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40)ブラパーラジュの歴史
しおりを挟むどうこうにか入った小さな村の中で出会ったのは、ウァラネッザという女性。この人が、フォルダの妾の子にあたる人。フォルダに手紙を出した女性の娘さんだ。そして、彼女の後ろに隠れている小さな子がタリラ。フォルダに手紙を出した人からみると先祖返りした孫ということになる。
タリラの特徴は目こそはオレンジだが、髪が紺青色だった。
「・・・間違いなく先祖返りですね」
「やっぱり。死んだ母がそれを心配していたんです。それに、この子を狙って追いかけてくる輩もいる始末で、もうこの村を出ようかどうか悩んでいるぐらいですよ」
「お子さんは魔法を使えますか?」
「いえ、遣わせないようにしています・・・一度家を半壊させてしまった時があって。それ以来もう・・・」
「なるほど」
首を振ったウァラネッザはタリラを村長のところへ遊びに行くように促したあと、ぽつりぽつりとつぶやいた。フォルダのことは知っているが、会いに行く気持ちはないということ、タリラが生まれるまでは夫もいたが、タリラの容姿をウァラネッザの不貞だと決めつけてきたため離婚したこと。タリラが狙われだしたので、母と一緒に流れ商人をやりながらあちこちと旅をしていたこと。半年ぐらい前にこの小さな村に定住を始めたことなど・・・いろいろと話をしてくれている。
「・・・この村でやっと落ち着けると思ったのに」
「その子を産んだことを後悔しておいでですか?」
アリアが鋭い視線を向けると、即答で返事が返ってきた。定住できない暮らしは大変だっただろうに、それでも、子を思う母親としての矜持がある。ならば、大丈夫だろうとアリアは内心でほっとした。
「いいえ。・・・この子は私の大事な宝・・・手放すわけにはいきません」
「ならば、お任せください。」
彼女が子どもと一緒にいることを望むのであれば、アリアがやるべきことは親子の保護である。
ぐったりとしているラティスを他所にザンは不敵な笑みでシャラに告げた。ザンの命令で、昼間は訓練、夜はあらゆるところにあちこちと飛ばされてアリアの魔力探知と多忙だったラティスはすでに屍状態だった。救いなのは、ピエール親子を尋問したおかげで、早くにアリアの居場所が特定されたことだろうか。
「喜べ、アリアの居場所がわかったぞ」
「そうでございますか・・・差し出がましい確認ですが、ピエール親子は生きておられますか?」
「アリアの願いとフォルダの余命に免じて、生かしてやった」
「どうやったら・・・そこまで把握することができるのでしょうか」
「ラティス、お前の指示が必要だ、早く準備しろ。シャラもだ、さっさとアリアの確保に行くぞ」
ザンはシャラの疑問に答える気がないのだろう、ラティスを足で起こして出ていくように命じた。それに伴ってシャラもまた出ていった。彼らがいなくなった部屋の中でザンはただ一人呟いた。
「やはり、アリアのそばが一番気楽でいい」
「くっしゅんん!!!」
くしゃみが一つ、二つ。
アリアはまるで誰かが噂しているような・・・と呟きながらも、息を切らしながら走っていた。追いかけてくる魔物たちを払いながら山道を下り、一緒に走っていた女性と子どもを守っている真っ最中なのである。
「くっ・・・しっつこい・・・!!」
「アリアさんっ?」
「私のことは心配無用です、それよりお子さんをしっかりと守っていてください!」
魔物が現れ、戦闘態勢をとったアリアに、子どもを抱えた女性が悲鳴をあげるが、アリア本人にとっては雑魚といえるレベルだ。ゆえに、魔物を前にしても、士気高々に呪文を唱えることができた。
「精霊達よ、今一度我に赤の守護を。我が魔力を糧に・・・炎の矢を降らせよ!」
久々の魔法に心が躍らなかったといえば、嘘になる。魔物たちとの戦闘で疲れていることも確か。それでも、今のアリアにとって・・・久々に感じる高揚感を感じられるのも、今だけなのだ。
もとにいた世界ではありえない魔物
あそこでずっと暮らせたらという想いも正直に言えば、ないわけじゃない
だけれど、あそこにいたら感じられなかった充実感を味わえているのも確かで
自分のいた世界では『普通』のままで暮らしていたであろう自分が、『聖女』としての役目を果たし、ザンの元に嫁いでいる。
それも、なんの運命か、父親の故郷の世界で。
(・・・・・・ああ、そうか。。)
アリアは、次々と襲いかかってくる魔物に今度は雷の呪文を唱えた。魔法を繰り出すのと同時に、今さらながらに実感じたことを自覚したせいか、感傷的になっている。
(こんなにも、私はこの世界に馴染んでいたのね。)
「ダメね、どうにも自分のこととなると他人事のように感じてじまうのは私の悪い癖だわ。・・・ウァラネッザさん、気を抜かないで。魔物よりたちが悪いものがこちらにやってくるから」
魔物をようやく片づけたと思ったとき、今度は人間の魔力を感知した。どうやら魔物をけしかけていた人物のお出ましのようである。
ウァラネッザは最初はあわてふためいていたが、すぐに現れた影達に眉をひそめた。
「えっ・・・・あっ?!」
「あの男の人たちは誰なの、ママ?」
「心配いらないわ、タリラ。あなただけは何としても守る」
ウァラネッザはそういいながら娘のタリラを抱え上げた。彼女の震えながらも気丈にふるまう様子に目を細めながらアリアは現れた敵のリーダーに向かって口を開いた。
「・・・これは私が相手とわかっていての狼藉ですよね。しかも複数の魔物を使役して襲わせることは法律違反となることもわかっていますか。」
「・・・・全ては王家のため、ひいては国のためだ・・・聖女を排除し、元のあるべき王族制度に戻す。」
「今の皇族は尊き王族に連なる者だけれど?」
「本流にあらず!本流の家系を紐解けば、ピエール一族が最も色濃い。」
「違います!そもそも、聖女は女神様から遣わされた尊いお方。それを無碍に扱うことこそこの国のためになりません。それに、我が子が先祖返りで魔力が高いとはいえ、王族の血はかなり薄まっています。」
「皇族の方も薄まっている故、たいした問題ではない。それに、第二王子は化け物だ。」
「・・・我が夫を化け物呼ばわりは感心しませんね。それに、今の皇太子さまも本流ですよ。」
「否、それは違う。」
ウァラネッザとともにリーダーとやり取りをするがどう見ても平行線だ。しかも、敵のリーダーは古く尊き王族に心酔している面がある。彼の考えを撃ち下すことは容易ではない。
そもそもの彼らの考えの発端には、ブラパーラジュ国の成り立ちと歴史が関係している。
アリアも皇族に嫁いだ身としていろいろと教わったことがあるが、この国の歴史はかなり根深い。
昔々、まだブラパーラジュという名前ではなかった頃のこと。
この国には王族制度があり、王と4人の子ども達がそれぞれ権力を持って治めていた。そして今のように精霊や女神の守護もなく、魔法も使えない中、領地争いでまさに混沌な時代でもあった。
国王 ウィデキーク
長子 リーディン
長女 デリカ
次男 ウーディ
三男 ザーデ
争いが終わらないことを憂いた王が、戦争を終わらせるために精霊の力を借りることを願った。その際に、女神から代わりにと与えられた使命が、異世界の娘を探し出して『守る』ことだった。この娘こそが、今でいうワンダーギフトのように、何らかの異常で異世界に落ちてきた初めての異世界人である。国王は女神の使命を受け入れ、その娘を探し出し保護したことで女神の守護を得たことで、国全体で魔法が使えるようになり、精霊の力を借りることもできるようになった。
これがブラパーラジュ国でいう『女神の守護の始まり』。
そして、異世界の娘は結界を作ることに長けていたため、自ら守られるだけなのは嫌だからと、城や国を守るための結界を積極的に張っていた。後に最初の『聖女』となった娘と王族との関係も良好だった。
この契約により少しずつ国は繁栄し、何数年か後にようやく領地争いが終わり、一つの国に纏まった。
しばらくは平穏無事で平和な時間が流れていたが、国家転覆をもくろんだ臣下達が国王を巻き込んで、王子王女とともに争いを始めてしまった。
この時、一番やり玉に挙げられてしまったのは、事あろうか、異世界の娘の家系だった。
当時はまだ魔法や精霊に理解がなく王族のみが扱える特殊な力という認識しか持たなかった上に、女神との契約を知っていたのは国王のみ。
すったもんだの末、国王は国の繁栄は王族のお陰だと女神との契約を軽視し、女神の守護を得ていた異世界の娘とその家族を迫害し、その一族全てを殺すよう命じた。
これで臣下や子どもたちの機嫌も収まり、国も落ち着くだろうと思っていたところ、いきなり結界が消え、国全体が暗黒に覆われた上に、魔法が使えなくなり精霊たちも消えてしまった。
慌てた国王達はいろいろ調べた結果、異世界の娘の家系を殺したことにより、女神の怒りを買ったのだということが解った。あの手この手でなんとか怒りを鎮めようとするが、国は衰退し、餓死する民が増え、あちこちで突然の噴火が起こるようになった。
この事態を重く見た国王は最後の手段とばかりに子どもたちと相談しあい、女神に願い出た。
『自分と我が子達の命を差し出す代わりにどうか民達を助けていただきたい』
王族たちは最後の願いとばかりに全員で女神に願い出た。何故心を動かされたのかわからないが、ようやくその時に姿を現した女神はいくつかのことを命じた。
『三人の王子達を娘が過ごしていた異世界に飛ばします。10年のうちにこの三人の王子の誰かが、異世界の娘の血を引く者を探し出し、幸せにできることができたならば許しましょう。ただし、異世界で死のうとも、それはその者の運命として受け入れなさい。その間、この国が生きながらえるようにはしてあげましょう』
国王は女神との契約全てを秘密裏に記録にしたためた。そして残った娘とともに、息子たちを送り出し、彼らの不在を隠しつつ、国を守った。
そしてそれから十年後、間に合わないかと思っていたその時、2人の王子が奇跡的に戻ってくることができた。1人は異世界で知り合った友人を連れて。もう1人は異世界の知識や不思議な製品を抱えても戻ってきた。
喜んだ国王だが、跡取りである王太子が戻ってこないことに不安を覚えた。安否だけでも知りたいと女神に確認したところ、別次元で結婚し、向こうで生きることを選んだという。
国王は戻ってきた2人の王子と話し合い、三男のザーデを跡取りに決めた。
そして、ザーデの発案でこの国は生まれ変わるという意味を込め、かつて殺してしまった異世界の娘に与えた名前を国の名前にし、王族も皇族となった。
娘のデリカは宰相の息子に嫁ぎ、異世界の道具に魅入られたウーディは商人になって世界中を渡り歩くことになった。
彼らの新しい道を見届けた後、ザーデは皇帝に即位した。『ブラパーラジュ』国誕生の瞬間である。
ザーデが初代皇帝となり、子孫代々で国をずっと守り、聖女の保護や手助けにも力を入れてきた。
彼らの過ちと使命は今もなお、皇族のみに代々引き継がれている。
いろいろと表に出せない話もあるため、世の中には細かい事実は正確に伝わっていないはず。
だが、リーダーは相当調べたようでかなり詳しい知識を持っていた。
「ピエール一族の初代の長はウーディ様。順番から言えば、本来なら皇太子となっているはずだった方だ。つまり、今の皇太子様は通常ならば皇太子にはなりえない」
「結果的には皇太子さまになっているのです。たらればを話し出したらきりがありません」
「その通りだ」
リーダーを遮って、話に割り込んできた声に誰もが振り向いた。
リーダーも驚いただろうが、アリアも驚いていた。そりゃそうだろう、特定されることなどないだろうと思っていたのに、もう特定されてしまったのだ。乾いた笑いしかでない。
「あ、はは・・・もう見つかったんだ、早かったね、ザン?」
誤魔化すように笑ったアリアの目の先には、不機嫌マックスオーラを醸し出しているザンとその後ろにはボロボロになっているシャラとラティスが立っていた。
「どうして・・・ここが解ったの?」
「・・・・・・・・・・・・フォルダに尋問して、ラティスにお前の魔力を探査させただけだ」
「お、怒っている?」
「当たり前だろう」
「・・・その様子だと、記憶はまだ戻っていないのね」
「誘拐された挙句、犯人に絆されて勝手に動いたお前がそれを言える立場か、もうちょっと頭を使え」
「・・・すみません、ごめんなさい、たいへん申し訳ありませんでした」
ザンの冷笑に対し、謝る以外にアリアができたというのだ。
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