ゆうちゃんねるにはホラーがいっぱい!?

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 ただ見ていただけだった。
 暇つぶしに、気分転換に、頭を空っぽにしたい時に。
 週に1~2回、その子があげる動画を見ているだけだった。
 それなのに、まさか一緒の学校に通っているなんて。

「ねぇ、君さ――幽霊って信じてる?」

 開口一番、ボクはそんなことを口走っていた。
 こんなこと言うなんて、変なやつだと思われるに決まっている。
 ボクとしたことが失敗してしまった。
 絶対答えてくれないだろうし、今答えてくれても今後関わってくれなくなるだろう。
 そう思って、なんでもないと言おうとしたら――

「はい、信じてますよ。ホラー系好きですもん」

 なんだか少しちぐはぐな気もするが、気にしないことにする。
 ちゃんと答えてくれたし、なにより自分が見ている当たり前の世界を信じていると言ってくれた。
 血の繋がった姉たちでさえ認めなかったボクのことを、ようやく認めてくれそうな子が現れたのだ。
 それだけで、充分満たされた気持ちになる。

 ☆ ☆ ☆

 そんな出会いも今は遠くに感じる今日この頃。
 ボクは一人部屋の菊花寮でいつも通りぶつぶつ呟いていた。

「ふっ、ふふふ、難関大学の入試問題もこんなもんか。ボクにかかれば一瞬で終わらせられるさ」
「昔から見てたけどほんとすごいわね。私もこれくらい頭良かったらな~」
「君は生前どんなことをしていたんだい?」
「そうねぇ……あんまり覚えてないけど、遊んでたかしら」
「遊び?」
「そう、女遊び♡」

 ……聞くべきではなかったかもしれない。
 だけど、幽霊との会話はいい暇つぶしになる。
 人との関わりがあまり好きな方ではないボクにとって、幽霊はいい話し相手になってくれている。
 だから予想外の返しをされても、平常でいるしかない。

 この場面を目撃されたら、普通の人にとってはさぞ奇妙に映るだろう。
 幽霊の姿なんて霊感のある人にしか見えないのだし、今のボクは一人で喋っているようにしか感じられないだろう。
 幽霊の声ももちろん聞こえないだろうから、見えない相手と会話が成立しているなんて誰もわからないに違いない。

「はぁ……さて、次の問題解くか」
「え、無視?」

 ここ星花女子学園は、その名の通り女子校である。
 学生寮があって桜花寮と菊花寮にわかれているのだが、菊花寮は学業や課外活動での成績優秀者しか入れない仕組みになっている。
 つまり、このボクは選ばれし者なのだ。
 菊花寮の中でも特に優秀な部類であるだろうとの自負もある。

「頭がいいだけの子ってつまらないのよね~。従順そうな子でも探してこようかしら」
「好きにすればいいさ。どうせボクのとこに戻ってくるんだろう?」
「……えへ、バレてたのね。ちょっと構ってほしかったのよ」

 霊感がある人なんてそうそういない。
 だからこの幽霊はボクのところに戻ってくるしかないのだ。
 それを見越しての言葉だったのだが、よくよく考えるとボクとこの幽霊が付き合っているみたいに聞こえるな。
 いや、全然そんなことはない。まったくその気はない。

 過度に干渉されるのは苦手だし、誰かを好きになるという気持ちがわからない。
 ボクは基本的に人に心を許さないから。
 実の姉たちのこともあり、ボクは自分を押し殺しながら生きてきた。
 そんなボクに恋愛なんてできるわけがない。

「……あら? 可愛いあの子がお出ましみたいよ」
「え、それって……」
「こんにちはー! ゆうちゃんだよー! またまた先輩の部屋にお邪魔する企画やっちゃうよー!」

 うるさいやつがやってきた。
 菊花寮のセキュリティはどうなっているんだ。

「おー、今日も難しそうな問題集を解いているようです! ゆうちゃんにも教えてほしいーなー!」
「相変わらず頭悪そうなセリフだね」
「ちょっ!? ウチのことバカだって言いたいんですか!?」

 頭が真っピンクなやつに迫られている。
 目がチカチカするからあまり近寄らないでもらいたいところだ。
 星花女子学園では髪を染めることを校則で縛っていないとはいえ、その髪はどうかと思う。
 めちゃくちゃ目立って、隣にいるとすれ違う人たちの視線が痛くてたまらない。
 本人は目立ちたがり屋のようだから気にしていないっぽいけど。

「このゆうちゃんが直々に会いに来たんですよ!? もっと労わってくれてもいいんじゃないですか!?」
「……それより動画はいいのかい?」
「え? あー、別にLIVEじゃないので大丈夫ですよ。録り溜めたものまだあるし……」
「ならいいや。お疲れ様~」
「ちょっ!? それが狙いですか!? うわぁーん! 絵凛先輩のいじわるー!」

 自分のことを『ゆうちゃん』と呼んでいる、真っピンクの後輩の名前は津辺つべ侑卯菜ゆうな
 ボクがこの子に話しかけたことから知り合いになったのだが、なぜか好かれている。
 ちなみにボクは三神みかみ絵凛えりん。誰も興味ないと思うけど。

「あの、ところで今も近くに〝幽霊〟いるんですか?」
「あー……いるよ。さっきまで話していたんだ」
「おおお! やっぱり! いいなぁ、いつかウチも見てみたいです!」

 ボクが好かれているのは、霊感があるから。
 この子は幽霊や妖怪などのオカルト系が好きらしい。
 動画投稿もその手のものが多い。
 ……なぜ動画の内容を知っているのかは秘密だ。

「あ、そうだ。また肝試し企画考えてるんですけど、来てくれます?」
「面倒くさいからい」
「来てくれます?」
「……ボクに拒否権はないのか?」

 いつものことだけど、ゆうちゃんは強引すぎる。
 ボクがはじめて興味を持った人間なのだが、ここまで干渉されるとさすがにキツい。
 断りたいのだが、いつも断れない気持ちにさせられている。
 この謎の力は一体なんなのだろうか。
 まあ考えていても仕方ないし、ゆうちゃんが来てほしいというのなら行くしかないだろう。
 ……うん、そういうことにしておこう。

「わかった、行くよ。いつを予定しているんだい?」
「今日にでも行くつもりですけど」
「今日!?」

 いつも思う。この子はぶっ飛んでいると。
 それなのに、不思議と突っぱねる気になれないというか……逆に微笑ましい気持ちにさせられる。
 ゆうちゃんと一緒だと謎なことが多い。
 だからこそ興味深くて好奇心が刺激させられて、一緒にいても悪くないと思えるのかもしれない。

「それじゃあ後で連絡するので絶対来てくださいねー!」
「……動画はもういいのか?」
「あー、そうでしたね。でもウチは絵凛先輩に会いたかっただけですし……」

 こういうこそばゆいことを平気で口にしてくるからやりにくい。
 うまく言語化できないけど、もにょもにょするというかもぞもぞするというか。
 心になにかが入り込んだようにくすぐったい気持ちになる。

 戸惑いはあるけど、不快感はない。
 むしろあたたかい感じがするのはなぜだろう。

「あ、あれ、絵凛先輩? 急にだまってどうしたんですか?」

 ゆうちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくるけど、あいにくボクは未知の感情への戸惑いと好奇心でいっぱいだった。
 ふふふ、研究のしがいがある。
 さっそく研究し――ようと思ったけど、具体的にどんなことをすればいいかわからない。

「うーん、どうせすぐに現実から戻ってくるよね。じゃ、あとで連絡しまーす」

 ゆうちゃんがなにか言って、嵐のように去っていった。
 取り残されたボクは、当然そのことには気づかなくて。

「ふふふ、面白いことになりそうね」

 そうニヤッと意味深げに笑う幽霊のことも気づくことができなかった。

 ☆ ☆ ☆

「……うーん、なかなかに雰囲気のあるトンネルだけどここにはいないようだね」
「ええーっ!? またダメなのー? 今度こそうまくいくと思ったんですけど……」

 夜も深まり、辺りがシーンと静まり返る闇の中。
 ボクたちはその闇の中を漂っていた。
 正確に言うと、幽霊が出るとウワサの心霊スポットを巡っているのだ。

「ここもダメかー……ウチに幽霊が見える日は来るのでしょうか……」
「生まれ変わらないかぎり無理じゃないかな?」
「ひっ、ひどい! 絵凛先輩は夢も見せてくれないんですか!?」

 ひどいと言われても……幽霊が見えるのは霊感のある人だけだし、なにも間違ったことは言ってないと思うんだけど。
 「きっと見えるようになるよ」という確信のない励ましも、ボクにはできないし。
 見える要素があれば、ボクだって他にかける言葉が見つかっていたかもしれないけど。

「もういいですっ。ゆうちゃんはこんなことでへこたれないんですー」
「それはいいとして……この状況を説明してくれないか?」

 ゆうちゃんと一緒に肝試しに来たのはいいとしよう。
 ボクが了承したんだし。
 そのことはいいんだ、悪い気はしないから。
 それに不満はない。ないんだけど……

「え、腕を組んでることの説明をしなきゃいけないですか?」
「その理由を説明してほしいんだけど……」
「そんなの――ここの幽霊が出る条件と繋がるからですよ!」

 ……うん、まあ、わかってはいた。
 ここの心霊スポットでは、ラブラブなカップルを見るとそれに嫉妬した幽霊が怒って出てくるという謎のウワサがあるらしい。
 まったくもって意味がわからない。

「うーん……なにも起きませんねぇ」
「ボクたちがカップルじゃないからじゃないか?」

 根本的に間違っているものが正しい答えにたどり着くわけがないだろう。
 なぜこの子はボクを巻き込んで変なことをしたがるのか。

「え、カップルじゃないんですか?」
「……は?」
「付き合ってるもんだと思ってましたけど」

 いやいやいや、いきなりなにを言い出すんだ。
 幽霊よりもゆうちゃんがホラーなんだけど。
 勝手にカップルにされるなんて、メンヘラかヤンデレくらいしかいないだろう。
 まさかゆうちゃんもその部類だったのか……?

 ボクが苦手なタイプだ。
 関わらない方がいいかもしれない。

「冗談ですよ。相変わらず真に受けやすいですね」

 なんだ、冗談だったのか。
 心臓に悪いから、今後は冗談を控えてもらいたいところだ。
 ボクがほっと胸を撫で下ろしていると、一瞬ゾワッと寒気がした。

「な、なんだ……!?」
「どうしたんですか、絵凛先輩?」

 ゆうちゃんはなにも感じないようだ。
 辺りを見回し、不安そうにボクの顔を見つめてくる。
 ――ゆうちゃんを守らなくては。
 ボクは反射的にそう思った。

 しばらくはなにも起きなかったが、真っ暗なトンネルの中にだんだんと丸い光が増えてきた。
 青白い光はまるで人魂のように見えて、気味が悪い。
 ボクには霊感があるけど、悪霊の退治とかはできないのだ。
 ここでなにか起こっても、ボクに責任は取れないということだ。

「くっ……」

 気持ちだけが焦る。
 ボクはゆうちゃんを守るように手を広げて前に立つ。
 この行動に意味があるかはわからないけど、そうしなければいけない気がした。

 どんどんと、炎のような光が量も大きさも増えていく。
 ゆうちゃんにも見えているようだけど、歓喜の声をあげることはなかった。
 むしろ怖がって声をあげられないというように見えた。

「ゆうちゃん……ゆうちゃんのことはボクが守るから」
「絵凛……先輩……?」
「あははっ、いいもの見せてもらったわ」

 ボクがゆうちゃんに向き直って恥ずかしいセリフを口にしたら、背後から愉快そうに笑う聞きなれた声が聞こえてきた。
 この声は、今日ボクと一緒に菊花寮にいた人。
 いや、正確には人ではなく――

「これね、私が仕組んだのよ? 近くの幽霊たちに頼んで驚かせようと思って。やっぱり幽霊っておどかすのが好きな子たちが多いのね」
「あのさぁ……やるにしても限度ってものがあるだろ」
「うふふ。おかげでいいもの見せてもらったわ。ニセモノのカップルじゃなくてホンモノのカップルになる日も近いんじゃないかしら」
「なにを言ってるんだ君は」

 あ、そういえばゆうちゃんのことほったらかしだった。
 いきなりボクがだれかと話し始めてさぞかし不思議に思っているだろう。
 そう思って振り返ると、ゆうちゃんは目を輝かせていた。

「……える」
「は?」
「聞こえる! 私にも聞こえました! 絵凛先輩がだれとなにを喋っているのか!」
「え」

 まさか……そんなことが有り得るのか?
 試しに、また幽霊に喋ってもらうとしよう。

「えっと、ゆうちゃん……だっけ? あなたのことは子どもの頃から知ってるわ」
「おい、余計なことまで言わないでくれるか?」
「え、絵凛先輩、今幽霊喋ってたんですか?」

 ……どうやらゆうちゃんが幽霊の声を聞けたのは一時的なものだったらしく、その後何度も幽霊が話しかけても声を聞くことはできなかったようだ。
 それでもゆうちゃんは楽しそうに前を向いていた。
 ――きっと、また幽霊の声を聞いてみせると。

「あ、絵凛先輩。さっきの――かっこよかったですよ」
「……忘れてくれ」

 こんなボクたちだが、案外うまくやれるのかもしれない。
 ニセモノのカップルじゃなく、ホンモノになれる日も近いのかもしれない。
 ちなみに、ゆうちゃんは一連の出来事を撮っていたらしく、この動画はプチバズりしていたのだった。
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