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番外編
番外編)旦那様には内緒で(下)
しおりを挟むオペラこと、アリアは目の前にいる男の行動力に顔をひきつらせた。先程、ザンからお茶一式を下げるように言われたついでにスコットにこの城の図書館に案内してほしいと頼まれたのである。ザンからはラティスも一緒に連れていって良いと言われたものの、止められはしなかった。
ただ、ザンがラティスを呼んで何やら話をしてはいたが。
「オペラは、発音が上手だね。さっきはびっくりしたよ」
びっくりされたのは、おそらく彼の母国語で書いてあったであろう書類をうっかり読んでしまったためだ。一部に漢字が入っていたのでそれを無意識に口に出してしまったようで彼らから驚かれた。なんとかたまたまあっていただけだと誤魔化したのだが・・・やはり騙されてはくれないらしい。
「この城は兵士やメイドたちも身分がそれなりにあると聞いている。君もその類かなと思ったんだけれど・・・違うよね」
「参考までになぜかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
違うとはっきり断定されたのは初めてかもしれない。内心で驚きながらも、表情には出さずに聞いてみれば、歩き方がものすごく上品だと言われた。
(この国に来た時にダンスの練習も兼ねて歩く練習も行ったから嫌でも身にはつくよね・・・)
そうなのだ。あのザンと関係を持つ前にビシバシと指導されたことがある。大量の本を頭の上に置かれて、落としたらお前の生活費を減らすと言われて必死に階段を上り下りした記憶がある。・・・ザン曰くあれはいたず・・・いや、本気じゃなかったと言うが、あれは絶対嫌がらせだと今でも思っている。
遠い目になったアリアをよそにスコットはめげずに彼女の隣に立っていた。ちなみに、ラティスはなぜか後ろをついてきているだけだ。
「うーん。僕のお嫁さん候補とかにならない」
「妃になるのはまっぴらですし、もう既婚者なので謹んで遠慮申し上げます」
(噓は言っていない、本当のことだもんね)
「でも、指輪してないよね?」
「お仕事中はしないことにしていますし、その程度で目くじら立てるような人じゃないです」
「へぇ、どんな旦那さんなの?ちょっと気になるな」
スコットがはてなマークを浮かべているので、アリアは思わず立ち止まった。
「・・・聞きます?」
なぜか目を輝かせているアリアを前にスコットは内心ちょっと引き気味だった。これはなにかのスイッチを押したかもしれないと。ひくっと顔を引きつらせているスコットを他所にこれまた傍にこっそりと侍っていたラティスは内心でざまぁと鼻で笑いたい気分だった。
(馬鹿な男め・・・大体、ザン様もアリア様も似た者同士なんだよ。普段ベタベタしない分、相手がいない時に惚気るんだから。一回話し始めたら最後、底なしに喋りまくる。これは皇太子殿下も同じだから、家系なのだろう・・・ザン様の方は。アリア様の方は・・・うん、乙女心ということにしておこう)
毒づいているラティスの心境など知るよしもないアリアはというと、珍しく積極的にスコットを椅子に座らせ、延々とこれでもかと語りだした。
「彼はね無駄に顔だけは綺麗なんだよね。野性的な顔立ちなのに爽やかさを打ち出しているっていうか」
「それからね、すごく髪の毛がさらさらなの。前は伸ばしていたんだけれど、最近は切るのが早くてなかなか三つ編みにもできなくて・・・」
「甘いもの苦手なくせに私のお菓子を食べてくれるんだよね。美味しいともうんともいわないんだけれど、気に入ってるとおやつのリクエストが来るから気に入ってるんだってわかるんだけれど・・・」
延々と喋り続けるアリアを前にスコットはちらちらとラティスに助けを求める視線をよこしたが、もちろん、そこで助けてやるほどラティスは優しくはない。むしろ自分はお前のせいで巻き込まれてるんだよゴルァという意味を込めてにこにこと微笑んでおいた。ラティス曰く、こういうときに似非笑みって使うんスねと参考になったとかならなかったとか。
「・・・・でね・・・あら?どうしました、スコット様?」
机に伏しているスコットはすでに魂が抜けかけていた。ラティスはちらっと時計を見た後、未だにオペラという兵士を演じているアリアに告げた。
「名残惜しいですが、もう時間でございます。そろそろお戻りを」
「えーもっと話したかったのに」
「いやいや、もう十分だ。君の夫に対する素晴らしい愛情は確認できたよ。残念だが、僕は身を引こう」
「それはありがとうございます。でも話足りないのでまたお話を聞いてもらってもよろしいでしょうか」
「・・・・それはちょっと遠慮しておくよ。ああ、今日は何冊か本を借りて部屋にこもるとしよう」
「え~残念・・・」
本当に残念がっているアリアは思わずスコットの両手を握り締め、胸に寄せていた。はぁとため息をつくアリアとは裏腹にスコットはいやに近い距離に思わずソワソワと狼狽えていた。そしてラティスはというと・・・なぜか耳に手を当てている。
「おい、そこの兵士、彼女の手をなんとか放し・・・って、何故耳を塞いでいる?」
「・・・もうすぐ雷が降ってくる予定ですので」
「雷だって、馬鹿な。ここは室内だぞ?」
「この城において、雷と言えば、もうアレだと決まっていますので」
今回は珍しく眺めていることができますと言い切った後、アリアを引き剝がして一歩下がったラティスにどういう意味だとスコットが口を開いたとした途端、彼の真上に爆音とともに黄色い閃光が放たれた。
目を丸くするアリアとさもありなんと頷いているラティスが対照的である。そして、扉が開き、そこに登場したのは、やはり当然のように第二王子であるザンで。
「やれやれ・・・アリア、兵士ごっこは終わりだ。そろそろ戻れ」
「・・・いつから気付いていたの?」
「気付いたのは本当に半年ぐらい前だが、外に出られるよりはましだと放っておいただけだ」
「怒ってる!やっぱりあの似非笑みの裏でイライラしてたんだね」
「スコットから隠すにはちょうど良いと思っていたが・・・さすがにイラっとはしたな」
ありゃ、珍しく不愉快だったと口にしてる・・・その人、一応お偉いさんなんだよね?踏みつけていいの?
「アリア、いつもなら隠し事にお仕置きをするところではあるが・・・今回だけはのろけに免じて優しくしてやろう」
ひとまずはこいつを客室に放り込んでくると感電で動けないスコットの首を掴んで引きずっていくザンの後ろ姿に手を振っていたアリアだが、ようやく彼の言っていることの意味が分かった。
「・・・ねぇ、ラティス。なんでザンが・・・私ののろけを知ってるのかな?」
「ザン様だからってことにしてもらえませんかね・・・」
「そんな手には乗らないわよ・・・ラティス、お仕置きとして一カ月間デザート抜きと兵舎の担当者に伝えておくからね」
「ぎゃあああああ、やめてくれっす、すいませんすいません。でも、あのザン様に逆らえると思いますか、この俺が!!」
「そこは逆らいなさいよ!ああ、もう恥ずかしい・・・図書館でいうんじゃなかった!」
ぷりぷり怒っていたアリアは必死に弁解するラティスを振り切って部屋へとこもった。真っ赤な顔をし帰ってきたアリアに対して、シャラは首を傾げていた。
「あら・・・もう終わりですか?」
「・・・うん。服を脱ぐから保管をお願い。あと、今から風呂入ってくる・・・・」
「あ、かしこまりました」
なにかを察したできるメイドは優雅にお辞儀した後、クローゼットの方へと向かった。
一方、真っ赤な顔でお湯につかっていたアリアは悶えていた。
「うう・・・もうお嫁にいけない」
色々口走った記憶があるだけにいたたまれないアリアは風呂から出た後、もうないも考えまいと布団にさっさと入った。もし、ザンがこのセリフを聞いていたら呆れたように言っていただろう。「お前はとっくに結婚している」と。
ザンはというと、ラティスを呼び出し、満足したとばかりにボロボロになったスコットを押し付けた。・・・彼女が熱烈なのろけをしてくれたおかげで気分が良いとばかりに、大人しく座っていた。
「スコットの方は医者に見せてやれ。俺は今からアリアのところへ向かう」
「・・・スコット様には素を見せることになさったんですね」
「一応長い付き合いになりそうだからな・・・アリアの両手を掴み、谷間をちらっとでも見たその報いはしっかりと受けてもらうがな。・・・ああ、そうだ。たまに惚気るのも悪くないな。よし、アリアの用意ができるまで暇つぶしにやってもらうとしよう」
鼻歌が聞こえそうなほど機嫌がよさそうなザン様に遠い目になったラティスは一礼して下がった。彼の機嫌の良さはアリア様に比例する・・・と思いながら。さしあたり、スコットはこれからもう腹の探り合いをしなくても済むのだから、良しとするべきだろう。その分、要求はかなりのものになりそうだが、いい教訓にはなっただろう。これを機に彼が誰構わずに女性に近寄らないことを願う・・・と心にもないことを考えていたザンは、アリアを抱きつぶすために部屋へ行くためにもさっさと部屋に戻ることに決めた。
一夜明けた翌日の朝にアリアが何を叫んだかは・・・ご想像におまかせしよう。
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