50 / 62
第二章 吸血少女は愛されたい
恋愛は素晴らしい
しおりを挟む
高宮先輩と一通り仲を深めたあと、また馬に乗せてもらうべく厩舎の中に入った。
「やっぱり色んな馬がいるんですね。あ、ポニーもいる!」
「ふふ、純粋で可愛いわね。昔の私を見てるみたい」
「渡島先輩にもそういう初々しい時期があったんですか」
馬を見る度に目を輝かせるあたしに、渡島先輩が笑みをこぼす。
するとその時、奥の方から見慣れない馬がやってきた。
まあ、あたしもすべての馬を知っているわけではないけども。
栗毛のその馬は、他の馬と比べて少し大きい。
それになんだか威厳のある雰囲気をまとっていて、ちょっと近寄り難い感じだった。
なんだかボスの風格をしている。
「あ、この子はね、最近入ってきた子なの。『マーガレット』って言うの」
「へぇ……」
そこまで興味なかったけど、一応覚えておこう。
そんなことを思いながら馬を眺めていると、そのマーガレットがこちらに向かってきた。
そしてあたしを見つめると、鼻息荒く近づいてくる。
怯えるあたしに構わず彼女は顔を寄せてきた。
「え、な、なに……?」
「大丈夫よ、怖くないわ」
馬に慣れていないあたしに対して、渡島先輩が優しく声をかけてくれる。
やがて彼女の鼻先があたしの首筋に触れた。
「ひゃっ!?」
思わず変な声が出てしまった。
恥ずかしさで顔を赤くするあたしだったが、彼女は気にせず匂いを嗅ぎ続ける。
まるで品定めされているような気分だ。
「どうやら気に入ってくれたようね」
「そ、そうなんですか? っていうか、馬にもそういうのあるんですね……」
首元を撫でられながら、あたしは感心したように呟いた。
動物を飼ったことなんてないし、よくわからない世界である。
でもまあ、気に入られるのは悪いことじゃないだろう。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼するわね。沙織ちゃん、あとはよろしく」
「はい、嫩先輩。もう少し一緒にいたかったですけど……先輩も忙しいですもんね」
マーガレットを引いていた高宮先輩が、帰り支度をする渡島先輩に向かって寂しそうな反応を示す。
そういえば二人は付き合ってるんだった。
ならもっと二人きりの時間を作ってあげた方がよかったのかもしれない。
気が利かなかった。
「ねぇ沙織ちゃん、今度の休みは暇かしら?」
「えっと、特に予定はないですね」
「よかったわ。それじゃあデートしましょ!」
「デッ……!? は、はい……」
突然の提案に驚きつつも、嬉しさの方が勝ったのか笑顔を見せる高宮先輩。
二人の仲睦まじい様子を見て、あたしは羨ましくなった。
もしあたしが渚のことを傷つけないような〝普通〟の人間だったら、こんな風に人目を気にせず笑い合えたのかもしれない。
だけど、あたしは〝普通〟じゃない。
高宮先輩と渡島先輩のようないい関係性にはなれないんだ。
「あ、ご、ごめんなさい。黒衣さん、今日はこのマーガレットに乗ってください」
「わかりました」
渡島先輩とのやり取りが終わったのか、高宮先輩がこちらに向き直る。
マーガレットの背に乗せられたあたしは、手綱を握る彼女と一緒に馬場へと出た。
「…………」
「どうかしましたか?」
「あっ、いえ、なんでもありません。ただちょっと、羨ましいなって思っただけです」
「えっ?」
高宮先輩が不思議そうな表情を浮かべる。
そんな彼女になんと返せばいいかわからず、しばらく無言を貫いた。
だけど、昨日のこともあり、やっぱり話してみようと思った。
「あの……高宮先輩と渡島先輩って、なんでそんなに仲良いんですか?」
「うーん……どうしてって言われると困っちゃいますけど、多分お互いのことを一番に信頼しているからだと思います」
「信頼、ですか……」
あたしだって、渚のことを信頼していないわけではない。
むしろ信頼しているからこそ、申し訳なくなるのに。
あたしはどうして、渚を傷つけることしかできないんだろう。
悩んで自分の世界に閉じこもってしまったあたしは、笑顔でアドバイスをくれた高宮先輩に笑顔を返すこともできなかった。
「やっぱり色んな馬がいるんですね。あ、ポニーもいる!」
「ふふ、純粋で可愛いわね。昔の私を見てるみたい」
「渡島先輩にもそういう初々しい時期があったんですか」
馬を見る度に目を輝かせるあたしに、渡島先輩が笑みをこぼす。
するとその時、奥の方から見慣れない馬がやってきた。
まあ、あたしもすべての馬を知っているわけではないけども。
栗毛のその馬は、他の馬と比べて少し大きい。
それになんだか威厳のある雰囲気をまとっていて、ちょっと近寄り難い感じだった。
なんだかボスの風格をしている。
「あ、この子はね、最近入ってきた子なの。『マーガレット』って言うの」
「へぇ……」
そこまで興味なかったけど、一応覚えておこう。
そんなことを思いながら馬を眺めていると、そのマーガレットがこちらに向かってきた。
そしてあたしを見つめると、鼻息荒く近づいてくる。
怯えるあたしに構わず彼女は顔を寄せてきた。
「え、な、なに……?」
「大丈夫よ、怖くないわ」
馬に慣れていないあたしに対して、渡島先輩が優しく声をかけてくれる。
やがて彼女の鼻先があたしの首筋に触れた。
「ひゃっ!?」
思わず変な声が出てしまった。
恥ずかしさで顔を赤くするあたしだったが、彼女は気にせず匂いを嗅ぎ続ける。
まるで品定めされているような気分だ。
「どうやら気に入ってくれたようね」
「そ、そうなんですか? っていうか、馬にもそういうのあるんですね……」
首元を撫でられながら、あたしは感心したように呟いた。
動物を飼ったことなんてないし、よくわからない世界である。
でもまあ、気に入られるのは悪いことじゃないだろう。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼するわね。沙織ちゃん、あとはよろしく」
「はい、嫩先輩。もう少し一緒にいたかったですけど……先輩も忙しいですもんね」
マーガレットを引いていた高宮先輩が、帰り支度をする渡島先輩に向かって寂しそうな反応を示す。
そういえば二人は付き合ってるんだった。
ならもっと二人きりの時間を作ってあげた方がよかったのかもしれない。
気が利かなかった。
「ねぇ沙織ちゃん、今度の休みは暇かしら?」
「えっと、特に予定はないですね」
「よかったわ。それじゃあデートしましょ!」
「デッ……!? は、はい……」
突然の提案に驚きつつも、嬉しさの方が勝ったのか笑顔を見せる高宮先輩。
二人の仲睦まじい様子を見て、あたしは羨ましくなった。
もしあたしが渚のことを傷つけないような〝普通〟の人間だったら、こんな風に人目を気にせず笑い合えたのかもしれない。
だけど、あたしは〝普通〟じゃない。
高宮先輩と渡島先輩のようないい関係性にはなれないんだ。
「あ、ご、ごめんなさい。黒衣さん、今日はこのマーガレットに乗ってください」
「わかりました」
渡島先輩とのやり取りが終わったのか、高宮先輩がこちらに向き直る。
マーガレットの背に乗せられたあたしは、手綱を握る彼女と一緒に馬場へと出た。
「…………」
「どうかしましたか?」
「あっ、いえ、なんでもありません。ただちょっと、羨ましいなって思っただけです」
「えっ?」
高宮先輩が不思議そうな表情を浮かべる。
そんな彼女になんと返せばいいかわからず、しばらく無言を貫いた。
だけど、昨日のこともあり、やっぱり話してみようと思った。
「あの……高宮先輩と渡島先輩って、なんでそんなに仲良いんですか?」
「うーん……どうしてって言われると困っちゃいますけど、多分お互いのことを一番に信頼しているからだと思います」
「信頼、ですか……」
あたしだって、渚のことを信頼していないわけではない。
むしろ信頼しているからこそ、申し訳なくなるのに。
あたしはどうして、渚を傷つけることしかできないんだろう。
悩んで自分の世界に閉じこもってしまったあたしは、笑顔でアドバイスをくれた高宮先輩に笑顔を返すこともできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 〜彩る季節を選べたら〜
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
ライト文芸
「一緒の高校に行こうね」
恋人である幼馴染と交わした約束。
だが、それを裏切って適当な高校に入学した主人公、高原翔也は科学部に所属し、なんとも言えない高校生活を送る。
孤独を誇示するような科学部部長女の子、屋上で隠し事をする生徒会長、兄に対して頑なに敬語で接する妹、主人公をあきらめない幼馴染。そんな人たちに囲まれた生活の中で、いろいろな後ろめたさに向き合い、行動することに理由を見出すお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる