スキの反対は?

巴月のん

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スキの反対は?

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「あーあ、探しに行きたいな・・・」
「は?お前何言ってるの?」



歩くたびにため息をつく私に、彼はあきれ果てた。


「だって、会いたいんだもん。ただでさえ、受験でなかなかお目にかかれないのにっ!!」
「・・・・そいつって、男?女?」


彼が突然そんなことを聞いてくるもんだから思わずはぁ?って声を出しちゃった。
眉間にしわを寄せた彼はなぜかさっきまで舐めていたチュパチャプス(イチゴミルク味)を手にもって近づいてきた。


「で、どっち?」
「だから、何のことかわかんないんだけれど・・・あーもーやっぱり探そう。もう我慢できないっ!」


正直、彼が何を言っているかさっぱりだから放って探しに行くことに決めた。
鼻息荒く走り出す私。そして、なぜかそれを追いかけてくる彼。


・・・めずらしいね?
いつも適当で、聞き流しの君がそんな必死になるの初めてみたよ?


「ちょっと、どうしたのよ。いつもと態度がまったく違うじゃん。いつもなら私が引き留めるの無視して帰るくせに。第一、純の帰り道はあっちじゃなかった?」
「・・・それはその・・・いや、それより緊急事態だ、そんなの気にしてられるかっ。それより、どこにいるんだよ、そいつはっ!!」
「ぎゃー近い、顔が近いからやめてぇえええええ!!」
「あっ、待てやぁああああ、ゴルァああああああ!!」


やけに近づいてくる彼のすごみに思わず逃げ出す。だが、さすがに陸上部の彼には敵わないぜ・・・・・


「つ、疲れた・・・息が・・・っ・・」
「ふ、げ、現役・・・陸上部の選手を・・・げふ、なめ、んな。」
「息あがってるじゃん!!」
「おれ、は・・・短距離専門で・・・うげぇ・・・」
「待ってて、ついでに飲み物を買ってくるから。」


吐きそうになっている彼を見かねて、飲み物を買おうとコンビニに入る。丁度良いよね、ついでだし・・・・と思ったら、しゃがんでいる彼が腕をつかんできた。
思わず引っ張られた私は転びそうになったが、すぐに体勢をとったからセーフだった。


「ちょっと、何邪魔するのよ。ちゃんと飲み物買ってくるから待ってて。」
「ふざけ・・・、俺も、行く。その・・探したいやつとやら、見な・・・きゃ。」
「何言ってんの。純は結構見てるじゃない。」
「は?俺の知り合いなのか?誰だ、まさか店員のあいつか・・・いや、別のやつかもしれんな・・・?とりあえず、入るぞ!」


息を必死に整えた後、勢いよく立ち上がった彼は、ずかずかと私の腕を引っ張ってコンビニへと入っていった。
いらっしゃいませと店員の声とほんのりそよぐクーラーの風が走った熱を冷ましてくれる。
久々のコンビニに嬉しくなっていると、彼が袖を引っ張ってきた。


「で、どこだ。」
「あっ、そうだった・・・お菓子売り場に行こう。」


純の言葉で本来の目的を思い出した私はすぐにお菓子売り場に向かった。
彼がなぜか怖い顔で後ろについてくる。きょろきょろと探していると、お目当てのを見つけて思わず叫んだ。


「あったーーー、ついに会えたねっ、愛しの極細ポッキー!!!!」


私の叫びを合図に彼は思いっきりずっこけた。


「はぁっ?! お、おい・・・・まさか、探していたのって・・・」
「うん、このポッキーだよ!!普通のポッキーより細いんだよね。だから甘さがちょうどよくておいしいのよ。・・・・あれ、なんでOTLの形になってるの?」
「・・・自分のあほさ加減を呪ってるんだ、邪魔するな・・・。」


きょとんとしながらも、ついでに飲み物を二本選んで一緒にレジへと持って行った。


「おつりとなります。ありがとうございました。」


無駄にイケメンな店員さん・・・あ、名札を見ると珍しい名前が目に入った。
錦蛇・・・なんて読むんだろう?
不思議に思っていると、後ろから手が伸びて、袋を無理やり持って行った。


「ふぁっ?」
「ボケっとしてないでさっさと出るぞ。なんで錦蛇なんぞを見つめてるんだ、お前は・・・」
「おいぃ、牛胡ぎゅうご、なんぞってなんだよ!?」
「うっせーぞ、錦蛇にしきだ! 行くぞ!」


珍しく名前を呼ばれたことにびっくりして・・・慌ててついていった。コンビニを出ると、彼は無言でずかずかと交差点のほうへと歩いて行く。
突然の行動にびっくりしたけれど、私の大事なポッキーが人質になっている以上、おいかけねばっ!!


細長いさくさくなビスケットにチョコがかかったポッキーが私を呼んでるんだから!!



「待ってよ、純!! 」


来た時とは反対に私が追いかける形になってしまった。
純も私が追いかけてくるのをわかっているのだろう、ちらっと見た口元がにやにやしていたのにはちょっとイラっとしたりもした。
ようやく立ち止まった彼の目の先には公園が広がっていた。彼の袖を捕まえてようやく落ち着いた私は息が苦しくなっていた。

「おい、大丈夫か。ここで休憩しようぜ。」
「うん・・・さっきと反対になっちゃったね・・・あ、ありがと。」


飲み物をよこしてくれた彼にお礼を言い、キャップを開ける。のど越しが冷たくて気持ちいい。ごくごくと飲んでいたペットボトルを口から離すと、一本のポッキーが入れ替わるように入ってきた。


ポッキーだぁ!と喜んだのもつかの間、彼が反対方向からパクっと咥えてきた。


固まる自分をよそに、彼はにやにやとしながらぼりぼりとかじっていく。
彼に持っていかれると思って慌てたのがダメだった・・・。


チュッ、ペロッ・・・・


「・・・・え、何、今の・・・」


彼のドアップが見えたと思ったら、唇にチューされて、しかも、丁寧に舐められて・・・え、ナニコレ、羞恥プレイか何か?
驚いている私を前に、彼はもう一本ポッキーを取り出して、自分の口に咥えた。
唖然としている私に手招きでこいこいと身振りで誘ってくる。
嫌な予感を感じる・・・と思いながら近寄ってみると、ガシッと抱きしめられた。ジタバタしていると、彼がポッキーを咥えたまま近づいてくるのに、顔が真っ赤になりそうだった。
火照る頬を見られたくないのに、がっちりつかまれて逃げられない。




うー恥ずかしいよう。



彼がしたいことなんてわかっているんだけれどっ!


ううーと数秒迷いながらも、恐る恐る口を開いて、彼を見上げると、そこにはさっきまでのにやにや顔じゃなくていつもの彼が目に映っていた。
不思議と落ち着けた私はゆっくりと入ってきたポッキーを口に入れながら思った。




やっぱり、しばらくポッキーはいいや・・・甘さが癖になっちゃう。




数秒、唇の触れ合いを楽しんだ後、彼はゆっくりと離れた。


「・・・・たまにはポッキーもよいね。ごちそうさま。」
「たったいま、私は決意した。ポッキーはしばらく封印する。」
「そりゃ無理。」


ほれほれとポッキーを振る彼にちょっとだけ・・・ちょっとだけ照れ隠しに言ってみた。










「・・・・・今日はキスの日なんだって。スキの反対だね。」











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