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38)事態は予想外のほうへと転がっていく
しおりを挟む遠くに雷が鳴っているような音が聞こえる。
ぼんやりする視界で意識が回復したのがわかった。
柔らかい感触があることから布団だと分かる。しばらく固まっていたが、すぐに自分の置かれた状況を思い出した。
「そうだ・・・私、眠らせられて・・・ここは・・・?」
(この音は雷でも鳴っている?まさか、ここは異世界のはず。地球ならいざ知らず、この世界で雷の音なんてありえない・・・・うう・・・)
ズキズキする頭を押さえて起き上がる。目の前に広がっていたのはシンプルなつくりの部屋。体を動かそうとすると、足首に冷たい感触を感じ、確認すると鎖がまかれていた。
「・・・魔法封じの対策もぱっちりってわけね。となると、相手は私が魔法を使うことを知っている人間。」
アリアはあたりを見まわしながらも、状況を把握しようと考え込んだ。
(着たままの状態でベッドの上にいることからして、相手は私の身分を知っている。でも、パーティーには出ていないはず。だって、あそこにいるためには招待状での確認が必要だから、正体がばれたら一発でアウト。そして、滅多に出ない私の顔を知る人間・・・過去で関わりがあったと考えられる。)
「そして私が魔法を使った相手となると・・・ユナ以外じゃ、あいつらしか思い浮かばないのだけれど。」
解りやすい犯人に呆れてため息をついていると、ドアがいきなり開いた。そして、お約束の犯人登場。
「やっぱり、あなた方ですか、ピエール家の皆様?!」
「な、なんで、解ったのだっ!?」
「さすがにバレて当たり前だのう・・・バカ息子よ、いい加減にせい。」
「・・・・フォルダ様、そのバカ息子をなぜ止めようとなさらなかったのです。」
「いやぁ、一か八かの賭けに乗るのも悪くないなと思うてな。」
つけていた仮面を外して驚いているダルマンに、ふぉっふぉっと笑っているフォルダ。
やっぱりかと思ったアリアはため息をついた。
「こんなことをして大丈夫なんでしょうか。ピエール家がさらに失墜するだけだと思うのですが。」
「そう、だからこそ、その前に口利きを頼みたいのだ。」
「フォルダ様、あなたの息子さんはどうしてこうおめでたいんです?」
「うむ、少々日和的なところがあってな、こういうのも愛嬌かと思うておったが・・・ううむ。」
「愛嬌を通り越して哀れです。というか、私を自由の身にしてよいんですか。」
「・・・そなたを誘拐して一週間たっておる。」
「ええっ?」
「最初は逃げて放浪していたが、どんどん状況が悪くなってくるのに気づいてな、慌ててこちらに移したのだ。幸か不幸か別荘が近くにあって助かったわい。」
なぜか冷や汗を垂らしながら、バルコニーにつながる窓を開けたフォルダ。首をかしげながらもアリアは窓のほうを見やった。わずかに見えた外の景色は自分がよく知る景色とは違い、真っ暗な空に黄色い閃光が轟いている。
(え・・・・?まさかの雷?え、この世界に来てから初めて見たよ、こんな空!!!!!)
「・・・本当に雷の音だった。っていうか、どういうことなんです?」
「わしのほうが聞きたい。ちなみに、そなたをここに移す三日ほど前までは強烈な泥雨が降っておった。」
「そうなのだ、不思議なことに俺たちの行く先々に降っているんだよなぁ。」
「バカ息子は疑問をもっておらぬが、わしとしてはどうしてもそなたと関係しているとしか思えなくてな。ゆえに、少々待遇について改めたところ、今のようにわずかにではあるが改善されておる。」
「ものすごく納得しました・・・。」
(もしかしたら、私をさらったせいかもと思ったわけですね・・・)
というのは、地面のほうにどころどころ折れている木や枝が見えたからだ。何も考えていないダルマンはともかくも、政治に深くかかわってきたフォルダは聖女の影響力について慮っているのだろう、慎重な姿勢を見せている。
「でも、なぜダルマンを止めなかったのです。」
「・・・ここまで来たらもうあの王子の怒りはどうしても収められないと思うてな。このようなアホでもわしの子だ。最後まで責任を持とうと思う。だが、その前にダルマンのいうように、そなたに口利きを頼みたいと思ってな。」
「私にですか?」
ため息をついたフォルダはダルマンに対して、何か用事を言いつけたのだろう部屋から退出するようにと促している。頷いて部屋を出ていったダルマンを見送った後、フォルダは近くにある椅子に腰かけた。アリアはその時、フォルダに片腕がないことに気づいた。
「・・・その腕は、どうされたのです?」
「ああ・・・その、まあ、火傷で壊死しての、やむを得ず切り落とした。わしとしてはこれぐらいで済んで幸いだったがの・・・これ以上は魔・・・・・いやいや、何も言えぬ。」
アリアは、それ以上聞いてくれるなというフォルダの言葉に疑問を感じたが、とりあえず、フォルダの話を聞くことにした。
「息子さんを利用して私をここに連れてこさせたのにも関わらず、彼を遠さげて話をしたいということは何らかの意図があると考えていますが・・・それは貴方が七賢人の一人として、聖女の私に対して言いたいことがあるためと理解してよろしいでしょうか?」
「・・・本当に聡明な娘じゃの。余計に我がひ孫たちが情けなく思えるわい。まぁ、そんなそなたにこそ、頼もうと思ったのじゃがな。」
頷いたフォルダは左手で杖を掲げ、宙に地図の映像を出して見せた。
「聖女殿よ、我が国の成り立ちと、七賢人の関係については学んだかね?」
「一通りは。」
「それなら話は早いの。知っての通り、我が一族も皇族に連なる者じゃ。だが、その血は年々薄れ、皇族と明らかな差がついている。だが、ごく稀にではあるが、先祖返りで強い魔力を持つ者が現れることがある。」
「・・・ザンもその中の一人だと聞いています。」
「そうじゃ。あの第二王子もそうであるな。そして、実は我が一族にもいるらしいのじゃ・・・明らかな先祖返りがの。そこで、聖女であるそなたにその者を確認して保護してもらいたいのだ。」
そういいながら、フォルダは杖で地図を拡大し、とある街を指した。
「その者はここにいるらしくてな。」
「しかし、なぜそれを今・・・・?」
「・・・わしには時間がない。実は、ダルマン以外に4人の子がおる。その中で最も身分が低い妾に娘を産ませたのだが、その子の孫が先祖返りらしい。」
「らしい、というのは・・・・確定ではない?」
「うむ、わしが直接確認したわけではないのでな。そもそも、その妾に娘がいると知ったのもここ最近のことでの。妾がもうすぐに死にそうだが、ひ孫が心配だからと念のためにと手紙を送ってきて初めて知った。それが、まぁ、病院にいた時のことで。」
「本当につい最近じゃないですか!!」
「そう、本当につい最近知ったのだ・・・。それと同時にわしにも命に係わる病気が見つかってな。」
「・・・えっ!?」
髭を触りながら話すフォルダの言葉にびっくりしたアリアは自分が誘拐されていることなどすっかり頭から離れていた。
フォルダからすれば、どういう手段を使ってでもこのことを伝えたいと覚悟しての誘拐だった。それは自分に残された時間が少ないからこそ、なんとしても先祖返りしたという孫を確保しておきたい思いがあったということだろうか。
「命が少ない。だからこそ、一番確実に達成できる方法として私を攫ったというわけですね。」
「そういうことじゃ。ダルマンにも話はしてある。あれは良くも悪くも性根はまっすぐな男でな。わしの思いを汲み取ってくれた。」
「なるほど。七賢人としての矜持はまだ残っていたわけですか。」
「うむ。後は誘拐に乗じておけば、そなたも動きやすかろうと思ってな。責任はわしがすべて取ろう。残り少ない命だからこそ、七賢人としての最後の役目ぐらいは果たしたい。」
「・・・本当にもったいない人ですよね。もっと早くそうして動いていただきたかったものです。」
「ふん、残り少ない命と分かれば、わしとていろいろ考えて動くわい。」
フォルダが杖を一振りしたとたん、アリアの足枷となっていた鎖が外れた。カチリとした音に驚いたアリアはまっすぐにフォルダを見つめたが、フォルダの表情は崩れない。離したことは彼の本心だと悟った時、ダルマンが再び入ってきた。手になぜかいろいろと荷物を持って。
「聖女様、荷物はこれぐらいで大丈夫かい?」
「・・・・準備万端ですね。」
「ふぉふぉ、父上の頼みとあらば当然だよ。以前君がこういう服装をしていたことを思い出していろいろ揃えてみたんだ。」
「ダルマンさんはまた捕まりそうですけどいいんですか?」
「僕はね、父上ほどの力を持っていない。だからこそ、やけになって迷惑をかけっぱなしだったし、今となってはこういう形でしか役に立てないんだよね。そのなんだっけ、先祖返り?の子がいたら血筋も問題なさそうだし。それに・・・あの事件からこうして父上とゆっくりとした時間をとれるようになったのは僕としてもありがたかったし、命まで取られるわけじゃないから別に良いかなあと。」
「何しろ、年を取ってからだとなかなかゆっくり話もできなかったからねぇ」とじみじみと呟くダルマンを見たアリアは思った。確かにフォルダの言う通り、性根は優しい人のようだ。
「というわけで、これを着て、行っておくれよ。父上のひ孫となれば僕にとっても他人事じゃないしね。」
「・・・しょうがないですね。でも、ザンの怒りは・・・覚悟したほうがいいですよ。」
「「一度怒りを買ったら、二度も三度も同じという気がするから大丈夫(じゃ)。」」
「あなたら、やっぱり親子ですよ。・・・一応手紙を書いて渡しておきます。」
「おお、女神よ、ありがとう!!!やはりそなたは話が分かる!!!」
ぶわあっと涙目になったダルマンに少し引いたが、アリアは自分のやるべきことを理解した。
(・・・以前のように精霊が反応しないということは、これは女神様の意志でもあるということだ。つまり、私は彼らの言うように、その先祖返りの子を保護する義務がある。)
「・・・・これ、ザンが知ったらものすごく怒りそうだけれど・・・・私としては面白いかも。」
ダルマンに差しだされた兵士服に着替えて、玄関に向かうと、ピエール親子がそろって見送ってくれた。
「第二王子のほうはわしらで何とか時間稼ぎをしよう・・・ほれ、偽造した通行証じゃ。」
「おお、兵士時代の肩書ですね。」
「そのほうが一番動きやすかろうし、第二王子にもそなたの意志が伝わりやすいだろうと思ってな。」
「はい、ありがとうございます・・・・?」
「・・・・ううむ、頼んだのはこちらだ。すまぬな。」
「聖女様、頼んだよー。できれば、僕らの命があるうちに戻ってきてくれるとありがたいな!」
(彼らもザンの怖さをわかっていてなお、選んだ道。それなら、私は余計に期待に応えねばならない。ああ、でも・・・・ザンに会ってから行きたかったな。)
ザンを思いだして、ちょっと寂しくなる。
ずっと会っていない紺色の髪に紫の目を持った人に。
(うう、あの右手になでなでされたいー。紺色のさらさらな髪に触りたいし、彼と話して彼の声を直に聴きたい・・・でも、彼にはまだ記憶がないしなぁ・・・。)
「というか、今帰っても怒られるだろうし、こうなればとことん楽しまなければねー。」
(とりあえず、彼のことは後回しだね・・・自由になれる時間もそうそうないし、何より・・・こんなチャンス滅多にないよ。)
「まぁ、できる限りのことはやってきますよ。では、行ってきますー!!」
「山道ゆえ、気を付けての。」
「怪我だけはしないでね、俺達の命が掛かってるから!!!!!!」
「はは・・・正直だね。でも、その方が良いかな。」
黒い髪をポニーテルにまとめたアリアは一度頬を叩いて気合を入れなおし、獣道へ足を踏み入れた。
「んふぅ、久々に兵士として暴れますか。」
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