1 / 1
モテるということ
しおりを挟む
ザパーン……
泉の水で遊ぶ影が一つ。腰まで伸びた長い翠色の髪に、水を含んだような淡い水色の瞳、頭に大きな角、エルフのような長い耳を持っている。
その者の名は、ラシュカ・テティール。女である。
しかしその実、スタイルが良く、性格もさっぱりしている。なので、女にモテモテで、よく告白されている。
ラシュカは同性愛に寛容だが、その告白してくる人達の中に好きだと思う人はいないらしい。それゆえ、やんわりと断っている。
そんなクールで優しい彼女だが、水浴びをしている時には人が変わったようになる。
具体的に、どうなるかと言うと――
「あー、気持ちいい~~! さいっっこう! やっぱり水浴びはいいよなぁ!」
テンションマックスにして叫ぶラシュカの姿があった。普段の二割……いや、五割増しのラシュカの声が響く。
その声に釣られ、無数の小鳥達がピチピチと鳴きながら飛んでくる。
そして、ラシュカと共に水浴びを楽しむ。和やかな光景。
いつも通りの日常だ。そして――
「あの……こっちにまで声が聞こえて来たんですが……」
木陰からぴょこっと顔を覗かせたのは、ミルフィー・サンドラ。
ピンクのうさみみパーカーを被り、その下から雪のように白い髪と、炎のような真っ赤な瞳を覗かせる可愛らしい少女。如何にも女の子らしいそれはだが、その瞳が不安げに揺れている。
「あ、ほんと? でも今更ミルフィーには隠す気ないしなぁ~」
「いや……ほかの子に聞かれたらどうするんです……?」
呆れ気味にミルフィーが半眼で問う。しかし、この泉は入り組んでいて、とても人がのこのこ入ってくる場所ではない。
そのことを、ミルフィーも知らないはずはないのだが――
「こんなとこ、誰も来ないでしょ。だからへーきへーき」
「うーん……まあ、いっか……」
と、呆れ気味にミルフィーの方が折れる。
そして、「それよりも……」と続ける。
「とりあえずその服装……何とかしません?」
「?」
ラシュカの姿は、首から胸にかけてまでのタオルがかけられていて、下半身にはバスタオルを巻いていてる。
……そう、その姿は控えめに言って人前には出られない格好をしていた。
「別にこれが普通なんだけどなぁ……」
「ラシュカの普通はみんなと少しズレてるんですよきっと」
「なんだよー、みんな違ってみんな良いだろー?」
「最低限のマナーは身につけてって言ってるんです……」
ミルフィーは何を言っても揺らがないラシュカの信念にため息を吐いた。
こんなでは、またいたちごっこになるばかりでまるで進展がない。
まあ、これもいつも通りの日常だとミルフィーは認めがたいが認めるしかないと、嘆息する。
だが、そんなミルフィーにお構い無しにラシュカは続ける。
「ミルフィー……ずっと前から思ってたんだけど……」
「ん? なんです?」
「実はさ…………」
と、わざとらしく咳払いを一つ。
「ミルフィー、私のこと好きでしょ」
ニヤリと口角を上げながらラシュカが告げると、ミルフィーは目を見開き、ラシュカをガン見した。
「な、なっ!? ななな、何ををを??」
「あはは、ミルフィー面白い」
慌てふためくミルフィーを差し置いてラシュカが口を開けて笑う。
「冗談冗談」
「もう……ラシュカは冗談なんて言わないと思ってたから……油断しました……」
なおも笑っているラシュカを遠目に見ながらミルフィーは考えた。
――自分はラシュカが好きなのか、と。
もちろん友達としてというか、人として好きだ。しかし、その、恋愛感情も含まれているのかと聞かれればこう答えるだろう。
――分からない。と。
ミルフィーはいかにも、世の中の考えるとても可愛い女の子。それゆえ言い寄ってきた男性は数しれない。
だが、付き合ったことなんてなかった。根本的に“恋愛”と言うものが分からなかったのだ。
ラシュカがどうこうではなく、ただ単に自分の中の問題なのだ。
それをミルフィーは分かっていた。分かっていた……つもりだった。
しかし、ラシュカがミルフィーの隠された本音を暴いたのではないか。ラシュカは本当はミルフィーの事をミルフィー以上に知っているのではないか。
そう思わずにはいられなかった。
「おーい、ミルフィー?」
「ぴゃへっ!?」
「今すごい声出たな……」
「ご、ごめんなさい……ちょっとぼーっとしてた……」
ラシュカの声に現実に戻ってきたミルフィーは、あの思考を置き去りにラシュカと共に歩き出した。
☆ ☆ ☆
「「あ、あのっ……ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」」
「「はぁ……」」
ラシュカとミルフィーは同時に別の場所で、ラシュカは女から、ミルフィーは男から告白を受けていた。
そして今回も――『うん、キッパリと断ろう』二人同時にそう思った。
どうしてこうなるのか……二人は呆れ、言い寄ってくる者達を次第に“鬱陶しい”と思うまでになっていた。
それは経験から生じる“負”の感情だった。経験したことがない人から言わせれば、控えめに言って“羨ましい”と思うだろう。
だが、考えても見てほしい。好きでもない無数の人間から一方的に好意を向けられ、それをいちいち丁寧に断らなければいけないという面倒な“作業”がいるのだ。
そんな楽しくもない“ただ振るだけの作業”を沢山しなくてはならない二人の気持ちなんて、一体誰が分かるのだろうか。
それは――“多分”、“同じ経験をした人にしか分かり得ない”だろう。
「これでもまだ羨ましいなんて言うやつは……ただのマゾだぞ……」
ラシュカはため息混じりにそう零す。
ミルフィーに至っては精神的に限界なのか、取り乱しそうになる心を必死で抑えて静かに泣く。
「こんなの……もう嫌だよ……」
嗚咽混じりに零した声はしかし、誰にも拾われることなく風に乗って消えた。
☆ ☆ ☆
陽の光が真っ赤に染まり、この世の終わりを体現するような淡く儚い茜色の空が広がる。
水も紅い空を写し、なんとも言えない幻想さが残る。
そんな時刻に、林が茂った――暗く淀んだ場所を徘徊する影が一つ。
影は林の先にある泉を視界に捉えると同時、無性に飛び込みたい衝動を抑え、深呼吸をする。
そして辺りを入念に見渡し、誰もいないことを確認すると――
「ヒャッホー!」
元気よく明るい声で泉へと飛び込んだ。
さっきまでシリアスな空気感満載だったはずなのだが、もうとっくにシリアスさんは消えていた。
「最高すぎる……ずっとここにいたい……」
悦に浸る翠髪の少女。ラシュカ・テティールは大きな角を振りかざし、頭から泉へと再び潜っていった。
ラシュカは普段クールで綺麗な少女だ。しかし、水を浴びるとたちまち子供みたいな幼い少女な雰囲気を身に纏う。
「うーん……ちょっと手ぇしわしわになっちゃった……」
時間を忘れて水を浴びているのでそこかしこに不調が生じる。
そんなラシュカを陰でひっそりとのぞき込む影が一つ揺らめいた。
「もー、そんなに浸かってるからですよ……! 時間配分には気をつけてください!」
ぷんすか、という擬音語が聞こえそうな叱り方をしたのはミルフィー・サンドラ。
ピンクのうさみみパーカーを深く被り、その奥からちらりと顔を覗かせた。
「むー、ミルフィーってお母さんみたい……うざい」
「うざいってなんですか!? 私はラシュカのために叱ってるのに!」
「ますますお母さん感が増した……」
街の喧騒とは程遠い場所の、静かで穏やかな場所のはずなのだが…………泉の近くではあらゆる音が絶えなかった。
だが不思議と心地よいものがあり、今日も平和だなと感じさせる何かがあった。
「ねぇ、ミルフィー」
「なんですか? 水浴びしたいなら止めますよ」
「いや、そうじゃなくて……」
水浴びしたいのは山々なんだけど……と付け加えて、
「付き合わない?」
唐突な告白がラシュカの口から出た。
ミルフィーは目を白黒させながらラシュカを見る。ラシュカも今更自分の言ったことの重みを理解し、慌てふためいた。
「あ、い、いやっ……あのね? ミルフィーなら気心知れてるしいいかなってね? その、お互い色々悩んでるじゃん?? だったらいっそ付き合っちゃうのもありかなー……なんてね??」
一息で捲し立てたせいかラシュカは肩で息をしている。一方、ミルフィーは突然のことに混乱してキャパオーバーになっているのか、頭から何やら蒸気みたいなものが出ている。
「え、ちょ……え??」
「あ~、すまん。もう忘れてくれ! なんかすごく恥ずかしくなってきた!」
ラシュカは自分の顔を自分の手で隠した。その下には、顔を真っ赤にしたラシュカがいた。
ミルフィーはようやく思考が追いついてきたようで――目を回しながらではあるが――一応理解はしたようだ。
「いいですよ」
あっさりミルフィーの口から『OK』が零れた。
炎のような真っ赤な瞳で真っ直ぐに“彼女”を見つめる。
ラシュカはそれに気付き、“彼女”の方に水を含んだように淡い水色の瞳で応える。
「え、い、いいのか……?」
「ええ。まあ、ぶっちゃけ男性の告白を断る口実にもなりますしね」
「あー……まあな。私も元々女子からの告白を断る口実に使うつもりだったし」
ツンとした態度――照れ隠しをしたミルフィーと、苦笑して確かにとミルフィーの意見を肯定するラシュカの姿があった。
「でも……まあ、あなたのことは好きですよ――ラシュカ様」
「あはは、そりゃ嬉し……ってええ!? 様付け!?」
「何かおかしいですか? 付き合うってそういうことでしょ?」
グイグイ迫ってくるミルフィーにどう対応すればいいのか分からず困惑しているラシュカ。
微笑ましいその光景はだが、ラシュカにとっては心穏やかなものではなく――
「ちょ! 落ち着こ?? ね??」
「駄目です。待ちませんから」
ラシュカの静止の声を聞かず、ラシュカの肌に指を滑らせるミルフィー。
ぶっちゃけラシュカの貞操がやばい。という状態だった。
「ひぇっ。ちょ……タンマタンマ!」
「やです。ラシュカ様の全てをください」
今日も泉の花園には、百合の花が咲き誇っていた……
泉の水で遊ぶ影が一つ。腰まで伸びた長い翠色の髪に、水を含んだような淡い水色の瞳、頭に大きな角、エルフのような長い耳を持っている。
その者の名は、ラシュカ・テティール。女である。
しかしその実、スタイルが良く、性格もさっぱりしている。なので、女にモテモテで、よく告白されている。
ラシュカは同性愛に寛容だが、その告白してくる人達の中に好きだと思う人はいないらしい。それゆえ、やんわりと断っている。
そんなクールで優しい彼女だが、水浴びをしている時には人が変わったようになる。
具体的に、どうなるかと言うと――
「あー、気持ちいい~~! さいっっこう! やっぱり水浴びはいいよなぁ!」
テンションマックスにして叫ぶラシュカの姿があった。普段の二割……いや、五割増しのラシュカの声が響く。
その声に釣られ、無数の小鳥達がピチピチと鳴きながら飛んでくる。
そして、ラシュカと共に水浴びを楽しむ。和やかな光景。
いつも通りの日常だ。そして――
「あの……こっちにまで声が聞こえて来たんですが……」
木陰からぴょこっと顔を覗かせたのは、ミルフィー・サンドラ。
ピンクのうさみみパーカーを被り、その下から雪のように白い髪と、炎のような真っ赤な瞳を覗かせる可愛らしい少女。如何にも女の子らしいそれはだが、その瞳が不安げに揺れている。
「あ、ほんと? でも今更ミルフィーには隠す気ないしなぁ~」
「いや……ほかの子に聞かれたらどうするんです……?」
呆れ気味にミルフィーが半眼で問う。しかし、この泉は入り組んでいて、とても人がのこのこ入ってくる場所ではない。
そのことを、ミルフィーも知らないはずはないのだが――
「こんなとこ、誰も来ないでしょ。だからへーきへーき」
「うーん……まあ、いっか……」
と、呆れ気味にミルフィーの方が折れる。
そして、「それよりも……」と続ける。
「とりあえずその服装……何とかしません?」
「?」
ラシュカの姿は、首から胸にかけてまでのタオルがかけられていて、下半身にはバスタオルを巻いていてる。
……そう、その姿は控えめに言って人前には出られない格好をしていた。
「別にこれが普通なんだけどなぁ……」
「ラシュカの普通はみんなと少しズレてるんですよきっと」
「なんだよー、みんな違ってみんな良いだろー?」
「最低限のマナーは身につけてって言ってるんです……」
ミルフィーは何を言っても揺らがないラシュカの信念にため息を吐いた。
こんなでは、またいたちごっこになるばかりでまるで進展がない。
まあ、これもいつも通りの日常だとミルフィーは認めがたいが認めるしかないと、嘆息する。
だが、そんなミルフィーにお構い無しにラシュカは続ける。
「ミルフィー……ずっと前から思ってたんだけど……」
「ん? なんです?」
「実はさ…………」
と、わざとらしく咳払いを一つ。
「ミルフィー、私のこと好きでしょ」
ニヤリと口角を上げながらラシュカが告げると、ミルフィーは目を見開き、ラシュカをガン見した。
「な、なっ!? ななな、何ををを??」
「あはは、ミルフィー面白い」
慌てふためくミルフィーを差し置いてラシュカが口を開けて笑う。
「冗談冗談」
「もう……ラシュカは冗談なんて言わないと思ってたから……油断しました……」
なおも笑っているラシュカを遠目に見ながらミルフィーは考えた。
――自分はラシュカが好きなのか、と。
もちろん友達としてというか、人として好きだ。しかし、その、恋愛感情も含まれているのかと聞かれればこう答えるだろう。
――分からない。と。
ミルフィーはいかにも、世の中の考えるとても可愛い女の子。それゆえ言い寄ってきた男性は数しれない。
だが、付き合ったことなんてなかった。根本的に“恋愛”と言うものが分からなかったのだ。
ラシュカがどうこうではなく、ただ単に自分の中の問題なのだ。
それをミルフィーは分かっていた。分かっていた……つもりだった。
しかし、ラシュカがミルフィーの隠された本音を暴いたのではないか。ラシュカは本当はミルフィーの事をミルフィー以上に知っているのではないか。
そう思わずにはいられなかった。
「おーい、ミルフィー?」
「ぴゃへっ!?」
「今すごい声出たな……」
「ご、ごめんなさい……ちょっとぼーっとしてた……」
ラシュカの声に現実に戻ってきたミルフィーは、あの思考を置き去りにラシュカと共に歩き出した。
☆ ☆ ☆
「「あ、あのっ……ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」」
「「はぁ……」」
ラシュカとミルフィーは同時に別の場所で、ラシュカは女から、ミルフィーは男から告白を受けていた。
そして今回も――『うん、キッパリと断ろう』二人同時にそう思った。
どうしてこうなるのか……二人は呆れ、言い寄ってくる者達を次第に“鬱陶しい”と思うまでになっていた。
それは経験から生じる“負”の感情だった。経験したことがない人から言わせれば、控えめに言って“羨ましい”と思うだろう。
だが、考えても見てほしい。好きでもない無数の人間から一方的に好意を向けられ、それをいちいち丁寧に断らなければいけないという面倒な“作業”がいるのだ。
そんな楽しくもない“ただ振るだけの作業”を沢山しなくてはならない二人の気持ちなんて、一体誰が分かるのだろうか。
それは――“多分”、“同じ経験をした人にしか分かり得ない”だろう。
「これでもまだ羨ましいなんて言うやつは……ただのマゾだぞ……」
ラシュカはため息混じりにそう零す。
ミルフィーに至っては精神的に限界なのか、取り乱しそうになる心を必死で抑えて静かに泣く。
「こんなの……もう嫌だよ……」
嗚咽混じりに零した声はしかし、誰にも拾われることなく風に乗って消えた。
☆ ☆ ☆
陽の光が真っ赤に染まり、この世の終わりを体現するような淡く儚い茜色の空が広がる。
水も紅い空を写し、なんとも言えない幻想さが残る。
そんな時刻に、林が茂った――暗く淀んだ場所を徘徊する影が一つ。
影は林の先にある泉を視界に捉えると同時、無性に飛び込みたい衝動を抑え、深呼吸をする。
そして辺りを入念に見渡し、誰もいないことを確認すると――
「ヒャッホー!」
元気よく明るい声で泉へと飛び込んだ。
さっきまでシリアスな空気感満載だったはずなのだが、もうとっくにシリアスさんは消えていた。
「最高すぎる……ずっとここにいたい……」
悦に浸る翠髪の少女。ラシュカ・テティールは大きな角を振りかざし、頭から泉へと再び潜っていった。
ラシュカは普段クールで綺麗な少女だ。しかし、水を浴びるとたちまち子供みたいな幼い少女な雰囲気を身に纏う。
「うーん……ちょっと手ぇしわしわになっちゃった……」
時間を忘れて水を浴びているのでそこかしこに不調が生じる。
そんなラシュカを陰でひっそりとのぞき込む影が一つ揺らめいた。
「もー、そんなに浸かってるからですよ……! 時間配分には気をつけてください!」
ぷんすか、という擬音語が聞こえそうな叱り方をしたのはミルフィー・サンドラ。
ピンクのうさみみパーカーを深く被り、その奥からちらりと顔を覗かせた。
「むー、ミルフィーってお母さんみたい……うざい」
「うざいってなんですか!? 私はラシュカのために叱ってるのに!」
「ますますお母さん感が増した……」
街の喧騒とは程遠い場所の、静かで穏やかな場所のはずなのだが…………泉の近くではあらゆる音が絶えなかった。
だが不思議と心地よいものがあり、今日も平和だなと感じさせる何かがあった。
「ねぇ、ミルフィー」
「なんですか? 水浴びしたいなら止めますよ」
「いや、そうじゃなくて……」
水浴びしたいのは山々なんだけど……と付け加えて、
「付き合わない?」
唐突な告白がラシュカの口から出た。
ミルフィーは目を白黒させながらラシュカを見る。ラシュカも今更自分の言ったことの重みを理解し、慌てふためいた。
「あ、い、いやっ……あのね? ミルフィーなら気心知れてるしいいかなってね? その、お互い色々悩んでるじゃん?? だったらいっそ付き合っちゃうのもありかなー……なんてね??」
一息で捲し立てたせいかラシュカは肩で息をしている。一方、ミルフィーは突然のことに混乱してキャパオーバーになっているのか、頭から何やら蒸気みたいなものが出ている。
「え、ちょ……え??」
「あ~、すまん。もう忘れてくれ! なんかすごく恥ずかしくなってきた!」
ラシュカは自分の顔を自分の手で隠した。その下には、顔を真っ赤にしたラシュカがいた。
ミルフィーはようやく思考が追いついてきたようで――目を回しながらではあるが――一応理解はしたようだ。
「いいですよ」
あっさりミルフィーの口から『OK』が零れた。
炎のような真っ赤な瞳で真っ直ぐに“彼女”を見つめる。
ラシュカはそれに気付き、“彼女”の方に水を含んだように淡い水色の瞳で応える。
「え、い、いいのか……?」
「ええ。まあ、ぶっちゃけ男性の告白を断る口実にもなりますしね」
「あー……まあな。私も元々女子からの告白を断る口実に使うつもりだったし」
ツンとした態度――照れ隠しをしたミルフィーと、苦笑して確かにとミルフィーの意見を肯定するラシュカの姿があった。
「でも……まあ、あなたのことは好きですよ――ラシュカ様」
「あはは、そりゃ嬉し……ってええ!? 様付け!?」
「何かおかしいですか? 付き合うってそういうことでしょ?」
グイグイ迫ってくるミルフィーにどう対応すればいいのか分からず困惑しているラシュカ。
微笑ましいその光景はだが、ラシュカにとっては心穏やかなものではなく――
「ちょ! 落ち着こ?? ね??」
「駄目です。待ちませんから」
ラシュカの静止の声を聞かず、ラシュカの肌に指を滑らせるミルフィー。
ぶっちゃけラシュカの貞操がやばい。という状態だった。
「ひぇっ。ちょ……タンマタンマ!」
「やです。ラシュカ様の全てをください」
今日も泉の花園には、百合の花が咲き誇っていた……
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる