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幕間5)血は争えない(女神視線)
しおりを挟む(やはり、彼らを呼ぶのが一番いいのよね。)
彼女は本来ならば皇帝殿下以上に血筋が濃い。そもそも、アリアが何故聖女として呼ばれたのか。それは偶然ではなく必然的な意味合いがあった。女神とてむやみやたらに選んでいたわけじゃない。
これまでにも召喚に応え、様々な国に聖女を派遣してきたが、その中でも特にブラパーラジュという国は特別に肩入れしている自覚がある。
正確には・・・ブラパーラジュの前身である王国に対してだ。
まだこの皇国が王国であり、今の皇族が王族として君臨していた頃のこと。
私が気に入っていた子を聖女として派遣していたことがあった。王国は彼女にブラパーラジュという名を授け、大切にしていた。そのかいがあってか、それまで激しかった戦争は終結し、平和な日々が訪れた。しかし数年も経つと、王族は彼女を疎ましく思うようになり、彼女の一族に対する感謝を忘れ、迫害するようになった。そして無残にも聖女であった彼女を処刑してしまう。
それを目のあたりにした女神としては残酷な行為に及んだ王国と王族を許すわけにはいかなかった。一時的に女神の加護を封印し、王族を、そして王国をも見捨てた。
「彼は・・・・ああ、あそこね」
過去を思い出したのは、これから彼に会うからだろう。実言えば、あの国と同じ魔力を纏う彼とは初対面ではない。彼の方でもきっと自分を覚えていることだろう。
事実、会ったとき、彼は珍しく目を見開き驚いていた。
「なぜ、女神さまがここにいらっしゃる?」
「察しているはずですよ。貴方の娘のことで話があります。奥様もお呼びなさいな」
「はあ、相変わらず唐突なお方だな」
驚きはしても顔色一つ変えずに、妻を呼ぶからと消えたその男の後ろ姿に女神は何とも言えない気持ちになった。
(・・・この地球にいながら魔力が衰えていない。やはり、アリアの持つ魔力は彼の遺伝でしょうね。さすがは、元王国の正統なる継承者となるはずだった王太子)
もっとも、彼はすでに王太子という歳でもないし、この地球で生きることを決めた人間だ。今更、あの国に彼の存在を持ち込むわけにはいかない。
もっともそれらすべてを決めたのは女神である自分自身なのだが。
(・・・そうよね、土下座してきた王族に対して、許す代わりに三人の王子達を異世界に飛ばすと決めたのは私。誰か一人でも聖女の血を引く人間を見つけて幸せにすることができたなら許すとは言ったわ)
そして、彼らはそのかなり確率の低い賭けに勝ったからこそ、今も皇族として国を動かすことができている。それもこれも、王太子である彼が恋に落ちたから。今は高原家の婿養子となっているようだが、やはり王族としてのもって生まれた魔力は健在というわけだ。
彼が婿養子にいったのと同時に、他の王子二人は元の世界へ帰した。その王子の一人が王国を皇国に作り替え、国の名をブラパーラジュに変えた。そしてザン達の世代へとつながっている。
(私だって奇跡だって思ったわよ。彼を助けたのがまさかの聖女の末裔だっただなんて)
「待たせて申し訳ない。ほら、恵理。女神様だ」
「そんな、本当に?・・・・・・信じられない」
入ってきた女性はまさにアリアが少し歳をとった感じになっている。顔からしてもうアリアの母親ということが一目で分かる。
私は彼女に対してアリアが無事であること、そして結婚式が行われるのでそこで会わないかという提案を告げた。涙をこぼす彼女とは対照的に彼は完全に無関心という態度だった。
「本当でございますか、あの子が生きていると・・・異世界で・・・っ・・・良かった、良かった!!もう、生きてはいないかとばかり・・・!!」
「ええ、このたび、結婚式をあげることになりました。アリアには聖女としての役割を果たしてもらっている分、何らかのお礼を示したいと思ったのです。そこで異例ではありますが、あなた方を招待したいのです」
彼の顔色が明らかに変わったのは、結婚式の三文字が出た時。彼は泣く彼女の肩を支えながら聞いてきた。歳をとったものの、明らかに懐かしい漆黒の色は変わらない。
まっすぐな黒い眼を見た瞬間、ザン王子を思い出した。傍系とはいえ、今の皇族たるザン達も彼にとっては血縁にあたる。時代のズレはあるものの、間違いなく同じ血を分け合っているのだ。
「娘の結婚相手は誰なのでしょうか?」
内心落ち着かないのだろう、わずかに声が震えているのが読み取れる。
「貴方と同じブラパーラジュ国の皇族で直系にあたる第二王子、ザン・トーリャという者です」
「・・・はっ・・まさかのですか。なんという奇しき縁」
「ええ、私もそう思いますよ・・・本来なら、皇帝となるはずだった皇太子であるあなたの一子であるアリアが聖女となり、直系に嫁ぐことになったのですから」
「それで、我々がそちらに行けるのはどれほどの期間で?」
三日ほどだと伝えると、恵理という女性は慌ててどこかに行った。何をと思ったら、彼が説明してくれた。おそらく職場に電話をかけて休むと伝えるつもりなのだろうと。
「そうでした。この世界は魔法が発達していない分、機械が発達しているのでしたね」
「ええ。それはそうと、兄弟のみんなはどうなりました?」
「貴方の予想通りになっていますよ」
「ああ、一番下の弟が後を継いだのですね。そして、やはりブラパーラジュ皇国となりましたか」
「ええ。まったく・・・貴方が私に言っていた通りになるとは。女神としての立場がありませんよ」
「断っておきますが、予知能力はありません」
「知っています」
しれっと毒を吐いた彼に対して女神としては不謹慎ながらもため息をついた。しばらくして、恵理が大きなキャリーケースを両手で引きずってきた。二つということは当然ながら彼の分もあるようだ。ちらっと彼のほうを見ると全く行く気がなさそうに見える。
「あなたも早く連絡をなさって?」
「はいはい、やっぱり今すぐ行くのかい」
「当たり前です。ほら、早く!」
「はぁ。面倒だなぁ」
せっかく二人きりだったのにと言いながら、彼もまた電話なるものを持って部屋を出て行った。
微笑ましく見守っていた女神だったが、恵理の視線に気づいた。
「何か言いたいことがおありで?」
「いえ、あの人の性格はあの通りなのですが、あれはその、異世界の性質的なものですか?」
意を決したように聞いてきた恵理の言葉を反芻する。
(魔力が高い人間は確かに他の人と比べて関心が薄い分、お気に入りに対して執着心が強い。だが、異世界の人間みんなそうかといわれると違うわね。皇族だからというわけでもない。)
瞬時にして個性と断定した女神は考えごとをしていたことなどおくびに出すこともなく、平然とのたまった。
「ええ。あの方の個性でしょうね。ただ、遺伝も影響していることは否めません」
一応フォローはしておいた。意外にも、恵理はすんなりと首を縦に振って腕を組んで納得している様子を見せた。
「でしょうね。アリアもあの人にそっくりな一面がありますもの。ああ、そうだわ。あの子の荷物もまとめておかなければ!」
はっと思い立ったように彼女は再び部屋を出て行った。女神としてはある意味助かったとさえ言える。こうは言っては何だが、威厳を保つのも大変なのだ。
(一応女神なんだけれど・・・なんていうか、人間ってすごいわね。これだから・・・世界とかかわるのはやめられないのよね。)
目を伏せていると、今度は恵理に背中を押される形で彼が戻ってきた。不服ながらも、行くことには渋々と同意したようだ。一応は故郷のはずだが、彼にとってはもはやどうでもいいことになっているのだろう。
「さぁ、出発よ。女神様、お願いしますね!!」
「まさか再び戻ることになろうとは」
「では、送りますよ」
対照的な二人に笑いを押し殺しながら、彼らに光を向ける。指から放たれる光とともに彼らが消えていく。すべてが消えたその時、不謹慎にも女神は笑った。
(ああ、もうっ、アリアがザン王子を怒る時の様子と完全に被るじゃないの。笑いを押し殺すのが大変だったわ。)
水晶を通してよく見る暖かな光景。
アリアがいて、ザン王子がいて、二人で寄り添う時もあれば、二人が喧嘩する時もあれば、どちらかが一方的に怒る時もある。
そういう穏やかな雰囲気を見るのは、精霊たちのみながず、女神としても楽しいひと時なのだ。
すっかり暗くなった部屋で、女神は静かに目を瞑りながら泡のように消えた。
ねぇ、アリア。
貴方が思っているより、あなたのお母様の愛は深かったようよ。
お父様だって、ブツブツ言っていた割にはちゃんと真名つながりを持っているようだしね。
何より、貴方の愛する人と彼はとてもよく似ていたわ。
愛する人を見る目。
複雑な気持ちを抱えながらも親子のつながりを大事にする精神。
何より、遠く離れていても娘なら大丈夫だと言うその其れはもはや信頼に近い。
貴方も大変ね、彼・・・いえ、お父様そっくりの人を好きになるだなんて。
女神が一人笑っていた頃、アリアとザンはいちゃつき、あまつさえ、父親のことについて会話を交わしていたわけだが、そんなことを女神が知る由はない。
何はともあれ、アリアを驚かせることはできそうだ。
それに、彼らとアリアを会わせることはアリアにとってもザンにとっても良いことだらけなのだ。何しろ、アリアの確かな出自が明らかになるのだから、アリアを正妃とすることに文句を言う人間も一気に減るだろうと察せられるからだ。
「ふふふ、私のわずかながらの支援とお祝いよ。受け取りなさいな、可愛い私の宝物達」
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