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介錯
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鋭く研ぎ澄まされた彼の矛先が、まるで機関銃のように素早い突きを放ち、シュトラールを襲う。
男は武器を持つことなく、軽快な動きでイデアールの突きを紙一重で避けながら、それでも避けきれない一撃を、生身の腕と銀の腕を繊細に使い、軌道をズラし最小限の動きで躱していく。
イデアールの猛攻を掻い潜り、男が銀の腕を彼に向けると、その腕から飛び出した刃が彼の矛先を捕らえ、嵐の中吹き付ける雨のように激しい猛攻を一瞬にして止めてみせた。
「ッ・・・!?」
彼の攻撃の手が止まってしまったのも無理もない。
目の前で起きた異常な光景、通常では想像だにしないであろう無機質に変形し、イデアールの攻撃を防いだそれは、特殊な武具なのか男のスキルや術によるものなのか。
そのあまりに不気味で動きの読めない銀の腕に、彼の武人としての本能が危険信号を発し、追撃を停止させたのだ。
一瞬動きを止めたイデアールに、男は即座に身をひるがえし、回し蹴りを放つ。
男の武術による攻撃の破壊力を、身を以て知っているイデアールの身体が、彼の脳よりも先に反応し、手にした槍でガードの姿勢を取る。
その動きによって我に帰ったイデアールは、そのまま蹴りを槍で受け止め、弾かれる勢いを利用し、身体の回転と槍を回しながら男の攻撃力を流動し、そのままの勢いで男に返す。
イデアールの渾身の一撃を、男は銀の腕の手首で受ける。
すると男の手首は、槍の鋭い穂の切れ味と、自らの蹴りの威力を利用された一撃により切断され、宙に舞う。
しかし彼が、何となくそうであろうと予想していた通り、銀の腕は切断したところで出血もなければ、男に痛みや衝撃といったダメージを与えることは出来なかった。
それよりもイデアールが気になったのは、何故シュトラールはこの一撃を受けたのか。
彼の身のこなしを見ていれば、あの様な攻撃を避けるなど造作もない筈だろう。
それを、敢えて切断されてまで受けるということは、シュトラールにとってデメリットが無く、イデアールを驚かせる仕掛けが何かしらあるからだ。
一瞬視界に入った、男の口角が上がる表情を見逃さなかったイデアールは、具体的な何かは分からないが男の思惑に気付き、瞬時に後ろへ飛び退いた。
彼の予感は見事に的中し、切断された銀の腕の手首は、落下しながらボコボコと内部から何かが突き上げる様にその形を変形させていき、無数の突起を作ると、膨らんだハリセンボンの様に形を変えた。
イデアールには、次にその手首がどうなるのか、想像がついた。
それは、彼がそのことを知っていたわけでは無く、その形から何が来るのか想像するに容易かったからだ。
飛び退きながらも槍を構え、回転させる準備をすると、これから来る攻撃を弾く動作に、既に入り始めるイデアール。
刺々しく形を変えた手首は、その無数の棘を急速に伸縮させ、イデアールを襲ったのだ。
「くッ・・・! 捌ききれないッ・・・!」
自分の力だけではどうにもならないと思ったイデアールは、シンとの戦いで見せた光の球体を矛先から生み出し、一斉に発光させることにより、シュトラールの視界を遮断する目潰しをする。
目を細めながら腕で顔を覆うシュトラール。
彼の視界を阻害することには成功したのだが、棘の勢いは依然変わらぬままイデアールを襲い続ける。
「無駄だ。 お前の切り落としたそれは、私の意思とは関係なく攻撃をする」
切り落とした銀の腕の手首は、地面に落ちるまでの間、休む間も無くイデアールを襲い続け、地面に当たると同時に、水風船が破裂するように辺りに散らばり、地中へと浸透していった。
何とか猛攻を退けたイデアールだったが、その身体には無数の傷が刻まれていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
疲弊した様子で息を乱すイデアールが、視線を上げ男の腕を見てみると、銀の腕は何事もなかったかの様に戦闘前の形、つまり手首がある状態へと戻っていた。
イデアールの渾身の槍術を駆使しても、息一つ乱していないシュトラールの姿に、彼は言葉を失うと共に、やや視界がぼやけ始める。
その異変に気付き、自らの手のひらを確認する彼に、男は余裕の様子でイデアールの身に起きていることを当ててみせる。
「どうした・・・、視界がぼやけて見えるか?」
「・・・これはッ・・・」
男は何がおかしかったのか、一度だけフッと鼻で笑う。
「あの男の目は世界を見てきた目だ、実に肥えている・・・。 侮りがたいな・・・」
そう言うと男は、視線を僅かな間、シンの方へと向ける。
「彼の考察した通りだ。お前のその視界不良・・・、お前の疲労によるものではない」
先程、地面に落ち破裂した銀の腕の手首が散らばった場所から、仄かに湯気の様なものが発生する。
「自らの異変、戦況の変化に気づけぬようでは、勝ち目はないぞイデアール」
今は袂を分かち、敵であるイデアールに塩を送るシュトラール。
彼もまた、ただイデアールを都合よく利用していたわけではなく、同じ道を歩む者として本当に仲間だと思っており、朝孝やアーテム達の師弟関係の様に、信頼し成長を見守っていたからこそ、彼の長所でもあり短所でもある“優しさ”、或いは甘さを取り除いてやりたいと思っていた。
それは一つの正義というものを追い、集った仲間達の中にもし悪が芽生えてしまった時、それを裁くのは仲間達しかいない、謂わば介錯のようなもの。
親しんだ仲間を裁かねばならない時、イデアールの優しさはそれを情から見逃してしまう甘さに成り得る。
もし自分がいなくなった後世においても、全ての命を平等に捉え裁けなければ聖騎士として、力を持つ者としての役割を果たせなくなる。
それを悟す為に、今回の作戦の要をイデアールにやらせていたのだった。
だが彼のその優しさから、恐らく彼は自分に疑念を抱き、自らの新たな道を見つけ歩き出して行くのではないかと、シュトラールは分かっていた。
それ故、彼はイデアールを介錯しなければならない。
自ら救った命、共に歩く仲間であっても、その心にシュトラールとは別の正義、“悪”を宿してしまったのならば、彼は朝孝やアーテムと同じ。
正義の敵は、悪だけではない。
別々の正義、正義と正義もまた敵対し勝ち残った方が、例え完全な正義じゃ無かろうと、正義を名乗る。
幼少の時より、無数の正義を目の当たりにし、触れてきたシュトラールだからこそ、遍く全ての正義を一つに集約させたいと志したのだ。
男は武器を持つことなく、軽快な動きでイデアールの突きを紙一重で避けながら、それでも避けきれない一撃を、生身の腕と銀の腕を繊細に使い、軌道をズラし最小限の動きで躱していく。
イデアールの猛攻を掻い潜り、男が銀の腕を彼に向けると、その腕から飛び出した刃が彼の矛先を捕らえ、嵐の中吹き付ける雨のように激しい猛攻を一瞬にして止めてみせた。
「ッ・・・!?」
彼の攻撃の手が止まってしまったのも無理もない。
目の前で起きた異常な光景、通常では想像だにしないであろう無機質に変形し、イデアールの攻撃を防いだそれは、特殊な武具なのか男のスキルや術によるものなのか。
そのあまりに不気味で動きの読めない銀の腕に、彼の武人としての本能が危険信号を発し、追撃を停止させたのだ。
一瞬動きを止めたイデアールに、男は即座に身をひるがえし、回し蹴りを放つ。
男の武術による攻撃の破壊力を、身を以て知っているイデアールの身体が、彼の脳よりも先に反応し、手にした槍でガードの姿勢を取る。
その動きによって我に帰ったイデアールは、そのまま蹴りを槍で受け止め、弾かれる勢いを利用し、身体の回転と槍を回しながら男の攻撃力を流動し、そのままの勢いで男に返す。
イデアールの渾身の一撃を、男は銀の腕の手首で受ける。
すると男の手首は、槍の鋭い穂の切れ味と、自らの蹴りの威力を利用された一撃により切断され、宙に舞う。
しかし彼が、何となくそうであろうと予想していた通り、銀の腕は切断したところで出血もなければ、男に痛みや衝撃といったダメージを与えることは出来なかった。
それよりもイデアールが気になったのは、何故シュトラールはこの一撃を受けたのか。
彼の身のこなしを見ていれば、あの様な攻撃を避けるなど造作もない筈だろう。
それを、敢えて切断されてまで受けるということは、シュトラールにとってデメリットが無く、イデアールを驚かせる仕掛けが何かしらあるからだ。
一瞬視界に入った、男の口角が上がる表情を見逃さなかったイデアールは、具体的な何かは分からないが男の思惑に気付き、瞬時に後ろへ飛び退いた。
彼の予感は見事に的中し、切断された銀の腕の手首は、落下しながらボコボコと内部から何かが突き上げる様にその形を変形させていき、無数の突起を作ると、膨らんだハリセンボンの様に形を変えた。
イデアールには、次にその手首がどうなるのか、想像がついた。
それは、彼がそのことを知っていたわけでは無く、その形から何が来るのか想像するに容易かったからだ。
飛び退きながらも槍を構え、回転させる準備をすると、これから来る攻撃を弾く動作に、既に入り始めるイデアール。
刺々しく形を変えた手首は、その無数の棘を急速に伸縮させ、イデアールを襲ったのだ。
「くッ・・・! 捌ききれないッ・・・!」
自分の力だけではどうにもならないと思ったイデアールは、シンとの戦いで見せた光の球体を矛先から生み出し、一斉に発光させることにより、シュトラールの視界を遮断する目潰しをする。
目を細めながら腕で顔を覆うシュトラール。
彼の視界を阻害することには成功したのだが、棘の勢いは依然変わらぬままイデアールを襲い続ける。
「無駄だ。 お前の切り落としたそれは、私の意思とは関係なく攻撃をする」
切り落とした銀の腕の手首は、地面に落ちるまでの間、休む間も無くイデアールを襲い続け、地面に当たると同時に、水風船が破裂するように辺りに散らばり、地中へと浸透していった。
何とか猛攻を退けたイデアールだったが、その身体には無数の傷が刻まれていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
疲弊した様子で息を乱すイデアールが、視線を上げ男の腕を見てみると、銀の腕は何事もなかったかの様に戦闘前の形、つまり手首がある状態へと戻っていた。
イデアールの渾身の槍術を駆使しても、息一つ乱していないシュトラールの姿に、彼は言葉を失うと共に、やや視界がぼやけ始める。
その異変に気付き、自らの手のひらを確認する彼に、男は余裕の様子でイデアールの身に起きていることを当ててみせる。
「どうした・・・、視界がぼやけて見えるか?」
「・・・これはッ・・・」
男は何がおかしかったのか、一度だけフッと鼻で笑う。
「あの男の目は世界を見てきた目だ、実に肥えている・・・。 侮りがたいな・・・」
そう言うと男は、視線を僅かな間、シンの方へと向ける。
「彼の考察した通りだ。お前のその視界不良・・・、お前の疲労によるものではない」
先程、地面に落ち破裂した銀の腕の手首が散らばった場所から、仄かに湯気の様なものが発生する。
「自らの異変、戦況の変化に気づけぬようでは、勝ち目はないぞイデアール」
今は袂を分かち、敵であるイデアールに塩を送るシュトラール。
彼もまた、ただイデアールを都合よく利用していたわけではなく、同じ道を歩む者として本当に仲間だと思っており、朝孝やアーテム達の師弟関係の様に、信頼し成長を見守っていたからこそ、彼の長所でもあり短所でもある“優しさ”、或いは甘さを取り除いてやりたいと思っていた。
それは一つの正義というものを追い、集った仲間達の中にもし悪が芽生えてしまった時、それを裁くのは仲間達しかいない、謂わば介錯のようなもの。
親しんだ仲間を裁かねばならない時、イデアールの優しさはそれを情から見逃してしまう甘さに成り得る。
もし自分がいなくなった後世においても、全ての命を平等に捉え裁けなければ聖騎士として、力を持つ者としての役割を果たせなくなる。
それを悟す為に、今回の作戦の要をイデアールにやらせていたのだった。
だが彼のその優しさから、恐らく彼は自分に疑念を抱き、自らの新たな道を見つけ歩き出して行くのではないかと、シュトラールは分かっていた。
それ故、彼はイデアールを介錯しなければならない。
自ら救った命、共に歩く仲間であっても、その心にシュトラールとは別の正義、“悪”を宿してしまったのならば、彼は朝孝やアーテムと同じ。
正義の敵は、悪だけではない。
別々の正義、正義と正義もまた敵対し勝ち残った方が、例え完全な正義じゃ無かろうと、正義を名乗る。
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