ストーキングは愛の証!【完結済み】

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第一章 ストーキングの恋模様!

いけないことをしている?

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 ○月○日

 さっちゃん先輩がいない間に、色々堪能させてもらった。
 いけないことだとわかってはいるけれど。
 それでもやめられないのは、きっと“好き”ってことなのだろう。
 それにしても……理沙ちゃんが百合に耐性あるなんて知らなかったなぁ……
 将来女の子と付き合うことになるのかな?

 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。

 ☆ ☆ ☆

『ごめんなさいなのですっ!』

 そう言って、沙友理の足音が遠ざかっていく。
 ちらっとしか顔を見ることが出来なかったが、泣いていたような気がした。

「……しまったな」

 もっともっと距離が近づいてから自分の本性を見せるつもりだったのに。
 これでは逆効果だ。
 距離が遠ざかって、声をかけることすら難しくなるかもしれない。

「まあ、やっちゃったことは仕方ないし……それに……」

 悩んでいたのが嘘のように、追いかけることすらなく、華緒は座ったまま。
 そして、意思に関係なく、視線は沙友理の——一応整えられてはいるけれど、掛け布団は少し乱れた『そこ』。
 ベッドへと向けてしまっている。

「……いけないこと、だけど……ちょっとだけ! 今のうちに! ほんのちょっとだけなら……」

 ごくり、と喉を鳴らした華緒。
 足音に耳を澄ませながらゆっくりとベッドに触れると、柔らかな手触りにどんどんと手が沈んでいく。

 ふわふわとしているのはこのベッドだけでなく、華緒の心臓や、思考もそう。
 そして、この感覚に囃し立てられるように。
 シーツにしわがついている、ベッドの中心……恐らく今朝まで沙友理が寝ていたであろうところに、顔を埋めてしまった。

 またもや肺を支配する沙友理の香りは、さっきのものとは桁違いの深さで。
 ——このまま昇天してしまいそうなほど、全身が多幸感に包まれている。

 はしたないことだが、顔を埋めているシーツと座っているカーペットそれぞれを濡らさないようにするのが精一杯で。

 華緒が聞くことができたのは、足音ではなく、ドアを開く音だった。
 今までとは別の理由で心拍数が高まり、背中には冷や汗が伝っているのを感じる。

 こんな姿、沙友理に見られて良いはずがない。
 幻滅されるだろうし、気持ち悪いと思われるだろう。
 しかも、先程避けられたばかりなのだ。
 それだけでは済まないかもしれない。

 もしそうなったら、華緒は確実に生きてはいけない。
 このまま駆け出そうかとも考えたが、恐る恐る顔を上げてみる。

「……あーっと、取り込み中ですか?」
「……はぇ?」

 しかし、そこに居たのは沙友理ではなく。
 沙友理と同じ黒っぽい深緑色の目をしていて、しかし沙友理よりも短い茶色の髪をひとつに結んだ大人びた顔つきをしている少女。

「あ、お久しぶりです。華緒さん」
「え、あ、ひ、久しぶり……理沙ちゃん……だっけ?」

 顔を見て、知り合いだと気づいたらしい。
 沙友理の妹――理沙が丁寧にお辞儀をしてくれた。

「あー、その……この部屋あたしも使っているので……本を取りに来ようと思ったんですけど……」

 バツが悪そうに、理沙は頭をかいている。
 まさか華緒がこんなことをしているとは思わなかったのだろう。

 華緒も華緒で、赤い顔をして必死に言い訳を考えている。
 ……が、ついぞ出てこなかったらしい。

「あー……じゃあ、あたしはこれで……どうぞごゆっくり」
「あ、ま、待って……!」

 気まずい空気に耐えられなかったのか、理沙がこの部屋から出ていこうとする。
 だが、理沙の手を掴んで、華緒はそれを引き止める。
 引き止められると思ってなかった理沙は、目を見開いて華緒を見つめる。

「じ、実は――……」
「……――なるほど、そんなことが」

 華緒は、事の経緯を全て話した。
 小学生になんてことを話しているんだと後悔したが、理沙はそれほど驚いていないようだ。

「……理沙ちゃんは、驚かないの? その……“百合”のこととか……」
「え? あー……あたしは全然。ねーちゃんが中学の時――って、これは言っちゃダメなやつかな……」

 最初はスラスラ喋っていたのに、だんだんと口ごもっていく。
 華緒は不安になるが、『百合漫画』を気持ち悪く思っていないのは確かだろう。
 そのことが嬉しくて、沙友理の話を深堀するのを忘れていた。

「ねーちゃんならすぐに帰ってくると思いますよ? 余程のことがない限りあまり引きずらない方なんで」

 あっけらかんと笑う理沙の言葉通り、ガチャっという音がして、ドアが開いた。
 華緒はその音を聞いて、ドアへ向いて座り直す。

「いやー、ごめんなさいなのです。つい遅くなってしまったのです」

 沙友理の持つ大きなお盆に、たくさんのお菓子とジュースが乗っている。
 どうやら、お菓子やジュースのおかわりを持ってきてくれたらしい。

「あっ! 持つの手伝いますよ!」
「あ、ありがとうなのです」

 ジュースを受け取ろうとして必然、沙友理との距離が近まる。
 それがいつも通り、嬉しくもあり恥ずかしくもあり——

 ——だけどこの日は。
 同時にもっと……冷えた感覚が背中を伝っていた。
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