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41)魔力の高さ故の苦痛
しおりを挟む『お前が俺を救うとはな。だが、お前なら・・・いい。お前なら、大丈夫だ』
かつて戦った後、彼はそう言って初めて笑った。
私の前で、いつも偽りの笑顔を張り付けていた彼が、心の底から楽しそうに。
それ以来、彼は私に対して本音はもちろん、表情にも出してくれるようになった。
だからか、彼が不機嫌極まりない張り付けられた笑みを向けてくるのはなんとも心地悪い。
(何だか、めちゃくちゃ久々に見た気がする。これって・・・かなり本気で不機嫌だと思っていいんじゃない?!)
何があったとばかりにシャラやラティスに視線を向けたアリアだが、当の2人は揃って首を横に振っていた。手に負えないという意味なのか、自分たちは知らないという意思表示なのか・・・おそらくどちらもあるのだろう。その場の雰囲気が悪いということもあり、アリアはいつになく冷静に分析することができた。
当の彼・・・ザンはというと、誘拐犯を前に無双状態だった。もはやザンの圧倒的な魔力で息も絶え絶えになっている誘拐犯が多数。さっきまでの不利な体勢が一気に逆転したこの状態をどうすればよいのかとアリアは頭を抱えた。その間にも、ザンはいつものごとく、似非敬語で誘拐犯に冷笑を向けていた。
「さて、死ぬ準備はできましたか?」
「ま、まて・・・・命だけは・・・」
「そうだ、頼むから命だけは助けてくれ・・・なんでも言うことを聞くからよ」
「あいにくだが、その場しのぎの嘘を聞くほど愚かじゃない」
「ザン!?」
「こいつらは命さえあればまたやり直せると考えている。それでは何の意味もないのです」
「ザン?どうしたの、余裕がなさそうに見える。いつもならこんな奴ら手を下すまでもないって・・・」
「・・・何をどうしようと俺の勝手だろう」
(あ、この様子・・・あの時と似てる・・・!!)
かつて、ザンとアリアは城を壊すほど盛大な喧嘩をしたことがあった。あの時も、ザンが無駄な殺生を繰り返したことに切れたアリアが戦いを仕掛けたことで始まっている。
(そうだ、あの時から彼の態度が軟化したんだった。そう考えれば、彼は元々変わっていないともとれるんだわ。ならば、私がすべきことはただ一つ。)
「ラティス、シャラ!この付近一帯を出入り制限して。そして、各々で結界を張りなさい!」
「「は、はいっ!!」」
アリアの勢いに押された二人が慌てて離れたところで見守っていた部下たちに命じる。周りがが動き出したのを眺めていたザンは、アリアに向かって微笑んだ。・・・今度は似非笑みではなく素をさらけだしていることから、怒りを隠すつもりがないことがありありと分かる。
「・・・ヤるつもりなんだ、この俺と?」
「生憎、あんたへの耐性はついちゃってるわね、そんな不機嫌MAXな魔力ぐらいで聖女を圧倒できるとでも思ってるのかしら?そんなわけないわよね?」
「・・・俺が選んだだけのことはある。本当にいい度胸をしている良い女だ」
「お褒めの言葉ありがとう。でも、手加減はできないよ」
「それが俺に必要な忠告だとでも?そんなわけないってお前ならわかるはずだがな」
「愚問だったわ、ごめんなさいね」
ふふふとお互いに笑いあっているが、内心アリアはいっぱいいっぱいだった。何しろ、ザンの圧倒的な魔力は怒りによって周囲に魔力酔いを起こさせるほどになっていたのだから。見えないはずの魔力が煙となり、周りを覆いつくすその様を見たアリアは懐かしさをも感じた。
「・・・あれからもう結構経つのよねぇ」
「何をぶつぶつ言っている?」
「ううん。それより、全員の退避が終わったみたいだし、はじめよっか!」
ザンの言う通り。面倒だと思っているのも本当。戦いたくないのも本当。でも不思議なことに、ザンと向き合っている今が楽しいと思っている自分がいることも確かで。
「ふふ、貴方と対峙すらできなければ・・・妻など務まりませんわ」
「本当に・・・俺は見る目があるな、正直、もっと早く出会いたかったぐらいだ」
(あの時は・・・城を崩壊させて終わった。今回はどれだけの規模になるかわからないけれど、これだけはわかる。あの時のようにザンの心に入らなければ、私が知っている彼にはたどり着けない!)
アリアは両手で頬を叩き、気合を入れ、宙に浮かぶザンを見上げた。
ザンとアリアが戦っている場所から離れたところでは、ラティスをはじめとする兵士たちが立ち入り禁止区域の線引きを行い、取り囲んでいた。
その間にも遠くに見える雷や暴風が鳴りやまない。
「・・・・うっわぁ・・・・めっちゃくちゃ崩壊している・・・あ、繋がった?」
「ラティス、結界の強度を最大にしろというのはどういうことだ?」
「今現在進行形でアリア様とザン様が戦っています。今は森の中ですが、下手すれば首都にさえ被害が及ぶ可能性があるため、首都の結界の強度を最大に上げてもらいたいと思ったんで~」
「な、なぜそうなっておるのだ!!そんな報告、第二班の隊長のわしには手に余るわっ!ええい、上に指示を仰ぐ故、待っておれ!」
「おねげーします。前は城が崩壊したぐらいですからねえ」
「お前に言われずとも緊急なことぐらいわかっとるわい!大体、お前の親父がアホなことやらなきゃ俺がここにいることもなかったのだぞ!くそっ!」
盛大な叫び声が聞こえたと思ったら不通になった。テレパシーは便利だが、たまに頭に響くのが難点である。耳を抑えながらも、ラティスは遠くにいる班長のいる方向に頭を下げた。
「・・・親父がやらかしたことの弊害はここにもあったか」
「そういえば、あなたのお父さん、軍をやめて引きこもったのね」
「ザン様のいびりに耐えかねてついに先月、軍から身を引いたんスよ。幸い兄貴がいるから家のほうは問題ないってことで万々歳」
「なるほど。あなたもほっとした一人というわけね」
「同情できないッスから・・・・うわっ!?」
シャラとの会話にラティスがため息をついていたその時、一際でかい爆発が起こる。煙が蔓延する中、ラティス達は村のほうへと下がっていく。空を見上げると小さく二人が戦っている様子が見えた。
「・・・・・大丈夫かしら、お二人とも」
「あの二人なら大丈夫な気もしますけどねー」
「ラティスはどうしてそう呑気に考えられるの?」
「だって、あの二人はそうやって解決してきたじゃないスか。なんだかかんだいって、お互いがいることで成長されるお二人なんでしょーし」
悔しいことに反論できなかったシャラはさりげなくラティスの足を踏む。
ささやかな八つ当たりである。何故踏まれたのかわかっていないラティスは痛みを抱えながら、「はい?」と、はてなマークを浮かべるだけだった。
傍観者達の会話をよそにアリアとザンの戦いはまだ続いていた。
「ったく・・・・いい加減にっ・・・・落ちろっつーんだよ。我が名において命じる、雷よ、轟の雨を降らせよ!」
「それはこっちのセリフね。我を守護せし光よ、雷雨をはじき返して!」
降るはずの雷雨が途中ではじき返されていくのは、アリアの聖女としての力だ。
アリアは五大元素の魔法が使えるものの、戦闘能力の高いザンとは比べようもなく戦う力は劣る。
それを補っているのが、聖女として与えられた女神からの守護だ。
「魔法と守護と・・・よくもまぁ使い分けができるもんだ。こうなると俺も精霊召喚の練習をしなきゃならねぇな」
「もちろん、やっていたよ。お陰で、精霊魔法もここ最近は上手になっていたもの・・・我が風の精霊よ、風で切り裂いて!」
「ぐっ・・・ちっ、卑怯な不意打ちを!」
「それが戦いっていうもの・・・でしょっ!?」
アリアの指摘に憮然となるザンだったが、何かを思いついたのか、アクセサリーを外し始めた。
(魔封具を外したってことは・・・・魔力を全開解放させるつもりね・・・!)
アリアは瞬時に判断じ、構えをとりながらも結界を張った。そしてアリアの予測通り、ザンは魔力を開放し、全力を出した。その瞬間、衝撃音を伴うほどの激しい圧がアリアを襲う。それはまさに空気の波であり攻撃であり暴力ともいえる暴風。
ピリピリとする風圧を耐えきったアリアが安堵する中、ザンもまたすっきりした顔を見せていた。同時に、さっきまで重かった魔力の質が変化しているのがわかる。
「最近イライラしまくっていただけに、ここまですっきりしたのも久々だな」
「そんなの、見たらわかるわ、現にさっきまでと違うもの・・・あーもーまだ終わりそうにないね」
「終わるわけないだろうが。アビリティ発動『広域』!」
「久しぶりに使ったね、そのアビリティ!」
ザンがにやりと笑うのを見ながら、アリアはアビリティを指摘した。アリアのアビリティが『共有』なら、ザンのアビリティは『広域』。魔力攻撃の範囲をさらに三倍、四倍にも広げることができる。それこそ、魔力が尽きない限り。その分、威力は弱くなるが、攻撃範囲が広がる上にザンの魔力が切れるまで攻撃が止むことはない。
ザンが広げた拳から呪文とともに雷の矢が無数に放たれる。
アリアはそれをすべて受け流した。風の盾を魔法で作り、四方を固めることで攻撃を防いだ。
「ザン、もう十分楽しんだでしょ、そろそろ終わらせよう」
(ザンはイライラしていた。たぶんきっとあの時と同じように。前のように虐殺する可能性さえある。人を殺し、魔力を最大に発揮したいと思うほどにイライラしていたのはなぜか。今はすっきりしていても、あとでまた同じことになるかも知れない。そもそも、ザンのイライラがマックスになったきっかけは・・・?)
そういえば、あの時の喧嘩のきっかけも今回と同じだった気がする。
「命だけはどうか助けてくれ、もう悪いことはしないと誓うからよ!」
「そ、そうだ、頼む。まだ死にたくはない」
「なんなら、金を積もう・・・好きなだけ・・・ひぃっ!!」
「偽るならもっとうまく偽れ。・・・・・・もう、何もかも聞きたくない。お前ら全員死ね」
(・・・偽る?そういえば、今回も嘘だって・・・・)
そう、ザンは言った。
『偽るならもっとうまく偽れ』
『その場しのぎの嘘を聞くほど愚かじゃない』
そうだ、なんで気づかなかったんだろう?
なんでわからなかったんだろう?
(そうだよ、魔力が高い人は敏感だってどっかで聞いたことがある!ザンも同じで・・・もしかしたら、他人の本心が解るとか?)
ザンが私なら大丈夫と言っていたのは!
(たぶん、私の考えてることはわからないんだ・・・聖女の力かなんかで。だから、私と一緒にいる時は大丈夫で、それ以外の時は・・・・)
今までのことを思い返し、ようやく全てに合点がいったアリアは叫んだ。
「・・・ザンは人の心が解るのね」
アリアの叫びにザンが思いっきり目を見開き、反応を示したことで確信が持てた。
「他人の本音と建前の違いにイライラしてそして、それこそ魔力を爆発させたいぐらい苦痛に感じていた。そうだよね?」
「・・・俺が、心を読めないのは、両親と兄と、そしてお前だけだ」
ザンが嫌そうに肯定の意味で答える。それを聞いたアリアは今までのことにようやく納得がいった。
(そりゃ、魔王と恐れられるわね。だからといって、無意味な人殺しが許されるわけではないけど。)
「だからって、イライラして八つ当たりしてもいいっていうわけじゃないよね、それは違うよね?!」
ザンが放ってきた一撃をなんとか両手で受け止める。
アリアの一言で箍が外れたのか、ザンが目を瞑りながら叫んだ。
「じゃあ、どうしたらいい?どうすれば、この魔力を、この力を、どうすればなくせる!?好きで読み取っているわけじゃない。勝手に入り込んでくるこの苦痛からどうすれば・・・逃げられる?!」
ザンが曝け出した激情は、アリアにとっても初めて聞くザンの弱音でもあった。
「・・・ザンファルティアール」
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