ざまぁされる予定の王子は処刑を覆す。 ~悪役令嬢よ、残念だったな!~

ゆゆぽりずむ

文字の大きさ
4 / 4

4話

しおりを挟む

俺が聖女クロエと二人でパーティ会場に入ると、事情を知らない者達は一様に驚きと困惑を見せた。

まあ当然だ。

いくらクロエと懇意にしていたからといって、婚約者はあくまでも公爵令嬢のヒルダだ。

クロエに熱を上げてからも、俺は正式な場にはずっとヒルダを連れていっていた。

「みんなが私達を見ていますね」

クロエが小さい声で俺に耳打ちした。

「ああ。だがこれぐらいで驚かれては困る」

「そうですわね。これが実は私達の婚約パーティだと知ったら、皆さんきっと腰を抜かしますわ」

どうやらクロエはまだ事態に気が付いていないらしい。

俺は内心でホッとした。

周囲を見渡す限り、聖女派の連中も今までと変わりはないようだ。

相変わらず男達は俺に嫉妬することすら忘れてクロエに熱のこもった視線を向けているし、女達は夢見がちな少女のような恋に恋する憧れの視線を俺達二人に向けてくる。

もしかするとこちらの計画がバレてやしないかと不安だったが、どうやら無用な心配で終わりそうだ。

少しすると、ヒルダも一人でやってきた。

それを見てパーティ会場には再び動揺が広がった。

「お元気そうですわね。殿下、それに聖女様」

ヒルダの表情はこの状況に不似合いなほど自信に満ちていた。

きっと前世の記憶を頼りに万全の対策を用意してきたつもりなんだろう。

いかにも隠し玉持ってますと言わんばかりの顔だ。

やがて国王達、つまり俺の父と母が姿を見せ、開始の時間になった。

「皆の者、今日はよく集まってくれた。普段ならば私から開会の挨拶をするところだが、今日は我が子であるレヴィスから皆に発表があるそうだ。そうだな? レヴィス」

父の表情はどこか冷めた様子だった。

父も母もヒルダに言いくるめられているから、現時点では二人とも悪役令嬢派だ。

俺がクロエに溺れてやらかしたとでも思っているんだろう、きっと。

「はい、父上。実は今日この場において……ヒルダ=アカムトとの婚約を解消したいと思っているのです」

俺がそう言った直後、一斉に歓声とどよめきが広がった。

聖女派の子女はまるで恋愛劇のクライマックスを見るかのように喜びの表情を浮かべ、公爵令嬢派は勝ち誇った笑みを浮かべ、何も知らないその他大勢は困惑の声を交わした。

「レヴィスよ。自分の言っていることの意味がわかっているのか? 貴族同士で交わした婚約を破棄するというのは気軽な事ではない。それもこのような場でいきなりとなればなおさらだ。それ相応の理由があるのであろうな?」

「もちろんです、父上。私はこの国の王族です。である以上、この国に害をなす者と結婚するわけにはいきません。そう、例えば……五穀豊穣をつ司る聖女に対して、害をなす者とかなぁっ!」

俺は勢いよくヒルダを指差した。

ヒルダの視線がそれを仁王立ちで迎え撃つ。

「あらあら、随分な言い草ですこと。そこまで仰るのでしたら殿下、もちろん私が聖女様を苛めていたと証拠はお持ちなのでしょうね?」

ヒルダの言葉は挑発的だった。

「もちろんだとも。証人だって何人もいる。そうだろう? お前達」

俺は聖女派の予定通り、クロエの周囲に固まっていた女達に話を振った。

聖女派の中でもクロエの親衛隊ともいえる子女だ。

「私達は見ました! ヒルダ様がクロエ様に何度もひどいことをするのを!」

「そうです! こっそり服を破いたり、食事に虫を入れたり!」

それを聞いた俺は、思わず全身が脱力しそうになった。

え? 元々のヒルダってそんな理由で婚約破棄されんの?

確かに悪いことではあるけど、仮にも国を代表する貴族と王族の婚約を一方的に破棄するには弱すぎないか?

と思ったら、周囲からは「これはひどい」とか「これじゃあ婚約破棄もやむをえないな」とかいう声が聞こえてきた。

……え? 本気で言ってる?

なんかもう、聖女派はしてやったりって顔だし、外野は納得感出してるしでこっちの頭が痛くなってきた。

それに関してはヒルダも同じだったらしく、苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。

だがヒルダの心中を理解できたのは俺ぐらいだったらしく、「見ろよ、あの性悪な顔。馬脚を現したぜ」とか「語るに落ちてるわ。何よりの証拠ね」とかいう声が聞こえてきた。

……いや、ヒルダさんはまだ語ってませんが?

そして我慢できなくなったヒルダがため息をついた。

「全く、話になりませんわね。まさか片方に肩入れする人間が証人になれるとでも?」

「ヒルダ様、言い逃れするおつもりですか? これだけ多くの方々が証言されているのですよ?」

内心で頷いていた俺の代わりに、なぜか勝利を確信したクロエが食ってかかった。

いやいや、証言のしてるのお前の信者だけじゃん。

むしろなんでこれだけでいけると思ってるのか不思議でしょうがないよ。

「貴方達には客観的という概念がすっぽり抜け落ちていますわ。いいでしょう。私が証拠というものを見せてあげましょう。……皆さまに例の物をお配りしなさい」

ヒルダが合図をすると、ヒルダの従者と思われる者達が一斉に紙を配り始めた。

どうやらヒルダのターンが始まったらしい。

「これは……」

紙の内容を確認した俺は、表向き驚いたふりをしつつ、内心でとても安堵した。

よかった、予定通りに進んでいる。

だが予想外だった者もいたみたいだ。

俺の横にいたクロエは「嘘……」と小さな声を上げて表情を強張らせた。

聖女派は男女を問わず顔を引きつらせている。

「ひっ! ク、クロエ様、こ、これはいったい……」

「ここに写っている女性は、クロエ様では……」

「皆さまお察しの通り! これは聖女クロエ様が毎晩のように様々な男性と密会し、深い関係になっている証拠写真ですわ!」

紙にはクロエと取り巻きの男達が卑猥な行為に興じる様子が写っていた。

「聖女が聞いて呆れますわ。それとも、せいじょのせいは性行為の性だったのかしら?」

ヒルダは勝ち誇った顔で俺達を見た。

今のところ、ヒルダ派の思惑通りといったところだろう。

ヒステリックな声を上げるのはクロエ派ばかりで、ヒルダ派の貴族は余裕の表情を浮かべている。

全体を眺めていれば、誰がヒルダについたのかは明らかだった。

横を見るとクロエは顔を真っ赤にして震えていた。

「で、でたらめです! こんなものはでっちあげたに決まっています! みなさん、騙されてはいけません! この方は『魔』と通じているのです!」

それを聞いたクロエ派の夢見る乙女達ははっとして顔を上げた。

「そうですわ! ヒルダ様が『魔』の者と密会しているのを見たという方が、何人もいますわ!」

「ですから、その証拠はどこにありますの? この写真のような証拠は?」

「そ、それは……。でも見たという方がたくさん!」

だから、それは証拠になんねぇんだって。

ヒルダも大きく首を横に振った。

「話になりませんわね。ですがご安心を。婚約の破棄ならば応じますわ。ただし、国王陛下のお許しが出たのなら」

ヒルダが視線を向けると、これで勝負あったと思ったのか、父が口を開いた。

「静粛に! レヴィスよ、ここまで証拠を出されれば、もう言い訳もできまい? お前とヒルダの婚約は破棄し、代わりにアカムト家の次女フールーとバサルを婚約させることとする。無論、このようなことをしでかしたお前を王にすることはできん。……今後は大人しくしておくことだな!」 

バサルというのは第二王子、つまり俺の弟だ。

ヒルダはアカムト家の長女だから、つまり俺の弟とヒルダの妹を結婚させることで、王家とアカムト家の関係を維持しようということらしい。

……なるほど、これがヒルダ側の計画か。

これはいよいよ完全に――。

「父上も老いたようですな」

「なに?」

「どうやら父上は何か根本を勘違いしておられるようだ。いや、父上だけではない。他の者達もわかっていない」

「殿下……!」

「あら、負け惜しみですの?」

逆転を期待するクロエと勝利を確信したヒルダ。

だが残念だ。

俺はどちらの期待にも応えられそうにない。

「では、ご説明しよう。……もちろん、証拠付きでな」

最初はクロエのターン。

次はヒルダのターン。

そして最後は――。



俺のターンだ。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者に毒を盛られて追放された第一王子ですが、王妃になった元婚約者の王国を滅ぼしました

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
第一王子だった俺は婚約者の公爵令嬢に毒を盛られ追放された。彼女は第二王子と結ばれ王妃になろうとしたのだ。だが王家の秘密が暴かれ王国は混乱。そして十数年後――王妃となった元婚約者の前に俺は軍を率いて現れる。これは、毒を盛られた王子が王国を滅ぼすまでの物語。 本作は「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です」シリーズの外伝的な短編作品です。 なろうでも公開している作品です。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

処理中です...