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第十話
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「その、悪かったな……」
俺は謝っていた。相手はティアである。
昼方、俺は気持ちのいい射精と共に目を覚ましたのだが、その下には俺に両手を拘束されて身動き取れずにいたティアが涙ながらに子宮に精液を流し込まれていたのだ。
昨日、というより明け方までエリノーラの淫紋完成のための激しい性交のせいで眠れなかったティアと、寝る直前に繋がってから一緒に寝たが、まったくの無意識で寝ぼけながらティアと交尾してしまったようだ。そのせいかティアは息絶え絶えになりながらも、俺に対して恨めしそうに目を向けていた。
「もう寝る時に入れるの、はぁっ……はぁ……禁止です」
「ま、待ってくれ。今日はその、エリノーラとのセックスを引きずって無意識に動いただけで、今までは大丈夫だったろ……?」
「何が大丈夫なのか分かりませんっ……はぁ……ふぅ……第一、なんで寝る時になるといつも私の中に入れようとするんですか。……エリノーラさんでも良かったじゃないですか」
なんで、と訊かれても「なんとなく」と答えそうになる。
だが、それは明確な答えではない。
いい機会だから改めて考えるとしよう。
俺が今、中出しした後もティアの中に入れたまま会話しているのは何故だ。ほぼ毎晩繋がってから寝ようとしているのは何故だ。
「……たぶん、ティアが一番安心するんだ」
ふと口に出た言葉だったが、それが本質だとも思った。
そう、安心だ。
俺にとってティア・ブロンドという桃髪の少女は癒しの寄り辺だった。はじめて城を飛び出してきた時にできた友達であり、そして遊んだ時間以上にメイドとして支えてもらった時間がある。
俺が、父母を亡くして売られそうになっていたティアを助けたよりも、ずっと彼女に助けられたと思っているのだ。
「まだ恋愛感情とか分からないが、愛おしいと思ってる。手放したくないから、逃げださないように捕まえておきたいんだろうな」
「……ッ」
あ、ティアが真っ赤になった。
可愛い、そして愛おしさが止まらない。
俺はシーツを手繰り寄せて、マントを羽織るように靡かせてから頭まで被った。
シーツの中には正常位で密着する様に繋がる俺とティアだけになり、そのままティアの唇を奪った。
「ん……んっ……ちゅぱ……ちゅっ……」
ティアの抵抗はなかった。思わず肉棒に血液が巡ってもう一度膨張するが、そんな刺激はティアもすでに慣れた様子で、キスを止めることはなかった。
そして最中、ふと思い出す。
「……ちゅ……そういえば以前、キスだけはやめてくれと言ってたな。どうしてだったんだ?」
いつの間にか……初めは意図してやったことだが、キスが当たり前のようにできている。抵抗がなくなったのは何か心変わりでもあったのだろうか。
ティアはそんな俺の問いかけに、キスでぼーっとしていた顔を横へ向けた。
「……キスは大切にしてたんです。はじめては将来結婚する人とできたらって憧れてました」
その目は、……どこか悲しい色を滲ませていた。
「それを俺が奪ったから、諦めたのか?」
「……たぶん違います。私はその憧れを捨てたかったんです。でも捨てきれなくて……ずっと悩みっぱなしでした」
「なんで捨てようと思ったんだ?」
「……私にとってその憧れは不相応な願いだって知ってしまったんです」
「…………」
つまり、俺が夢を終わらせる前に、ティアは夢を終わらせたいと願っていたということか。
なぜ、終わらせようと思ったのだろう。借金して俺に雇われているから? だが、それもこの学園を出る頃には自由の身だ。何か別の理由だろう。
その理由を俺は強く知りたいと思ったが、何故か訊いていいものなのか戸惑ってしまった。……俺らしくもない。
おそらくそれはティアにとって大切な何かだったんだろう。終わらせたいと願いながらキスを守ろうとしたのは、心の奥底では終わらせたくないと願っていたからに違いない。
そうとなれば俺のしたことは、ティアを深く傷つけたんじゃないのかと心配になってくる。
「殿下が原因じゃないので気にしないでください」
そう言って健気に笑って見せるティアに対して、俺は何故か口付けをしなければと思っていた。
「んっ……」
ティアが一瞬驚いたように見てくるが、すぐに目を閉じて俺を受け入れてくる。
長い長い口付けでお互いの舌を絡めながら、俺はティアの夢を奪ったことに対する責任について考えていた。
……ちなみに、寝る時の件はキスで有耶無耶にした。今後とも自重するつもりはない。
#
あの後、勃起していたとはいえ性欲を吐き出すのを躊躇って、事前に用意していたメイド服に着替えさせてから昼食の用意をしてもらうためティアを見送った。
そして俺は、まだ深い眠りにあるエリノーラの隣に腰掛けた。
顔を隠していた金髪を払い退けて眠りこける美貌を確認する。そして、いたずら心が疼いた俺は、優しく頭を撫でてから、ぷるんと瑞々しい唇に沿わせて指でなぞった。
「……ぅん……」
すると、エリノーラが薄く瞼を開けはじめた。
もっと深い眠りにいたと思うのだが、唇はそれだけデリケートな部分なのだろうか。
もっといたずらしてやりたいと思っていたのにいきなりの誤算。せめて、と俺は息するたびに動く、仰向けで少し潰れた弾力のある胸を一揉みする。
そこで、ようやくエリノーラが目を覚ました。
「…………ジルクニール様……?」
「おはよう、エリノーラ。調子はどうだ?」
「調子……んっ」
碧い瞳が現れる。エリノーラは若干寝ぼけたように身体を起こして、俺にしなだれかかってきた。
なおも胸を揉める体勢だったので、柔らかな感触に手を馴染ませながら、余った方の手で下腹部に手を置いた。
「昨日のことは覚えてるか?」
そう言って、俺はエリノーラの丹田に刻まれたハート型の紋様を人差し指でなぞらせる。
すると、ぼーっとしていたエリノーラもそこへ視線を向けて、……一拍。それから徐々に顔が熱を帯びはじめて、エリノーラが俺の方へ向いた。
「ち、違うんです。あの時の私はどうかしていて、あんな私、私じゃないんです」
唇がわなわなと震えてるぞ。まぁ、あの変貌ぶりを自覚してるなら恥ずかしがるのも無理はないな。
なにせ、何度子種を吐き出しても足りないと言って自ら腰を振るくらいだ。もはや伝説のサキュバス王が憑依したんじゃないかというくらい色に狂っていた。貞淑そうなエリノーラからは考えつかなかった痴態で、それはそれで興奮したのだが。
「俺のことを好き好き言ってたがあれはエリノーラじゃなかったのか?」
「~~それは私ですけどっ!」
さて、昨日色々と揶揄われた仕返しはこのくらいにしておこうか。お仕置き自体は昨日済ませたことだからな。
俺はエリノーラを股座の間に座らせて後ろから抱きついた。すべすべとした女性らしい肉付きを心地よく感じながら、昨日の紋章術の本当の狙いについて切り出すことにした。
時間を置いて空気を変える。
「実はお前には黙ってたが、この淫紋はその特性とは別に役割がある」
「別の、役割ですか……?」
俺が淫紋を撫でるとビクンとしてからエリノーラが手を重ねてくる。
不思議そうに首を傾げるが焦らす話ではなかったので、ティアが帰って来る前にさっさと伝えることにした。
「淫紋の効果は昨日言った通りだ。任意で俺が催淫状態にさせるか一定の期間俺の種を取り込まなければ催淫状態になる。そして俺以外の男から受ける性的刺激はすべて消えて、これは間接的だろうが同様だ。判断はお前の子宮が、俺の魔力の波長で感じとる。淫紋は半永久的で、専用のアイテムがなければ俺の死後でしか解放されない。……これが淫紋の大まかな効果だ」
催淫状態の強さも任意で、擬似的にパスが繋がることなどいろいろあるがそれはおいおい知ればいい。
本題はここからだ。
「で、俺はこの淫紋を利用した魔法を作った」
「え?」
エリノーラが間抜けな声を漏らした。
そういう反応が来るのが分かっていたから、昨日はムードを壊さないために言わなかったのだ。
「《催淫/リインフォース》。淫紋が続く限り、お前の全能力が強化される魔法だ。あとで確認してみろ。魔力増加は少ないが他の身体能力については倍以上だぞ?」
「えっと、はい?」
「……なんだ、もう少し喜ぶと思ったんだが」
「……嬉しいですけど頭が追いつかないです……それに、魔法を使ったなんて……」
「信じられないか?」
「……いいえ。私はジルクニール様を、ご主人様のすべてを信じます」
そう言ってエリノーラが俺の頬にキスをした。
唇以外のキスは随分と昔の母上以来である。
ちょうどその頃になってティアが戻り、扉が叩かれた。
俺はすぐに解錠してティアを入室させてから、裸のエリノーラと二人で着替えて少し早めの昼食を摂る。
エリノーラにティアが起きていたことを教えてからかったり、ティアにも淫紋を刻むか訊いて断固として断られたりとそんな話題で会話して、学校を休んでの一時を大いに楽しんだ。
「昼からは顔を出そうか。じゃないと明日はレイモンドのやつがもっとうるさくなるだろうからな」
「でしたら放課後にまたお迎えにあがりましょうか?」
「いや、今日はティアの日だからな。先に戻ってゆっくり休んでくれ」
「分かりました。……ところでティアさんの日とはなんでしょうか?」
そう言えばエリノーラは知らなかったな。
俺は簡単に説明する。
「実はティアが錬金術師の家系でな。魔法が使えるから週に一度、訓練室を借りて練習をさせてるんだ」
「錬金術師!?」
エリノーラが俺の魔法の時より驚いてティアを見た。
まぁ、魔法を使ったとか胡散臭い言葉よりも、もはや滅多に見なくなった錬金術師のほうが驚くのはわかる。
何せ、その希少な才能と技術を求めてその多くが貴族に囲われ滅多に世に出なくなってしまったのだ。
その点、ポーションのみしか作れなかったとはいえ個人経営していたティアらブロンドの一族は貴族と関わりがない希少な存在でもあった。
むしろよく俺やレイモンドが巡り会えたものだ。
それこそ運命と言っていいくらいの確率の出会いだったと思っている。
「まぁ、だからではないが最低限、魔獣相手に一人で撃退できるくらいの自衛手段は持たせたいからな。そういうわけだからエリノーラは今日は淫紋が誤作動しないか休んで確認していろ。ティアの魔法特訓が終わればすぐ帰る」
「れ、錬金術師で、魔獣を撃退??」
エリノーラが困惑しているのを他所に、俺はティアの個人教育について思い馳せた。
今日はどんな魔法を教えようか。
色々と教えたいことが多くて悩んでしまうくらい、今から楽しみでならなかった。
俺は謝っていた。相手はティアである。
昼方、俺は気持ちのいい射精と共に目を覚ましたのだが、その下には俺に両手を拘束されて身動き取れずにいたティアが涙ながらに子宮に精液を流し込まれていたのだ。
昨日、というより明け方までエリノーラの淫紋完成のための激しい性交のせいで眠れなかったティアと、寝る直前に繋がってから一緒に寝たが、まったくの無意識で寝ぼけながらティアと交尾してしまったようだ。そのせいかティアは息絶え絶えになりながらも、俺に対して恨めしそうに目を向けていた。
「もう寝る時に入れるの、はぁっ……はぁ……禁止です」
「ま、待ってくれ。今日はその、エリノーラとのセックスを引きずって無意識に動いただけで、今までは大丈夫だったろ……?」
「何が大丈夫なのか分かりませんっ……はぁ……ふぅ……第一、なんで寝る時になるといつも私の中に入れようとするんですか。……エリノーラさんでも良かったじゃないですか」
なんで、と訊かれても「なんとなく」と答えそうになる。
だが、それは明確な答えではない。
いい機会だから改めて考えるとしよう。
俺が今、中出しした後もティアの中に入れたまま会話しているのは何故だ。ほぼ毎晩繋がってから寝ようとしているのは何故だ。
「……たぶん、ティアが一番安心するんだ」
ふと口に出た言葉だったが、それが本質だとも思った。
そう、安心だ。
俺にとってティア・ブロンドという桃髪の少女は癒しの寄り辺だった。はじめて城を飛び出してきた時にできた友達であり、そして遊んだ時間以上にメイドとして支えてもらった時間がある。
俺が、父母を亡くして売られそうになっていたティアを助けたよりも、ずっと彼女に助けられたと思っているのだ。
「まだ恋愛感情とか分からないが、愛おしいと思ってる。手放したくないから、逃げださないように捕まえておきたいんだろうな」
「……ッ」
あ、ティアが真っ赤になった。
可愛い、そして愛おしさが止まらない。
俺はシーツを手繰り寄せて、マントを羽織るように靡かせてから頭まで被った。
シーツの中には正常位で密着する様に繋がる俺とティアだけになり、そのままティアの唇を奪った。
「ん……んっ……ちゅぱ……ちゅっ……」
ティアの抵抗はなかった。思わず肉棒に血液が巡ってもう一度膨張するが、そんな刺激はティアもすでに慣れた様子で、キスを止めることはなかった。
そして最中、ふと思い出す。
「……ちゅ……そういえば以前、キスだけはやめてくれと言ってたな。どうしてだったんだ?」
いつの間にか……初めは意図してやったことだが、キスが当たり前のようにできている。抵抗がなくなったのは何か心変わりでもあったのだろうか。
ティアはそんな俺の問いかけに、キスでぼーっとしていた顔を横へ向けた。
「……キスは大切にしてたんです。はじめては将来結婚する人とできたらって憧れてました」
その目は、……どこか悲しい色を滲ませていた。
「それを俺が奪ったから、諦めたのか?」
「……たぶん違います。私はその憧れを捨てたかったんです。でも捨てきれなくて……ずっと悩みっぱなしでした」
「なんで捨てようと思ったんだ?」
「……私にとってその憧れは不相応な願いだって知ってしまったんです」
「…………」
つまり、俺が夢を終わらせる前に、ティアは夢を終わらせたいと願っていたということか。
なぜ、終わらせようと思ったのだろう。借金して俺に雇われているから? だが、それもこの学園を出る頃には自由の身だ。何か別の理由だろう。
その理由を俺は強く知りたいと思ったが、何故か訊いていいものなのか戸惑ってしまった。……俺らしくもない。
おそらくそれはティアにとって大切な何かだったんだろう。終わらせたいと願いながらキスを守ろうとしたのは、心の奥底では終わらせたくないと願っていたからに違いない。
そうとなれば俺のしたことは、ティアを深く傷つけたんじゃないのかと心配になってくる。
「殿下が原因じゃないので気にしないでください」
そう言って健気に笑って見せるティアに対して、俺は何故か口付けをしなければと思っていた。
「んっ……」
ティアが一瞬驚いたように見てくるが、すぐに目を閉じて俺を受け入れてくる。
長い長い口付けでお互いの舌を絡めながら、俺はティアの夢を奪ったことに対する責任について考えていた。
……ちなみに、寝る時の件はキスで有耶無耶にした。今後とも自重するつもりはない。
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あの後、勃起していたとはいえ性欲を吐き出すのを躊躇って、事前に用意していたメイド服に着替えさせてから昼食の用意をしてもらうためティアを見送った。
そして俺は、まだ深い眠りにあるエリノーラの隣に腰掛けた。
顔を隠していた金髪を払い退けて眠りこける美貌を確認する。そして、いたずら心が疼いた俺は、優しく頭を撫でてから、ぷるんと瑞々しい唇に沿わせて指でなぞった。
「……ぅん……」
すると、エリノーラが薄く瞼を開けはじめた。
もっと深い眠りにいたと思うのだが、唇はそれだけデリケートな部分なのだろうか。
もっといたずらしてやりたいと思っていたのにいきなりの誤算。せめて、と俺は息するたびに動く、仰向けで少し潰れた弾力のある胸を一揉みする。
そこで、ようやくエリノーラが目を覚ました。
「…………ジルクニール様……?」
「おはよう、エリノーラ。調子はどうだ?」
「調子……んっ」
碧い瞳が現れる。エリノーラは若干寝ぼけたように身体を起こして、俺にしなだれかかってきた。
なおも胸を揉める体勢だったので、柔らかな感触に手を馴染ませながら、余った方の手で下腹部に手を置いた。
「昨日のことは覚えてるか?」
そう言って、俺はエリノーラの丹田に刻まれたハート型の紋様を人差し指でなぞらせる。
すると、ぼーっとしていたエリノーラもそこへ視線を向けて、……一拍。それから徐々に顔が熱を帯びはじめて、エリノーラが俺の方へ向いた。
「ち、違うんです。あの時の私はどうかしていて、あんな私、私じゃないんです」
唇がわなわなと震えてるぞ。まぁ、あの変貌ぶりを自覚してるなら恥ずかしがるのも無理はないな。
なにせ、何度子種を吐き出しても足りないと言って自ら腰を振るくらいだ。もはや伝説のサキュバス王が憑依したんじゃないかというくらい色に狂っていた。貞淑そうなエリノーラからは考えつかなかった痴態で、それはそれで興奮したのだが。
「俺のことを好き好き言ってたがあれはエリノーラじゃなかったのか?」
「~~それは私ですけどっ!」
さて、昨日色々と揶揄われた仕返しはこのくらいにしておこうか。お仕置き自体は昨日済ませたことだからな。
俺はエリノーラを股座の間に座らせて後ろから抱きついた。すべすべとした女性らしい肉付きを心地よく感じながら、昨日の紋章術の本当の狙いについて切り出すことにした。
時間を置いて空気を変える。
「実はお前には黙ってたが、この淫紋はその特性とは別に役割がある」
「別の、役割ですか……?」
俺が淫紋を撫でるとビクンとしてからエリノーラが手を重ねてくる。
不思議そうに首を傾げるが焦らす話ではなかったので、ティアが帰って来る前にさっさと伝えることにした。
「淫紋の効果は昨日言った通りだ。任意で俺が催淫状態にさせるか一定の期間俺の種を取り込まなければ催淫状態になる。そして俺以外の男から受ける性的刺激はすべて消えて、これは間接的だろうが同様だ。判断はお前の子宮が、俺の魔力の波長で感じとる。淫紋は半永久的で、専用のアイテムがなければ俺の死後でしか解放されない。……これが淫紋の大まかな効果だ」
催淫状態の強さも任意で、擬似的にパスが繋がることなどいろいろあるがそれはおいおい知ればいい。
本題はここからだ。
「で、俺はこの淫紋を利用した魔法を作った」
「え?」
エリノーラが間抜けな声を漏らした。
そういう反応が来るのが分かっていたから、昨日はムードを壊さないために言わなかったのだ。
「《催淫/リインフォース》。淫紋が続く限り、お前の全能力が強化される魔法だ。あとで確認してみろ。魔力増加は少ないが他の身体能力については倍以上だぞ?」
「えっと、はい?」
「……なんだ、もう少し喜ぶと思ったんだが」
「……嬉しいですけど頭が追いつかないです……それに、魔法を使ったなんて……」
「信じられないか?」
「……いいえ。私はジルクニール様を、ご主人様のすべてを信じます」
そう言ってエリノーラが俺の頬にキスをした。
唇以外のキスは随分と昔の母上以来である。
ちょうどその頃になってティアが戻り、扉が叩かれた。
俺はすぐに解錠してティアを入室させてから、裸のエリノーラと二人で着替えて少し早めの昼食を摂る。
エリノーラにティアが起きていたことを教えてからかったり、ティアにも淫紋を刻むか訊いて断固として断られたりとそんな話題で会話して、学校を休んでの一時を大いに楽しんだ。
「昼からは顔を出そうか。じゃないと明日はレイモンドのやつがもっとうるさくなるだろうからな」
「でしたら放課後にまたお迎えにあがりましょうか?」
「いや、今日はティアの日だからな。先に戻ってゆっくり休んでくれ」
「分かりました。……ところでティアさんの日とはなんでしょうか?」
そう言えばエリノーラは知らなかったな。
俺は簡単に説明する。
「実はティアが錬金術師の家系でな。魔法が使えるから週に一度、訓練室を借りて練習をさせてるんだ」
「錬金術師!?」
エリノーラが俺の魔法の時より驚いてティアを見た。
まぁ、魔法を使ったとか胡散臭い言葉よりも、もはや滅多に見なくなった錬金術師のほうが驚くのはわかる。
何せ、その希少な才能と技術を求めてその多くが貴族に囲われ滅多に世に出なくなってしまったのだ。
その点、ポーションのみしか作れなかったとはいえ個人経営していたティアらブロンドの一族は貴族と関わりがない希少な存在でもあった。
むしろよく俺やレイモンドが巡り会えたものだ。
それこそ運命と言っていいくらいの確率の出会いだったと思っている。
「まぁ、だからではないが最低限、魔獣相手に一人で撃退できるくらいの自衛手段は持たせたいからな。そういうわけだからエリノーラは今日は淫紋が誤作動しないか休んで確認していろ。ティアの魔法特訓が終わればすぐ帰る」
「れ、錬金術師で、魔獣を撃退??」
エリノーラが困惑しているのを他所に、俺はティアの個人教育について思い馳せた。
今日はどんな魔法を教えようか。
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