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第一章 吸血少女は傷つけたい
終わりにしたくない
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「ねぇ、花恋ちゃん。いい加減出てきて?」
「……ほっといて」
あたしは布団にくるまったまま、ベッドの上で体育座りして頭から毛布をかぶった。
渚が呼んでいるけど、今出ていったら遠慮なく渚を傷つけてしまいそうだ。
傷つけることに抵抗はないけど、そのせいで嫌われたりしたら……そんなの嫌だもん。
しばらくすると、足音が遠ざかっていく。
渚が離れる気配を感じてホッとした。
だけどすぐ戻ってくる足音も聞こえてきた。
そしてコンコンと扉をノックする音と共に声がした。
「花恋ちゃん? 開けなくていいから聞いてほしいんだけど……」
渚の声はやけに切なそうだった。
どうしてそんな声で話すの。
いつもみたいに明るい調子で話せばいいのに。
「もしかして花恋ちゃん、今日おしおきがなくても私を泊めるつもりだったでしょ」
「どう……して……」
「だってデザートにケーキだよ? 普通だれも来ないのにケーキ用意してたりしないでしょ」
「それは……」
図星をつかれて言いよどむと、扉の向こうから苦笑するような吐息が漏れた。
「あのね、花恋ちゃん。私は花恋ちゃんのこと大好きだし、花恋ちゃんが私にしか手を出さないのは愛情表現なんだなってのはわかってる。だから、さっきのは拒絶じゃなくて……痛いことを控えてもらいたかっただけというか……」
「……うん」
「でも、花恋ちゃんが私にそうしたいのはわかってるし……どうしたらいいんだろうね」
その言葉を聞いた瞬間、やっぱり……とうつむいた。
やっぱり渚は、痛いことをされるのに耐えられないんだ。
優しいから受け入れてくれただけで。
あたしは好きな人に対して、傷つけたくて苦しめたくて痛めつけたくてどうにかなってしまいそうになる。
愛しい人を思う気持ちと、性癖が一致していないのだ。
こんな自分を本当の意味で受け入れてくれる人なんてこの世にいないと思う。
もういっそ、この世から消えてなくなろうか……
「でも、花恋ちゃんが私を諦めたいって言うのなら仕方ない。もう終わりにしようか」
「え……」
「私を傷つけたくないんでしょ? そう思ってくれるのは嬉しいから……花恋ちゃんの気が変わらないうちに」
「いやっ!」
思わず飛び起きると、扉の向こうで渚がビクッとする気配を感じた。
違う、そういう意味じゃない!
諦めるとか、終わりにするだとか、そんなつもりなかったのに!
ガチャリと扉を開けると、渚が仰向けに倒れ込んできた。
おそらく、扉に背中をつけて座っていたのだろう。
あたしはそんな渚に跨って泣きじゃくる。
「ごめん……ごめんね……終わりにしようなんて言わないで……」
「よしよし、泣かないで。冗談だから」
「うぅ~っ!」
「ごめんね、びっくりさせちゃったね」
頭を撫でられながら、ひたすら子どもみたいに声をあげて泣く。
そんなあたしを、渚は呆れた様子で見てくる。
「前にも似たようなやり取り何回かしたのに……飽きないね?」
「だ、だって、だって……!」
「そんなに苦しむなら私のこといじめなきゃいいのに」
「……それは無理」
「あはははは、花恋ちゃんってほんと子どもっぽいよね」
そう言って渚は笑うけど、子どもの頃からずっとこうなのだ。
いくら成長しても、自分の性癖が変わることはない。
しかも、渚に言われて気づいたけど、あたしの精神は不安定らしい。
そのこともあって、何度も何度も繰り返し不安になるのかもしれない。
いつか渚があたしのそばから離れていってしまうんじゃないかと。
だから、やめなきゃと思いつつもいじめてしまうという悪循環が出来上がっているのだ。
しかも、何回も渚から離れようとしていざとなると離れられないのもタチが悪い。
だけど、渚の性格的にかあたしにだけなのか、いつも優しく許してくれる。
「じゃ、子どもな花恋ちゃんは渚お姉ちゃんと一緒にお風呂入る?」
「……入る」
「あはは、そこは『子どもじゃないよ』ってツッコんでほしかったなぁ」
渚はそう言うけど、実際渚の方が一つ年上なのだ。
渚よりは子どもだというのは事実だろう。
あたしは渚の上から降りて、一緒に風呂場に向かったのだった。
「……ほっといて」
あたしは布団にくるまったまま、ベッドの上で体育座りして頭から毛布をかぶった。
渚が呼んでいるけど、今出ていったら遠慮なく渚を傷つけてしまいそうだ。
傷つけることに抵抗はないけど、そのせいで嫌われたりしたら……そんなの嫌だもん。
しばらくすると、足音が遠ざかっていく。
渚が離れる気配を感じてホッとした。
だけどすぐ戻ってくる足音も聞こえてきた。
そしてコンコンと扉をノックする音と共に声がした。
「花恋ちゃん? 開けなくていいから聞いてほしいんだけど……」
渚の声はやけに切なそうだった。
どうしてそんな声で話すの。
いつもみたいに明るい調子で話せばいいのに。
「もしかして花恋ちゃん、今日おしおきがなくても私を泊めるつもりだったでしょ」
「どう……して……」
「だってデザートにケーキだよ? 普通だれも来ないのにケーキ用意してたりしないでしょ」
「それは……」
図星をつかれて言いよどむと、扉の向こうから苦笑するような吐息が漏れた。
「あのね、花恋ちゃん。私は花恋ちゃんのこと大好きだし、花恋ちゃんが私にしか手を出さないのは愛情表現なんだなってのはわかってる。だから、さっきのは拒絶じゃなくて……痛いことを控えてもらいたかっただけというか……」
「……うん」
「でも、花恋ちゃんが私にそうしたいのはわかってるし……どうしたらいいんだろうね」
その言葉を聞いた瞬間、やっぱり……とうつむいた。
やっぱり渚は、痛いことをされるのに耐えられないんだ。
優しいから受け入れてくれただけで。
あたしは好きな人に対して、傷つけたくて苦しめたくて痛めつけたくてどうにかなってしまいそうになる。
愛しい人を思う気持ちと、性癖が一致していないのだ。
こんな自分を本当の意味で受け入れてくれる人なんてこの世にいないと思う。
もういっそ、この世から消えてなくなろうか……
「でも、花恋ちゃんが私を諦めたいって言うのなら仕方ない。もう終わりにしようか」
「え……」
「私を傷つけたくないんでしょ? そう思ってくれるのは嬉しいから……花恋ちゃんの気が変わらないうちに」
「いやっ!」
思わず飛び起きると、扉の向こうで渚がビクッとする気配を感じた。
違う、そういう意味じゃない!
諦めるとか、終わりにするだとか、そんなつもりなかったのに!
ガチャリと扉を開けると、渚が仰向けに倒れ込んできた。
おそらく、扉に背中をつけて座っていたのだろう。
あたしはそんな渚に跨って泣きじゃくる。
「ごめん……ごめんね……終わりにしようなんて言わないで……」
「よしよし、泣かないで。冗談だから」
「うぅ~っ!」
「ごめんね、びっくりさせちゃったね」
頭を撫でられながら、ひたすら子どもみたいに声をあげて泣く。
そんなあたしを、渚は呆れた様子で見てくる。
「前にも似たようなやり取り何回かしたのに……飽きないね?」
「だ、だって、だって……!」
「そんなに苦しむなら私のこといじめなきゃいいのに」
「……それは無理」
「あはははは、花恋ちゃんってほんと子どもっぽいよね」
そう言って渚は笑うけど、子どもの頃からずっとこうなのだ。
いくら成長しても、自分の性癖が変わることはない。
しかも、渚に言われて気づいたけど、あたしの精神は不安定らしい。
そのこともあって、何度も何度も繰り返し不安になるのかもしれない。
いつか渚があたしのそばから離れていってしまうんじゃないかと。
だから、やめなきゃと思いつつもいじめてしまうという悪循環が出来上がっているのだ。
しかも、何回も渚から離れようとしていざとなると離れられないのもタチが悪い。
だけど、渚の性格的にかあたしにだけなのか、いつも優しく許してくれる。
「じゃ、子どもな花恋ちゃんは渚お姉ちゃんと一緒にお風呂入る?」
「……入る」
「あはは、そこは『子どもじゃないよ』ってツッコんでほしかったなぁ」
渚はそう言うけど、実際渚の方が一つ年上なのだ。
渚よりは子どもだというのは事実だろう。
あたしは渚の上から降りて、一緒に風呂場に向かったのだった。
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