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9)告白の仕切り直しが必要です
しおりを挟む「・・・・迂闊だった」
「殿下・・・なんで俺の部屋にいらっしゃるんですかぁああああ!」
「うるさい、黙れ」
ザンは不貞腐れた顔で勝手知ったる部屋へと入り、ローブをベッドへと放り投げて机の上に座り込んだ。ここが寮にあるラティスの部屋でなければ問題なかったのだが、ラティスとしては王子を相手とあって無下にできないといったところか。
ラティスが恐る恐る抗議をしてみれば、眉間に皺をよせて不機嫌なまま紫色の目で睨まれ、先ほどの叫びを最後に固まるしかなかった。
「・・・えーあのーどうかなされたので?」
「あいつとは契約結婚だっていうことを忘れていたのは完全に俺の失態だ」
「はぁ」
「俺が正妃を娶ったら、平民にしてもらいたいだと。なんていうかちょっとでも・・・俺がアリア以外を娶らない意味に気づいてほしかったのに、まったく気づかれてなかったというのもな」
「ああ、そういえば、言ってましたねぇ」
「おい、何を言っていたって?」
肘を膝についたままだらしなく机の上に座っているだけなのにかっこよく見えるあたり、やっぱり王子様なんだなぁと思いつつ、ラティスは口を開いた。
「アリア様がまだ兵団にいた頃の話ですよ・・・。当時、アリア様が妃だって気づいてなかったこともあって、みんなでザン殿下の正妃についての話をしていたんです。その中に彼女もいたんですよ」
「で?」
「アリア様曰く、殿下は皇帝陛下の命令で聖女様と結婚なされたほどのお方だから、自分のことより、国を優先し、国のために動ける方だよねと」
「・・・全然、褒められてる気がしねぇんだが」
「ああ、それから・・・聖女は自分の意志で判断することはできないから、殿下の方から離縁してくれたほうが良いかもともおっしゃってましたっけ」
「・・・・・・・あ」
ラティスの言葉を聞いてザンはようやく思い当たった。
確かに聖女は皇帝の地位と平等の権力を持つことが出来る。だが、それはあくまでも皇族の意志優先でのこと。聖女が嫌がらない限り、女神は人の世界に干渉することはない。故に、必要最低限の生活をさせて平民扱いする場合もある。それらはすべて皇帝の考え方次第でかわる。
当然このことはアリアにも知られている話だ。
「・・・ああ、なるほど、その状態からの政略結婚と考えれば、納得だ。俺がアリアの立場でも同じように自分からは意見を言えないな」
「アリア様は優しい方ですよね。そういえば、そのアリア様は一体どちらに?」
「今日は、母上に呼ばれて後宮に行っている」
「・・・・・・失礼ながら、皇后様の姿ってあまり見たことがないように思います」
「母上は身体がお弱い方だからな、めったに表に出ることも叶わぬ。だが、アリアのことは気に入っているようで、よくお茶会に呼んでいらっしゃる」
「おおっ、殿下が敬語を使われているの久々に聞きましたよ。やっぱり王子様なんですね・・・あっ」
「・・・てめぇは俺をなんだと・・・・」
余計な一言は言わぬが花というもの。
この後、寮にラティスの絶叫が響いたが、誰もが気のせいだ、錯覚だと相手にすらしなかったのは、第二王子の人徳によるものだろう・・・多分。
一方、後宮に到着したアリアは真っ先にやってきた皇后に抱きつかれていた。
「よう、来たの!アリアよ。わらわはこの日を楽しみにしておったぞ」
「お久しぶりです、皇后陛下」
「よさぬか、そのような形式ばった言い方なぞこの場ではいらぬ。さぁ、入っておくれ」
手をひらひらさせながら歩き出した皇后の後ろ姿を追いながらアリアはほっとしたような表情を見せた。
この通り、皇后はアリアに対していろいろと気を使ってくれている。
(最初に来た時に一番の味方になってくれたのも、皇后陛下だったなぁ)
皇后曰く、エルフ国から来た血筋のため、実年齢までなら見た目を好きに変えられるとのこと。そのため、皇后は気分によって見た目を変えていることが多い。ちなみに、実は皇帝より年上。
ちなみに今の皇后は、9歳か10歳頃で、金髪に青い目のツインテールでドレス風のワンピース姿だ。(ちなみにこれはアリアからの献上品であり、皇后は動きやすいと気に入っている。)
庭にあらかじめ用意されていたテーブルにお互いに座る。メイド達が、アリアが手土産に持ってきたケーキをお皿に盛り、紅茶を用意した後下がっていく。紅茶を飲んで一息ついたアリアがふと思い出したように話しかけた。
「そういえば、以前の会議については体調が悪いからとお休みになったと・・・」
「ふん、あんなの仮病に決まっておろう。なぜあんな下らない会議に出ねばならぬのか理解できぬ。ああ、でもザンには内緒にな。あれは何故か、わらわを病弱と思っておってな・・・。まぁ、わらわもあまり本性を出したくない故、ちょうどよいと誤解させたままでおるのだが」
「もちろん、ザンには言いません」
「すまぬ」
目を泳がせつつ、頭を下げる皇后に対してアリアは心配無用とばかりに頷いた。内心では、ザンの二面性のツールはここからか・・・と思ったが敢えて口にしないのが優しさというもの。
「本題じゃが、皇帝から聞いたぞ。一体どうしたのじゃ?ザンに至らぬところでもあったかの?」
困惑した様子で話しかけてきた皇后に対して、アリアは首を振った。
「いえ、そのような」
「見たことがないが、あれもわらわと同じ二面性を持っていると聞いたことがあるが・・・まさか酷いコトなどされておるまいな?」
「いえいえ・・・・夜が激しいだけで普段は・・・あの、口が悪い王子っていう感じですね」
「ふむ、夜の付き合いがあるということは嫌ってはいないということじゃな。では、なぜ正妃になることを拒むのじゃ?」
「・・・呆れないでいただきたいのですが」
「ほう、わらわが呆れるほどのことか判断してやろうではないか」
皇后はエルフ国の王女として嫁いできた時、孤独と文化の違いに泣いていたかつての自分を思い出してはアリアを気遣っていた。さらに、アリアは息子であるザンとの結婚を受けいれただけではなく、この国に様々な恩恵をもたらし、安寧と革命を起こしている。そんなできた嫁に文句などあろうはずがない。
呆れかえった皇后がケーキを食べながら、せかしてみれば、アリアは少し顔を赤らめて恥ずかしそうに口を開いた。
「なんていうか、ザンを好き過ぎて自分がおかしくなりそうなんですよね」
「・・・・・メイドよ、この紅茶少々、甘すぎるのではないか?」
「ほら、やっぱり呆れるんじゃないですか!!」
「両想いであれば問題なかろう・・・何をうじうじしとるのじゃ」
「両想いじゃないですよ。ザンは聖女としての私を気に入っているだけなんですから」
むーと口を膨らませたアリアを見て一瞬固まった皇后は慌てて、シャラを呼び寄せた。
「・・・・・おい、シャラはどこぞ!!!」
「はい、ここにおります」
「これは一体どういうことなのだ?」
「世界を一周まわってお互い正反対の場所にいらっしゃるご様子です」
「例えが上手いの。ザンは一体何をしておるのじゃ・・・溺愛っぷりは噂にしとるが、当の本人に愛が伝わっておらぬではないか」
「えっ、愛なんてないですよ。いつでもどこでも聖女らしさを求められてますね」
「アリアよ、それはどのような根拠を持っていうておるのじゃ?」
えっとと考え込むようにしゃべりだしたアリアに、皇后はげっそりとした表情を見せ、シャラはさもありなんというようにため息をついた。
「えっとですね、部屋では短いワンピースを許してくれるんですが、人前では聖女らしくないから短いスカートはよせと。なんか、そういう風潮とか暗黙の了解みたいなのでもあるのかなぁ」
「・・・・・・(あるわけなかろう。それはたんにそなたの足をみせたくないからじゃ)」
「他は・・・あっ、お祝いを貰う時も、ザンが一旦確認してからでないと受け取れませんね。何か危険があるかもしれないって、絶対私に開けさせてくれないです。私が開けられるのは皇族の皆さんからいただいたものぐらいですね」
「特に貴族の男性陣からのプレゼントはほぼ処分されておりますからね」
「シャラ?えっ、そうだったの?知らなかった。なんでだろう・・・」
「そ、そうであるか。うむ、それは大変じゃな」
もう聞くのも馬鹿らしいとばかりにため息をついた皇后だったが、アリアは別の意味でとらえたようで、「聖女って大変ですよねー」と、一人呟いていた。ため息をつくアリアを眺めながら、皇后はシャラにだけ聞こえるように呟いた。
「第二王子に伝言せよ、アリアに対する言い訳に『聖女』の二文字は禁句と。後、そなたの愛をもう少しわかりやすく示せともな」
「・・・承りました」
「ほんに我が子ながら、わらわのダメなところばかり似てしまうとは…情けのうて涙が出るわ」
「そう言いながらケーキをお代わりしているじゃないですか」とは言えず、黙って下がるシャラであった。
そしてこの後、アリアは、皇后から夜の話を根掘り葉掘り聞かれて真っ赤に俯く羽目になる未来が待っていた。
「で、ザンからはどのような行為をされたのじゃ?ほれ、わらわに遠慮なしに言うてみるがよい。」
「いえいえ、話せるような内容じゃ・・・・って、ブラを見ないで下さいぃいいいいっ!!」
「む、これは今はやりのブラじゃな!!花柄が人気と聞いておったが、ふうむ・・・おお、手触りがよいではないか」
「揉まないでくださいっ!!シャラ、助けてーーー!!」
シャラが無言で首を振っていたのをあの時程恨めしく感じたことがなかったとは後のアリア談。
一方、ザンによってボロボロになったラティスはよろめきながら、ザンに対してとあるものを献上した。献上されたそれを手に取って捲ったザンは怪訝そうな顔をしていた。
「・・・もしや、これが民間人の間でブームの恋愛漫画というやつか?」
「はい、アリア様が広めたイラストをストーリー化した本なんですよ。今まではこういう本がなかったので、印刷が追い付かないほどの人気ぶりで。告白を考えるなら、その恋愛漫画を参考になされてはどうですか。普段とのギャップに萌える女性もいらっしゃるようですし」
「で、これがあいつに効くかもしれないと思う理由は?」
「現状を脱したいなら、やっぱり殿下がおっしゃるように、告白のやり直しが一番効果的だと俺も思います。で、やっぱり一般的な女性って、政治的なものを考えなくてもいい環境にいるので、ロマンチックに告白されたい憧れが強いらしいんですよね。ほら、この雑誌にも書かれているでしょう?ロマンチックに告白されたい女性の確率が74パーセントもあるんですよ!」
ラティスは自信満々に言いながら献上した漫画とはべつの雑誌のページを開いて見せた。それをひったくって読んだザンはなぜか珍しく心が揺れかけていた。
「信憑性はともかく・・・確かにアリアは異世界では平民だと言っていたな。その考えに基づくなら一理ある考えだ」
「でしょう。しかもこの恋愛漫画はアリア様が監修されたもの。多少なりとも彼女の理想が詰まっている可能性があるので、何かヒントになるのではと」
「・・・・お前にしてはいいことを言う。いいだろう、この漫画を読んで研究してみよう」
いつもなら流されないのに、完全に流されてしまうあたり、よほど行き詰っているようだ。漫画を受け取り、転移魔法で消えたザンを見送ったラティスはあたりを確認した後、万歳してテンション高く、ベッドへとなだれ込んだ。
「よしっ、これで当分はこっちに八つ当たりは来ないだろう・・・しばらくは平和だーーーーー!!!!」
まぁ、そのつかの間の平和はすぐに打ち砕かれることになるんだけどね。
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