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神代 コウ

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出藍の誉れ

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あれだけ猛々しく戦い、シュトラールを追い詰めたツクヨが地に伏せられ動かなくなる。

憎悪の灯火を宿していた剣は、その黒い炎の勢いを徐々に弱めていきながら鎮静化し、通常ではあり得ない身体能力を実現した、身体を巡り肌を盛り上げるほど浮き出た青白い血の通り道も、元の場所へと引っ込んで戻っていく。

体質まで変化していたツクヨの身体は、以前のほっそりとした、それでいて重たい剣を振るうのには十分な筋肉をつけた、元の身体へと戻っていった。

「な、なんて御仁だッ・・・!」

味方であることを忘れてしまうほどに、恐ろしく強大な力で戦闘を繰り広げたツクヨをねじ伏せ、ゆっくりとその膝を伸ばし立ち尽くすシュトラールの姿に、思わず声を漏らすイデアール。

現状を変え、新たなものへと挑戦し旅立つ時、必ずそこには何かしらの力や壁が立ちはだかものだ。

そしてそれは、その者が永く信頼を置き安心し、そのことすら忘れてしまうほど頼りにし依存することで、より高くより強大な障害として立ちはだかる。

イデアール自身、シュトラールに出逢わなければ、権力や地位を盾に好き放題していた母国の騎士団の一人として、何を得るわけでもなく失うわけでもなく、学ぶこともなく知ることもなく、ただ行き先の見えない真っ暗な道を漠然と進み、腐っていくだけだったであろう。

そんな彼の人生に、世界を見せ、正義のあり方を教え、実現させるだけの力を与えたシュトラールの存在は、彼の心を深く根強く依存させるには、十分過ぎるほど眩しい光だった。

彼が新しい道を見つけ、自らの光を探そうと前へ踏み出した時、シュトラールというあまりにも強い光は、後ろから彼を照らし、歩き出そうとする道を深淵の影で覆い尽くす。

光が強ければ強いほど影は濃く、そして濃密になっていく。

光にいる者ほど、この影の先が何処へ繋がっているのか分からず、足がすくむ。

それでも・・・。

「それでも・・・、俺が自分で見つけた光だからッ・・・!」

「イデアール・・・」

光に集まった大きな群れの中で、様々なことを学び成長してきたからからこそ、自分の見つけた道が正しいのだと証明するために、袂を分かち自分だけの人生を開拓する。

「あの時、暗闇の中で死んでいくのを待つだけだった俺の人生を光の中に導いてくれた。世界の景色を見てきて、やっと見つけた俺だけの“人生”という道だからッ・・・! 」

シュトラールとイデアール、この二人においては相手を止めること、殺すことを目的として戦うのではない。

それは互いの光、互いの正義が正しくあるかを証明する為の戦い。

「イデアール・・・。 我が光の中から見つけたというお前の光・道・人生ッ・・・・、私に証明してみせろ」

シュトラールが顔を上げ、イデアールの覚悟を一身に受け止めんと、静かな闘志を滾らせこちらへと歩み寄る。

「俺にとって、命をかけるのには十分過ぎる理由だッ・・・。 いざッ! イデアール・ゼルプスト・アンビツィオーンッ・・・推して参るッ!!」

出藍の誉れは武人においても同じこと。

彼に力を示し、今こそ自らの人生を歩みだす時と、槍を握る手に力が入る。

そしてイデアールは、シュトラールに聞こえるかどうか分からない小さな声で、シンに言葉をかける。

「シン・・・あの時はすまなかった。 そして、ありがとう・・・俺の聖騎士として最期の任務に付き合ってくれて・・・」

あの時とは、聖都動乱の際に門でシンと戦った時のことを指しているのだろう。

そうでなければ彼がシンに謝ることなど、検討がつかない。

それどころか、シンは聖都で彼に与えられたものの方が多いほどで、寧ろ感謝を伝えなければならないのは自分の方だと言おうとしたが、イデアールはシンの緊張を途切れさせまいと、話を続ける。

「彼の・・・シュトラール殿のクラスや毒を用いてることを考察してみせたのは君だ。 俺も君の考察した通りで間違いないと思う・・・」

この場面において、何故イデアールがこんなことを言い出したのか、シンには分からなかったが、彼は心のどこかでこの戦いの終わり方を、この段階である程度想像していたのかもしれない。

「これは君に贈るせめてもの礼だ。 それをどう使おうと君次第だ・・・。 俺とシュトラール殿の戦いに決着が着けば、最後に残るのはシン・・・君だ。 この戦いで彼の隙や弱点・・・何でもいい、何かの役に立ててくれ・・・」

「イデアール・・・アンタッ・・・」

「君のような・・・自由に生きられる旅の者に託してしまって悪いと思うが、今君に頼る他ないんでね・・・」

少し言うのが恥ずかしい事のように、おちゃらけて見せるイデアールだったが、その時彼が見せた表情は、国の行く末を憂いる一人の民の顔だった。

「・・・聖都を、ユスティーチを頼む・・・」

勇ましくシュトラールへ向かっていくイデアールの背中は、何処か哀愁を漂わせる、そんな背中だった。
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