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48)鏡の出来事は闇の中へ
しおりを挟む散々体力も気力も奪われたアリアはげっそりと寝そべっていた。あれからあっという間に一夜明けたが、奇跡のようにアリアの記憶が戻っているはずもなく。
ザンは仕事だからとしぶしぶ出て行った・・・ラティスの首を引っ張っていくあたり、裏はありそうだが、そこに突っ込めなかったのは、ラティスの表情があまりにも暗かったからだ。
「うう・・・えぐい、もうしばらく飯食えない・・・」
頬は瘦せこけているが、ザンはそんなことしったことではないとばかりにさっさと連れて行ってしまった。あれは?とシャラに聞いても、乾いた笑いと何も聞かないでくださいと言わんばかりのオーラ全開で押し切られてしまった。
朝から贅沢にも露天風呂に入り、明らかに事後とわかるベッドもシャラのメイクで綺麗になったので、安心して座ることができる。
シャラ曰く、今のアリアは仕事をこなせる状態ではないので、休暇扱いにしているとのこと。いい機会だからゆっくり休んでくださいと言われたアリアだが、何も思いつかない。
「休んでと言われても・・・あ!中庭に行ってみたいです」
「ああ、それはよい案ですね。では、案内いたします」
シャラに連れられて光が差し込む中庭の噴水の方へと進むが、シャラはそれ以上は近寄ろうとしない。
「シャラ?」
「アリア様、その水晶のある噴水に近寄れるのは皇族のみでございます」
「え?じゃ、私もダメなんじゃ!?」
「…ザン様はこの国の第二王子ゆえ、問題ございません」
「ふへっ?あ、そ、そういえばそう言っていたね…え、じゃ私があの人の奥さんなのは本当なの?」
「ザン様から婚姻届の写しをとるようにと言われております。今晩お見せ致しますね」
「シャラ、意外に私が疑い深いってわかっているのね」
「アリア様にお仕えして何年たつと思いですか。それから、敬語も不要でございます」
にっこりと微笑んだシャラがちょっと怖く見えた。とりあえずそっと視線を逸らして水晶の方を眺める。
そこに見える水晶になぜか懐かしい気持ちを感じた。
(不思議…なんだか落ち着く安心できる空気だわ)
そっと噴水の縁に座ると、水の中からできたのは、何匹(?)かの炎の精霊達。
「え?」
『あー ありあだー』
『ありあ、あそぼー!ざんはいないからみずあびだいじょうぶだよね?』
『それよりはなかんむりつくろうよー』
「あ、あの、君達はもしかして…?」
『せーれーだよー?もーどうしたの、しっかりしようよ』
ふぇ?と驚くアリアに対して精霊は親切にもいろいろと説明していた。その途中で他の属性の精霊もわらわらとやってきてアリアを取り囲んでいる。
精霊が見えないシャラははてな状態だが、精霊が見える人たちがここにいれば阿鼻叫喚だったであろう。滅多に姿を現さない精霊、しかも五属性揃って集まっていることなどそうそうないことなのだから。
そして、この事実を知っているのはこの皇宮と繋がる城の中で働いている者だけ。
色々と話を聞いたアリアは頭パニック状態であるものの、とりあえずはと今の自分の状況を理解した。
「えっと…うん、わかった。要するに私は聖女で、女神様の代理人としての仕事をしている訳だね」
『そーそー!』
『アリアとザンのけっこんはめがみさまもよろこんでたのー』
「ああ、そう・・・」
ぱっと思い浮かぶのは昨夜嫌というほど見た紫紺と端正な顔立ち。あれだけ口が悪い人だったのに、廊下を出たとたん、胡散臭い笑顔で召使たちに話しかけていたのには非常に驚いた。なるほどと思わず納得してしまった自分がいと恐ろし。シャラもさもありなんと頷いている。シャラ曰く、あれは日常的なものです。アリア様に対してはかなり素をさらけ出していますけれどもね。とのことだ。
そうか。それなりに私たちはいい関係を築けているのだなと納得。同時に、記憶がないことに申し訳なさを感じた。
「はぁ、記憶が戻ればいいのにねぇ」
『できると思うよー?『かがみ』があれば』
「鏡?」
『そーそー!きょーかいにあるの。あれどこだっけー?』
『あのね、このしろからずっととおいきたにあるの』
「私、そこに行ってみたいわ!!」
『え、でもとおーいよ?ほんとうにとおいしたいへんだよ』
『でも、ザンおこるよー?』
「なら、内緒で行くわ。それなら大丈夫よね」
(思い立ったが吉日!今日はザンも討伐に行くと聞いている。それなら、抜け出すのも楽かも・・・)
『あははーおもしろーい。じゃあ、ぼくもてつだおう』
『ずるいわ、シルフ!わたしもわたしも』
『むっ、わらわもてつだうのじゃ』
『おもしろそう、みんなでやろうよ~』
次々と精霊たちが協力してくれるのにありがたみを感じたアリアは思わず精霊たちを抱きしめていた。
後は行動あるのみ!!周りにいる人たちが精霊を見えないのをいいことに作戦をいろいろ練って満足したアリアは気分よく部屋に帰っていった。その様子をみたシャラは精霊達と話したことで気楽になったのだろうと安堵した。(その認識は後に覆されることになるが・・・)
そしてその日の夜、アリアはこっそりと起き上がった。精霊達のアドバイス通り、自分の魔力を込めた布切れを布団の中につっこみ、必要な荷物だけを鞄に詰め、気楽な服を選んでは窓を開けた。
「じゃあ、お願いね、シルフ達」
『まかせてー!じゃあ、いくよー!』
シルフ達の誘導であっという間に風に乗って夜空を飛ぶように舞った。ドキドキしながらも、ちらほら見える灯りと、鮮明な星の輝きに思わず感動してしまう。
「綺麗、ピンク色のオーロラなんて初めて見た!」
『あれはねーこのくにがまもられているあかし。アリアがいるかぎりかわらないの』
「私が聖女だから?」
『そうよー。でも、わすれないでね。アリアだからこそえらばれたのー』
くるくると舞う精霊たちは小さいながらも、身体からきらめきを放ちながら飛んでいる。自分と一緒に飛ぶ姿はまさに流れ星のようにも見える。
『もうすぐ着くよー!』
精霊たちが急降下するにつれて、アリアの身体も急激に下へと引き込まれていく。一瞬驚くも、精霊たちがうまくコントロールしてくれたおかげで、無事に着陸できた。
「あの教会なんだね」
頷くアリアの少し離れたところにはかなり大きな教会が聳え立っていた。さすがに夜遅く行くのは憚れる。今日は野宿しようと決めたその時、アリアの少し離れたところで精霊たちがわらわらと動いていた。何をしているのだろうと思ったら、アリアと一緒に来た精霊達が現地?の精霊たちに何かを話しているようだった。
「どうしたの、みんな?」
『アリア、ぼくたちはここまでしかむりなんだ。』
『だから、いま、ほかのせいれいにたのんでいたのよ』
『おまえたち、かのじょをていちょうにするのじゃぞ』
『なにかあればおまえたちがきえるだけではすまない、きをつけるように』
精霊達の強い言い方に震えているのか、手のひらぐらい小さい精霊達はこくこくと頷いている。その反応に満足した精霊達は離れていった。その間も現地の精霊はずっとひれ伏した状態だったことにびっくりする。
「だ、大丈夫?」
『せいじょさま、ぼくらはおきになさらず』
『まさか、だいせいれいさまたちからしきじきにおやくめをいただくとは…』
「大精霊…?」
『はい、あのかたたちはめがみさまにもっともちかいだいせいれいさまです』
『くものうえのはるかかなたにいるぐらいおえらいおかたたちです!』
今更ながらに、自分の傍にいた精霊達のすごさを知ったアリアとしては不思議な感覚だった。一緒にいたずらを考えるように計画を立てていただけに余計に。
だが、こうしてもしかたがないので、現地の精霊達にアドバイスをもらいながら、野宿してみた。
「ふー、気持ちいい朝!近くに湖があって良かった」
『いいてんきですねー』
『ほんとー』
「ふふふ。せっかくだし、もうこのままお忍びで行きたいな」
余裕ができるとちゃめっけがでるというものだ。アリアはワクワクしながら、教会に近づいて行った。ほぼ同時刻、城の中が急速に冷えていることなど知る由もなく。
「シャラ?」
「・・・・・わ、私は何も知りませんっ!本当に!」
「なら、何故アリアがいない?」
「うーわー。アリア様が心配からと夜中に討伐をさっさと終わらせて先に帰国したザン様になんという仕打ち・・・いや、それでこそアリア様っスけれど…!!いたっ!!」
ラティスの棒読みなセリフにイラっとしたのか、ザンは思いっきりラティスに雷を落とした。もちろん、手加減して、静電気を感じる程度にしてある。それでも、ラティスには十分な痛みだったのか、まだゴロゴロと転がって痛みを訴えていた。
というようにラティスの悲鳴がこだまする城の外では、アリアが順調に教会の中へと忍び込んでいた。当然精霊達の力のおかげである。
「鏡、鏡ってどんな鏡なのかしら」
『たしか、いせかいのかがみっていわれてるときいたことがあります!』
「へぇ。異世界に行ける鏡とかかしらね」
『どうでしょうか。でもそれだとかなりのだいしょうをとられそうです』
精霊曰く、ただであるはずがなく、何らかの見返りや代償が必ずあるのだという。それはそうだ。等価交換の原則からすれば、何もないところから何かをできるわけではない。
納得とばかりに頷いたアリアは、ふととある部屋を怪しいと思いついた。
「あれ。この部屋には鍵がかかっているのね。もしかして大事なお宝とか入れているのかな?」
『かのうせいはありますねー』
『じゃ、あけてみますかー』
これまた風属性の精霊達が力を貸してくれている。これは泥棒も真っ青な完全犯罪にもなる入り方よねと思いながらアリアはちゃっかりと部屋へと入っていった。一番奥に何か反射しているものがあることに気付いたアリアは近寄ってみた。
「もしかして、これが?」
『はい、たぶん…!』
わらわらいた精霊達も頷いている。これが目的のものだと知ったアリアはそっと鏡に触れた。瞬間、いきなりアリアの周りが真っ白に染まり、精霊達の姿も見えなくなった。
気付けば、アリアは誰かと会話していた。なぜか不思議なぐらい耳に入ってこない。自分の声も勝手に動いているようで何をいっているのかわからない。
『―――――――!!』
『・・・・・・・っ・・・・!!』
『・・・・、・・・・・・。』
「でもっ!」
『――――――、―――――!!!!』
「それだと、ザンが!それぐらいなら・・・・・!!」
『・・・なりませんっ!!アリア、あなたは・・・・・・・!!!!』
『―――――――。』
一体どれだけの時間が経ったのかわからないぐらい会話していたように思う。だが、最後に聞こえたのは確かに女神様の声だった。そのあとは意識を失うように目の前が真っ黒に染められた。
「起きろ、アリア!!!」
自分を起こそうとする声に目を開けると、目の前にザンの顏があった。
「ザン?」
「アリア、お前記憶が?」
「え?どういうこと・・・?」
ザンの言うことが理解できず、起き上がるとそこは自分の部屋ではなく、城の中でもなかった。
「へ?なんで城じゃないの?え、ここは教会?なんで私はここにいるの?それに、ザンはどうしてここに?」
慌てふためくアリアをよそにザンは勢いよく抱きしめた。
あまりの力の強さにぎゃあああとアリアは悲鳴をあげたが、それは心配をかけた詫びということで許してあげてとしか言えない周りだった。(主にラティスを代表に)
「つまり、私は記憶を失っていたんだね。はー、それは災難だった」
「でも、二日で収束してよかったっス、マジで・・・!!これがもしザン様の時のように八か月も続くかもと思った昨夜は本当に眠れなかったっス!!」
「ラティス。お前は、何故俺をさしおいてアリアとしゃべっている?」
教会からすぐに医務室へと連れていかれたアリアは身体にも問題なく、落ち着いていた。それにほっとしたラティスがザンから突っ込まれ、いつものパターンのごとく、ボロボロになった。
「ところで、アリア」
「うん、なに?」
「つい先程診断ではっきり結果がでてな。できたと知らせがあったぞ?」
「できたって、何が?」
首を傾げるアリアに対して、ザンは照れ隠しからか少し顔をうつむきがちに報告した。
「だから、俺達の子どもが…できたそうだ」
ザンの言葉を嚙み締め、ようやくその言葉の意味に気付いたアリアは目を見開かせた。そして一目散に不運にも隣に立っていたラティスに向かって抱き着いた。
「ぎゃあああああ、違う、俺にじゃなぃすsっすううううう!!抱き着く相手を間違えてるっす!」
「ザン、夢じゃないんだよね?」
「ああ。夢じゃない証拠にラティスでも焼いておこう。そうすれば嫌というほど実感するだろうからな」
ザンの抑揚のない声に半端なく本気だということを感じ取ったラティスはこれまでで一番でかい声で叫んだ。
「いやあああああ、ザン様、やめてくれっす、冗談っすよね?ほんっきじゃないっスよねぇええ!!」
ようやく我に返ったアリアが謝罪とともに改めてザンに抱き着くまで、ラティスの不幸は終わらなかったとだけ追記しておく。
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