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ロストテクノロジー
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「まぁ、何にせよ考え過ぎてしまって足が竦むのが一番良くない。こっちの世界のことは我々に任せて、お前は向こう側の世界を調べてくれ」
彼の言うことは最もなことなのかも知れない。現に与えられた情報の多さに、慎は頭の中を駆け巡る情報を整理しきれず、考え出したら途方もない程の予想が、この先にある未来への分岐の枝を無数に広げていく。
「難しく考えることはない。向こうの世界を調べるといっても、普段プレイしていたWoFの世界と比べて異常に思う点や、小さな変化でも構わない」
異常や異変といっても、慎が思い浮かべるのはメアの一件であった。通常ではクリアなど出来るはずもないレベル帯の難易度設定がされたクエスト、そして常時アンデッド化が進むエリアと、今考えてもよく乗り越えられたなと思う程の異常だった。そんなクエストを進んで受けに行けと言うのは、正に死にに行けと言っているのと同義だろう。
「簡単に言ってくれるが、難易度設定がそもそもおかしいんだ。とても普通じゃない・・・。そんな中に飛び込んで行けと?」
慎には、このアサシンギルドとの協力関係がとても平等であるようには思えなかった。彼らは安全なところでプレイヤーの情報を待つだけで、現場で命を張るのは自分達だけではないかという疑問が拭えない。
「自ら進んで危険を犯せとは言っていない。だが、俺が会ってきたプレイヤー達は何故か一様に、危険に身を投じて行くんだ・・・。彼女も・・・颯來もそうだった。なぁ慎、お前にも何か心当たりがあるんじゃないか?何故お前はWoFの世界で、アンデッドの少女を救おうと思った?何故グラテス村を救った?そしてお前は何を得た?」
「何故って・・・?そんなのは・・・」
そう言いかけた時、慎の脳裏に蘇って来たのはパルディアの街で、擦り切れ綻びた衣服を身に纏い、虚な瞳で死者のように彷徨うサラの姿だった。そんな少女の姿を見て慎が何を思い何を感じたのか、悲壮を漂わせる少女への哀れみか、周りに流されず弱気を助けよという良心か。それ以上に彼の心にあったのは、現実での自身に対する後悔や嫌悪感だっただろう。そんな自分を変えたいと思ったからこそ、彼は例えそれが死ぬかも知れない危険な道であっても飛び込んで行けたのだ。
「あるんだな・・・?心当たりが・・・。俺は思うんだ、きっとそういった者達が選ばれているのではないのかと。例え自分の身を危険に晒してでも、運命に争おうとする意志を持った者達であれば、必ず挑んでくるのではないかと」
「・・・・・」
図星を突かれたようだった。危険なことに首を突っ込むのは嫌なはずなのに、そのことから避けられず、まるで誘導されているかのように、異変に向かって歩みを進めている自分がいると慎は思った。
「だが安心してくれ。俺達は何も、調査を頼む一方ではない。ちゃんとお前達のサポートもするし、持ち帰った情報の解析もしていく。それと・・・」
そう言うと白獅は、懐から何かを取り出すとその手には黒い球体が握られていた。それを慎へ手渡すと、その用途と使い方を説明する。
「これは・・・?」
「テュルプ・オーブ。この世界の技術と俺達のスキルから考案し、俺が創り出したサポートアイテムだ!」
白獅は、これは自分が創り出したのだと、誇らしげな態度をとった。手にして見ると滑らかで触り心地が良く、そして見た目のイメージや色に反しとても軽く、手のひらの上でコロコロと回るのが何とも癖になる代物だ。
「ずっと手にしていたくなるだろ?形状や触感にも拘ったんだ。そして何といっても機能的だ。ちょいと上に投げてみろ」
言われた通り軽く上に投げてみると、球体は分解しながら形を変え、無数の細い帯状となって慎の身体を円形状に取り囲み、何かを読み込んでいるかのような光が黒い帯の中に見える。
「あっちの世界のお前を読み込んでいるんだ。次に、胸に手を当てて自分のキャラクターを想像してみろ」
何をされているのか、何が起きるのか分からなかったが、見たことのないテクノロジーに慎の好奇心がかき立てられた。
慎が胸に手を当て、自分のキャラクターを想像すると、慎に向かって帯から光が当てられ、自分の身体がWoFにログインした時と同じ姿となり、体幹も軽くなったのを感じる。正に現実世界でシンとして活動できているようだった。
慎をキャラクターの姿へと変えると、球体は元の掌サイズに戻り、彼の手の中へと落ちてきた。
「直ぐに自身のキャラクターを呼び出すことが出来る仕組みだ。これでこっちの世界で襲われても、瞬時に対応できる」
「すっすごい・・・!これなら俺もこっちで戦える!」
そう思った矢先、白獅によってそれは英断ではないと制止されてしまう。それもその筈、ミアも言っていた通りレベルはあちらの世界のものが反映されており、痛みやダメージは現実のものとなる上に、再生したり自動で癒える事もない。見た目や身体能力こそ変われど、生身と何ら変わらないということだ。
「お前達プレイヤーはこちらで戦おうなどとは思わない事だ、リスクが高すぎる。それはあくまで緊急用であって、戦うための武器じゃあない。それに俺達もプレイヤーをみすみす消される訳にはいかないからな」
彼の言う緊急用というのは、キャラクターの身体能力を活かした移動や身のこなしによる回避をするためといったところだろう。しかし、慎には彼が何故これを自分に持たせたのかが気になった。身を守るためなのは分かるが、慎が主に活動するのはWoFの世界であるはず。それならこの機能は役に立たない。
「身を守るためっていうのは分かった。だが俺はWoFの世界で情報を集めるんだろ?なら、これを使う機会はそうはないんじゃないか?」
「こっちではな。あっちの世界でそのアイテムを使えば、お前の眼の代わりにそいつが情報を解析し記録する。つまり相手がWoF上のデータに記録されていれば、スキルや弱点を分析出来るってことだ。どうだ?便利だろ」
彼はまたしても誇らしげな態度をとる。しかし、その功績から見ればそんな態度も神々しく見える程の創作物だろう。慎は彼の余韻に浸る様子を、彼が満足するまで暖かく見守る事にした。
彼の言うことは最もなことなのかも知れない。現に与えられた情報の多さに、慎は頭の中を駆け巡る情報を整理しきれず、考え出したら途方もない程の予想が、この先にある未来への分岐の枝を無数に広げていく。
「難しく考えることはない。向こうの世界を調べるといっても、普段プレイしていたWoFの世界と比べて異常に思う点や、小さな変化でも構わない」
異常や異変といっても、慎が思い浮かべるのはメアの一件であった。通常ではクリアなど出来るはずもないレベル帯の難易度設定がされたクエスト、そして常時アンデッド化が進むエリアと、今考えてもよく乗り越えられたなと思う程の異常だった。そんなクエストを進んで受けに行けと言うのは、正に死にに行けと言っているのと同義だろう。
「簡単に言ってくれるが、難易度設定がそもそもおかしいんだ。とても普通じゃない・・・。そんな中に飛び込んで行けと?」
慎には、このアサシンギルドとの協力関係がとても平等であるようには思えなかった。彼らは安全なところでプレイヤーの情報を待つだけで、現場で命を張るのは自分達だけではないかという疑問が拭えない。
「自ら進んで危険を犯せとは言っていない。だが、俺が会ってきたプレイヤー達は何故か一様に、危険に身を投じて行くんだ・・・。彼女も・・・颯來もそうだった。なぁ慎、お前にも何か心当たりがあるんじゃないか?何故お前はWoFの世界で、アンデッドの少女を救おうと思った?何故グラテス村を救った?そしてお前は何を得た?」
「何故って・・・?そんなのは・・・」
そう言いかけた時、慎の脳裏に蘇って来たのはパルディアの街で、擦り切れ綻びた衣服を身に纏い、虚な瞳で死者のように彷徨うサラの姿だった。そんな少女の姿を見て慎が何を思い何を感じたのか、悲壮を漂わせる少女への哀れみか、周りに流されず弱気を助けよという良心か。それ以上に彼の心にあったのは、現実での自身に対する後悔や嫌悪感だっただろう。そんな自分を変えたいと思ったからこそ、彼は例えそれが死ぬかも知れない危険な道であっても飛び込んで行けたのだ。
「あるんだな・・・?心当たりが・・・。俺は思うんだ、きっとそういった者達が選ばれているのではないのかと。例え自分の身を危険に晒してでも、運命に争おうとする意志を持った者達であれば、必ず挑んでくるのではないかと」
「・・・・・」
図星を突かれたようだった。危険なことに首を突っ込むのは嫌なはずなのに、そのことから避けられず、まるで誘導されているかのように、異変に向かって歩みを進めている自分がいると慎は思った。
「だが安心してくれ。俺達は何も、調査を頼む一方ではない。ちゃんとお前達のサポートもするし、持ち帰った情報の解析もしていく。それと・・・」
そう言うと白獅は、懐から何かを取り出すとその手には黒い球体が握られていた。それを慎へ手渡すと、その用途と使い方を説明する。
「これは・・・?」
「テュルプ・オーブ。この世界の技術と俺達のスキルから考案し、俺が創り出したサポートアイテムだ!」
白獅は、これは自分が創り出したのだと、誇らしげな態度をとった。手にして見ると滑らかで触り心地が良く、そして見た目のイメージや色に反しとても軽く、手のひらの上でコロコロと回るのが何とも癖になる代物だ。
「ずっと手にしていたくなるだろ?形状や触感にも拘ったんだ。そして何といっても機能的だ。ちょいと上に投げてみろ」
言われた通り軽く上に投げてみると、球体は分解しながら形を変え、無数の細い帯状となって慎の身体を円形状に取り囲み、何かを読み込んでいるかのような光が黒い帯の中に見える。
「あっちの世界のお前を読み込んでいるんだ。次に、胸に手を当てて自分のキャラクターを想像してみろ」
何をされているのか、何が起きるのか分からなかったが、見たことのないテクノロジーに慎の好奇心がかき立てられた。
慎が胸に手を当て、自分のキャラクターを想像すると、慎に向かって帯から光が当てられ、自分の身体がWoFにログインした時と同じ姿となり、体幹も軽くなったのを感じる。正に現実世界でシンとして活動できているようだった。
慎をキャラクターの姿へと変えると、球体は元の掌サイズに戻り、彼の手の中へと落ちてきた。
「直ぐに自身のキャラクターを呼び出すことが出来る仕組みだ。これでこっちの世界で襲われても、瞬時に対応できる」
「すっすごい・・・!これなら俺もこっちで戦える!」
そう思った矢先、白獅によってそれは英断ではないと制止されてしまう。それもその筈、ミアも言っていた通りレベルはあちらの世界のものが反映されており、痛みやダメージは現実のものとなる上に、再生したり自動で癒える事もない。見た目や身体能力こそ変われど、生身と何ら変わらないということだ。
「お前達プレイヤーはこちらで戦おうなどとは思わない事だ、リスクが高すぎる。それはあくまで緊急用であって、戦うための武器じゃあない。それに俺達もプレイヤーをみすみす消される訳にはいかないからな」
彼の言う緊急用というのは、キャラクターの身体能力を活かした移動や身のこなしによる回避をするためといったところだろう。しかし、慎には彼が何故これを自分に持たせたのかが気になった。身を守るためなのは分かるが、慎が主に活動するのはWoFの世界であるはず。それならこの機能は役に立たない。
「身を守るためっていうのは分かった。だが俺はWoFの世界で情報を集めるんだろ?なら、これを使う機会はそうはないんじゃないか?」
「こっちではな。あっちの世界でそのアイテムを使えば、お前の眼の代わりにそいつが情報を解析し記録する。つまり相手がWoF上のデータに記録されていれば、スキルや弱点を分析出来るってことだ。どうだ?便利だろ」
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