182 / 239
第二章 高校二年生(一学期)
じもと(紫乃)
しおりを挟む
紫乃は今地元の小学校に来ていた。
あまり深い意味はないが、なぜかふと来てみたくなったのだ。
「あの子は……来ないよね~……」
記憶の中に鮮明に残る“あの子”の姿。
いつの間にかこの目は美久里を追っていたが、あくまで美久里は似ているだけ。
“あの子”だとは限らない。
「うーん……もうちょっと見ていこうかな~……」
「あ、あの……そこにずっといると不審者だと思われますよ……?」
紫乃がブツブツ独り言を呟いていると、後ろから戸惑い交じりの声が聞こえてきた。
誰だろうと思って振り返ると、紫乃は目を疑った。
だってそれは、その人は、紛れもない――“あの子”だったから。
「え、え、え? なんで……ここに……」
「はい? 私のことご存知なんですか……?」
ご存知もなにも、本人だろう。
紫乃はそう決めつけ、じっくりと舐め回すようにその子を見る。
美久里と同じような紫色の髪をしているが、美久里よりも長くて整っている。
「ね、ねぇ、僕のことわからない~……? 一緒にここ通ってたよね~?」
「確かにここには通ってましたが……あなたのことは……ん? いや、僕っ娘でその青色の髪……紫乃さん、ですか?」
「おぉ~! やっぱり僕のこと知ってるんだ~!」
「ち、近い近い! 知ってはいるけど、会ったことはないですよ……?」
この子はなにを言っているのだろう。
ストーカーでもない限り、会ってなきゃ知らないだろう。
でもこの子は話しかけてきたからストーカーではない……と思う。
「あ、あの、とりあえず落ち着いてください。私は美奈って言います。姉がいつもお世話になっております」
美奈と名乗った子は、深々と頭を下げる。
美奈……姉……美久里と似たような髪……
「えっ!? もしかして美久里ちゃんの妹さん~!?」
「そ、そうですけど……」
「わー、はじめまして~。噂には聞いてたけどしっかりしてそうな感じがあるね~」
「え、えっと、ありがとうございます……」
紫乃のペースに持ち込まれた美奈は、困惑しながら返事をする。
「可愛いね~。でも背もそこそこあって……さすが美久里ちゃんの妹さんだ~」
「な、なにを褒められているのかわかりませんが……えっと、ここでなにを?」
美奈の問いかけに、紫乃は目を見開いた。
そういえば、“あの子”を探しに来ていたのだ。
それを忘れてしまうなんて。
「実はね、僕には忘れられない人がいて~……」
そうして紫乃は語り出す。
美奈はどう思っているのかわからないが、徐々に真剣そうな面持ちになる。
紫乃の話が真剣なものとわかったからだろう。
「……ってことで、ここに来たってわけ~」
「なるほど……紫乃さんは本当にその人のことが好きなんですね」
「うん、そうだね~。またその子に会いたいと思ってるんだけど……なかなか難しいのかも~……」
紫乃は抜けるような青空を見上げながらつぶやく。
もう一度だけでいいからあの子と会って、楽しくおしゃべりができたら……紫乃はそれで満足なのだ。
思い出補正がかかっていて、その子がヒーローのように見えるだけかもしれない。
でも、それでもいい。紫乃が救われたのは、紛れもない事実なのだから。
「うーん……それ、うちの姉ってことはないですかね……?」
美奈は顎に手を添えながら尋ねる。
「えー……でも、僕が説明した時は『私は関係ないです』って感じだったよ~?」
「あー、姉は記憶力ないですから。多分そのせいだと思います」
え……っと、つまり……?
どういうことだろうと、紫乃の頭は混乱の渦に巻き込まれる。
理解はできていない。
だけど、もしそうなら……という希望が見えてきた。
「私や姉と姿が似ているんですよね? しかも一人だった紫乃さんに声をかけて友だちに。姉は確かにコミュ障ですけど、同じ趣味を持つ子だったらそれはやわらぐだろうと思いますし」
「な、なるほど~……でも、なんか釈然としないというか……」
紫乃はうんうん唸る。
思い出の子が美久里だということが嫌なわけではない。
むしろより身近な存在だったのなら、紫乃の願いはもう叶っているわけで。
「でも……でも……それを向こうが知らないままなんていうのは……なんか嫌だな~……」
「確かにそうですね。気持ちはわかります。なので、根気よく思い出させるのがいいのではないかと。私も協力しますよ」
そう言って、美奈は口角を上げる。
それと同時に、紫乃の顔もパァーっと明るくなる。
紫乃の願いを叶えるのに、これ以上の味方はいないのだから。
「あっ、ありがと~!」
紫乃の目頭が、少しだけ熱くなったような気がした。
あまり深い意味はないが、なぜかふと来てみたくなったのだ。
「あの子は……来ないよね~……」
記憶の中に鮮明に残る“あの子”の姿。
いつの間にかこの目は美久里を追っていたが、あくまで美久里は似ているだけ。
“あの子”だとは限らない。
「うーん……もうちょっと見ていこうかな~……」
「あ、あの……そこにずっといると不審者だと思われますよ……?」
紫乃がブツブツ独り言を呟いていると、後ろから戸惑い交じりの声が聞こえてきた。
誰だろうと思って振り返ると、紫乃は目を疑った。
だってそれは、その人は、紛れもない――“あの子”だったから。
「え、え、え? なんで……ここに……」
「はい? 私のことご存知なんですか……?」
ご存知もなにも、本人だろう。
紫乃はそう決めつけ、じっくりと舐め回すようにその子を見る。
美久里と同じような紫色の髪をしているが、美久里よりも長くて整っている。
「ね、ねぇ、僕のことわからない~……? 一緒にここ通ってたよね~?」
「確かにここには通ってましたが……あなたのことは……ん? いや、僕っ娘でその青色の髪……紫乃さん、ですか?」
「おぉ~! やっぱり僕のこと知ってるんだ~!」
「ち、近い近い! 知ってはいるけど、会ったことはないですよ……?」
この子はなにを言っているのだろう。
ストーカーでもない限り、会ってなきゃ知らないだろう。
でもこの子は話しかけてきたからストーカーではない……と思う。
「あ、あの、とりあえず落ち着いてください。私は美奈って言います。姉がいつもお世話になっております」
美奈と名乗った子は、深々と頭を下げる。
美奈……姉……美久里と似たような髪……
「えっ!? もしかして美久里ちゃんの妹さん~!?」
「そ、そうですけど……」
「わー、はじめまして~。噂には聞いてたけどしっかりしてそうな感じがあるね~」
「え、えっと、ありがとうございます……」
紫乃のペースに持ち込まれた美奈は、困惑しながら返事をする。
「可愛いね~。でも背もそこそこあって……さすが美久里ちゃんの妹さんだ~」
「な、なにを褒められているのかわかりませんが……えっと、ここでなにを?」
美奈の問いかけに、紫乃は目を見開いた。
そういえば、“あの子”を探しに来ていたのだ。
それを忘れてしまうなんて。
「実はね、僕には忘れられない人がいて~……」
そうして紫乃は語り出す。
美奈はどう思っているのかわからないが、徐々に真剣そうな面持ちになる。
紫乃の話が真剣なものとわかったからだろう。
「……ってことで、ここに来たってわけ~」
「なるほど……紫乃さんは本当にその人のことが好きなんですね」
「うん、そうだね~。またその子に会いたいと思ってるんだけど……なかなか難しいのかも~……」
紫乃は抜けるような青空を見上げながらつぶやく。
もう一度だけでいいからあの子と会って、楽しくおしゃべりができたら……紫乃はそれで満足なのだ。
思い出補正がかかっていて、その子がヒーローのように見えるだけかもしれない。
でも、それでもいい。紫乃が救われたのは、紛れもない事実なのだから。
「うーん……それ、うちの姉ってことはないですかね……?」
美奈は顎に手を添えながら尋ねる。
「えー……でも、僕が説明した時は『私は関係ないです』って感じだったよ~?」
「あー、姉は記憶力ないですから。多分そのせいだと思います」
え……っと、つまり……?
どういうことだろうと、紫乃の頭は混乱の渦に巻き込まれる。
理解はできていない。
だけど、もしそうなら……という希望が見えてきた。
「私や姉と姿が似ているんですよね? しかも一人だった紫乃さんに声をかけて友だちに。姉は確かにコミュ障ですけど、同じ趣味を持つ子だったらそれはやわらぐだろうと思いますし」
「な、なるほど~……でも、なんか釈然としないというか……」
紫乃はうんうん唸る。
思い出の子が美久里だということが嫌なわけではない。
むしろより身近な存在だったのなら、紫乃の願いはもう叶っているわけで。
「でも……でも……それを向こうが知らないままなんていうのは……なんか嫌だな~……」
「確かにそうですね。気持ちはわかります。なので、根気よく思い出させるのがいいのではないかと。私も協力しますよ」
そう言って、美奈は口角を上げる。
それと同時に、紫乃の顔もパァーっと明るくなる。
紫乃の願いを叶えるのに、これ以上の味方はいないのだから。
「あっ、ありがと~!」
紫乃の目頭が、少しだけ熱くなったような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる