた声があふれる中、アリエッタは大樹の聖霊に頭を下げた。
「ありがとう、大樹の精霊」
『・・・我が愛し子、そなたの願いゆえ叶えただけじゃ』
「悪いけれど、城に一緒に行ってもらえる?王様に話をしたいから」
『よかろう。わらわも王に一言伝えねば気が済まぬ』
勢いよく頷いた精霊をお供にアリエッタとケイトは城へと帰還した。
(・・・・・・精霊に怒られて正座しているお偉いさまをみることになろうとは。あれ、この世界に土下座とか正座の概念とかあるのかな。)
説教を受けているお偉いさまをよそに、アリエッタはぼんやりと座っていた。
その横にはなぜか当然のようにザンやケイトが立っていた。
「我が国ではアリアが広めたので割と知られていますが、この国ではなさそうですね」
「ザン殿下、私の心を読まないでクダサイ」
「ふふふ。しかし、いい気分ですね、他国の頂点に立つ者があのように無様な姿を晒すとは」
「そういえば、母上に聞いたことがあります。父上も土下座したことがあるとか」
「ケイト、余計なことは言わなくてよろしい」
父親の顔を見せる殿下をちょっと微笑ましいと思ったその時、大臣から声をかけられた。心なしか声が震えている気がする。
「あの、アリエッタ様、よろしいでしょうか」
「……ええ」
「まずは、お礼を。偶然が重なった結果とはいえ、精霊様から再び守護をいただけたことは我が国にとってありがたいことでございます。そして、同時に、我が国が聖女様にした仕打ちの数々を謝罪させていただきます。もちろん、この場だけの謝罪など許されるべきことではないと肝に銘じ、今後このようなことがないよう語り継ぐ所存です」
「―――――長い」
「はっ。では本題を」
自分でも長いと思っていたのだろう、大臣も気まずげに目を逸らしている。
「まず、こちらを」
「ナニコレ?」
「アリエッタ様の通行証でございます。できますればこちらに移住していただきたいのですがいかんせん、今までのことがありますから・・・しばらくは行き来する形でお願いしたくおもいます。もちろん、アリエッタ様の名前は国全体に周知させます」
「ははぁ…」
「それから、こちらがあの女神像に貼ってあった魔呪符です。結界が張られた時に、あの女神像の呪いも緩和されたようで。きちんとした解除はアリエッタ様の力が必要になりますが、ひとまずあの女神像はもう問題ありますまい。もちろん、像はこちらで処分させていただきます」
「それは良かったですね」
「だから、動かなかったんですか、ザン殿下?」
「さぁ、なんのことでしょうね」
(うがぁああああああああっ、これだから、皇族は!!!!!!!!!!)
内心で拳を作るが、さすがにあげられないのが恨めしい。ぐぬぬと唸っていると、大臣はさらに本を差し出してきた。メリーから取り上げたのだろう、三冊揃っている。
本を預かると、その重みでようやく安堵する。
「ああ。……ありがとうございます」
「聖女様を含め、歴代の聖女様が苦しんだこと、黒の魔物のことについては、これから時間をかけて真実を伝えていくのと同時に何が償いになるのかを検討してまいります」
大臣が頭を下げたのと同時に一斉に多くの人間が頭を下げている。説教されていた王でさえ、頭を下げていた。
複雑な思いながらも、彼らにとっての精いっぱいの誠意だと受け止めた。
「私は平穏無事に過ごしたい。それだけです。必要以上には呼ばないでくださいね…って、どうしたの、大樹の聖霊」
『アリエッタ、わらわには会いに来ないのか?そのために作らせたのに来ぬとはどういうことじゃ』
「わかりました、多分また来ますから」
『約束であるぞ♪』
いきなり横から入ってきた大樹の精霊に約束をした以上、来ないわけにはいかないと通行証を受け取った。自分が脅迫をしてから二時間半。
結果的に脅迫の意味はなかったが、この国から離れられるだけでもよいとアリエッタは思った。
思い出したように、王子がメリーについての処分はと疑問を口にしたところ、大臣からはすでに処刑が決定しているという旨の返事が返ってきた。
その後もいろいろと大臣と話をしていると、やっと説教が終わった王も加わって、和む時間となった。
なんだかんだいって、聖女の制度についてはまだまだ普及が厳しいことから、当面見送るということになった。これから、ほかの国を参考に少しずつ聖女のことを広めていくとのこと。それまでは、聖女の仕事もない。それも、アリエッタが自由にできる要因でもあった。
いろいろあったにせよ、アリエッタとしては、国を出れるなら文句などない。故に、まるっとスルーしておいた。ザンの意向もあり、3人はその日の夕方に帰ることになった。荷車に荷物を置いて座ったアリエッタは背伸びした。その隣ではケイトが苦笑いで胡坐をかいていた。
「あー、やっと終わった」
「結果的には望み通りになったんだからよいじゃない?」
「大樹の精霊にはさんざん泣かれましたけれど」
「次に会ったときは名前を付けるんだっけ。よかったじゃない」
「あなたに言われるとむかつきます」
眉間にしわを寄せていると、ケイトがなぜか腕を引っ張った。
何と振り返ると、唇に温かい感触がした。
(あれ、キスされた……??え、なんで?)
何をと思う間もなく、アリエッタは脊髄反射でケイトの頬を肘で殴っていた。
「いたっ、痛いよ、アリエッタ!」
「いきなりキスしてくるからです。ああ~~」
「アリエッタ、そんなぼろい布でゴシゴシと拭くの止めて。いろいろと傷つくから」
ぶーたれる王子をよそに、袖で唇をぬぐっていると、王と別れを済ませたザン殿下が入ってくる。
「あ、終わりましたか」
「ええ。形式とはいえ、楽じゃありません。さぁ、帰りましょうか。我が国に」
鼻歌を歌いそうな勢いで座りだした殿下を見て、そっと王子に声をかけた。
「……やけに機嫌がいいですよね、ザン殿下」
「母上が助かるめどがついたからね」
「ああ、そういえば、アリア様のほうの問題は終わってませんでしたね」
「そう。それに、俺との婚約話も待っているしね」
くすくすと笑いだした王子に対し、アリエッタはそっと目を逸らした。
(そうか、次は、アリア様の件。次は、この王子との戦いが始まるのか。まだまだ面倒なことばかり続くなぁ。でも、今日一番面倒だった問題が片付いたから良しとしようかな。ひとまずは、ね。)
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