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1)再会は突然に
しおりを挟む「あ。」
「あれ・・・・?」
お互いに顔を見合わせて飛び上がらんばかりに驚く。なんの偶然か叫んで周りに冷たい視線を投げられたのも同時だった。
「「なんでここに!!」」
季紗は自分を落ち着かせようと必死に考えていた。間をおいてようやく我に返った相手が、恐る恐る口を開く。その瞬間、足は別方向へ動いていたが、相手に肩をつかまれて逃げられない。逃げ遅れたかと舌打ちするのと同時に相手から声がかかった。
「・・・にくまだよな?・・・きさのほうで・・・」
「ちっ・・・・・・・いえ、気のせいです。では失礼しました。」
「いやいや、逃げるなよ!!」
「ごきげんよう。あ、長瀬、この書類の手続きをお願いしますっ。」
「え、あ、ああ・・・了解・・・何をやっているんだ、三糸?!」
「こら、待て・・・・っ・・・・・・・・・!!!!」
彼の声が小さくなっていくのは、自分がドアに向かって逃げているからだ。幸い、部長が真ん中に立っていてくれてるから追いかけては来れないだろう。会社は同じでも別エリアだから会う確率は少ないはず。しかし、まさか、書類の提出先に彼がいたとは。
「・・・今までいなかったってことは今年から・・・? 入社式にいたっけ?」
五月に入って、忙しかった仕事が落ち着いた分、周りを見る余裕ができたというのもあるんだろうけれど、あまりこのエリアに入ったことがなかったため、会う確率も低かったのだろう。
「・・・しっかし・・・イケメンなのは変わってなかったな。」
(それにしても・・・はぁ・・・・あいつがいるっていうんだったら、彼女も来る可能性ありそう。)
あいつはともかくも、彼女にばれたらと思うと鬱でしかない。念のためまた引っ越そうかな・・・
季紗は深いため息をついた後、自分の席に着いた。なぜかどっと疲れたので、少し休憩するべく机に伏した。
「・・・高校を卒業してからだから・・・あいつとはかれこれ、六年ぶり?」
指折り数えた指を見つめるも、脳裏に浮かんでいたのは懐かしい過去。
私が高校生の時、いつも一緒につるんでいた仲間がいた。
私と、さっきのあいつを含めて四人。
いつも何をするにしても一緒に遊んでいた私達の関係はある日、仲間の一人である彼女によって突然壊れた。
その壊れた日常を苦にした私は彼女と離れるために就職を決めた。両親も思うことがあったのか、自分の説得に折れてくれた。そのおかげで、自分は彼女と離れて一人暮らしをしながら仕事をすることができている。
(大学にはいけなかったけれど、その分仕事を頑張れたし、今だって楽しい。)
仕事を思い出し、いつまでもうだうだはできないと気合を入れなおした。
「やっと終わった・・・・あれ。」
自分のエリアを出ると、廊下に見える影。訝しく思いながらも近寄ると、スーツ姿のあいつが立っていた。
「な、な・・・・・・?」
「やっと・・・出てきたか。仕事を終わらせてここで見張っていたのに、最後に出てくるとはな。」
もう帰ったのか早退したのかと焦ったぐらいとブツブツと小言を言いながらおろしていた鞄を持ち出した。
「帰りがてら話をしようぜ。いろいろと聞きたいことがあるんだ。」
(こっちはありません・・・といえたらどんなに楽か。だけれど、ここで逃げたらなんだか・・・また明日待たれそうな気が・・・・)
嫌な予感を感じたのでやむを得ず、後を追いかけて外へ出た。無言の空気にいたたまれず、季紗はしぶしぶと口を開いた。
「ねぇ・・・三糸は今年入社したの?」
「ああ。三月に大学を卒業してすぐにな。というか、名前で呼べよ。」
「社会人になったんだからそんな気軽に呼べるわけないない。」
名前を呼ばれなかったことが不満なのか、眉間にしわを寄せている。しわの深さは変わっていないかもと思いながら、季紗は彼の文句を適当に流すことにした。
(本当の理由は過去を思い出すから嫌なんだよね。あ、大事なことを聞き忘れていた。)
「ねぇ、私がここで働いていることは絶対誰にも言わないで欲しいんだけれど?もちろん、流李にも。」
念押しすると、彼は顔を歪めた。過去を思い出しているのだと分かったから敢えて何も言わなかった。迷った表情をみせながらも、頷いてくれたから良しとする。ただ、条件付きというのが唯一の問題か。
「・・・・わかったよ。その代わり、逃げないでくれ。」
こ奴の言うことは最もなので、渋々とうなずいた。
ほっとしたあいつは、目的の居酒屋を見つけたのか手を引っ張ってきた。
「ほら、ここのお酒はおいしいんだ。俺たちの再会を祝って。」
「はいはい。」
押されるように乾杯するが、彼のテンションの高さにちょっと引き気味な自分がいる。
一口飲んだ後、ようやく落ち着いた彼はいろいろと聞いてきた。
「季紗、今はどこに住んでいるんだ?」
「内緒。」
「・・・・・一人暮らしだよね?」
「内緒です。」
「いつからあそこで仕事を?」
「秘密です。」
「・・・・・・・なんで、あの時いなくなったの?」
「うわぁ、あの日に見ていた三糸がそれを言うの?」
思わず、言い返したのは過去を思い出したからだ。
誰も助けてくれず、ただ、ひたすら嵐が過ぎ去るのを待つしかできなかった自分。
あの時の孤立無援だった自分を見ても何もしなかった周り。目の前にいる彼もまたその中の一人だった。
ばつの悪そうな顔を見せた後、しどろもどろに言い訳を話す彼に、変わっていないと自分がつぶやいた。
「・・・ごめん。でも、お前が本当に突然いなくなったから、流李も俺もびっくりして・・・だからこそ、話をしたかったんだ。」
「こっちは全くないんだけれどな。あ、そうだ・・・槭は今どうしているの?」
ふと気になったのは。もう一人の仲間である彼。なぜか眉間にしわを寄せながら渋々と話してくれた。彼は同じ大学にいたものの、高校の時のように集まることはなくなったと。
「そっか・・・寂しいね。」
「・・・・槭がいないっていう意味?それとも、仲間で集まらなくなったから?」
「両方かなぁ。でも、あの日のことがなきゃ、ずっと仲間のままでいられたと思うよ。流李が余計なことをしなければね。今更言っても仕方がないけれど・・・。」
お酒のせいか、ついつい話をしてしまう。自重しなければと思っていると、なぜか三糸が向かい側ではなく、隣に座りだした。
「ど、うしたの?」
「いや、隣のおっさんがちらちらと見ているから牽制をと思って。」
「ふーん?何かわかんないけれど・・・狭いから向こうに行って。」
「やだ。それより、槭のことを聞くっていうことは、連絡をとれていないってことだよな?」
「うん。お互い相談してやめておこうって、決めたからね。あ、店主、生のおかわり!」
「ふーん。」
お酒の注文をしているとなぜか、三糸はじっと視線を向けてきた。
(・・・無駄にイケメンだよね。ほんと。さすが私の初恋相手。)
少し癖のついた茶色の髪に、アーモンドの形をした目。
得意科目が英語だったこともあり、スピーチでは賞をもらったことがあったと聞いている。
スポーツも得意で、イケメンで、勉強もできるという万能なわりに不器用なところがあった。そういうギャップも彼の魅力だったんだよね。
そういうのもひっくるめて、好きだったんだよ。
でもね・・・・
(彼は、私の姉に惹かれていたんだよなぁ。私と全く同じ顔なのにね。)
ねぇ、流李。
私は戻るつもりはないよ。
あの日に、私の中にかろうじて残っていた情は一瞬にして消えた。
大好きだった姉のことはもう考えない。
大好きだった双子の片割れはあの日に捨てたの。
そして、三糸、あなたに対する恋心も封印した。
心の奥深くにカギをかけて、二度と繰り返すことがないようにと。
それなのに心がざわつくのは何故なの?
私の恋は終わったと思っていたけれど・・・これからどうなるの。
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