51 / 62
第二章 吸血少女は愛されたい
マジックはできない
しおりを挟む
「ふぅ……よし、大丈夫……ちゃんと落ち着いてる」
あの渚流血事件から三日後。
あたしは朝早くから学校に来ていた。
教室の前に立っているのだが、やっぱり心臓の音がうるさい。
ここに来る途中に何人かの先生とすれ違ったが、なにも言われることはなかった。
先生にウワサは届いていないのだろうか。
それともまだ広まってないだけ?
……まあいいか。
今さら考えても仕方がない。
「……うん」
あたしは覚悟を決めてガラッと教室のドアを開ける。
その瞬間、朝練に来ていた少数のクラスメイトたちの視線が集まった。
「お、おはよう……」
とりあえず挨拶をする。
でも、みんなは無言でこっちを見てくるだけだ。
そしてそのまま席に着く。
するとしばらくして、だれかが話しかけてきた。
「あ、あのさ、ちょっといいかな?」
その子を筆頭に、あたしの席にぞろぞろと人が集まる。
「えっと……なに?」
「この前のことなんだけどさ……」
やっぱりそうか。
だけど、どこか様子がおかしい。
渚にカッターを突き立てた時のするどい視線を、だれからも感じない。
一体どういうことなのだろうと疑問に思っていると、最初に声をかけて来た子が頭を下げた。
「その……ごめんね。わたしたち、あの時はほんとに衝撃的でテンパってて……」
「ん?」
「あれってさ、マジックの一環だったんだよね。百木先輩から聞いたの」
百木先輩? だれのことだ?
責められると思っていたから、謝られているという事実にあたしもテンパっててすぐにだれのことかわからなかった。
だけど、記憶を辿っていくうちに、渚と同じクラスだと言っていた人のことを思い出した。
――あの『お姉様』みたいな先輩か!
「そっか……なるほどね」
すっかり忘れていたけど、確か百木先輩は「してもらいっぱなしは嫌」と言っていたような……
もしかして、あの時あたしが貸したものを返しにきてくれたのだろうか。
それにしても、ものすごいタイミングで助けてくれて驚きと困惑でいっぱいいっぱいだ。
「ほんとにごめんね。花恋ちゃんがあんなことするはずないもんね」
「あー……うん。大丈夫だよ。気にしてないから」
そう言って笑顔を見せると、周りにいた人たちは安心したのかほっとした表情を見せた。
まさかこんな展開になるとは。
正直、予想外すぎる。
もっと避けられたり責められたりすると思っていたのだけれど……
なんにせよ、これでひとまず一件落着だ。
あとは渚の傷口が完全に塞がるのを待つばかりである。
それと、百木先輩にお礼を言いに行かないと。
今教室にいるかわからないし、放課後になったら会いに行ってみよう。
「それにしても驚いたよ。まさか花恋ちゃん、マジックできるなんて」
「へっ!? あぁ、まあ……ね!」
突然話を振られて焦った。
そうか、あの流血事件がマジックだということになっているのなら、当然あたしはマジックができるものだと思われる。
本当は全然そんなことないのに。
「ねぇねぇ、今度見せてよ!」
「えっ! あ、いや、その……まだ初心者だから……上手くなったら見せるね」
「そっかぁ……じゃあその時はほんとに見せてね! 待ってるから!」
「う、うん……」
よし、なんとか誤魔化せた。
それにしても、助けてくれたのは嬉しいけど、まさかこんなに食いつかれるなんて。
百木先輩が悪いわけじゃないけど、もう少しなにか別のフォローはなかったのだろうかと思ってしまう。
こっち側のミスだから、百木先輩になにも文句は言えないけど。
あの渚流血事件から三日後。
あたしは朝早くから学校に来ていた。
教室の前に立っているのだが、やっぱり心臓の音がうるさい。
ここに来る途中に何人かの先生とすれ違ったが、なにも言われることはなかった。
先生にウワサは届いていないのだろうか。
それともまだ広まってないだけ?
……まあいいか。
今さら考えても仕方がない。
「……うん」
あたしは覚悟を決めてガラッと教室のドアを開ける。
その瞬間、朝練に来ていた少数のクラスメイトたちの視線が集まった。
「お、おはよう……」
とりあえず挨拶をする。
でも、みんなは無言でこっちを見てくるだけだ。
そしてそのまま席に着く。
するとしばらくして、だれかが話しかけてきた。
「あ、あのさ、ちょっといいかな?」
その子を筆頭に、あたしの席にぞろぞろと人が集まる。
「えっと……なに?」
「この前のことなんだけどさ……」
やっぱりそうか。
だけど、どこか様子がおかしい。
渚にカッターを突き立てた時のするどい視線を、だれからも感じない。
一体どういうことなのだろうと疑問に思っていると、最初に声をかけて来た子が頭を下げた。
「その……ごめんね。わたしたち、あの時はほんとに衝撃的でテンパってて……」
「ん?」
「あれってさ、マジックの一環だったんだよね。百木先輩から聞いたの」
百木先輩? だれのことだ?
責められると思っていたから、謝られているという事実にあたしもテンパっててすぐにだれのことかわからなかった。
だけど、記憶を辿っていくうちに、渚と同じクラスだと言っていた人のことを思い出した。
――あの『お姉様』みたいな先輩か!
「そっか……なるほどね」
すっかり忘れていたけど、確か百木先輩は「してもらいっぱなしは嫌」と言っていたような……
もしかして、あの時あたしが貸したものを返しにきてくれたのだろうか。
それにしても、ものすごいタイミングで助けてくれて驚きと困惑でいっぱいいっぱいだ。
「ほんとにごめんね。花恋ちゃんがあんなことするはずないもんね」
「あー……うん。大丈夫だよ。気にしてないから」
そう言って笑顔を見せると、周りにいた人たちは安心したのかほっとした表情を見せた。
まさかこんな展開になるとは。
正直、予想外すぎる。
もっと避けられたり責められたりすると思っていたのだけれど……
なんにせよ、これでひとまず一件落着だ。
あとは渚の傷口が完全に塞がるのを待つばかりである。
それと、百木先輩にお礼を言いに行かないと。
今教室にいるかわからないし、放課後になったら会いに行ってみよう。
「それにしても驚いたよ。まさか花恋ちゃん、マジックできるなんて」
「へっ!? あぁ、まあ……ね!」
突然話を振られて焦った。
そうか、あの流血事件がマジックだということになっているのなら、当然あたしはマジックができるものだと思われる。
本当は全然そんなことないのに。
「ねぇねぇ、今度見せてよ!」
「えっ! あ、いや、その……まだ初心者だから……上手くなったら見せるね」
「そっかぁ……じゃあその時はほんとに見せてね! 待ってるから!」
「う、うん……」
よし、なんとか誤魔化せた。
それにしても、助けてくれたのは嬉しいけど、まさかこんなに食いつかれるなんて。
百木先輩が悪いわけじゃないけど、もう少しなにか別のフォローはなかったのだろうかと思ってしまう。
こっち側のミスだから、百木先輩になにも文句は言えないけど。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 〜彩る季節を選べたら〜
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
ライト文芸
「一緒の高校に行こうね」
恋人である幼馴染と交わした約束。
だが、それを裏切って適当な高校に入学した主人公、高原翔也は科学部に所属し、なんとも言えない高校生活を送る。
孤独を誇示するような科学部部長女の子、屋上で隠し事をする生徒会長、兄に対して頑なに敬語で接する妹、主人公をあきらめない幼馴染。そんな人たちに囲まれた生活の中で、いろいろな後ろめたさに向き合い、行動することに理由を見出すお話。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる