香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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鬼人族のメンバーの恋

【巳編】捻れた好き*6*

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ひらひらとスカートが揺れる。

(普段はショートパンツだから、ちょっと照れるけれど、こういうのもいいよね。)

「あ。猿渡さるわたり君、ペンギンがいるよ。可愛いね」
「HAHAHA、カワイイな。もうこのまま現実逃避を・・・・・・げっ、またかよ!」

ブルルッ

・・・猿渡君がしゃべるタイミングでかならずスマホが鳴るのはこれいかに。

(もしや、鬼人族きじんぞくの方で何かがあったのだろうか。)

スマホに対して必死に弁解している様子からして、多分そうじゃないかと思われる。電話を終えた猿渡君に対して、奈津なつは心配そうに口を開いた。

「猿渡君、もしかして鬼人族の方に何かあった?無理してここにいなくてもよいよ?」
「へ・・・あ、ああ。さっきの電話はそういうんじゃないよー。なんていうかね、その、幼馴染がちょっとうるさいだけだから・・・!!」
「あ、そうなの?本当に無理な時は言ってね?」

遠慮はしないでねと猿渡君の手を握りしめていると、またスマホが鳴った。今度は猿渡君の顔も真っ青になっている。

巳園みその。悪いけれどトイレ行くわ・・・すぐ戻ると思うが、一応ここを離れないでくれるかな」
「あ、うん。待ってるね」

よろめきながら、トイレの方向へ向かった猿渡君を余所に、奈津はペンギンの方に夢中になっていた。
水浴びをしたり、水中にもぐっていたりしているペンギン。ああ、見ているだけで癒される・・・。

(今回はデートじゃなかったけれど、いつか本当に彼氏ができたら、ここに来たいなぁ。)

そんなことをふと思った奈津だが、現実に戻ってきたのか、ため息をついた。

(いや、彼氏なんてできなさそうな・・・。この通り地味平凡だし・・・。)

「お、お待たせ・・・」
「おかえり・・・って、どうしたの、その顔」

猿渡君の顔は僅か数分でげっそりと痩せてしまっている。心なしか首も少し赤い。
慌てて手を出そうとするが、勢いよく飛んで離れてしまった。

「・・・さ、猿渡君?」
「はっはっ、悪いけれど、その、触ったらダメだ。えっと、痛いし、その、今度こそ俺が死ぬし」
「・・・・・?」
「とにかく気にしないで?さ、行こう。次はどこへ?」
「えっと・・・あ、イルカショーを見たい!」

そう言いながら、奈津は思いっきり猿渡の手を掴んで引きずっていった。
真っ青になった猿渡だが、勢いよく歩き出した奈津の手を振り払えるはずもなく。

「まっ、待って、待ってくれ――――あ、そこ、違う、反対方向だから・・・ってそうじゃないっ。悪魔に睨まれるから、この手を外してくれぇええええ!!」

数分後、奈津は笑顔でイルカショーが良く見える席に座っていた。その隣にはこれまたげっそりとしている猿渡。

「オワタ、オワタよ、俺・・・・」
「さっきからどうしたの、猿渡君。」
「・・・・巳園さぁ、彼氏いないだろ、絶対に」
「うん、よくわかるね」
「いいか、普通、男女は手を繋がない」
「小学生は普通につなぐよね?」
「それ、子どもの時の話な・・・いいか、カップルと誤解されたくないなら、あまり・・・」
「うーん、でも、方向音痴なのはちょっと直しようもない」
「・・・そうか、俺やっぱオワッタナ」
「だから、安全面を考えても手繋ぎが一番安心なんだよね。あれ、もしかして猿渡君、彼女いるの?」
「はっはっ、いたら、今日来てねぇっつーの。くっそ・・・来音に借りがなきゃ絶対来なかった」

言っていることがなんだかズレているような気もするが、とりあえずいないことは解った。
(・・・猿渡君も、錦蛇君に負けに劣らず顔がいいんだよね。スポーツマンタイプってカンジで。そういえば、腐女子のクラスメートが、錦蛇君と猿渡君のペアは萌えるっていっていたっけ。)

「・・・あ、そうか、彼女がいないのって、そういうことか!納得」
「おい、マテ。巳園。お前絶対何か変な方向へ行ってなかったか?」
「そ、そんなことないですよ。どうぞ、お二人で幸せに・・・」
「ちがーうっ」
「あ。もう始まるから、静かに!」

『それでは、これよりイルカショーを始めます!まずはイルカのマリンちゃんの登場です!!』

周りが一斉に拍手し、飼育員がマイクを持つ様子を見た奈津は、猿渡の口を手で押さえながら、ショーに集中していた。当の猿渡はもがもがと苦しそうだったが。イルカショーに熱中していた奈津がようやく手を放した頃にはショーも終わっており、猿渡は息も絶え絶えになっていた。

「・・・・・ぜぇ・・・ぜぇ」
「ごめんなさい。熱中しちゃうと周りが見えなくなるの、悪い癖で」
「・・・もういいから、お願い、俺に触れないで」

よろめきながら立つ猿渡だが、触れたらダメと言われた以上、何もできない。せめて隣にいようと一緒に歩いていた時、スマホが鳴った。

『もしもし、奈津、レストランに集合ね。席は取ってあるから』
「はーい」

かけてみると、朱莉からの連絡だったので、猿渡君に伝えた。レストランは一つしかないので、すぐにそこへ向かった。

「あ、こっちこっち・・・ありゃ、猿渡、死にかけてんね」
「・・・何も言うな。アイツもここに来ているんだ、迂闊うかつなこと言えないだろうが」
「ああ・・・やっぱりついて来ているのね、アイツも健気なことで」
「巳園ちゃん、これはどうかな」
「あ、美味しそう。じゃ、これにしようっと!!」

朱莉と猿渡が以心伝心で、アイツのことを話している間に、奈津は、朱莉の彼氏である吉平きっぺいと会話をしていた。吉平は他の学校の人間だが、小学校の時に一緒だったこともあり、前々から普通に話ができていた。注文した昼ごはんが全て届いたのを見計らって、全員で食べ始めた。

「ペンギンとイルカショーね・・・ふーん」
「楽しかったよ。水族館も久しぶりだもん。猿渡君は?」
「俺も久しぶりかも・・・1年ちょっとぶりかな」
「今日は、朱莉が突然Wデートって、言うからびっくりしたよ。一体何があったの?」
「ああ、実はねぇ、奈津に義兄ぎけいができたの。でもその錦蛇に嫌われているかもってことで、それを確認するために誘ったの」
「あ・・・もしかして、さっき君と喋っていた奴?」
「そうそう、アイツのことなの」
「うわぁ、色んな意味でスゴイね。・・・あれじゃ、巳園ちゃんはちょっと苦労しそうだ」

(一体、何なのか訳がわからない。会ったってどういうこと?)

「・・・どういう意味なの、朱莉」
「んーん、何でもない。とりあえず、私はアイツの化けの皮を剥がせたから満足よ」
「アイツを怒らせるとろくなことがないのに・・・アジトに行きたくねぇわ」

ハンバーグを食べながら呻いている猿渡に対し、朱莉は平然と答えた。

「私には関係ないもの」
「・・・お前、やっぱり、アイツを土下座させた登良野の従妹なだけあるな」
「お褒めの言葉をありがとう」
「いや、褒められてないから・・・」

吉平がボソッと呟いたが、その声が聞こえたらしい朱莉に足を踏まれて悲鳴をあげていた。そんな彼らを眺めながらも、奈津は自分の食事に集中していた。

(・・・アイツっていうのが誰か解らないけれど、私には関係なさそうだね。)

もし、奈津の心の声が漏れていたなら、確実に全員でつっこんでいただろう。いや、お前が一番関係者なんだよと。だが、奈津の心の声は漏れることなく、食事もつつがなく終了した。
レストランを出た後、これからの予定を話し合った。

「さて、次はどうする?」
「あ、お土産コーナーに行きたいな」
「いいわねえ。じゃあ、みんなで行きましょ」

お土産コーナーを回って、お土産を選んでいると、ふわふわなジンベイザメのぬいぐるみを見つけた。

「うわ、ふわふわっ!!いいなぁ・・・これ・・・ぎゃふ、3500円?高いっ・・・!」

ひとしきり抱きしめた後、値段を見て諦めた。そっと元に戻したが、ちょっと未練が残る。あーあ、と呟いた後、お菓子の方を見に行った。

「あ、このお菓子いいなぁ。家族に買っていこうっと。で、後は・・・あ、プリンもある!買っちゃおう♪それから・・・そうだ、錦蛇君へのお土産はどうしよう・・・」

色々悩んだ末に、商品を選び終わった奈津はレジへと向かった。会計を終えて、出口に行くと、他のみんなが揃っていた。その後、水族館の中を帰り道がてらぶらぶらして一周終わったところで、もう出るかという話になった。

「で、もう帰るよな?」
「彼がバイトだっていうんで、帰るわ。奈津を家までお願いね」
「おいおい、俺が死ぬと解っていて、それを言うのか」
「じゃあ、奈津の家の近くまで送ってから、ダッシュで逃げれば」
「・・・・・うう・・・そうする」
「奈津は、どこか行きたいところあるの?」
「んー、夕飯いらないっていっちゃったからね・・・ご飯を食べてから帰ろうかな」
「あ、そうだったわね、ごめん。猿渡、美味しいお店でも連れてってやんなさい」
「・・・解ったよ」

ここまで来たら、もうどっちにしても一緒だとやけ気味に言っているが、相変わらず意味不明だ。

「またね、奈津。最後まで付き合えなくてごめんっ」
「ごめんね、奈津ちゃん。じゃ、また」
「はーい。またねー。ありがとう、二人とも」
「またな」

それぞれが解散となり、奈津は猿渡と一緒に歩き始めた。途中で猿渡のおすすめの店へよってご飯を食べてから、帰り道を歩いていた。しばらくすると、家のちかくまできていたので、そこで別れることになった。

「今日はありがとう、猿渡君」
「おう。えっと・・・あ、俺は明日休むと思うが、気にするな。あとさ、巳園」
「はい?」
「・・・翔はお前のこと嫌ってないから。アジトの時のあれだって、あの後、すごく落ち込んでいたし。それに・・・いや、これは本人から言うべきことだよな。とにかくさ、あまり翔のことを誤解しないでやって」

そう言い残した猿渡は、本気で走って消えていった。・・・ダッシュで帰るって言っていたのはどうやら本気だったらしい。

(・・・錦蛇君のことを庇って、私のこともフォローしてくれるって、やっぱり優しいなぁ。)

家について玄関を開ける。リビングには父と母がいた。
お土産を渡して、少し談笑してから、二階へと上がった。義兄錦蛇君に対してもお土産はあるが、どうやって渡せばいいのかまでは考えていなかった。

(でも、部屋に入る勇気もないし・・・そうだ、袋をドアノブにかけておこう。)

袋を彼の部屋のドアノブにかけてから、自室に向かった。部屋に入った瞬間、ベッドの上に鎮座しているぬいぐるみが目に入った。

「・・・あれ?これって、あのジンベイザメのぬいぐるみ!!なんでここにあるの?」

首を傾げながらも、持ち上げて抱きしめる。

(間違いない、あのぬいぐるみだ・・・)

ぎゅうっと抱きしめると柔らかでふわふわだ。
それに気持ちよくなった奈津はそのまま、ベッドに寝転がった。

(なんでかは、わからないけれど・・・嬉しい!)

次の日の朝、翔のスマホにイルカのストラップがついているのを見かけた奈津は安堵のため息をついた。

(・・・あれ、なんでほっとしたんだろう。)

首を傾げながら、学校へ行くと、猿渡が休みだという話を聞いた朱莉が大笑いしていた。そんな彼女に、ぬいぐるみの話をしたら、これまた大笑い。しかも、今度は腹を抱えてドンドンと机を叩いている。

「・・・朱莉、なんで笑うの?」
「ひーっ、あっははは!これが笑わずにいられるかっての!アイツが・・・くくくっ!」
「・・・もういいよ、とりあえず、嫌われてないってのは解ったから」
「そうね、でも問題はその後なのよねぇ・・・アイツどうやるつもりなんだか・・・・ぷぷぷっ!まあとにかく、奈津はそのまんまでいいの・・・あいつの場合、自業自得だしっ・・・あっはははー!!」


(・・・本気で、朱莉の笑いのツボがわからない・・・私にも解る時が来るのだろうか・・・いや、ちょっとわかりたくないなぁ。)



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