7 / 50
第一章 ストーキングの恋模様!
昔を振り返っている?
しおりを挟む
○月○日
今日のさっちゃん先輩は少し上の空って感じがした。
ここではないどこかを見ているような気がして……ま、まさか……好きな人でもいるのかな?
もしそうなら大変だ。
ア、アプローチしていかないと……!
でもでもっ! もし嫌がられたらどうしよう!
――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。
☆ ☆ ☆
狐色の髪を揺らし、沙友理は公園に遊びに来ていた。
小学校低学年ぐらいの容姿。背丈が小さく、ランドセルを背負っている。
隣にいた母親らしき女性が、ちらりと自分の腕時計を確認する。
そして、沙友理の背負っていたランドセルを手に持ち、自宅へ戻ろうとしていた。
「それじゃ、夕飯までには帰ってくるのよ」
「はい! わかったのです!」
沙友理は早熟で、しっかりとしている子供だった。
だから母親も安心して、子供を放っておけるのだ。
公園が家の近くにあるので、何かあってもすぐに家に帰ることができるところも、放っておける理由なのだとか。
「何するのがいいのですかね……」
この公園の遊具は、もうだいたい遊び尽くしてしまった。
そこそこ長いすべり台も、スリリングなブランコも、日々かたちを変えていく砂場も……全て飽きてしまっていたのだ。
なぜこの公園にしてしまったのか、沙友理は後悔していた。
そんな時、ふと辺りを見回すと、沙友理よりも少し小さくて幼い少女の姿があることに気づく。
その少女はベンチに腰掛け、退屈そうにしている。
(もしかしたら……わたしと一緒なのかもしれないのです)
沙友理と一緒で、飽きを感じているのかもしれない。
そう思った沙友理は、その少女に思い切って声をかけることにした。
「は、はじめまして……」
思えば、幼い頃に沙友理が知らない人に声をかけたのは、この時だけだったかもしれない。
この頃の沙友理は少し人見知りで、知らない人との会話が上手く出来ないのだ。
それなのに、勇気を振り絞って声をかけている。
それは、そのぐらい少女が特別に見えたということだ。
突然声をかけられた少女は驚いた様子で、檸檬色の瞳を丸くさせた。
「あ、は、はじめましてです……」
少し気弱そうな印象の声。
それでいて、女の子らしい高い声質が特徴的だ。
その少女は黒色の短い髪をふわりと靡かせ、小首を傾げる。
「えっと……私に何か用ですか?」
「……あ、あの、えっと……い、一緒に遊びませんか?」
なんだか盛大な告白をしたような雰囲気が漂う。
沙友理はあまりの恥ずかしさに顔を赤らめ、頭から煙のような蒸気を噴き出させている。
ずっと目を丸くしていた少女が、そんな沙友理の様子に初めて笑った。
その笑顔は、花のように儚くて美しかったのを覚えている。
少女はひとしきり笑った後、沙友理の目を見て言った。
「いいですよ」
少女の言葉に、沙友理は翠色の目を輝かせる。
「で、何して遊びます?」
「あ……えっと……何しましょう……」
声をかけることには成功したが、その後何をしようかというのはノープランだった。
そんな沙友理の困惑気味な声に、少女は呆れ気味な顔になる。
それで「二度と遊ばない」なんて言われたらたまったもんじゃないので、沙友理は必死で考える。
「う……あ! そうなのです! ずっとやってみたかったことがあるのです!」
「へぇ……なんですか?」
沙友理が元気よく言うと、その少女は少し興味を持ったようだ。
その様子に、沙友理は満足そうに笑う。
「ひみつきち! 作りたいのです!」
目を輝かせて、少女の方へずいっと顔を近づけながら言った。
少女は“ひみつきち”というワードに、心惹かれたらしい。
翡翠のように眩く目を輝かせた沙友理に、負けじと檸檬色の目を輝かせる。
「いいですね! やりましょう!」
“ひみつきち”は、少年少女にとって魅力のある言葉。
二人の少女たちは、その魅力に確実に呑まれていたのだ。
仲間を得た少女たちは、心強そうに駆け出す。
まずは、“ひみつきち”を作るための道具や材料を集めなくては!
二人はそれぞれわかれ、必要なものを集めに行く。
木の枝やダンボール、その他もろもろをある程度見つけた後、それを持ちながら再びあのベンチに集まった。
「結構集まったのです……!」
「そうですね。なんだかワクワクしてきました!」
二人は高揚感に満ち溢れ、今なら何でも出来る気がした。
一種の万能感に包まれている。
枝が程よく分かれている木を見つけ、そこにハシゴをかけていく。
そして、そのハシゴの上にある木の枝に、集めたダンボールなどを置いていく。
「出来たのですー!」
憧れだったひみつきちが完成した。
だが、所詮子どもが作ったもの。
今にも崩れそうなほど、儚く、脆い。
「崩れないといいのですが……」
「そうですね……」
沙友理と少女はそう言って、祈るように手を組む。
☆ ☆ ☆
「沙友理ー! そろそろ帰ってきなさーい」
「あ、お母さんなのです……!」
橙色だった空が、いつの間にか群青色に変わろうとしている。
そんな中、お母さんがこちらに近づいてきている。
もう夕飯の時間になってしまったらしい。
「そろそろ帰らなきゃなのです……」
「そうですか……じゃあ、私もそろそろ帰りますね」
二人はベンチから立ち上がり、お互い顔を見合わせる。
今日初めて会ったばかりだが、なんだか寂しくなってくる。
それぐらい、二人の仲が親密になっていた。
「じゃあ……また遊びましょう」
「……はい。また遊びましょう」
沙友理が別れを惜しむように言うと、少女も寂しげな顔をして言う。
だが沙友理は、またここに来ればいつでも会えるだろうと、どこか軽く考えていた。
「じゃあ、また明日なのです」
「はい……また」
そう言って、二人は別れた。
なぜだか、永遠の別れのような……そんな気がしてならない。
沙友理は不安になって振り返る。
だが、そこにはこちらを見て手を振っている少女がいる。
それに安心して、沙友理は再び前を向く。
「……あ、名前訊くの忘れてたのです……」
明日訊けばいいか……
そんな風に、沙友理は軽く考えていた。
その後ずっと、高校生――いや、中学生になるまで会えないということを、この時の沙友理はまだ知らない。
今日のさっちゃん先輩は少し上の空って感じがした。
ここではないどこかを見ているような気がして……ま、まさか……好きな人でもいるのかな?
もしそうなら大変だ。
ア、アプローチしていかないと……!
でもでもっ! もし嫌がられたらどうしよう!
――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。
☆ ☆ ☆
狐色の髪を揺らし、沙友理は公園に遊びに来ていた。
小学校低学年ぐらいの容姿。背丈が小さく、ランドセルを背負っている。
隣にいた母親らしき女性が、ちらりと自分の腕時計を確認する。
そして、沙友理の背負っていたランドセルを手に持ち、自宅へ戻ろうとしていた。
「それじゃ、夕飯までには帰ってくるのよ」
「はい! わかったのです!」
沙友理は早熟で、しっかりとしている子供だった。
だから母親も安心して、子供を放っておけるのだ。
公園が家の近くにあるので、何かあってもすぐに家に帰ることができるところも、放っておける理由なのだとか。
「何するのがいいのですかね……」
この公園の遊具は、もうだいたい遊び尽くしてしまった。
そこそこ長いすべり台も、スリリングなブランコも、日々かたちを変えていく砂場も……全て飽きてしまっていたのだ。
なぜこの公園にしてしまったのか、沙友理は後悔していた。
そんな時、ふと辺りを見回すと、沙友理よりも少し小さくて幼い少女の姿があることに気づく。
その少女はベンチに腰掛け、退屈そうにしている。
(もしかしたら……わたしと一緒なのかもしれないのです)
沙友理と一緒で、飽きを感じているのかもしれない。
そう思った沙友理は、その少女に思い切って声をかけることにした。
「は、はじめまして……」
思えば、幼い頃に沙友理が知らない人に声をかけたのは、この時だけだったかもしれない。
この頃の沙友理は少し人見知りで、知らない人との会話が上手く出来ないのだ。
それなのに、勇気を振り絞って声をかけている。
それは、そのぐらい少女が特別に見えたということだ。
突然声をかけられた少女は驚いた様子で、檸檬色の瞳を丸くさせた。
「あ、は、はじめましてです……」
少し気弱そうな印象の声。
それでいて、女の子らしい高い声質が特徴的だ。
その少女は黒色の短い髪をふわりと靡かせ、小首を傾げる。
「えっと……私に何か用ですか?」
「……あ、あの、えっと……い、一緒に遊びませんか?」
なんだか盛大な告白をしたような雰囲気が漂う。
沙友理はあまりの恥ずかしさに顔を赤らめ、頭から煙のような蒸気を噴き出させている。
ずっと目を丸くしていた少女が、そんな沙友理の様子に初めて笑った。
その笑顔は、花のように儚くて美しかったのを覚えている。
少女はひとしきり笑った後、沙友理の目を見て言った。
「いいですよ」
少女の言葉に、沙友理は翠色の目を輝かせる。
「で、何して遊びます?」
「あ……えっと……何しましょう……」
声をかけることには成功したが、その後何をしようかというのはノープランだった。
そんな沙友理の困惑気味な声に、少女は呆れ気味な顔になる。
それで「二度と遊ばない」なんて言われたらたまったもんじゃないので、沙友理は必死で考える。
「う……あ! そうなのです! ずっとやってみたかったことがあるのです!」
「へぇ……なんですか?」
沙友理が元気よく言うと、その少女は少し興味を持ったようだ。
その様子に、沙友理は満足そうに笑う。
「ひみつきち! 作りたいのです!」
目を輝かせて、少女の方へずいっと顔を近づけながら言った。
少女は“ひみつきち”というワードに、心惹かれたらしい。
翡翠のように眩く目を輝かせた沙友理に、負けじと檸檬色の目を輝かせる。
「いいですね! やりましょう!」
“ひみつきち”は、少年少女にとって魅力のある言葉。
二人の少女たちは、その魅力に確実に呑まれていたのだ。
仲間を得た少女たちは、心強そうに駆け出す。
まずは、“ひみつきち”を作るための道具や材料を集めなくては!
二人はそれぞれわかれ、必要なものを集めに行く。
木の枝やダンボール、その他もろもろをある程度見つけた後、それを持ちながら再びあのベンチに集まった。
「結構集まったのです……!」
「そうですね。なんだかワクワクしてきました!」
二人は高揚感に満ち溢れ、今なら何でも出来る気がした。
一種の万能感に包まれている。
枝が程よく分かれている木を見つけ、そこにハシゴをかけていく。
そして、そのハシゴの上にある木の枝に、集めたダンボールなどを置いていく。
「出来たのですー!」
憧れだったひみつきちが完成した。
だが、所詮子どもが作ったもの。
今にも崩れそうなほど、儚く、脆い。
「崩れないといいのですが……」
「そうですね……」
沙友理と少女はそう言って、祈るように手を組む。
☆ ☆ ☆
「沙友理ー! そろそろ帰ってきなさーい」
「あ、お母さんなのです……!」
橙色だった空が、いつの間にか群青色に変わろうとしている。
そんな中、お母さんがこちらに近づいてきている。
もう夕飯の時間になってしまったらしい。
「そろそろ帰らなきゃなのです……」
「そうですか……じゃあ、私もそろそろ帰りますね」
二人はベンチから立ち上がり、お互い顔を見合わせる。
今日初めて会ったばかりだが、なんだか寂しくなってくる。
それぐらい、二人の仲が親密になっていた。
「じゃあ……また遊びましょう」
「……はい。また遊びましょう」
沙友理が別れを惜しむように言うと、少女も寂しげな顔をして言う。
だが沙友理は、またここに来ればいつでも会えるだろうと、どこか軽く考えていた。
「じゃあ、また明日なのです」
「はい……また」
そう言って、二人は別れた。
なぜだか、永遠の別れのような……そんな気がしてならない。
沙友理は不安になって振り返る。
だが、そこにはこちらを見て手を振っている少女がいる。
それに安心して、沙友理は再び前を向く。
「……あ、名前訊くの忘れてたのです……」
明日訊けばいいか……
そんな風に、沙友理は軽く考えていた。
その後ずっと、高校生――いや、中学生になるまで会えないということを、この時の沙友理はまだ知らない。
0
あなたにおすすめの小説
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる