ストーキングは愛の証!【完結済み】

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第一章 ストーキングの恋模様!

昔を振り返っている?

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 ○月○日

 今日のさっちゃん先輩は少し上の空って感じがした。
 ここではないどこかを見ているような気がして……ま、まさか……好きな人でもいるのかな?
 もしそうなら大変だ。
 ア、アプローチしていかないと……!
 でもでもっ! もし嫌がられたらどうしよう!

 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。

 ☆ ☆ ☆

 狐色の髪を揺らし、沙友理は公園に遊びに来ていた。
 小学校低学年ぐらいの容姿。背丈が小さく、ランドセルを背負っている。

 隣にいた母親らしき女性が、ちらりと自分の腕時計を確認する。
 そして、沙友理の背負っていたランドセルを手に持ち、自宅へ戻ろうとしていた。

「それじゃ、夕飯までには帰ってくるのよ」
「はい! わかったのです!」

 沙友理は早熟で、しっかりとしている子供だった。
 だから母親も安心して、子供を放っておけるのだ。
 公園が家の近くにあるので、何かあってもすぐに家に帰ることができるところも、放っておける理由なのだとか。

「何するのがいいのですかね……」

 この公園の遊具は、もうだいたい遊び尽くしてしまった。
 そこそこ長いすべり台も、スリリングなブランコも、日々かたちを変えていく砂場も……全て飽きてしまっていたのだ。
 なぜこの公園にしてしまったのか、沙友理は後悔していた。

 そんな時、ふと辺りを見回すと、沙友理よりも少し小さくて幼い少女の姿があることに気づく。
 その少女はベンチに腰掛け、退屈そうにしている。

(もしかしたら……わたしと一緒なのかもしれないのです)

 沙友理と一緒で、飽きを感じているのかもしれない。
 そう思った沙友理は、その少女に思い切って声をかけることにした。

「は、はじめまして……」

 思えば、幼い頃に沙友理が知らない人に声をかけたのは、この時だけだったかもしれない。
 この頃の沙友理は少し人見知りで、知らない人との会話が上手く出来ないのだ。
 それなのに、勇気を振り絞って声をかけている。

 それは、そのぐらい少女が特別に見えたということだ。
 突然声をかけられた少女は驚いた様子で、檸檬色の瞳を丸くさせた。

「あ、は、はじめましてです……」

 少し気弱そうな印象の声。
 それでいて、女の子らしい高い声質が特徴的だ。
 その少女は黒色の短い髪をふわりと靡かせ、小首を傾げる。

「えっと……私に何か用ですか?」
「……あ、あの、えっと……い、一緒に遊びませんか?」

 なんだか盛大な告白をしたような雰囲気が漂う。
 沙友理はあまりの恥ずかしさに顔を赤らめ、頭から煙のような蒸気を噴き出させている。

 ずっと目を丸くしていた少女が、そんな沙友理の様子に初めて笑った。
 その笑顔は、花のように儚くて美しかったのを覚えている。
 少女はひとしきり笑った後、沙友理の目を見て言った。

「いいですよ」

 少女の言葉に、沙友理は翠色の目を輝かせる。

「で、何して遊びます?」
「あ……えっと……何しましょう……」

 声をかけることには成功したが、その後何をしようかというのはノープランだった。
 そんな沙友理の困惑気味な声に、少女は呆れ気味な顔になる。
 それで「二度と遊ばない」なんて言われたらたまったもんじゃないので、沙友理は必死で考える。

「う……あ! そうなのです! ずっとやってみたかったことがあるのです!」
「へぇ……なんですか?」

 沙友理が元気よく言うと、その少女は少し興味を持ったようだ。
 その様子に、沙友理は満足そうに笑う。

「ひみつきち! 作りたいのです!」

 目を輝かせて、少女の方へずいっと顔を近づけながら言った。
 少女は“ひみつきち”というワードに、心惹かれたらしい。
 翡翠のように眩く目を輝かせた沙友理に、負けじと檸檬色の目を輝かせる。

「いいですね! やりましょう!」

 “ひみつきち”は、少年少女にとって魅力のある言葉。
 二人の少女たちは、その魅力に確実に呑まれていたのだ。

 仲間を得た少女たちは、心強そうに駆け出す。
 まずは、“ひみつきち”を作るための道具や材料を集めなくては!

 二人はそれぞれわかれ、必要なものを集めに行く。
 木の枝やダンボール、その他もろもろをある程度見つけた後、それを持ちながら再びあのベンチに集まった。

「結構集まったのです……!」
「そうですね。なんだかワクワクしてきました!」

 二人は高揚感に満ち溢れ、今なら何でも出来る気がした。
 一種の万能感に包まれている。
 枝が程よく分かれている木を見つけ、そこにハシゴをかけていく。
 そして、そのハシゴの上にある木の枝に、集めたダンボールなどを置いていく。

「出来たのですー!」

 憧れだったひみつきちが完成した。
 だが、所詮子どもが作ったもの。
 今にも崩れそうなほど、儚く、脆い。

「崩れないといいのですが……」
「そうですね……」

 沙友理と少女はそう言って、祈るように手を組む。

 ☆ ☆ ☆

「沙友理ー! そろそろ帰ってきなさーい」
「あ、お母さんなのです……!」

 橙色だった空が、いつの間にか群青色に変わろうとしている。
 そんな中、お母さんがこちらに近づいてきている。
 もう夕飯の時間になってしまったらしい。

「そろそろ帰らなきゃなのです……」
「そうですか……じゃあ、私もそろそろ帰りますね」

 二人はベンチから立ち上がり、お互い顔を見合わせる。
 今日初めて会ったばかりだが、なんだか寂しくなってくる。
 それぐらい、二人の仲が親密になっていた。

「じゃあ……また遊びましょう」
「……はい。また遊びましょう」

 沙友理が別れを惜しむように言うと、少女も寂しげな顔をして言う。
 だが沙友理は、またここに来ればいつでも会えるだろうと、どこか軽く考えていた。

「じゃあ、また明日なのです」
「はい……また」

 そう言って、二人は別れた。
 なぜだか、永遠の別れのような……そんな気がしてならない。

 沙友理は不安になって振り返る。
 だが、そこにはこちらを見て手を振っている少女がいる。
 それに安心して、沙友理は再び前を向く。

「……あ、名前訊くの忘れてたのです……」

 明日訊けばいいか……
 そんな風に、沙友理は軽く考えていた。
 その後ずっと、高校生――いや、中学生になるまで会えないということを、この時の沙友理はまだ知らない。
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