初恋は実らないというけれど

巴月のん

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2)隙を作りたくなければ酔っぱらうな

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「あー、美味しいお酒・・・もっとちょうらい・・・!!」
「季紗、あまり飲みすぎたら体に・・・うわっ!?」
「うう・・・少し寝るからぁ・・・十分したら、おこし・・・て・・・」


眠気に勝てず、季紗きさは少し眠ってしまう。幸い三糸みいとが隣にいてくれたお陰で倒れることはなかったが、彼の肩にもたれる形で寝息を立てている。


「・・・・くっそ、拷問だろ、これ。」


悪態をつく三糸の声が遠くに聞こえたが、意識が朦朧としているため何も言い返せないまま目をつむった。

暗闇の中、思い出すのはあの懐かしい思い出の日々。
こんな時に限って、あの日々を夢に見てしまうのはきっと三糸と会ったせいだ・・・。





流李るり、このレポートはこの本を参考にするとよいよ。」
「ありがとー!!だから季紗が好きなのよ~さすが私の半身!!」
「大げさだよ~でも、ありがとうね。」

正反対の性格ながらも、仲が良かった。だから、流李のことは大好きだった。意見が違っていても仲が良かったし、特にお互いに不満もなかった。
その穏やかな関係が変わっていったのは高校に入ったぐらいの時から。いや、正確に言うなら、四人組になってから、かな。高校入学の最初に席替えがあった時、私達双子と隣り合った席の二人が、三糸と槭だった。その共通点で仲良くなったとはいっても、性格の違いで自然と男女ペアになっていく。流李は明朗活発という言葉が似あうほど、明るくてスポーツ万能なうえに成績もよかった。その関係で、クラスでも人気が高かった三糸誉みいとほまれとの会話が多かった。
そして、私はというと成績はクラスの真ん中、スポーツもそこそこというド平凡の平凡。姉とは顔が同じなだけで、どちらかというと私は裏方みたいな感じだった。だからか、同じような立場にいた市之丞槭いちのじょうかえでと気があって、よく会話していた。


「でね、この本がすっごく良かったの。このキャラが、こういう感じでさ・・・」
「そこまだ見てないから言わないでくれよ~。あっ、そうだ。この本読んでみてよ。転生ものの本なんだけれど・・・」
「あんたたち、また本の話?相変わらずだねー。天気もいいんだし、バスケしようよ!」
「俺たちは流李や誉みたいにスポーツが得意なわけじゃないしー。な、季紗!?」
「うんうん。誉や流李は気にせず楽しんでくるといいよ~。」
「はぁ・・・しょうがねぇな。」


休日も四人でつるんで遊びに行くほど仲が良かった私達だったけれど・・・少しずつ姉の様子がおかしくなっていった。なぜか私に対するあたりが強くなって、棘ある言葉を言うようになって、家でも会話をすることが減っていた。
そして決定的に壊れたきっかけが、あの流李が爆発した文化祭の時の孤立事件だった。


「なんで・・・なんで、季紗ばっかり!?あんたなんて大嫌い!なんで同じ双子に生まれたのかって思うぐらいイライラする!!あんたなんかいなくなっちゃえばいいのに!!」


突然流李は泣いて叫んだ。一斉にクラス中の視線が私のほうに向き、冷たい視線になった。人気者の流李の言うことを聞く人間が大半だ。槭のように私をかばってくれた人間はいたけれど、ごく少数派。三糸は姉を擁護しなかったものの、私をかばってくれなかった。姉のことを好きな彼としてはそれが精いっぱいだったのだと思う。

でもね、私も好きだったのよ、誉。
あなたが流李を見ていたように、私はずっとあなたを見ていた。
そして、槭も流李のことを好きだったの。お互いに恋愛相談もしていたぐらいなのよ。
気付いてなかったでしょう?


でもね、さすがに流李にああまで言われてはいそうですかって傍にいられるほど私は甘くないんだよね。


だから、内緒で就職活動を始めた。地元ではなく、都会のほうへ上京するのもいいかと思って、親にも相談した。親は昔から流李のほうばかり気にしていたから反対はしなかったけれど、いい顔はされなかった。それでもなんとか説得してようやく、折れてもらった。そして、卒業と同時に私は上京したのだ。流李や誉と一言も会話をすることなく、仕事一筋で今日まで過ごしてきた。





(・・・いろいろとあったなぁ。さみしくなかったといえば嘘になる。それでも・・・地元には帰りたくなかったから忙しいのはすごく助かったなぁ。)






「んっ・・ふ・・・っ・・・・」

唇に何かが触れてくる間隔に意識が浮上してくる。口を開こうとしてくるのに気づき、声を出そうとしたら一気に水が流れ込んできた。

「ふっ・・・!!!!???」
「あ、起きたか。」

水を流し込んでからぬめぬめした何かが入ってきたことでやっと覚醒した季紗は起き上がろうとした。が、覆いかぶさっている三糸の顔を前に固まってしまう。

「・・・・え、ええ?」
「水、もっといるか?ああ、店が混んできたから近くにあったホテルに移動したんだよ。」
「ああ・・・・そっか、ごめん。迷惑かけちゃったみたいだね。って、そうじゃなくって、さ、さっきの・・・み、みず・・・っ・・・!!!」
「ああ、もっと欲しいんだな?」
「あんたの口移しなんているかぁっ!!!」
「・・・・ちょっと傷つくんだが。」

一旦流されそうになるが、三糸が自分で水を飲もうとしたことで、嫌な予感を感じた季紗は逃げようとするが、三糸の体が重しになって逃げられない。
いきなりの展開についていけない季紗は困惑しながらも三糸の腕を外そうと必死になっている。
細身なくせに筋肉がある腕はなかなか外れない。三糸は体勢を季紗を抱きしめる形に変えた。



(え、何で、私を抱きしめているの?なんで私抱きしめられているの?イミフ。わての脳みそ理解不可能、容量オーバー!!)



「そもそも、なんで私を捕まえてるのよ?」
「だって、お前・・・逃げようとするし。」
「酔いも冷めたから帰りたい。」
「明日休みだし、泊まっていけばいい。」


そういいながらも、三糸の手は季紗のブラウスへと伸びていく。ボタンが外れていくことに気付いた季紗は慌ててブラウスの前を閉めようとするが、今度は項にキスをされて慌てふためいた。


「ぎゃあああああっ、ダメっ、だ、だめぇ!!」
「胸も項もダメって、どこを触ればいいんだよ・・・あ、あそこか?」
「そこはもっとだめぇええええ!!!!ってか、なんで私なのよ!!私は流李じゃないし、モテモテのあんたなら選り取り見取りでしょうがっ!!」


足をジタバタさせることで身を守ろうとする季紗に対して彼が返してきた答えは実にシンプルなものだった。



「心外な。そもそも、お前が流李じゃないのは当たり前だし、何より、お前以外を襲う予定はねぇよ。」



お そ う ?



はて、『襲う』というのは一体?押そうとかお僧とかじゃなくて・・・・





「えっと、それは僧侶様のこととか、ボタンを押すとかじゃなくて・・・」
「ヤるほうの襲うな、つまりはセックスね。」




目を細めながら笑って口にした三糸の言葉をじっくり十秒ほど噛み締める。
噛み締めた意味をようやく飲み込めた季紗は思いっきり叫んだ。





「のぉおおおおおお!!!!!」





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