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第一章 高校一年生(三学期)

ちやほや(瑠衣)

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 瑠衣は、昔からチヤホヤされるのが好きだった。
 チヤホヤされて嫌な気分にはならないし、むしろ気分爽快になるようだ。
 黒のストレートの髪をくるくると弄ぶ。
 今日は珍しく髪を結んでいなかった。

「瑠衣ちゃんって可愛いよね」
「正直他の子なんて目に行かないよ!」
「瑠衣ちゃーん、今日もプリ撮りに行こ~!」
「えー? ほんとかにゃ? ありがとにゃあ!」

 今日もクラスメイトの女子たちが瑠衣のことを褒める。
 瑠衣はすごく気持ちよさそうな表情を浮かべている。
 こうやってみんなの中心でいることに、一種の快楽を感じているようだった。

「あ、教室に忘れ物しちゃったにゃ~。取りに行ってくるにゃ」
「そっか。行ってらっしゃーい。じゃあ下で待ってるからね~!」
「うんにゃ!」

 瑠衣は甲高い声を出しながら手を振った。
 しかし、背中を向けると、瑠衣の顔から笑顔が消える。
 クラスメイトたちといるのは楽しいが、すごく疲れるらしい。
 それでも瑠衣は、クラスメイトたちの“アイドル”として“愛されたい”ようだ。

 階段を上り、角を曲がる。
 瑠衣の足音しか響かない放課後の廊下は、少し物悲しかった。
 瑠衣は妙に不安になってくる。
 この地球上に自分しかいなくなったのではないかという不安が襲う。

 ――ひとりは、嫌だ。
 瑠衣はどうしようもなく悲しくなってきた。
 孤独というものは、瑠衣が嫌いなものの一つだ。

 ガラッと力強く教室のドアを開けると、そこには静かに本を読むクラスメイトが一人いた。
 瑠衣は不安がなくなり、ほっと安堵する。
 今の瑠衣には、誰かがそこにいてくれるだけでよかった。

「人は独りじゃ生きていけないのにゃ……」

 瑠衣は誰に言うでもなく、そう静かに呟いた。
 その呟きに反応するように、クラスメイトは少しだけ瑠衣に視線を向けたような気がした。
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