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32)悲壮感皆無の記憶喪失
しおりを挟む「アリア様ぁああああ、た、た、大変です!!」
「ラティス、うるさい。」
「あなたね、主の部屋にノックなしで入るとはいい度胸ですね?」
「シャラさん、怒りはごもっとも!でも、それどころじゃないんですよ、あのザン様が記憶喪失に!!」
今日も変わりない日常を過ごすと思っていた、アリアをはじめ、城にいた誰もが驚愕するニュースが届いた。
皇太子と共に兵団を率いて、視察に行っていたザンが記憶を失ったという。
アリアとて、これがラティスからの報告でなければ、一笑しただけで終わっただろう。だが、彼が真顔で報告することに、事実なのだと実感する。
動揺からかお互いに敬語などすっとばしていたが、このアリアの部屋であれば何ら問題はないのでさらっと流す。
「・・・・本当のことなのね?一体どこからの情報なの?」
「はい、その・・・皇太子殿下の部下の方からで。あの、幸いといっていいの解らんが、生まれた時から一緒にいらっしゃった家族のことは覚えておいてで。でも、どうやらアリア様のことは・・・」
「私のことは覚えていないと。・・・ということは、少なくとも、4,5年前に戻っているということかしら。」
「あ、はい、恐らく・・・・そうッス・・・いや、そうです。」
「城に帰ってくるのはいつ?」
「多分、明後日あたりには帰還なされるかと。」
「そう・・・・また、彼らがうるさくなるかしらね。」
彼らというのは、第二王子であるザンを快く思わない貴族達や、ザンを祭り上げようとしている貴族達も含めた、皇族の意に従わない人間達のことである。
何しろ、第二王子であるザンはこのブラパーラジュでも最高の魔力を誇る魔王とも言われている人間だ。加えて、城の騎士全員を束ねる総団長でもある。
悪事を企む人間にとっては目の上のたんこぶといってもいい。そして、そのザンの地位を悪用しようと人間も多い。
ザン自身が、皇太子と争うことをよしとしない性格に加え、皇太子殿下に跡取りがうまれたことで、王位継承の問題も問題がなかったため、ここしばらくは平和だった。
のだが、こうなると、またうるさくなりそうだと思う。
アリアはため息をついて椅子に深くもたれかかった。
「・・・まーた、あのメンドクサイことが再び起きそうな気がするわ。ね?」
「ですねぇ・・・。」
そう言いながらアリアはシャラに目配せする。シャラも心得たもので、全くですと頷いた後、深くお辞儀をしてみせた。そんな2人のやり取りを見ながら、ラティスはこれからに不安を感じ、胃を抱えたまま蹲った。
「ああもう、どうなるんスかね・・・」
皇太子は帰還してすぐに、ザンを引きつれ、皇帝への謁見を求めた。そこには皇族全員が揃って座っている。アリアもその列の末席に座っていた。
目の前で頭を下げている皇太子に向かって、皇帝が深くため息をついた。
「・・・では、記憶喪失というのは真か・・・。」
「私の至らなさで、ザンを危険な目に合わせた上にこのようなことになり申し訳ございません。」
皇太子であるザリュルエルトが襲撃されそうになったのをザンが庇い、そのもみあいの中で頭を打って意識不明になったという。ようやく起きあがったザンにホッとしたものの、話がかみ合わず、確認したところ記憶喪失であることが解ったという経緯らしい。
「何か腑に落ちないんですが・・・兄上、そこまで私の記憶喪失は酷いのですか?」
「ザン、君の中じゃ当たり前だろうけれど、我々にとっては衝撃的なことなんだよ。特にアリア妃のことを忘れたことについてはかなり問題がある。」
困ったようなそれでいて納得がいかないといわんばかりの表情を見せているザンに対し、皇后が口を開いた。
「・・・第二王子よ、アリアのことを覚えておらぬのかえ?」
「母上もおっしゃいますか。・・・兄上もアリア妃のことをうるさく言ってきているのですが、そのアリアとは一体・・・どなたのことでしょうか?」
(あの顔・・・・元々猫を被っている上に、私を怪しんでいるわね。まぁ、無理ないか。あの頃のザンからすれば・・・家族以外が全部敵だったもの。)
冷めた目でザンを観察していたアリアだが、皇帝の手鳴らしに顔をあげた。皇帝は、ザンに向かって諭すように説明を始めた。
「ザンよ、そなたも、異世界から来た聖女の話は知っておろう。アリア妃はその召喚された聖女であり、わしが、そなたの妃にと命じた相手でもある。今年、そなたはアリア妃と結婚式も挙げておる。あの末席が見えるな?そこに座っているのがアリア妃だ。」
皇帝の言葉に思わずといったようにアリアの方を向いたザン。
だが、アリアは立たなかった。ここで立ったら、恐らく彼は自分を見ないだろうと解っていたから。
現に、彼は訝し気な様子でアリアに口を開いた。
「・・・・・あなたが、聖女で、私の妃だと?しかも結婚式をあげたということは正妃ですよね?」
「一応、そうなっていますね。・・・今の貴方の反応でもう完全に私のことを忘れていらっしゃることはよく解りました。それで、あなたはどうされます?私は別に離縁でも困りませんが・・・。」
「アリア妃!!!」
「アリア様っ!」
「あ、アリア妃、それだけはならぬ、ならぬぞ!!」
「・・・・・というように、皇族の方々が反対していますので、離縁は諦めて下さい。」
「なんだか・・・貴方は私の記憶がなかろうとどうでもいいというように見えるのですが・・・。」
ザンの的を射た言い方にアリアはクスリと微笑みを向けながら、立ち上がった。
「ええ。だって、その気持ち悪い仮面をかぶった貴方には興味がありませんもの。本当、最初に出会った頃と全く同じ・・・今の貴方を我が君と呼ぶ気にはなりません。皇帝陛下、皇后陛下、御前失礼いたします。」
さっさと出ていったアリアだが、一瞬目によぎったのは、ザンの苦々しい表情と握りしめた拳。
(ああ、懐かしい。最初に出会ったばかりの時は、喧嘩ばっかりしていたわね。)
こみ上げてくる高揚感を抑えきれず、廊下で待機していたシャラと会話をしている間も興奮しっぱなしのアリアだったが、シャラの方はげんなりとした表情を見せている。
「・・・・シャラ、ザンを見た?」
「はい、まさしくあの頃のザン様ですね。」
「なんでだろう、悲壮感を感じないどころか・・・ワクワクしてきたわ。」
「アリア様とザン様は毎日のように喧嘩なさっていましたからね。はぁ・・・またあの日々が始まるんですか・・・もうごりごりなんですけれど。」
アリアの部屋に入ろうとしたその時、後ろから声が聞こえた。その声が誰か解っていたアリアは、笑いを押し殺して振り返った。
「どうかなされましたか、ザン王子殿下。」
「・・・・・・さっきのあれは一体どういう意味ですか。」
「聡明なるザン王子殿下ならお分かりでは?」
しれっと口にしたアリアに、ザンは猫をかなぐり捨てたのか、一気にぶっきらぼうな言い方に変わった。
「お前が俺の妃であることは受け入れる。聖女との結婚は・・・・」
「皇帝の絶対的な命令によるもの。だから、お前との政略結婚は受け入れる・・・と言いたいのでしょう?」
「・・・何故解った。」
「だって、あの時も同じことを言っていたもの。」
「・・・・・なるほど、俺の正妃になるだけのことはあるということか。」
(眉間にしわを寄せながら舌なめずりするとか、器用な男だなぁ。でも・・・)
「やっぱりそっちの顔の方が貴方らしいですね。」
笑いながら口にすると、何故かザンが近寄ってきて、顎を掴んできた。あれ、なんか嫌な予感がしますけど?
「・・・・・なんですか?」
「ふーん。」
「ひゃっ、なめ、首、舐めないでっ!!」
「・・・・・味は悪くないな。」
「何・・・うわっ?」
舐めた後、何かを納得したのか、ザンはいきなりアリアを抱き上げた。展開が読めたのか、シャラは遠い目をしていたが、メイドという手前、おくびにも出さないあたりはさすがである。
「シャラ、しばらく部屋に篭るから邪魔をするな。」
「・・・・承知しました。他の方々にも伝えておきます。」
「どういう意味だ?」
「アリア様も仕事をなさっているため、関係者に連絡が必要なのです。」
「なるほど。一週間ぐらい休むと伝えておけ。ああ、俺の方もな。」
「もちろんでございます。」
「ちょ、私の意志はまるっと無視かいっ!!!!!!」
アリアが慌てて叫ぶが、シャラはそっと目をそらし、ザンの方に返事をした。・・・・・この瞬間、見捨てられたと理解したアリアはビシッと固まった。
「承りました。」
「シャラぁああああっ?」
「・・・・・申し訳ございません。」
(ほえ、何、この展開は一体どういうことっ!?)
「さて、お楽しみと行こうか。」
「何、この」
アリアは担がれたまま、ザンの部屋へと向かっていることに気づくが、時は遅し。
この扉が閉まった後はただ喰らわれるのみ。
「何ぃ、この展開はっ!!!!!????」
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