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42)過去と繋がる今
しおりを挟む魔力の高さ故に、いつも魔封具で自分の力を抑えているザンが力を全力で解放したのは小さい頃を除けば、私と大喧嘩になったあの時だけだと聞いたことがある。
(私にはわからない。だって、私は心を読める力なんかないし、何より、ザンが感じた苦痛は他人には伝わらないほどのものだと思うから。)
気付けば、アリアはザンに抱きついていた。
(初めて会ったときは似非笑みが気持ち悪い礼儀正しい王子様で。)
なんだ、この人と思った。
直感的に似非笑みを浮かべる目の前にいる人とは合わないなぁと。
それがなぜか政略結婚の相手になって。
形だけの夫婦になったと思ったら一気に急接近してプロボーズされて。
正式に結婚して、気づけば隣で肩を並べる相手にまでなっていた。
(振り返ってみれば、今みたいな関係になれるとは思えなかったのに。)
顔を合わせれば、嫌みと皮肉のやりとり。
今思うと、それほど険悪じゃなかったのかもしれないし、嫌な感じはしなかった。
(何より、あの大喧嘩で爆発したことがきっかけで、ザンの態度はがらりと軟化した。)
今なら、解る。
私が本音をさらけ出し、ザンも魔力を全力で解放した。それでも、ザンには私の心が読めなかったんだと思う。だからこそ、ザンは安堵した。
私相手なら大丈夫だと。
(つまり、ザンは・・・・本音と本心が一致する時は読めないということになる。すなわち、他人が嘘をついている時、偽っている時のみ心が読めてしまうという決定的な根拠の元、心が見えてしまう、読めてしまう。根拠が解っているだけに、きっと彼はイライラするほど苦しかった。)
それが、ザンの抱えていた苦痛。
魔力が高い故に、『紫紺の魔王』と恐れられていたザンにとって、心が読めることはさらなる苦痛でもあったはず。彼だって、好きでそうなったわけじゃない。
やっと、解った。
この人は求めていたんだ、ずっと心が安らげる場所を。
「あり、あ?」
「・・・・・・ザン、あの時に言ったことと同じことを言うよ」
「は?あの時・・・?」
「そう、あなたと初めて喧嘩した時のことだよ。あなたが覚えていなくとも私はよく覚えている」
だって私にとってもあれが転機だったから。
この世界をもっと知ろうと思ったのも、
この人と向かい合おうと思ったのも、
あの大喧嘩があってこそ。
だって、この人だけは私と同じだって思えたから。
突然ここにきて、いきなり聖女とか言われてもピンとこなかった。
余所余所しい態度に壁を感じて。
知らない世界、慣れない風土に文化に馴染めなくて。
そんな中、この人だけは・・・
ザンだけは、私にぶつかって、本音で接してくれた。
『だから?お前が聖女だろうが、何だろうが関係ない。大事なことはお前が何を成すかだ』
『俺はお前が生活できるようにはフォローするがこびへつらうつもりはない』
『・・・・こんな薄っぺらい案で通るわけない』
いつでも口がぶっきらぼうな王子だった。でもいつだって優しさが見え隠れしていて。
『俺が必要としているのは聖女の力というより、お前の力の方だ』
『・・・お前がちゃんと前を向くなら、フォローしてやる。だから、やりたいことを言え』
『ここはこうして、あれをこういう風に仕向けろ。大体、お前はツメが甘いんだ。もっとしっかりやれ』
だから・・・だからこそ、惹かれた。
優しいだけの王子様なんて知ったことじゃない。私が欲しいのは。
私が求めているのは。
「私が必要としているのは第二王子としてのあなたじゃない!」
アリアはザンの顔を引き寄せて口づける。
静かになった空間の中で深い深いキスを交わして、息が切れるまでずっとザンの唇に押し付けた。
息苦しくなって、唇を離しながらもあふれる言葉が止まらない。
涙と一緒に零れ落ちる。
「だから、私とは対等でいて。あの時もそう言ったの・・・」
忘れられたとしてもいい。
今のようにまた喧嘩をしたとしても。
ぎゃあぎゃあと言い合いをしたとしても、つかず離れずにいてくれれば。
「そういうあなただからこそ、私も本音をさらけ出せる。だから、いいの」
腕を伸ばしてザンの首に抱き着く。なぜかザンは何も言わずに抱きしめ返してくれた。
この様子だとザンももう戦う気はないのだろうかと思う。
涙や鼻水が出そうになるのを我慢していたら、大きな手がそっと頬を撫でた後、涙を拭いとってくれた。
顔を見られたくなかったので、ザンの胸に顔をうずめていると、大きなため息とともに男前な声が耳元に届いた。
「本当にお前は相変わらずだな。そんなお前だからこそ、俺は救われた」
思考が止まったが、落ちてきた言葉の意味をかみしめている内に顔が自然と上を向く。アリアの視界に見えたのは困惑している顔を見せたザンだった。
「ザン・・・?」
「ところで、アリア。この状況を説明してくれ。俺は兄上と一緒に出掛けていたはずなんだが、なぜここでお前と喧嘩をするはめになった?」
きょろきょろしながらも、アリアを抱きかかえたまま、地面へと降り立つザン。本当に困惑している様子を見るに記憶が戻ったらしい。気付けば、さっきまでの喧嘩で重苦しかった魔力の煙も嘘のように消えていた。
「もどったんだね・・・?」
「戻った・・・とは?まさかと思うがあの夢は現実なのか?」
「・・・・・・八か月分、ゆっくり話を聞いてもらうからね」
「はぁっ?!」
「とりあえず、共有アビリティを繋ぎなおして」
アリアが鼻水を拭いながら伝えると、ザンは唖然としつつも繋ぎなおすために魔力を動かしていた。
「・・・頼む、ちゃんと説明してくれ」
「長くなるからあとで。とりあえず、ここを撤退するね。ラティスとシャラのところに行こう」
「・・・ああ、な、なんだかわからんがとりあえずここを離れたい」
納得がいかないとばかりに首をかしげるザンをせかし、ラティスやシャラのところにテレポートする。
戻った先では、第二班隊長がラティスに対してぎゃあぎゃあとわめきたてている様子が見えた。
それを遠巻きに見ている兵士たちとシャラは困っている様子でもあったが、アリアとザンを視界に入れたとたんホッとしたように近寄ってきたのは安堵からだろう。
「アリア様、いきなり戦いが止まりましたがどういう・・・」
「ああ、ザンの記憶が戻ったから止まったの。いちおうお医者様に見せたいから早く戻りたい」
「ほんとうでございますか。それはすぐに手配をいたします。ラティス、聞きましたね!?」
「隊長、聞いた通りです。戻りましょう!さぁ、さあっ!!!」
「いや、そうはいうが、本当に確実とは言えないのでは。大丈夫なのかどうかは真偽の確認をせねば・・・?あ、ザン殿下・・・その、大丈夫でございますか?」
「アワード、何かよくわからんが、兵士は撤退でいいですよ。兵士全員に3番の指示をお願いします」
ザンの的確な指示を聞いた隊長はさっきまでの訝し気な態度を翻し、頭垂れた。
「どうやら、本当にお戻りになられたようだ。もちろん、全て仰せの通りに従いましょう。」
踵を返した隊長とすれ違ったラティスはようやく解放されたおかげかため息をつく。そして、ザンの前へと跪いた。
「あーもう、良かったです。昔の殿下も良かったですが、やっぱり今の殿下のほうが頼もしいです」
「・・・さっさと戻るぞ。そして早く現状を把握したい」
にやにやしているラティスの顔に何かを感じ取ったのだろう、顔をゆがめたザンはアリアを抱えたまま再びテレポートした。ラティスやシャラ達が装置を使って後を追いかけたのは言うまでもなく。
当のアリアはザンに抱きしめられたままうとうとと眠りかけている。
「おい、アリア?」
「ごめ・・・・少し、疲れた・・・・ねる、ね」
「おい・・・・・お・・・・・・ら・・・・」
ザンの最後の言葉を聞き取れなかったが、アリアはこの世で一番安心してくつろげる彼の腕の中にいるおかげか、慌てふためく周りをよそに幸せそうに寝息を立て始めた。
夢の中で出会ったのは、今のザンより幼い姿をした彼。直感で記憶を無くしていた頃のザンだと気付いた。彼は最初は拗ねているように見えた。だけれど、アリアが近づくとしょうがないといわんばかりにため息をついた。
『アリア、悔しいけれどこいつに譲ってやるよ。俺はやっぱりこいつで、こいつも俺だもんな。だからというわけじゃないけれど、絶対に忘れるなよ、俺がいたこと。俺だって、お前のこと好きなんだから』
今のザンからは考えられないほど素直でまっすぐな愛情。
気付けば、アリアは思わずというように頷いていた。それに満足したのか、ザンは頬にキスを一つ落としてから消えていった。
ああ、そうだね。ザン、ザンはいつだって真っすぐ想いをぶつけてきた。
それは彼が、自分がそうされたかったから。そうして欲しいという気持ちを持っていたからなんだと、今ならわかる。彼の苦痛を知った今ならば、素直に彼の気持ちを受けいられる。
ザン、ごめんね。
起きたらちゃんと言うよ。
私もザンが大好きだよって。
だから・・・
過去の貴方にときめいたことは見逃してね?
って・・・多分、いや、絶対無理だろうなぁ。
不思議となんとなくそう感じた。
何故だろうね、前までなら自信が持てなかったけれど、今ならはっきりと胸を張って言える。
私、ザンに愛されてるんだよねーって。
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