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番外編
特別編)遺伝なんで諦めてください (※本編19とリンク、ケイト目線)
しおりを挟む過去からやってきたアリアが消えたのを見届けたケイトは振っていた手を降ろし、辺りを見回した。いきなり炎が氷に包まれたことに驚きつつも住民の多くは火事の被害が広がらなかったことに安堵している様子だった。火事の原因は後で兵団がしっかりと原因を追究してくれるに違いない。
まあ、まだ10歳の自分が言うことではないけどさ。
それにしても遅いな、あいつ。
「とりあえず、ここの後始末は父様が何とかするだろうし、もうほっとこうかな。」
アリアに対してみせていた幼い口調をがらりと変えたケイトの目に宿るは、皇族としての威厳と矜持。魔方陣を解いたことですでに髪や目の色は茶色に変化していたが、そこに子どもらしさの片鱗は見えない。
ケイトの髪や目の色は魔力を抑えているために色素が薄れて茶色になっているだけで、本来の色は父であるザンと同じ色である。しかし、それを知っているのは皇族のみんなと、身近にいる護衛のみ。貴族や準貴族のみんなでさえ、ごく一部しか知らない事実だ。もちろん、隠している理由が身の安全を考えてのことだとはいうまでもないこと。
待ちくたびれる様に立っていたケイトの傍にようやく現れた兵士達は慌てて後始末に取り掛かろうと散り散りになっていった。しかし、その中で一際目立つ騎士が目の前に立ったのを確認したケイトは憮然とした声で口を開いた。
「・・・遅いよ、アレス。」
「・・・貴方は皇弟ザン・トーリャ殿下の第一子たる自覚がおありなんですか!?大体、そうおっしゃるぐらいなら、護衛達を拘束してバリアまでご丁寧に二重にして張りまくって補強した上に無断で城を抜け出すのをいい加減に止めていただけますかね・・・。」
「お前は兄であるラティスと同じでうるさいよね。こんなお子様に怒ってもしかたがないよ?」
「いやいや、揚げ足取りですよね、ソレ!貴方が護衛すべき対象となっているのは魔力の高さと五大属性にあることをお忘れですか?せめて、我々護衛を振り回すようなことはおやめください。」
「皇太子じゃないから過剰な護衛はない方がいいと思うな。あ、母様に報告しておかないと!」
「ちょ、ちょっとお待ちください!まだ話は終わっていませんし・・・ああっ、俺を置いていかないでくださいよ、ケイト様ぁあああ!!」
兄弟揃って振り回されている護衛の悲鳴もスルーして、一瞬にして城の中へと移転した。
・・・俺はフィトケイラ・シャーウェルシ・トーリャ。
この国を治める皇帝の弟であるザン・トーリャの第一子。ちなみに、俺の姿は遺伝のせいか、母様から太鼓判を押されるぐらい父様にそっくりだ。ちょっと複雑だけれど・・・。
本来なら、城を出るべき身分だが、母様が聖女であることと、父様が総団長という地位にいることもあって、城で皇帝である伯父の家族と一緒に暮らしている。ちなみに父方の祖父母は隠居して田舎暮らしだ。
(昔の母様・・・アリア様はやっぱり母様だった。性格も雰囲気も昔から変わらなかったんだなぁ。)
昨日の夜に突然母様に呼ばれて、明日は早めに女装して中庭へ行ってから城を抜け出しなさいと言われたときは何故と思ったものだが。
内緒だからねと話してくれた母様の話に驚きながらも今日を楽しみにしていた。
母様はずっと昔に夢を見たことがあって、その時に俺と出逢った記憶があるらしい。
俺がたこ焼きを食べさせてくれたり、花畑に連れて行ってくれたりしたのも覚えているそうだ。
その母様の教えてくれた記憶を辿るように、過去から来たアリア妃に正体がバレないように言葉遣いに気を付けながら案内するのも楽しかった。
「・・・きっと驚くよね、俺が男だって解ったら。ま、ああいう風に言ってくれた母様ならきっと受け入れてくれるだろうけれどさ。」
歩いた先に見えてきたのは母の部屋。ノックをするとシャラが出てきて案内してくれた。
「あら、ケイト様、どうしてこちらに?それに、その服は一体・・・というか、アレスは護衛なのになぜ来ていないのですか?」
「どうしてって、母様に会いに。女装についてはさっきまで、お忍びだったから。あと、アレスは街へ置いてきたよ。」
「・・・彼はどうしてこう振り回されっぱなしなんでしょうか。ケイト様もあまりからかわないようになさってください・・・アリア様はこちらですわ。」
ぶつぶつ言っていたシャラだが、結局、母様のいる所まで案内してくれた。母様はというと、ソファーに座って編み物をしていた。両端で寝ている双子のために誕生日プレゼントを作っているのだろう。
こちらに気づき、編み物を止めて両手を広げてくれた母様に思わず抱きついてしまった。今は甘えたいぐらいかなりテンションが上がっていたから余計に温もりが嬉しい。
「母様、過去のお母様がお帰りになったよ。」
「ありがとう、ケイト。ふふ、あなたの言う通りこうやって会うことができたけれど変な感じね。」
「そりゃ、今の母様は俺が男だってもう解っているしね。」
「そうよね。私だって、貴方が生まれた時はとても驚いたもの。絶対に娘だって思っていたから。」
「でもさ、母様が言ったんだよ?内緒にねって。」
「だって、私が驚いたのに過去の私が驚いていないっていうのも、ずるいと思うのよ?」
クスクスと笑っている母に頭を撫でられる。ケイトはこの撫でてくる感触も好きだった。しばらく堪能していると、いきなり横から大きな手が頭を揺さぶってきた。あまりの強引さに髪がボサボサになる。眉間に皺をよせて、大きな手を伸ばしてきた張本人の手を払って怒りを訴えた。
「この乱れた髪をどうしてくれるんですか、父様!!」
「もう一度結わえればいいだけの話でしょう?」
楽し気に喉を鳴らしたこの人が、父様であるザン・トーリャだ。いつの間にか入ってきたという訳じゃなく、最初から母様の向かい側に座っていたのを無視していただけだ。
父様は今の皇帝陛下の弟でもあるので、皇弟殿下とも呼ばれている。一応は王子を付けても許される身分だというのに、父様はこの年齢で王子もへったくれもないと言って王子呼びを拒否している。
でもさ、寿命が平均で198だか9だか、とにかく200歳ぐらいだっていうこの世界で王子どころか、殿下とかもへったくれもないと思うわけ。
母様の故郷である日本じゃあ、未だに平均寿命は二桁。それなのに、この世界は三桁も生きられる。しかも、老化速度がかなり遅くて、死ぬギリギリまで体は成人年齢を保っているし、死んだ時に一気に老けて骨になるっていうんだから相当なものだよね。多分結界のお蔭だろうって話だったけれど。
そういえば、母様も、こちらに来てから老化速度が落ちたんだって。だからか、今も変わらず綺麗。
話がそれてしまったけれど、父様はよくこうやって俺の髪をぐしゃぐしゃにする。その癖に、その大きな手で優しく抱き上げてくれるのは反則だと思う。でも、抱っこしてくれた理由はきっと母様に俺が抱きついているのが嫌だったからじゃないかなー母様については大人げない父様だから 。
まぁ、抱っこしてくれた父様の声が楽し気だったからいいけどね。ちなみに、父様は俺に対しても敬語で話してくる。母様曰く、父様の本来の口調はあまり真似しない方がいいからという理由らしいけれど・・・ごめん、もう遅いと思う。
「過去のアリアと会ってみてどうでしたか。」
「うーん、悔しいけれど、父様の見る目は確かなって思いました。でも好みが同じっていうのは嫌です。」
「言っておきますが、君が俺に似ているんですよ。」
「そんな悲しい事実はとっくの昔に理解できています。」
不貞腐れた顔をすると今度は頭を優しく撫でてきた。思わず膨れ面になりつつも、父の広い胸にもたれていると、父様はこれまた難しい難題を出してきた。
「いずれ、君もアリアのような女性と出会えるといいですね。」
「・・・・そう簡単には見つからないと思います。」
だって、父様だって、母様が異世界から来た聖女様だからこそ出会えたわけでしょ?
そんな奇跡が何度も起きるわけないし。
「・・・ふふ、大丈夫よ。あなたは私とこの人の子どもだから、きっといい人を見つけられるわ・・・でも、あまりこの人に似ないでくれると嬉しいんだけれど。」
「・・・俺だって似たくありません。でも、似てしまうのは仕方がないです。だって親子ですし。」
「それはこっちのセリフです。相変わらず減らない口ですね。」
「もう・・・そういう所までそっくりなんだから、困ったこと。」
そう言いながらも母様は嬉しそうに父様に笑いかけていた。傍に寝ていた弟妹に悪いと思いつつ、少しの間だけ、なかなか会えない父様や母様の温もりに浸っていた。
・・・なんだかんだ言って俺、結構家族が大好きなのかもしれない。
これもやっぱり遺伝かなあ?
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