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幕間6)結婚式の前夜(ザン目線)
しおりを挟む今日は結婚式前夜だというのに、アリアが傍にいないことにザンは不貞腐れていた。
「・・・全然、懐が温かくならねぇ」
何度も、懐に手を伸ばしてしまう自分が情けない。いつもならアリアと一緒に裸で寝ることが多いのだが、一人で裸になってもしかたがないので、夜着もちゃんと着ている。
こうしても仕方がないので、もう寝てしまおうとしていたザンの前に何故か精霊が1匹・・・失礼、1人現れたため、ザンは目を丸くしつつ、なんとか冷静であろうと努めた。
『ザン王子、聞こえるー?』
「聞こえておりますが、何故私の前にいらしたのでしょうか?」
『女神様がお呼びなの。皇帝たちと一緒に中庭に来て―!!』
女神様という言葉を聞いてすぐにザンは動いた。魔力感知で皇帝と皇太子の魔力を感知し、テレパシーで通信し、即座に中庭集合と知らせ、自身もまた中庭へ赴くために正装に着替えた。
「ザン、女神様がお呼びだって、そんなの滅多にあるわけないと思ったんだけれど?」
「皇太子殿下、皇帝陛下。突然、このように深夜にもかかわらず、お呼び立てしてしまい、申し訳ございません」
「それは良いのじゃが・・・お、おお・・なんと見事に光っているではないか」
皇帝の驚きに皇太子もザンも中庭に目を向ける。水晶の周りはもうすでに水晶花が咲き乱れ、ピンク色に反射して巨大水晶もまた輝いていた。その水晶に映って見えるのが・・・恐らく女神様だろう。思わず三人はその女性を前に跪いていた。
「もしや、女神様であせられますでしょうか」
恐る恐る皇帝が問うと、女神様がにっこりと微笑んだ。
『ごめんなさいね、突然。まずは、我が守護する国の現第二王子、貴方と聖女の結婚を喜ばしく思います』
「もったいなきお言葉、ありがたく頂戴いたします」
『まずは、謝罪を。まさか聖女にもう一人がついてくるとは思いもしませんでした。古森由奈については、私の方で話をした上で元の世界に返しました。そなた達も知っておいてください』
「私どもとしましてもありがたく思います。アリアも心配していましたので」
『私とて、聖女である彼女に感謝しているのです。遠い異世界からこちらに召喚された不安がないわけではないのに、この世界に革命をもたらし、我が子孫となる貴方達にとっても必要な存在となってくれた。せめてのお礼と慰めにと思い、彼らを3日だけ呼びよせました。そこで申し訳ないのですが、貴方達には彼らを世話して欲しいのです』
「彼ら・・・え、この方達はもしや」
『お願いしましたよ』
そう言い残して消えた女神様の言葉に唖然としながらも、ザンは目の前に現れた2人の人間に頭を下げ、とりあえずは部屋へと案内した。皇太子と皇帝は慌てて臣下に対して手続きを取ろうと指揮をはじめているので、2人に対する対応は必然的にザンがやることになる。
「改めて初めてお目にかかります、このブラパーラジュにようこそお越しくださいました。我が名はザン。この国の第二王子にあたります」
「私達は、アリアに会わせてもらえると聞いてきたのですが」
「アリア・・・・・・彼女は結婚式前夜ということで、後宮におります。今、皇帝陛下が呼び寄せていますのですぐにお会いできるかと」
「結婚式前夜と言うことは、明日が結婚式というわけだね。だから、私達が呼ばれたということか」
「はい、おっしゃる通りかと」
アリアにそっくりな女性が母親となれば、男性の方が父親ということになる。確かにアリアから聞いていた通り、興味がなさそうな雰囲気が見て取れた。
母親の方は泣きはらして目が真っ赤になっていることから、心配していたのだとザンにもすぐに理解できた。
(・・・ふうん、思ったより淡泊な関係ではなかったようだな、母親とは。)
「恐れながら、女神さまからはどれほどのことをお聞きしておりますか?」
「娘がこの国の聖女として召喚されていたことと、娘がこの国の第二王子と結婚するため私達に参列してほしいから呼び寄せたのだということぐらいです」
「おっしゃる通り、アリアは私と結婚することになっております。急なことで驚かれたと思いますが、準備はこちらの方でしっかりとさせていただきますので」
「アナタと? 失礼だけれど、先ほど見た方々と髪の色が・・・」
眉をひそめたアリアの母親に説明しようと口を開こうとするが、それを制し、先回りして説明したのは意外にも、アリアの父親だった。
「この国では魔力が高ければ高いほど、色濃く表れる。遺伝性なんて関係なく、ね。さっきの皇帝や皇太子を見る限り、目の前の彼の魔力が一番強いから、別におかしいことではない」
「そうなの」
「だから、言っただろう、あれのことは心配いらないと」
「またそういうことを言う。それだから、娘に無関心だって誤解されるのよ」
「別に、無関心なわけではなく、優先順位が恵理で、あれが何番目かにいるだけで・・・いたっ!」
肩を竦めながら平然と言う男性の腹をどつきながら、恵理と呼ばれたアリアの母親はため息をついていた。そんな2人のやり取りにザンは思わず口に出していた。
「アリアから聞いていた通りのご両親ですね」
「「え」」
「驚かれる理由がわからないのですが」
「いえ、あの子が私達のことを話すことが想像できないもので。何しろあの子ったら何でも勝手に自分で決める子でね。中学校進学の時から一人暮らしさせてというぐらいほぼ自立していた子だから・・・・・・」
「うん、私達の邪魔を必要以上にしない子だったね。我儘も不満も本当に物心つく前からまったく聞いたことがないし、私に似て無関心さが高いのかなと心配したぐらい」
目を丸くした男性がそう言い終えた時、扉が開き、ラティスに連れられてアリアがやってきた。だが、彼女の第一声は喜びと言うより戸惑いに近かった。
「本当に来てたわ」
「アリア、ご両親を前にちょっとその言葉はどうかと」
「う、それはそうだけど。だって、2人とも仕事が忙しい人達だし、無関心だし、超現実主義だからこっちに来ていることも本気にしないだろうなと思っていたから」
「そんなわけないでしょう、いくら私が現実主義だからって、娘が突然行方不明になったら驚くわ!」
「・・・・・・うん、ごめんなさい」
「本当に、心配したのよ。3日しかいられないそうだけれど、それでも会えないよりはと思って」
「ごめんなさい」
ぎゅっと抱きしめて嗚咽を漏らす母親にアリアも思わず目を閉じていた。それを遠目に見ていた父親の顔に変化はない。だが、ザンはこの男に対してかなり疑問を感じていた。
(多分、この人はこちら側の人間である可能性が高い。そうでなきゃ、魔力の高さなんて言葉がでるわけないし、何よりこの部屋に漂う空気が物語っている。アリアの世界では魔力など必要ないと聞いているしな。あ、これ、めんどくさそうな予感。とりあえず眠いから逃げよう。)
「とりあえず、今夜はこちらで、お過ごしください。俺はもう寝ますので」
立ち上がるが、それを目にとめたアリアの父親が呼び止めてきた。内心で舌打ちしたが、ここで逃げるわけにはいかない。精一杯の笑みを浮かべてアリアの父親に向かい合った。
「なんでしょうか」
「ザン王子、夜も遅いから何も言わないでおこうと思ったんだけれど、俺も父親として一応聞いておきたい」
「どうぞ、何なりと」
「その似非笑み、まったく似合っていないね。あの子にはちゃんと本性を見せられているの?」
(なんという魔力。しかも、これは我が一族の魔力に近い。ああ、間違いない。この人は・・・・・・!)
「表現が生ぬるいですね。アリアからは『キモチワルイです。その口調も、その顔も、全部。』と思いっきりドきつく言われました。まぁ、お蔭様で無事、彼女を正妃に据えるところまで漕ぎ着けられたのでほっとしています。それでは、おやすみなさい」
「ふうん。じゃあおやすみ」
目を丸くさせたアリアの父親は面白そうに目を細めている。完全に品定めしていることは想像できたが、眠気に負けたのでほうっておくことにする。眠いのを必死に堪えつつ、アリアに話しかけた。
「おやすみ、我が妃。明日を楽しみにしている」
「私もです。おやすみなさいませ、殿下」
名残惜しいとばかりにアリアの指環にキスしてから退出する。真っ赤になったアリアの顔が目に入ったが知らん顔しておいた。
(くっ、あれがアリアの父親か。アリアの世界では黒目に黒髪は日本人としては一般的だと聞いていたが、もしもこの世界の人間だとしたら皇族である可能性も否定できないか。一応調べておくか。)
面倒な、と思いつつも、アリアが母親と抱きしめあっていたことを思いだすと何も文句など言えない。
とりあえずは、3日間乗り切るか・・・と気合を入れつつも、笑みを浮かべながら部屋へと戻った。
(しかし。なるほど、アリアの特異性はあの男の遺伝か。そう考えれば納得がゆく。)
聖女という理由だけでは片付けられない膨大な魔力。
五大属性が女神の加護とはいえ、それを抜いても抜群の魔法のセンス。
何より、この世界の魔力に酔わず、あっさりと馴染んでみせた順応性の高さ。
「ふむ、聖女の父親としては申し分ない義父ではある。それにアリアの父親なだけあって、全然素直じゃないお方だ」
態度や口調ではそっけないが、魔力で解ってしまった。
あの人はあの人なりに、アリアを大事にしているということが。
ならば、それに応えねばなるまい。
アリアの世界では花嫁の父親に「娘をください」という風習があるところもあると聞いたことがある。
ならば、彼女にプロポーズした時のように示して見せよう、日本とやらの流儀にのっとってな。
それに、あちらも俺の本気を試そうとしているのだろう。そうでなくては、魔力をぶつけてこようとはしないはずだから。
「あの人とは本音で話し合う必要があるかも知れんな」
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