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12)結婚式の準備その2

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「ドレスもほぼ完成してきたのう」

古来から、この国でのウェディングドレスは花嫁の母親が作る習わしになっている。だが、アリアの母親は異世界にいる。その代わりにと申し出てきたのが、ザンの母親である皇后と義姉の皇太子妃だった。
ただでさえ、急ピッチで行われている準備なのに無理はさせられないとアリアは遠慮したが、2人は、魔法もあるし、これしきのこと苦ではないと笑って引き受けてくれた。
今日はそのお礼も兼ねてと、2人が住んでいる後宮にやってきていたアリアは、徐々に出来上がっていくドレスを見て感嘆していた。

「・・・すごいですね、これを私が着ることになるだなんて」
「ふふふ、この見事な紫色は我が国でも珍しいほうであるぞ。何しろ、滅多に紫色の目をした人間なぞおらぬしの。そういえば、そなたの世界では白色が主流だとかいうておったな」
「本当ですわね、アリア様、こちらでは花婿の目の色と同じ色にすることが定番なのですが、その白色には何か意味はおありなのでしょうか?」
「えっと、白には『清廉潔白せいれんけっぱく』という意味がありまして。身も心も清らかにして相手に捧げるという意味合いもあるかと。大抵は、スタイルや小物で個性化を図っていましたね」

紫色のドレスに金色の刺繍が見事に縫われている。これも皇后と皇太子妃の力作の結晶だ。まだ途中だと二人は言うが、出来上がりはほぼ終盤だったため、アリアの脳内ではほぼ完成したイメージができてい。
さらにアリアが感嘆したのは魔方陣だ。さり気にあちこちに刺繍で縫われていて、防水、汗ムレ防止、防熱、防火、伸縮仕様とさりげなくも女性陣に優しい魔法がかけられているのが見てわかる。
これでドレス姿でも存分に飲んだり食べたりできるとアリアが内心で小躍りしていていたが、皇后や皇太子妃が知るはずもない。
当日のパレードでも、馬車に魔法によるエフェクトが幾多にもかけられる予定らしく、アリアは、異世界ならでの特別感があると珍しがっていた。
もちろん、花嫁本人とて何もしないわけではないが、アリアの場合は第二王子の妃ということもあり、いろいろと事務対応や聖女としての役目に追われていた。そのため、自分のやるべきことが後回しになっていたが、ようやく余裕ができて花嫁としての準備に着手することができるようになった。そのため、アリアはせっかくだからと、皇后と皇太子妃の近くで作業をしようと思い立ったのだ。
アリアは二人にあいさつを終えた後、ザンのマントを取り出して広げていた。そのマントの懐かしさに惹かれて皇后がアリアの傍に近寄った。ちなみに、今はアリアや皇太子妃に合わせてか、20代の姿をしている。
マントをみてほぅとため息をついたのは皇太子妃。黒いマントでも皇族が着る服は一張羅モノで、無駄に細かい細工がみてとれているからだ。

「ザン殿下が成人してからずっと使っていらしたマントなのですね。まだ新しいようにお見受けします。大事にされていたのですね」
「違うぞ、あの子は普段はマントなど使わぬからからしまっていただけじゃ。普段は目や髪を隠すためにローブを羽織っているからのう」
「ですが、アリア妃がこれから魔法を込めた刺繍をなされるのです、きっとザン殿下が満足するほど素晴らしいものになりますわ」

会話からわかる通り、花嫁は花婿が纏うマントに魔方陣を埋め込む作業をやらねばならない。これもこの国の習わしであり、アリアがザンとともに結婚式に上がるためにも必要なことであった。
とはいえ、ザンがマントをあまり使わないということで、どうするか対応に悩んでいたアリアは、何度か作業ついでにと、皇太子妃や皇后に会って相談を重ねていたのだ。

「そういえば、ザンは何か希望をいっておったかの?」
「このマントには思い入れがないから、適当にしろ、こんなものにお前が全力を出す必要はないと言っていましたが・・・本当によいのかどうか」
「・・・本当に愛されておいてですね。(やっぱり兄弟で似るものかしら・・・)」

何故か遠い目になった皇后と皇太子妃を横にアリアはマントを広げ、いろいろと精霊達に指示をだしていた。魔方陣を埋め込むには、基本的には2通りのやり方がある。一つは、魔法の呪文を唱えて、魔方陣を移す。そしてもう一つは、物理的なものに魔力を込めて刺繍糸などに絡めて模様のように縫い付けるといったもの。だが、アリアはそのどちらも使わなかった。

「さて、精霊のみんな、協力お願いします。『集え、我が精霊の守護の下、かのマントにあらゆる防御系の魔方陣の展開を』」

アリアが指さした先に魔方陣が光り、その魔方陣の光がマントを包んでいく。それと同時に、マントの近くで飛び回って呪文を唱えていく精霊達の姿が見えたのだろう、皇后や皇太子妃は驚きで目を見開かせていた。

「なんとまぁ・・・ありえぬ。これほどの精霊達が力を貸すとはの」
「規格外とは聞いておりましたがこのような・・・本当に見事な腕前ですわね」

皇太子妃がため息をつくのも道理。ザンほどではないが、皇后も皇太子妃も魔力は高い方だ。故に、一般的には見えない精霊達も見えている。だからこそ、2人はこの無数の精霊たちが集まることの重みをよく理解できていた。
魔方陣の光が薄まるのと同時に、精霊たちも消えたり離れたりと様々な反応をみせていた。アリアも頃合いとみて、マントを手にしている。

「あとはこれをローブとしても使えるようにリメイクするだけですね」

余談だがリメイクという言葉を流行らせたのもアリア自身だ。視察先に民間人の女の子が木にひっかけて服の裾を破ってしまって泣いていたのを見たアリアが、その服に新たに布を付け足して二段スカートに作り替えたことが、ニュースになったのをきっかけにブームになった。

それはともかくも、ザンのマントも工夫すればローブにできると今から作り替えるという。やる気満々のアリアに対して、皇后も皇太子妃もため息をついたが、それは呆れというよりも微笑ましさからくる安堵のため息に近かった。

「前々から夫婦だったとは思えぬ初々しさがあるのう。童も見習わねばならぬところか・・・ううむ」
「皇后陛下は、皇帝陛下を前にすると何故か態度がかわられますよね、雰囲気が」
「・・・平常心ではいられなくするほど男前な皇帝陛下がいけぬのじゃ。・・・じゃが、わらわもいい加減にせねば、ザンのことを笑っておれぬともわかっておる」

肩を落とした皇后を慰めるように、皇太子妃は笑いながら少しふくらみのあるお腹を撫でていた。

「大丈夫ですわ、夫婦の形は人それぞれと申しますし、皇帝陛下のこと、皇后陛下の深いお心はよくわかっておいでと思いますわ」
「そうであればよいがのう。さて、もうひと踏ん張りじゃな」
「はい、私達もここに来られぬアリア妃のご両親のためにも頑張りましょう」
「・・・・うむ」

ザンのマントをああでもこうでもないと作り替えているアリアを眺めた後、2人は再び、ドレスの最終調整へと没頭していった。




一方、ザンはというと、何故か訓練所にあるラティスの前に立っていた。眉間に皺を寄せて自分を見据えてくる王子に対し、ラティスは緊張MAX状態で立ち尽くしたままだった。間を長く置いたあと、ようやく口を開いたザンの口調にいつもの不機嫌さはなかった。

「で、殿下・・・・?」
「まったくもって、不本意この上ない・・・・だが、アリアがお前の言葉で正妃になる覚悟を決めたこともまた確か」
「・・・あ、はい・・・誠におめでとうございます」
「あれが妃となる際には、我ら皇族に示した忠誠を彼女にも捧げて命に代えても守ると言ったそうだな。アリアに言ったその言葉、偽りなく本心からだと言えるな?」
「・・・もちろんでございます。それに俺は、ザン殿下の心の安寧とこの国の平和と発展のためにも、アリア妃を命に代えても守ることこそが肝要であると思っております」

忠誠の意を示すために跪いたラティスを前に、ザンは目を瞑った。そして、一拍おいて、何故かいきなり大き目の袋と丸めた文書をラティスに向けて放り投げた。


「正直、お前が俺の本性を知ったのは予想外だった。・・・だが、今となっては、それが功をしたな」
「え、任命・・・あの、一体なにが、なんだか・・・わからぬのですが!?」
「とりあえず、お前の情けない父親の恥を代わりに雪いで挽回してみせろ。・・・お前を今日付けでアリア妃直属護衛騎士隊長に命じる。今日中に荷物を纏めてさっさと皇宮に移動しておけ」
「・・・え、あ、あの??」
「あれは俺にとって失えぬ宝。その宝の護衛係を束ねる隊長を任せるんだ、精々任務に励め」


ザンは言いたいことだけ言って、転移魔法で消えていった。慌てつつも、しっかりと受け止めたラティスは袋と文書を広げる。そこにあったのは、騎士のみが携帯することを許された剣と任命状だった。


「・・・ってことは・・・俺、騎士に昇格ってことっすかっ!?」


改めて正式に認証されたのだと実感が沸いたラティスは慌てふためきながらも、寮長を務める第2班の団長の下へとすっ飛んで行った。(ちなみにその後、兵士寮はお祝い会だと大騒ぎで一晩経ってもおさまらなかったとか)






ようやく一段落して落ち着いたザンは、人気ひとけのない一室にアリアを強引に引き込み、壁へと追いつめ、いつも愛でている身体を弄っていた。ザンの不満に気づいていたアリアはザンの肩に必至にしがみつき、与えられる揺れと熱を身体全体で感じ取っていた。


「ふ・・んっ・・・あっやっ・・・文句・・・言い足り、ない、の・・・?」
「ちっ、今夜だけとはいえ、アリアと別々になるとは。」
「ん・・・寂しい・・・で、も・・しかたがなっ・・・・」
「相変わらず、変なところで素直になるのな・・・っ。」
「あっ・・・や、やぁっ・・・むりぃっ・・・うっく・・うん・・!!」
「まぁいい、今だけは今夜の分まで思いっきりヤるか。」
「・・・・時々そういうことを言うから恥ずかしい男だって言われるんだよ・・・ひゃっ!?」


そんな風に言うのはお前だけだとザンは腰を引き寄せ、強く突きあげた。それだけでアリアの足のつま先がピンと立ったことから、よほどの快感が突き抜けたのだろうと察することができる。実際、正常位ではあるが、壁に押し付け、身体全体を動かしているので快さを感じやすい。結合部から蜜が流れ、アリアの太ももを伝っているが、ザンはそれを気にすることなく、アリアの胸をはじめとする身体全体にキスマークを付けだした。


「んっ・・・や、それ、らめぇ・・・っ!!」
「だいじょう・・・っぶ、見えない・・・・強めに、行くぞ」


アリアは言われるまま素直にしがみついたまま必死に揺れる身体の熱に身を任せていた。しかし、ぐちゅぐちゅと聞えてくる卑猥な音は止まる気配がなく、それどころか、掻き混ぜられている感覚が伝わってくる。
その恥ずかしさで涙が出そうになるのを堪えつつ、必死に顔を見られまいと顔を手で覆っていた。こんなにも自分はいっぱいいっぱいなのに、ザンはそれを容易く壊すのだから質が悪い・・・と、ぼんやりとアリアは身体に入り込んでくる熱い熱を受け止めながら喘いだ。


「うう・・・・そりゃ、外か中かって言われたらこっちだけれど・・・誰の部屋か解らない部屋でヤるって・・・」
「・・・スリル感がたまらねぇな」
「異世界でも男はこんなんだってザンを通して学んだよ」
「おいコラ」
「うー、お父さんもそうだけれど、私の周りって美形でもまともな男がいないなぁ」
「・・・そういや、一人っ子とか言っていなかったか、ご両親はどんな方だ?」
「うーん、お父さんはすごくお母さんが大好きで、娘の私には興味すらもたない人だったからよくわからない。一応、娘としては大事にはされていたけれど、やっぱり何事もお母さん優先ってカンジ。私を産む時も、最初はいい顔はしてなかったみたいだけれど、私がお母さんに似ているもんで、まぁおいてやってもいい・・・って思ってる内にムスメだという認識がでてきたらしいよ」
「・・・気持ちは解らないでもない・・いや、なんでもない。それより、母君の方は?」
「お母さんは・・・なんだろう、ある意味で私の母・・・?」
「・・・会ってみたいような会いたくないような」
「そんな両親だから、多分・・・私がいなくなったことに驚きはしても、悲しまないと思うなぁ。お母さんなんて変なところで超現実主義だし、すぐに受け入れると思うよ」


私の方も似たようなもので、どちらかというと、環境が変わったことが一番のショックだったからねと、言いながら、アリアはファスナーを閉じようと髪をあげた。ザンがそれに気づいたのか、ファスナーを閉じようと手を伸ばしてくれた。その間に何故かうなじにキスマークをつけられたが・・・。




「とりあえず、今夜は離れ離れだから、キスマークで我慢しろ」
「それ、私が言いたいセリフって解ってるよね・・・」
「あーあー、何か戯言が聞こえてくるな」
「ヒドイ」
「唯一の妃に対して心優しい奉仕をしてやっている俺に対してヒドイのはお前の方」
「だから、さらっと恥ずかしいことを言わないで!・・・うう・・・また明日ね!」



うーと唸りながらも、アリアは背伸びして、リップキスをしてから逃げるが勝ちとばかりに部屋を先に出て行ってしまった。
走る足音を聞きながら、残されたザンはぶつぶつと文句を言いながら魔法で部屋の掃除をして出ていった。(何故掃除したのかは察してクダサイ、事故処理というものがあってだね・・・)





「だから、不意打ちは卑怯だっての・・・」





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