香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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鬼人族のメンバーの恋

【巳編】捻れた好き*14*

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奈津は、翔と二人きりになってから、ようやく朱莉の彼氏の名前を思い出した。

吉平きっぺい君だっけ。・・・今度会ったら名前を思い出せなかったことを謝ろう・・・。)

さっきまで、恋愛脳だったのに、彼といざ二人きりとなると現実逃避からか、恋愛の方向から離れてしまう。ある意味、自分って器用かもと思いながら、目の前の彼をそっと見る。
彼は気まずげにも不機嫌にもみえる顔で立っていた。手には、朱莉に言われたことを実行したのか、コンビニ袋がぶら下がっていた。

「・・・とりあえず、アイスを持ってきた」
「えっと、溶けてしまうと思うのですが」
「そう思って、カップに入ってるのばかり選んだから大丈夫だ」
「え、あ、そ、そうですか・・・」
「奈津」

いきなり名前を呼ばれたことに、奈津は真っ赤になった顔を見られまいと下を向いた。

(な、なんでぇ・・・苗字じゃなくて、名前?しかも、いつもより優しい声っ!?)

顔を上げられずにいると、彼の足音が聞こえた。それに聞き耳を立てていると、視界に彼の靴が入ってきた。目を丸くして顔を見上げると、間近に彼の顔が近づいてきた。
また?と思って慌てて口元を隠すと、抱きしめられた。

(・・・・・こっちは想定してなかったよっ!!)

頭を撫でてくる手にあっけにとられながら、奈津はしぶしぶと口を開いた。

「あのー、離してください」
「やだよ、だってお前逃げるし」
「・・・・逃げませんから」
「本当に?」
「たぶん」
「・・・・・・・やっぱり、このままでいい」

しまった、馬鹿正直に言ってしまったもんだから、彼の眉間にしわが寄った。
ああと思っても後の祭り。結局、彼によりかかる形になってしまう。本当にアイスが溶けてしまうじゃないか、これはいかんと思った奈津は慌てて本題を切り出した。

「でっ、どうしてこちらに来たのですか?」
「連れ戻しに決まっているだろう」
「・・・あの、いくら私でもちょっと、その、心の整理っていうものが」
「奈津が、妹になるって聞いた瞬間から俺の気持ちはぐちゃぐちゃなんだよ。本当はそんな出会い方するなんて嫌だったし。どうせなら、意識してもらえる出会い方がよかったっつーのに」
「あの・・・・?」
「とりあえず、一人暮らしはだめ。危ないし。それに、俺が寂しい」
「でも、家ではいつも不機嫌で」
「そりゃ、好きな子に意識されてなかったらそうなるでしょ。何が悲しくて、好きな子にお兄ちゃんって目で見られなきゃならないのかね」
「・・・・・・そ、そういうもんです?」
「そういうもんです」

真顔で頷かれた。しかも、頭までぐりぐりと撫でられてしまう。

(何、このこっぱずかしい展開はっ!!)

とは思っても、顔には出さない。
顔を真っ赤にしても、なんといいますか、やっと認めた今の気持ちを素直にはまだ言えないんですよ。
あれですよ。
なんていいますかね、これはもう私自身の逃げだとわかっているので、余計にあれなのです。

(だって、だって、ほかの人の嫉妬とかやっかみが嫌で、自覚したくなくて逃げてたって、どの面さげていえるというんですかーっ!!!!)

「奈津?さっきから、頭グリグリさせてるけれど、どうした?」
「いえいえいえいえいえいいえ、なんでもないです。そ、それより帰りましょう?」
「・・・・・・あやしい」
「全然!!って、手、手ぇえええ、つ、つな、つながないでぇええええ!」

引っ張っても引っ張ってもびくともしない。握手した状態で繋がれている。やっと抱きしめるのをやめてくれたと思ったら次はこれですかっ!!

押し問答の末、結局、何も話さないというのなら、手つなぎは解除しないと言われたため、帰り道は手つなぎになった。
そして、家に帰った時、お母さんに目を丸くされた理由はきっと手つなぎのせいだと思う。

「ふぅうううん、翔、ちょっと話があるからリビングにいらっしゃい。あっ、奈津ちゃんは部屋に行っていいわよ~」

・・・心なしか、お母さんの目が笑ってなかった気がするんですが、気のせいですよね?うん、きっと気のせいっ。
げっそりとした様子の翔を置いて、奈津は慌てて階段を駆け上がった。
部屋に戻って、ようやく奈津は落ち着くことができた。今のうちにと、ラフな部屋着に着替えてベッドに潜った。
唸っていると、目の前にジンベイザメのぬいぐるみが目に入った。
よく考えてみると、これは錦蛇君が買ってくれたことになるんだと気づく。

(・・・そ、そういうことになるんだよね。だって、後をつけていたってことは・・・。どうしよう、私のお土産、あんなストラップで良かったのかな・・・もうちょっと何かお返しになるようなものをあげたほうがいいかな・・・。)

うんうん唸っていると、ノックの音が聞こえたので、慌てて入るように促す。
ひょいと出てきたのは、お母さんだった。

「奈津ちゃん、ごめんなさいね」
「あ、いえ!大丈夫です」

義理のとはいえ、お母さんだ。遠慮する理由などないのに、お母さんは気をつかってできるだけ部屋に入らないよう配慮してくれている。それがここに来たということは何かあるのだろうと察した。

「うちのバカからあらかた話を聞いたわ。ごめんなさいねー。あんなひねくれた子で」
「へ、あ、いえ・・・」
「親として責任もってあのバカは監視しておくから、一人暮らしはやめてここにいたらどうかしら」
「えっと・・・」
「私から見れば、あなたもまんざらではなさそうな気がするのよね」

お母さんは、たぶん察したんだろう。私が一人暮らしをしたい理由が錦蛇君にあることに。目を泳がせていると、くすくすと笑われた。

「奈津ちゃんは正直ねぇ」
「・・・・・お、お母さん」
「そうそう、アイスクリームは冷蔵庫に入れておいたからね☆」

ウィンクをしながら、出ていったお母さんを見送った奈津は思った。

(・・・お母さんって、千里眼とか心の眼とか持ってそうだなぁ。)

半ば、現実逃避に陥りながら、奈津は再び布団にもぐる。もう今日はこのまま寝ようと意識を手放した。
でも、なぜか・・・・彼から抱きしめられた感触が頭から離れなかった。






(ああ、結局逃げちゃったよ・・・また朱莉に怒られちゃうかな・・・。)






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