こんなオチですみません

巴月のん

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こんなオチですみません

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「やっぱり、はりとつやが大事じゃないのかな?」
「いやいや、たれた方がうれごろだし、俺好み。」

咲菜さながドアをノックしようとすると、兄のりんと兄の友達である芳樹よしきの会話が聞こえた。

針?熟れ頃?
もしかして、裁縫とか工作なんかの相談だろうか。
今学校祭が近いし、準備に忙しいのかも。

邪魔するのも悪いと判断して、入るのを止めた。部屋に戻り、机に向かい合って教科書を開きなおす。
ノートを広げて、問題を解いていた途中に意味調べの問題がでたので、辞書を探すが、見つからない。部屋にないことから、兄に貸していたことを思い出した咲菜は仕方がなく立ち上がり、兄の部屋へ再度向かうことにした。一応ノックして入ると、慌てた様子の兄とその友人の姿があった。

「うわ、咲菜?ど、どうした?」
「咲菜ちゃん・・・・こんばんは」
「あ、こんばんはです、芳樹さん。お兄ちゃん、辞書を返してよ」
「辞書・・・辞書ね、了解」

慌てた様子でこたつの中に何かを隠した様子だが、今は辞書でそれどころじゃない。兄から辞書を受け取り、部屋に戻ろうとすると芳樹に声をかけられたので、顔だけ振り返った。

「あ、えっと・・・学校はどう?楽しい?」
「あ、はい。楽しいですよ。友達もできたし、クラブも入りました。」
「そう、何部なのかな?」
「んと、新体操部です。」
「え・・・えっとそれって、レオタードを着るあれ?」
「はい、昔からやっているので、その一環で。」

今年から高校生になった咲菜はきょとんとしながらも返事を返した。それになぜかにやにやする兄とそれに対して嫌そうににらみつけている彼。
一体何だか訳がわからないが、勉強に戻りたかった咲菜は今度こそ、ドアを閉めた。

一方、芳樹がこたつに顔を伏せる横で鈴がにやにやしながら睦喜の肩を叩いた。

「あいつ意外と人気あるからなー。どうよ」
「・・・・・意地悪だね、鈴は」
「しかし、危なかったなー。エロ本談義してるのばれたらあいつ怒るからな」
「だからって、何もそのエロ本を見せなくても」
「でも、この本はお前好みだろ、これ。わりと咲菜に似ているし」
「それは言わなくていいんだよっ!!」

そういいながらも芳樹はエロ本をひったくって鞄に入れている。なんだかんだいって持ち帰るつもりか。
鈴は微笑ましくそれを眺めながら、横になったが、芳樹は眉間にしわを寄せてまた机に顔をこすり付けた。

「やっと終わった!!」

辞書を閉じた咲菜は背伸びする。ようやく宿題が終わったので、風呂に入れそうだ。時計を見て風呂支度をして、階段を降りた。すると、玄関で帰ろうとする芳樹と鉢合わせになった。
着替えとタオルを袋に入れていた咲菜は宿題を終わらせたことで気分がよく、自分から話しかけることにした。

「お帰りですか」
「ああ。今から・・・咲菜ちゃんは風呂に?」
「はい。帰るなら、もう遅いので気を付けて帰ってくださいね」
「・・・うん、誰も俺を襲うとは思えないけれど、ありがとう。えっと、新体操、がんばって」
「そうですか?あ、はい。ありがとうございます、おやすみなさい」

そういいながら咲菜は手を振った。それに手を振り返してきた芳樹が小さくなるのを確認して、風呂へと入った。

「なんか歯にものが挟まったような言い方だったなぁ・・・」

さっきの彼の言葉を思い出して首をかしげる。だが、すぐに風呂の気持ちよさに溺れ、そのまま彼の言葉は記憶の彼方へと飛んで行った。


それから数日後、新体操の試合になぜか兄と友人が見に来た。

「・・・あれ?」
「よう、応援しに来たぞー」
「こんにちは、咲菜ちゃん」

兄たちが来たことで周りの友達が黄色い悲鳴を上げてうるさい。思わず耳を抑えてしまったが、兄たちは気にした様子もない。もしかして慣れているのだろうか。
悶々としていた咲菜だが試合のアナウンスが出たことで我に返る。兄たちに挨拶してから、コーチのところへと走っていく。
だから、咲菜はその後ろ姿を見ていた芳樹が悶えていたことに気づかなかった。そして、そんな芳樹をキモイと鈴がぶったたいたことにも。

「キモイ」
「だって・・・可愛いじゃん」
「よくわからんが、咲菜が可愛いことには同意する」


そんな会話をしていた二人をよそに、咲菜は新体操の演技を終えた。残念ながら、まだ1年生ということもあり、成績はそこそこだったが悪い結果でもなかった。
そのことに安堵しながら、咲菜は解散した後、兄が待っているという玄関へ向かった。だが、なぜかそこに立っていたのは、芳樹のみ。

「あれ・・・お兄ちゃんは?」
「お疲れ様。鈴なら用事ができたとかで先に行ったよ」
「えー、帰りにおごってくれるっていうから友達と別れたのに」
「まぁまぁ。俺が一緒に帰るから」

むくれる咲菜をなだめながら芳樹は歩き出した。一緒に歩いていると不思議と会話が弾むもので。
家につく頃には咲菜の機嫌もすっかり直っていた。だが、芳樹はこれまた歯切れが悪い雰囲気になっている。

「ありがとうございました」
「あーうん・・・」
「どうしました?」
「いや、その・・・さ、咲菜ちゃんは、彼氏とかいるの?」
「いませんけれど」
「ほんとに?じゃ、じゃあ、立候補していいかな・・・・?」
「あ。ごめんなさい。私、レズなんで。」

あっさりと返事をした咲菜に芳樹は固まった。数秒間を置いた後、ようやく硬直が溶けたらしく震えた声で確認してくる。
だが、咲菜は非情にもとどめをさした。

「え。う、嘘だよね?」
「嘘じゃないですよ。お兄ちゃんなら知っているので確認をお願いします。これから電話をしなきゃいけないので、また!!」
「・・・ああ、うん・・・またね」

呆然としている芳樹を後目に咲菜は嬉しそうに家の中へと入っていった。手を振り終えた芳樹は我に返って絶叫した。




「え、何、このオチで終わり?なんでーーーっ!!!???」




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