姉妹百合なんて興味ない!……はず?

M・A・J・O

文字の大きさ
4 / 47
こちらの世界

帰る気なんてない

しおりを挟む
 ふわふわとした感覚が身を包む。
 視界も思考も少しぼやけていてはっきりしない。
 でも、目の前に〝その人〟が現れた時、私は確信した。
 ――これはまさしく悪夢だと。

「随分と楽しそうね」
「……そ……んなこと……ない……けど……」

 いい思い出として残したはずの記憶が、全て嫌なものとして上書きされる。
 私は一刻も早くここから立ち去りたかった。

「いいえ。あなたは楽しそうな顔をしていた。――あの頃と同じように、ね」

 その言葉を聞いた瞬間、ひどい頭痛が襲った。
 今目の前にこの人がいることも、その人の声を聞くことも、その人の存在そのものを全身が拒否している。
 もう、限界だった。
 それでも追い討ちをかけるように、その人は言葉を紡ぎ続ける。

「あなたはちっとも変わらない。いいえ、変われないのよ。この先もずっと」
「……やめて」

 彼女が、私の身体に触れてくる。
 それがひどく冷たくて、私は思わず身震いした。

「このままの方が楽だものね。いいんじゃない? 私はそんなあなたが好き〝だった〟のだから」
「……やめてっ!」

 私の顔を、首を、肩を、胸を、背中を、お腹を、脚を……まるで恋人同士が愛し合うような感じで私の肌に触れる。
 昔は確かに幸せに感じていたはずなのに、今は身の毛がよだつような恐怖心しかない。
 そう、この人は私の――

「せっかく〝お友達〟に戻ろうって言ったのに……あなたは私への態度があまり変わらなかった。だから突き放すしかなかったのよ。ほんと、なんで付き合ったのかしらね?」
「やめてって言ってるでしょ!!」

 私の――

「お、お姉ちゃん……?」

 そこで私は目が覚めた。ひどく汗をかいている。
 もう何年も前のことなのに、今更こんなことを思い出すなんて馬鹿げている。
 私は疲れたせいでもう一度寝たかったが、寝たらまたあの人が現れそうで寝られなかった。

「あー……ごめん。どうした?」
「いえ、すごくうなされてるみたいだったので……大丈夫なのかなと」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「あ、あの……もう少しここにいたら迷惑ですか?」

 めいがなんだか気をつかってくれている。

「いや、別に迷惑じゃないけど……家には帰らないの?」
「お姉ちゃんの様子がおかしかったので、心配で……」

 確かに〝あの人〟には昔ひどいことをされた。
 そのせいで、私は人というものをまともに信用できなくなっているのかもしれない。
 だから今のめいに対してもどう接すればいいのか迷っていたし、怖かった。
 でも今は……この優しさに救われたような気持ちになっている。

「そっか……ありがとう」
「……えへへ」

 私がお礼を言うと、めいは頬を少しだけ赤らめて笑った。
 この子は、もしかしたら本当に私のことを思ってくれているのかもしれない。
 今はそれを素直に受け取ろうと思った。

「あ、そうだお姉ちゃん。わたし一回してみたいことあったんです」
「ん? 何?」

 めいは私の問いには答えず、ベッドから離れて床に座る。
 クッションがあるとはいえ床に正座はきつくないのかな。

「どうぞ」
「え?」
「どうぞ?」

 めいはニコニコしながら、私に向かって両手を広げている。
 これはまさか……めいがしたいことって……

「もしかして……膝枕?」

 正解、とばかりに膝をぽんぽんと叩いている。
 私も、小さい頃はお母さんにしてもらったことがある。
 もうあまり覚えていないけれど、なんだかポカポカした気持ちになる。

 だけど、めいにされるのは……少し抵抗感がある。
 そもそも私の方が年上だし!

「いやいや、いいよ! そんなことしなくても!」
「ダメです。わたしがお姉ちゃんをお世話したいので!」

 めいも意外と頑固だ。
 こういう時はおとなしく従った方がいいと、私の直感も言っている。

「じゃ……じゃあ……」

 もうどうにでもなれというやけっぱちな気持ちで、私はベッドからおりてめいに近づいた。
 そしてゆっくりと頭を乗せた。
 ……これは確かにいいかもしれない。
 いつも使っている枕よりも高さがあって気持ちいいし、何よりめいの太ももはムニムニとしていて柔らかいし弾力もあるので毎日この枕で寝たいくらいだ。

「痛くない? 重くない? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。この重みも幸せなので」
「重いってことじゃん!」

 私が叫ぶと、めいが優しく頭を撫でてくれた。
 なんだかすごく懐かしいような、安心するような……この感じはどこかで感じたことがあるような気がする。
 でもそれがいつでどこなのか思い出すことはできない。

「ねぇ、めい。もし私がどこにも行かないで私だけを見てって言ったら――どうする?」

 私の目はとてつもなく冷酷だったかもしれない。
 私の顔はひどく真剣だったかもしれない。
 私の声は……少しだけ、震えていたかもしれない。

「……そんなこと急に言われても、わからないです」

 めいは少し困ったような表情でそう言った。
 そりゃそうだ。急にこんな意味のわからないことを言われたら、困惑して当然だろう。

「そう……だよね」

 私はゆっくりと身体を起こす。
 そんな私の背中をめいがさすってくれた。
 あぁ……私って本当に何やってるんだろう……情けないな……
 なんだか情けなくなって俯いていると、めいがぎゅっと私を抱きしめた。

「でも、これだけは言えます」

 ゆっくりと私の頬に手を伸ばし、にっこりと微笑む。
 私にはそれが、天使のように見えた。

「わたしは、お姉ちゃんのことが大好きです! それだけははっきり言えます!」

 私に触れてくれた手は、ものすごく温かい。
 とても優しくて、心地よくて、思わず涙ぐんでしまう。
 めいと〝あの人〟は違う。はっきりとわかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ハーレムが大好きです!〜全ルート攻略開始〜

M・A・J・O
大衆娯楽
【大衆娯楽小説ランキング、最高第7位達成!】 黒髪赤目の、女の子に囲まれたい願望を持つ朱美。 そんな彼女には、美少女の妹、美少女の幼なじみ、美少女の先輩、美少女のクラスメイトがいた。 そんな美少女な彼女たちは、朱美のことが好きらしく――? 「私は“百合ハーレム”が好きなのぉぉぉぉぉぉ!!」 誰か一人に絞りこめなかった朱美は、彼女たちから逃げ出した。 …… ここから朱美の全ルート攻略が始まる! ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...