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対峙
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深淵へと一歩一歩沈んでいくように、一人分の幅と徐々に視界を失っていく階段を下っていく二人。
松明に火を灯す。
心もとない灯りが唯一の光。その光を頼りに更に奥へと進む。
一番下まで降りてくると、今度は通路が現れる。しかし通路はそれほど長くない。奥に部屋が見える。
部屋はそれほど広くなく、そんなに印象に残るようなものではなかったが、一つ変わっているといえば、床面に円形状の魔法陣が描かれているくらいだろう。
ウルカノの話から、これがメアの作ったであろうボスエリアへ移動できるワープで間違いないだろう。
二人は顔を見合わせ、お互いに頷く。
ゲームでは、そういうものだと認識して、特に原理だとか理屈だとか気にもせず使っていたワープという装置。だが、いざ自分の身体で体験することになると急に怖くなるもので、本当に大丈夫なのだろうかと思いが駆け巡る。
恐る恐る魔法陣へと足を踏み入れる。
すると魔法陣を構成する形や記号、文字などが光り出だし、二人は素っ気なく薄暗いその部屋から姿を消した。
魔法陣は二人を送り出すと光を失い、そしてその形はボロボロと消え去っていった。
二人がワープした先は薄暗い地下でもなく室内でもなかった。
そこは先ほどまでとはうって変わり、開放的な外であった。しかし、開放的というのは閉鎖的ではないというだけのことであり、そこにある空はどこまでも黒く、地面は不気味な湿気を含んでいた。
何よりも印象深く、そして二人が最初に目にし感じたインスピレーションは同じだった。
ここは墓場。
無数に並ぶ石碑は、綺麗に形を残すものから、壊れ砕かれたものまで、その姿は多数見受けられる。
木々は葉を携えることなく立ち並び、街灯は魂でも捕まえてぶら下げているかのように、不気味に辺りの空間を照らし出す。
そんな不気味な世界に、ゆっくりと足を踏み入れる二人。辺りを見渡しながら前へと進む。
何かを啄むカラスは二人の接近に飛び上がり、騒々しく飛び回る。それとは逆に、枯れた木々にぶら下がる蝙蝠達。どうやら生き物もいるようだったが、それが果たして本物なのか幻覚なのかは分からなかった。
気づけば辺りに霧が立ち込めている。
周りを見渡すが最早先は見えず、辿ってきた道も見えない。
それでも前に進む二人の前に、ふと何かが見えた。悲しく添えらた花のある石碑、その前に立ち尽くす男。二人はその男が何者であるか直感で分かった。間違いない、話で聞いただけだったが、彼がその人で目的の人物・・・。
メアだ。
「・・・驚いたな、そこから現れたのはお前達が初めてだ」
彼はゆっくり振り返る。
前髪の間から覗かせるその瞳は、血の色に真っ赤に染まり、目の周りはクマに覆われていた。そしてそれを引き立てるように肌は白く、彼の中を巡るものがはっきりとわかるほどだった。
「彼らに気に入られたということかな?」
メアは二人に向かって歩き出す。ポケットに手を入れながらうつむき加減で向かってくる。
「俺のことは・・・聞いたかい」
シンは彼の質問に首を縦に振って返した。
「そうか・・・、なら分かるね? 俺もみすみすやられてやることはできない。 戦いは避けられない」
メアの鋭い眼光がシンを突き刺す。
肉体的な強さはない、寧ろその逆。彼の身体は痩せており、物理的な戦いならまず力負けはしないだろう。
だが、それを補って余りある程の不気味な気配を感じる。召喚士であることは割れているのだ、魔法職のような立ち回りをしてくるに違いない。
「覚悟はしてきている。村の悲劇も、お前の呪いも、全部ここで終わらせてやる」
「ふふ、彼らが認めただけはあるな。・・・それに」
メアはチラッと、少し後方に立つミアの方を見た。
「お前達は、他とは違うようだ・・・」
そしてメアは振り返り、再び後ろへと戻っていく。それと同時に、辺りから物音がしだした。音は下から。地中からボコボコと人の腕や骨が現れた。
エリア全体から伝わる。
いよいよ始まる。彼らの登場は戦闘開始の狼煙のようだった。メアの足取りは始めにいた石碑の方へと向かう。
「何十人も、何百人も戦ってきた。生半可な戦いでは・・・」
メアが石碑に戻りながら話していると、不意に大きな銃声がした。銃弾はメアを守るように現れた光の壁に弾かれる。
シンは驚き振り返ると、彼女はライフルを構えていた。
「ミア!」
「こういう所はゲームらしいな・・・」
彼女は戦闘が始まる前にライフルを構えトリガーを引いていた。銃弾が命中することはなかったものの、彼女のその奇抜な行動はシンの闘争心にスイッチを入れるには十分だった。
そしてメアを動揺させる一撃でもあった。
「ガンスリンガー!? 何故上位クラスが・・・」
彼の驚きも最もだ。
ここに来られるレベル帯では上位クラスにはなれないからだ。
続けて二発三発と銃声がなる。
「戦いの幕が開くのを待ってやるつもりはない。 シン!ゲームの常識に囚われていては機を失う。綺麗事で勝とうと思うな!」
ミアはわかっているのだ。
ここでは痛みもあり血も出る。それは宛ら現実だと錯覚するほどに二人の身に降りかかってくる。ゲームのように会話イベントを待たずともアクションを起こせるのなら、正々堂々などと綺麗事を並べる必要もなければ余裕もない。
死ねばどうなるかわからないのだから。
次々に撃ち出すミアの銃弾に、メアを守る壁にヒビが入る。
「っ! ならばお望み通り始めてやる!」
その声を合図に、地中から出てきたアンデッドとは別に、地面のあちこちに魔法陣が出現。それと同時に魔法陣は光り始め、更にアンデッドが現れ始めた。
圧倒的な数のアンデッド。
ミアの銃弾を防ぐように壁となる。
シンも短剣を出し戦闘態勢に入る。
「今までにこの数のモンスターを捌けた奴らはいなかった。上位クラスには驚かされたが、遠距離タイプだったのが運の尽きだ。男の方も短剣を装備してるのを見るに、シーフあたりだろう」
無数のアンデッド達が二人の前に立ち並ぶ。シンもミアも、その数に思わず距離を取る。
「お前達のクラスは範囲攻撃に乏しい、違うか?そしてそんな奴らに適しているのは人海戦術だ。多数の敵に接近を許せば対処しきれない・・・」
出だしからかなり厳しい状態だ。
ミアはともかく、シンはメアの言う通り多くの敵を巻き込める範囲スキルなど習得していない。
「行け!アンデッド達! 奴らを飲み込め」
人海戦術の文字通り、波のように押し寄せるアンデッド達。向かってくる音が轟音のように鳴り響く。
そして厄介なことに、ゾンビやスケルトンで進行速度が変わり、エリアに満遍なく敵がいる状態になっているため、例え範囲攻撃を用いようとも、連発を要求されジリ貧になってしまう。
どこへ行こうと押し寄せ、倒せど倒せど終わりが見えない。単純な戦法だがなんと隙のない布陣なのだろう。それほどまでに“数”という武力は強力なのだ。
「シン!二手に分かれよう。あの数を二人で相手にするのは不可能だ。多少でも分断した方がいい」
「わかった!だが、そっちは大丈夫か?接近戦に持ち込まれたら・・・」
シンの心配を他所に、彼女は笑って見せた。
「近くで戦うとアンタを巻き込み兼ねない。それに作戦ならある」
そう言うと彼女は身軽な動きでシンとの距離を取る。シンも人の心配をしているほど余裕はない。両手に短剣を持ち、逆手に構え姿勢を低くし、戦闘態勢に入る。
戦闘がついに始まる。
シンは向かってくるアンデッドの群れに向かって走りだす。
先頭のスケルトンに向かって、片方の短剣を投げ、手に持つ剣を落とさせる。走ってきた勢いを使い、先頭のスケルトンの胸を蹴り、後方に高く跳躍するシン。高い視点から敵の波の様子を把握する。
「モンスターの種族間で速度が違う・・・。スケルトンが前方に出てきてる」
着地するシン。
少し考えると辺りを見渡し、モンスターから逃げるように後方へと走り出した。
シンは村で貰ったロープを手にする。
それを投擲武器にしっかりと巻きつけると、遠くの木にむかって思い切り投げた。
武器は深々と機に刺さり固定される。
そしてシンは刺さった木とは反対の方へと走り出すと、一本の木の周りを回りロープをしっかりと巻きつける。
単純でチープなトラップだ。
木の間にロープを張り、引っ掛けようというのだ。だがこれが上手くいく。
メアの言う人海戦術の裏をかいた。
数で飲み込む人海戦術は、個々に指示ができず、まとまって行動するため状況を判断しずらい。そもそも頭数のために召喚したモンスターがそこまで賢く動くことができなかったのだ。
まんまとトラップにかかる先導隊に、走ってきた後続が次々に突っ込んでいく。
「どうやら、あまり賢くないようだな」
多くのスケルトンが罠にかかり身動きが取れなくなる。作戦は成功だった。
だが、メアの表情は変わることはない。
寧ろ彼は余裕を見せた。
「何十人、何百人と戦ってきたと言っただろ。弱点ぐらい把握してるさ。そして弱点を利用することにした・・・」
すると突然、シンと罠にかかったスケルトン達を覆うほど大きなドーム状の光の壁が現れた。
「!?」
壁の中に閉じ込められたシン。
突然のことに、一体何のためなのか想像ができない。
シンが動揺していると、不可解な出来事は更に起こった。
シンと一緒に閉じ込められているスケルトン達が一気に爆散し、粉となってドーム状の壁の中に充満した。
「何だ!? 何が起きた!」
シンは咄嗟に目を瞑り、腕で鼻と口を覆った。薄っすら目を開けると、そこには真っ白な世界が広がっていた。粉が舞っていて何も見えない。
「・・・? これは、骨粉か?」
そして耐えながらも、薄めで辺りを見渡すと、赤く眼光を光らせるスケルトンが一体だけ立っていた。
「全ての者に知性を与える必要はない。少数だけ。少数だけでいい。特別な・・・そして簡単な指示を与えておくだけでいい」
メアが意味深に語り出す。
一体だけ残ったスケルトンは、両手に持った石を上下に構える。
シンは漸く気がついた。そしてその時にはもう遅く、スケルトンは手に持った石同士を勢いよく擦る。
石からは火花が散り、それは壁の中に充満する粉に引火した。
激しい爆発と共に壁は割れ、中にあったものをそこら中に吹き飛ばした。
メアは光の壁で密閉空間を作り、スケルトンを骨粉に変え、別の指示を与えたスケルトンに着火させた。そう、粉塵爆発を起こさせたのだ。
爆発はエリア中に響き、離れて戦っていたミアの元にまで小さな破片が飛んできた。
「シン!!」
しかし、ミアの呼びかけに返事はなかった。
松明に火を灯す。
心もとない灯りが唯一の光。その光を頼りに更に奥へと進む。
一番下まで降りてくると、今度は通路が現れる。しかし通路はそれほど長くない。奥に部屋が見える。
部屋はそれほど広くなく、そんなに印象に残るようなものではなかったが、一つ変わっているといえば、床面に円形状の魔法陣が描かれているくらいだろう。
ウルカノの話から、これがメアの作ったであろうボスエリアへ移動できるワープで間違いないだろう。
二人は顔を見合わせ、お互いに頷く。
ゲームでは、そういうものだと認識して、特に原理だとか理屈だとか気にもせず使っていたワープという装置。だが、いざ自分の身体で体験することになると急に怖くなるもので、本当に大丈夫なのだろうかと思いが駆け巡る。
恐る恐る魔法陣へと足を踏み入れる。
すると魔法陣を構成する形や記号、文字などが光り出だし、二人は素っ気なく薄暗いその部屋から姿を消した。
魔法陣は二人を送り出すと光を失い、そしてその形はボロボロと消え去っていった。
二人がワープした先は薄暗い地下でもなく室内でもなかった。
そこは先ほどまでとはうって変わり、開放的な外であった。しかし、開放的というのは閉鎖的ではないというだけのことであり、そこにある空はどこまでも黒く、地面は不気味な湿気を含んでいた。
何よりも印象深く、そして二人が最初に目にし感じたインスピレーションは同じだった。
ここは墓場。
無数に並ぶ石碑は、綺麗に形を残すものから、壊れ砕かれたものまで、その姿は多数見受けられる。
木々は葉を携えることなく立ち並び、街灯は魂でも捕まえてぶら下げているかのように、不気味に辺りの空間を照らし出す。
そんな不気味な世界に、ゆっくりと足を踏み入れる二人。辺りを見渡しながら前へと進む。
何かを啄むカラスは二人の接近に飛び上がり、騒々しく飛び回る。それとは逆に、枯れた木々にぶら下がる蝙蝠達。どうやら生き物もいるようだったが、それが果たして本物なのか幻覚なのかは分からなかった。
気づけば辺りに霧が立ち込めている。
周りを見渡すが最早先は見えず、辿ってきた道も見えない。
それでも前に進む二人の前に、ふと何かが見えた。悲しく添えらた花のある石碑、その前に立ち尽くす男。二人はその男が何者であるか直感で分かった。間違いない、話で聞いただけだったが、彼がその人で目的の人物・・・。
メアだ。
「・・・驚いたな、そこから現れたのはお前達が初めてだ」
彼はゆっくり振り返る。
前髪の間から覗かせるその瞳は、血の色に真っ赤に染まり、目の周りはクマに覆われていた。そしてそれを引き立てるように肌は白く、彼の中を巡るものがはっきりとわかるほどだった。
「彼らに気に入られたということかな?」
メアは二人に向かって歩き出す。ポケットに手を入れながらうつむき加減で向かってくる。
「俺のことは・・・聞いたかい」
シンは彼の質問に首を縦に振って返した。
「そうか・・・、なら分かるね? 俺もみすみすやられてやることはできない。 戦いは避けられない」
メアの鋭い眼光がシンを突き刺す。
肉体的な強さはない、寧ろその逆。彼の身体は痩せており、物理的な戦いならまず力負けはしないだろう。
だが、それを補って余りある程の不気味な気配を感じる。召喚士であることは割れているのだ、魔法職のような立ち回りをしてくるに違いない。
「覚悟はしてきている。村の悲劇も、お前の呪いも、全部ここで終わらせてやる」
「ふふ、彼らが認めただけはあるな。・・・それに」
メアはチラッと、少し後方に立つミアの方を見た。
「お前達は、他とは違うようだ・・・」
そしてメアは振り返り、再び後ろへと戻っていく。それと同時に、辺りから物音がしだした。音は下から。地中からボコボコと人の腕や骨が現れた。
エリア全体から伝わる。
いよいよ始まる。彼らの登場は戦闘開始の狼煙のようだった。メアの足取りは始めにいた石碑の方へと向かう。
「何十人も、何百人も戦ってきた。生半可な戦いでは・・・」
メアが石碑に戻りながら話していると、不意に大きな銃声がした。銃弾はメアを守るように現れた光の壁に弾かれる。
シンは驚き振り返ると、彼女はライフルを構えていた。
「ミア!」
「こういう所はゲームらしいな・・・」
彼女は戦闘が始まる前にライフルを構えトリガーを引いていた。銃弾が命中することはなかったものの、彼女のその奇抜な行動はシンの闘争心にスイッチを入れるには十分だった。
そしてメアを動揺させる一撃でもあった。
「ガンスリンガー!? 何故上位クラスが・・・」
彼の驚きも最もだ。
ここに来られるレベル帯では上位クラスにはなれないからだ。
続けて二発三発と銃声がなる。
「戦いの幕が開くのを待ってやるつもりはない。 シン!ゲームの常識に囚われていては機を失う。綺麗事で勝とうと思うな!」
ミアはわかっているのだ。
ここでは痛みもあり血も出る。それは宛ら現実だと錯覚するほどに二人の身に降りかかってくる。ゲームのように会話イベントを待たずともアクションを起こせるのなら、正々堂々などと綺麗事を並べる必要もなければ余裕もない。
死ねばどうなるかわからないのだから。
次々に撃ち出すミアの銃弾に、メアを守る壁にヒビが入る。
「っ! ならばお望み通り始めてやる!」
その声を合図に、地中から出てきたアンデッドとは別に、地面のあちこちに魔法陣が出現。それと同時に魔法陣は光り始め、更にアンデッドが現れ始めた。
圧倒的な数のアンデッド。
ミアの銃弾を防ぐように壁となる。
シンも短剣を出し戦闘態勢に入る。
「今までにこの数のモンスターを捌けた奴らはいなかった。上位クラスには驚かされたが、遠距離タイプだったのが運の尽きだ。男の方も短剣を装備してるのを見るに、シーフあたりだろう」
無数のアンデッド達が二人の前に立ち並ぶ。シンもミアも、その数に思わず距離を取る。
「お前達のクラスは範囲攻撃に乏しい、違うか?そしてそんな奴らに適しているのは人海戦術だ。多数の敵に接近を許せば対処しきれない・・・」
出だしからかなり厳しい状態だ。
ミアはともかく、シンはメアの言う通り多くの敵を巻き込める範囲スキルなど習得していない。
「行け!アンデッド達! 奴らを飲み込め」
人海戦術の文字通り、波のように押し寄せるアンデッド達。向かってくる音が轟音のように鳴り響く。
そして厄介なことに、ゾンビやスケルトンで進行速度が変わり、エリアに満遍なく敵がいる状態になっているため、例え範囲攻撃を用いようとも、連発を要求されジリ貧になってしまう。
どこへ行こうと押し寄せ、倒せど倒せど終わりが見えない。単純な戦法だがなんと隙のない布陣なのだろう。それほどまでに“数”という武力は強力なのだ。
「シン!二手に分かれよう。あの数を二人で相手にするのは不可能だ。多少でも分断した方がいい」
「わかった!だが、そっちは大丈夫か?接近戦に持ち込まれたら・・・」
シンの心配を他所に、彼女は笑って見せた。
「近くで戦うとアンタを巻き込み兼ねない。それに作戦ならある」
そう言うと彼女は身軽な動きでシンとの距離を取る。シンも人の心配をしているほど余裕はない。両手に短剣を持ち、逆手に構え姿勢を低くし、戦闘態勢に入る。
戦闘がついに始まる。
シンは向かってくるアンデッドの群れに向かって走りだす。
先頭のスケルトンに向かって、片方の短剣を投げ、手に持つ剣を落とさせる。走ってきた勢いを使い、先頭のスケルトンの胸を蹴り、後方に高く跳躍するシン。高い視点から敵の波の様子を把握する。
「モンスターの種族間で速度が違う・・・。スケルトンが前方に出てきてる」
着地するシン。
少し考えると辺りを見渡し、モンスターから逃げるように後方へと走り出した。
シンは村で貰ったロープを手にする。
それを投擲武器にしっかりと巻きつけると、遠くの木にむかって思い切り投げた。
武器は深々と機に刺さり固定される。
そしてシンは刺さった木とは反対の方へと走り出すと、一本の木の周りを回りロープをしっかりと巻きつける。
単純でチープなトラップだ。
木の間にロープを張り、引っ掛けようというのだ。だがこれが上手くいく。
メアの言う人海戦術の裏をかいた。
数で飲み込む人海戦術は、個々に指示ができず、まとまって行動するため状況を判断しずらい。そもそも頭数のために召喚したモンスターがそこまで賢く動くことができなかったのだ。
まんまとトラップにかかる先導隊に、走ってきた後続が次々に突っ込んでいく。
「どうやら、あまり賢くないようだな」
多くのスケルトンが罠にかかり身動きが取れなくなる。作戦は成功だった。
だが、メアの表情は変わることはない。
寧ろ彼は余裕を見せた。
「何十人、何百人と戦ってきたと言っただろ。弱点ぐらい把握してるさ。そして弱点を利用することにした・・・」
すると突然、シンと罠にかかったスケルトン達を覆うほど大きなドーム状の光の壁が現れた。
「!?」
壁の中に閉じ込められたシン。
突然のことに、一体何のためなのか想像ができない。
シンが動揺していると、不可解な出来事は更に起こった。
シンと一緒に閉じ込められているスケルトン達が一気に爆散し、粉となってドーム状の壁の中に充満した。
「何だ!? 何が起きた!」
シンは咄嗟に目を瞑り、腕で鼻と口を覆った。薄っすら目を開けると、そこには真っ白な世界が広がっていた。粉が舞っていて何も見えない。
「・・・? これは、骨粉か?」
そして耐えながらも、薄めで辺りを見渡すと、赤く眼光を光らせるスケルトンが一体だけ立っていた。
「全ての者に知性を与える必要はない。少数だけ。少数だけでいい。特別な・・・そして簡単な指示を与えておくだけでいい」
メアが意味深に語り出す。
一体だけ残ったスケルトンは、両手に持った石を上下に構える。
シンは漸く気がついた。そしてその時にはもう遅く、スケルトンは手に持った石同士を勢いよく擦る。
石からは火花が散り、それは壁の中に充満する粉に引火した。
激しい爆発と共に壁は割れ、中にあったものをそこら中に吹き飛ばした。
メアは光の壁で密閉空間を作り、スケルトンを骨粉に変え、別の指示を与えたスケルトンに着火させた。そう、粉塵爆発を起こさせたのだ。
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