【R18】第二王子と妃の夫婦事情

巴月のん

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幕間7)娘を託す相手(アリアの父親視点)

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・・・・別に愛情がなかったわけじゃない。

触れただけで壊れそうな小さな命に恐れを感じたのは確か。それでも受け入れたのは妻がお腹を痛めてまで産んだ子だったから。
最初こそは困惑した。初めてみる自分の血を分けて生まれてきた命というだけでも恐れ多いのに、自分に似て高い魔力を持って生まれていたのだから、それこそ複雑な思いだった。幸いだったのは容姿が妻に似たことだろうか。


(魔力が不要なこの世界に生まれたというのに・・・不憫な子だ。私の血が色濃くでたばっかりに。これではこの世界に馴染めるかどうか・・・魔力の波を上手くコントロールできたら一番いいが・・・魔力の高さの反動で、他人に対する気持ちが薄くなる場合もありえる。私がまさしくそうだからな。)


が、かつての故郷の風習を思いだし、真名繋がりをやってみれば、けっこうかわいく思えてくるから不思議だ。

名前は2通り付けた。一つは、わが国で通じる真名を、もう一つは、この世界での名を。
妻には、故郷で通じる名前もつけたいと言ったら笑って許してくれた。今思えば、妻には感謝しかない。妻の寛容さのお蔭で、娘については心配することなどほとんどなかったし、愛しいとも思えるようになったきっかけにもなったのだから。



(・・・だが、真名繋がりも昨日で終わった。)



娘の結婚式を見届けた後のせいか、帰ってきた家は不思議と広く感じた。妻が気分直しにと、珈琲をもってきてくれたので、それを飲む。隣で妻も一緒に飲んでいたが、不思議と思いは同じだったようで、話すことは自然と娘のことになった。


「・・・・寂しいわね。」
「そう、だな。」
「ねぇ、あなた。あの国が・・・あなたがかつて言っていた故郷なのね。」
「よく覚えていたね、恵理。」
「ふふ、あなたと出会った時に不思議な格好をしていなければ、信じられなかったわ。あの子はこれからあなたの過ごした世界で生きるのね・・・。」


娘を思い出したのか、ぽろぽろと涙を零す妻の肩をしっかりと抱きしめる。思いだしたのは、あの子が消えたと連絡があったときのこと。あの子が学校に来ていないと連絡があったのが、消えてから3日後のことだった。
妻とともに学校に乗り込み、教室にあの子の片方の上靴があったのを知った。半狂乱になった妻を見ても、落ち着くことができたのはあの子の魔力の名残が教室に残っていたからに他ならない。


(・・・・何故、魔力の名残がここに・・・もしや、召喚された可能性がある?)


もし、召喚されるとしたら、真っ先に考えられるのは我が故郷。


「・・・だとしたら、心配はいらないな。」
「あなた!!」
「問題ないよ、あの子ならあそこで生きていける。」
「・・・どういうことなの、あなた。」


(魔力持ちであれば尚更。)


目を閉じれば、今でも鮮明に思い出せる。水晶花を国花とし、国全体が結界に覆われた魔法主義の精霊に愛された我が故郷。おそらく、今は私が知る名前ではなく、ブラパーラジュという名がついていることだろう。
あの美しかった国は、かつて王族だった頃の自分がいた頃とは変わっているのかもしれない。だが、それでも、魔力が強ければ異端でも生きていける国であることは確かだ。
そう考えれば、あの子の魔力はうってつけだ。聖女として呼ばれたなら僥倖ぎょうこう。そうでなくとも、皇族も馬鹿じゃない、あれだけの魔力持ちであれば皇族の血に組み込もうと考えるだろう。


そして、その推測は大当たりだった。


寧ろ、焦りを感じたのは、女神があの子が結婚することになったと話し始めた時。


「本当でございますか、あの子が生きていると・・・異世界で・・・っ・・・良かった、良かった!!もう、生きてはいないかとばかり・・・!!」


妻の喜びも耳に入らなかった。結婚という二文字が私に動揺を与えた。震えを必死に堪えながら女神に問うた。


「・・・娘の結婚相手は誰なのでしょうか?」
『貴方と同じブラパーラジュ皇族で直系にあたる第二王子、ザン・トーリャという者です。』
「・・・はっ・・まさかのですか。なんという奇しき縁。」
『ええ、私もそう思いますよ・・・本来なら、皇帝となるはずだった皇太子であるあなたの一子いっしであるアリアが聖女となり、直系に嫁ぐことになったのですから。』
「・・・・・それで、我々がそちらに行けるのはどれほどの期間で?」


3日ほどだという説明を受け、妻は大慌てでいろいろと準備を始めた。妻がいなくなった部屋で女神と話をしながらも、私は覚悟を決めておかなければという思いでいっぱいだった。


あの子を手放すことの覚悟。そして、繋がりを絶つ覚悟を。


静かに珈琲を飲み終えた後、ふっと思ったことを妻に話した。妻にも想うことがあったようで、彼女は静かに聞いてくれた。


「・・・あの子の結婚式を見た時にね、心底思ったよ。」
「一体、どんなことを?」
「あの子はあそこにいるべきだと。」
「・・・・私も、ですよ。あなたが無理に連れ戻す必要はないと言っていた意味が解りました。あの子にとって・・・この地球という世界は・・・窮屈だったのですね。」
「じゃあ、君にとっても手放す覚悟を決めたのはあの指環交換の時かな?」
「ええ。でも、あなたはどういう覚悟を決めていたのですか?恐らく私とは違う意味での覚悟では?」
「恵理には本当に敵わないな。君の言う通りだよ。」


あの子の結婚式の前夜に皇帝や皇太子と向き合わされたあの時に真っ先に目に入ったのは、紺色の髪に紫の目をした青年だった。膨大な魔力が溢れ出ている容姿で名乗らずともすぐに気づいた。


彼があの子の夫となる者なのだと。

だが、彼が見せてきたどう見たって貼り付けたような微笑みに苦笑した。


(まさか、こんな裏表のある所に自分と共通点を感じ、間違いなく血縁者だと実感してしまうとは何の因果だ、本当に。)


だからか、思わず皮肉で言ってしまった。


『その似非笑み、まったく似合っていないね。あの子にはちゃんと本性を見せられているの?』


・・・彼が魔力付きで叩きつけた皮肉に思いっきり返してくるとは思わなかったけれどね。


『・・・表現が生ぬるいですね。アリアからは『キモチワルイです。その口調も、その顔も、全部。』と思いっきりドきつく言われました。まぁ、お蔭様で無事、彼女を正妃に据えるところまで漕ぎ着けられたのでほっとしています。それでは、おやすみなさい。』



(“俺”の魔力に大概耐えられる人間は早々いなかったが・・・見事に魔力を跳ね返してくるとは。確かに・・・あれならば、娘が嫁ぐ価値は充分ある。何より・・・あの子が終始笑顔だった。)



それがあの子を託す決め手になったことなど絶対明かしてやるものか。


ため息をついていると、妻がお代わりを注いでくれる。ついでにと持ってきてくれた夜食に手を伸ばし、三日間のことをずっと話し合っていた。


「・・・私もまだまだだね。大人げないことをしたものだ。」
「そういえば、ザン王子とはよく話をしていたわね、一体どんな話を?」
「・・・・あれは、最悪な婿だが、信頼はできる。」


思い出すのは、彼と話し合ったあの夜のこと。


『アリアからならまだしも、素を偽っているあなたから似非笑みなど言われる筋合いはない。』
『・・・・よく“俺”に気づいたね?』
「あの時に見た貴方は俺と同じ似非笑みを浮かべていましたから。』
『・・・・ふん、さすがに直系故に血は争えないということか。さすがにここまで遺伝があると気持ち悪さを感じる。』
『ご心配なく。現皇太子である兄上なら、俺のように腹黒くないので問題はありません。』


会話を思い出して眉間にしわを寄せていると、妻がタイムリーな質問を聞いてきた。


「・・そういえば、夜中に1度、目を覚ましたらあなたがいなかったけれど・・・どこに行っていたの?」
「簡単に言うなら、森の中で義理の息子と腹を割った話し合いをしに行ったよ。」
「まぁ、それで怪我をしたのね・・・すぐに治癒できていたのは驚きだけれど、怪我をするようでは、話し合いといえないと思うわ。」
「話し合いということにしてもらいたいな。そうでなければ、“俺”のプライドがズタズタになるから。」
「娘を任せる人ですもの・・・あなたと同じぐらいの強さでなければ、私も安心して任せられないし、丁度良かったのではなくて。」


遠回しに強いのなら安心ね?と確認してきた妻には本当に頭が下がる。初めて会った時から“俺”の本性を見抜き、それでもなお傍にいてくれて、俺に愛情を与えただけではなく、娘まで与えてくれた唯一の女性であり、絶対に失えない人。
だからこそ、 “俺”はこの目の前にいる妻のために、過去を投げうってでも、この世界で生涯を生きてこの地に骨をうずめることを決めた。


思いだすのは、最後に娘が言ってきた一言。



『・・・お父さん、今までありがとう。』



瞠目どうもくした。
大したことなど何もしていない。
何もできない父親だった私に向かってそう言うのか。


堪えていた私に言えたのはあまりにも情けない言葉。


『・・・・・別に、お前のことは心配していなかった。お前が消えた時も今までもずっとな。』


真名繋がりに頼っていた情けない父親なのに、お前はそうやって真っすぐ向かってくる。恐れと同時に、誇りに思っていた我が娘。その娘が今度こそ手元から本当に離れていくのだ。


・・・ならば、せめて願うしかないだろう。


『・・・それでも、お前が私の娘であることにかわりない。願わくは、この私が生まれた国でもあるブラパーラジュでお前が幸福であらんことを。』


(我が故郷で愛する人とともに幸せになって欲しいと。)


「・・・あの子も、私と同じだよ。愛する人間のためにあそこで生きることを選んだ。・・その相手があのザン王子ということはかなり不本意だけれどね。」


苦々しく言いながら二度目の珈琲を飲みほした。すると妻がコップを片付けながら微笑んだ。妻の言葉にぐっと言葉が詰まったのは何も言い返せなかったからだ。


「ふふ、あの子は間違いなくあなたの娘であり私の娘だわ。だって、私と男の趣味が同じですもの。」
「・・・いや、私とあの婿が似ているはずが・・・」
「あの子はあなたとよく似た人に愛されているのよね、なら、幸せになれないはずがないわ。だって私はあなたと一緒に居られて幸せなのよ。そりゃ、娘がいなくて寂しいのは確かだけれど・・・それだってあなたとの子だからですものね。」



(・・・・これだから、恵理には敵わない。)



にこにこと微笑んでいる妻に対して、私が言えたのはたった一言。



「まぁ、ここにいる私達ができるのは遠くから娘の幸せを願うことぐらいだ。」




(不本意この上ないが、あの婿なら心配いらないだろう。)




最後に交わした会話の時に、彼は私に深く一礼してみせた。



『これでお別れとは残念ですね、もう少し言葉を交わしあってみたかったですよ。』
『お前か・・・・決してあれを不幸にするなよ。・・・・アリーアシャルラッタ・ドルチェ・ミラジュ=タカハラを、我が娘を・・・お前に託す。』
『・・・・ご心配なく。俺の命よりも大事な妻を決して傷つけることはしないとお約束します。このザンファルティアール・トーリャ・エッフエル=ブラパーラジュの名に懸けて、必ずや。』




(・・・・真名を懸けてまで宣誓したからには、生涯をかけて必ず守ってみせるんだな。)






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