ざまぁされる予定の王子は処刑を覆す。 ~悪役令嬢よ、残念だったな!~

ゆゆぽりずむ

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1話

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恋愛ゲームそっくりの世界で、前世の記憶に目覚めた悪役令嬢が逆転ざまぁを決める。

それはまあ、よく聞く話であるし、問題はない。

ただ一点、逆転ざまぁで追放される予定の王子が、俺だということを除けば。

◇ ◆

深夜の寝室で、俺は頭を抱えていた。

「やっべえ、やっべぇ、やっべえわ」

俺はこの国の第一王子レヴィス。

別世界でサラリーマンだった前世の記憶をついさっき思い出したところだ。

その記憶によると、俺は明日、俺の婚約者であり俺同様に前世の記憶を取り戻した悪役令嬢ヒルダによって、逆転ざまぁされて追放されるらしい。

一夜にして次期国王の座から転落だ。

別にその辺の屋敷で隠居暮らしぐらいならそれでもよかったが、追放先はなんと無人島。

これじゃ追放じゃなくて流刑だ。

はい仕方ないですねと受け入れられるレベルの話じゃない。

「絶対に回避せねば……」

幸いなのは、ヒルダの記憶は俺が前世の記憶を取り戻さないパターンだけということだ。

だから奴は俺をこの世界の記憶しか持たない愚鈍な七光りだと思っている。

つけ入る隙があるとすればそこだ。

というかそこぐらいしかない。

……だって時間が全然ないんだもの。

「本当に時間がないな……」

俺は時計を見た。

既に日付はかわってしまっている。

つまり追放劇の舞台であるパーティが始まるまで、もう24時間を切っているということだ。

俺の記憶によれば、一週間前に前世の記憶を取り戻した悪役令嬢は、根回しを完全に済ませ、準備万端で俺を迎え撃つらしい。

そして何も知らない俺達は呑気に彼女を糾弾し、逆転ざまあを決められるというわけだ。

……そう、『俺達』だ。

俺には味方が何人もいる。

揃いも揃ってアホ丸出しの味方が何人もだ。

尻丸出しだけと実はめちゃくちゃ頭が切れるとかだったらよかったが、残念なことに全員頭の中でお花畑を栽培している。

まあ、俺もついさっきまでその仲間だったのであまり強くは言えないが、とにかく質がひどい。

中でも特にひどいのが、聖女クロエだ。

乙女ゲーム内では、ヒルダから俺を略奪するだけでなく、作中の10人以上の男達から愛されまくるという、ゲーム本来の主人公ポジションといっていい女だ。

彼女はとにかく自分本位で感情的な人間で、理屈で物事を考えられず、世の中全てがお気持ちで動いていると思っている。

記憶が戻る前の俺がどうしてこんな女に惚れていたのかが全く理解できないが、女目線だと理想の女性像って感じなのかもしれない。

それ以外の味方はまあ、アレだ。

クロエに惚れている他の男達とか、取り巻きの夢見がちな女達だ。

……あれ? もしかして俺自身の味方っていなくね? みんな俺じゃなくてクロエの味方じゃん。

このままだと聖女を庇う奴はいても俺を庇ってくれる奴がいない。

「よし、まずは味方だ、味方を作ろう」

とはいえ、もう時間がない。

今から接触して味方にできそうな人間は限られている。

だが誰もいないわけじゃない。

少なくとも一人、確実に俺の味方になってくれる人間がいる。

俺は確信をもって呼び鈴を鳴らした。

幸いなことに、その人物は今日の当番だ。

少しすると、一人の老人が部屋に入ってきた。

祖父の代から仕えている、最古参の執事だ。

「殿下、いかがなさいましたか?」

「なに、少し話し相手が欲しくなってな」

「おや、これは珍しい。殿下とゆっくりお話しできるなど、随分と久しゅうございますな」

爺の険しい顔が少し緩んだ。

こんな表情を見るのは久しぶりだ。

俺の教育係の一人でもあったが、クロエと付き合うようになってからは笑うことがめっきり少なくなった。

……すまん爺、俺のせいだな。

婚約者までいるのに、明らかにやばそうな女に夢中になってたら、そりゃ笑えないわな。

「実はな、さっきふと思ったのだ。今の自分は果たして王族にふさわしい振る舞いができているのか、とな」

「素晴らしい。自分自身を厳しく律するというのは、人の上に立つ者にとって必要不可欠な資質。 殿下も成長なされましたな」

「まだ爺の半分も生きていないからな。自分で言うのもなんだが、伸びしろはあるはずだ」

「それは将来が楽しみでございますな」

この男はそう滅多なことでは俺を否定しない。

常に良いところを探して褒めてくる。

「それでな。問題はヒルダとクロエの事だ」

そう言うと、爺の眉が一瞬だけピクリと動いた。

表立って意見を表明してはいないが、爺としても内心では思うところがあるんだろう。

いや、むしろ無いわけがない。

立場上、遠慮なく言えないだけだ。

「ほう、ヒルダ様と聖女様でございますか」

「ああ。最近の俺は王子としての立場を少しおろそかにし過ぎていたと感じている。聖女を味方につけようと躍起になるうちに、本来の目的を忘れてしまっていた。あくまでも聖女は聖女。俺の婚約者ではない。継承権第一位の俺が色恋で結婚する相手を決めるなど、言語道断だ」

「左様でございますな」

「爺。老体に鞭を打ってすまんが、急ぎ言伝を頼まれてくれ。今すぐヒルダのところに行って『今日のパーティは俺を信じて動くな。君は俺が必ず守り抜く』と伝えるんだ」

「かしこまりました。殿下のためとあらば、このセスタス、命に替えてもお役目を果たしてみせましょう」

爺の目には久しぶりに見る活力が溢れていた。

「おいおい、こんなところで命を使い果たすな。死ぬならせめて俺が国王になるのを見届けてから死ね」

俺は苦笑いしながら爺に封書を手渡した。

「誰に見られても問題ないような当たり障りのないことが書いてある。表向きはこれを渡しにいったということにしておけ。ただし、言伝の方は絶対誰にも存在を知られぬようにな。ヒルダ以外のアカム家の者達にもだ」

爺がまるで戦場にでも向かうような顔で出かけて行くのを窓から見送った後、俺は一息ついてベッドに腰かけた。

仮に悪役令嬢ヒルダを退けたとしても、まだ十分とは言えない。

それだと聖女クロエの脅威がまだ残る。

俺もヒルダも記憶を取り戻さない世界線では、実権を握ったクロエが素人考えで好き放題やった結果として民は飢え、クロエが自己満足して死んだ数年後に国が滅ぶ。

ヒルダだけが記憶を取り戻した世界線でも似たようななものだ。

家柄が良いといっても、最初から跡継ぎとして育てられた貴族の子女達のような覚悟や責任感はない。

前世の記憶で無双しようとしたヒルダによって、多くの民が餓死し、やはり国は滅ぶ。

だから俺がこれまでの愚行から挽回し王族としての責務を果たすには、この二人の覇道を止めるのが必須だ。

見てろよ二人とも。

ここからひっくり返してやるからな。

俺が決意を新たにした直後、誰かが小さく扉をノックした。

……誰だ?

召使はノックをしないし、家族ならここに来るのではなく召使を使って呼び出すはず。

つまりこの家にノックが必要な人間は一人もいない。

俺はベッドの下に隠されている護身用の剣を確認した。

直後、扉が静かに開き、ノックをした人物が入ってきた。
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