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神代 コウ

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グレイス・オマリーと秘密の任務

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 お洒落な料理や酒を嗜みながら一通りの会話を終えると、最後に何か身の回りで変わったことは無いかとハオランに尋ねるシン達。しかし、彼らの期待していたような分かりやすい異変の話を聞くことはできなかった。

 「異変・・・ですか。私の知る限りではそのような報告は受けていませんね・・・。あっ!ですが・・・」

 言いかけた彼は何かを思い出したかのように目を見開き、突然背筋を伸ばし座高を上げる。

 「そういえば今回のレースに飛び入りでスポンサーの方が付いたという噂を耳にしました。どうやら一部の参加者達の間で噂になっているようですよ。新規にしては急過ぎるなと・・・、まぁ私はあまり俗世のことに興味がないので、この手の話には疎いのですが」

 これは以前シンとミアが海賊と一悶着起こした酒場で、キングというシー・ギャングからも聞いた話だった。内容的にはキングの方が詳しく知っていたようだが、その彼も黒いコートの男といったくらいの情報しかないと言っていた。しかし、シン達に関わる異変には、その黒いコートの者達の関係が深いように思えて仕方がない。その人物が急遽レースのスポンサーになったのには、何か理由があるのだろうか。

 「そろそろお開きにしますか。あまり昼間から飲み過ぎてしまうのも良くないことですよ。是非町を見て堪能していってください」

 ハオランの言葉につられ、席を立つ彼の後に続く三人は個室を後にし、会計を行うため受付の方へと進む。するとそこに何やら数人の人影が見えてきた。一人は海賊のような風貌をした、どこか男っぽいクールな雰囲気で高身長の女性と、細身で眼鏡をかけた中国風の衣装を身に纏った男性。そして男性と同じく中国を連想とさせる衣服を着た小さな少女の姿が、そこにあった。

 「あぁ、ハオランさん。丁度良かった。お客人がお見えになっております」

 カウンターに立つ店員の男が、奥から歩いてきたハオランの姿が目に映ると、その客人の方へと彼を誘う。

 「お久しぶりです、グレイスさん。この度はよろしくお願いします。別件があるため同行できなくなってしまって申し訳ありません。この埋め合わせはいつか必ず・・・」

 グレイスと呼ばれる女性にハオランが手を合わせ頭を下げると、彼女は気にした素振りもなくハオランの謝罪を笑い飛ばし、彼の肩を叩き対面を喜んでいた。

 「アンタも人らしくなったじゃないかハオラン!安心したよ。なに、このくらいアタシらだけで十分さ!気にするこたぁないよ。それにこんなに頼もしい二人を付けてもらえただけで助かってるよ。これでスムーズに事を成せそうだ」

 「お心遣い、感謝致します。・・・紹介しておいた方がいいですかね?こちらは・・・」

 呆気にとられるシン達を見て、客人の人達に向けて一人一人紹介してくれたハオラン。そして一行の自己紹介が終わり、今度は客人側の紹介を始める。

 先ほどハオランの会話からも出てきた、“グレイス・オマリー”。今でこそあまり珍しくもなくなってきた数少ない女海賊。国や様々な勢力と繋がりがあり、時と場合を見極め、女性らしい清らかな振る舞いから、豪快で男勝りな振る舞いまで、所謂キャラ作りが出来る器用な面もあるのだとか。見た目通り、海賊のクラスについているように見えるが、彼女の放つ雰囲気から恐らく別のクラスにもついている可能性は非常に高いだろう。

 次に細身で眼鏡を掛けた中国衣装の男性、“リー 朱羽シュユー”。ハオランと同じく、あの方と言う人物に仕える秘書官のようなポジションに位置しているという。冷静沈着といった性格で、策謀を主にした戦い方が得意で前線に出るタイプではない。クラスはこの見た目からは想像が出来ない鍛治師について、仲間をサポートしている。

 そして最後にシュユーと同じような格好をした少女、“ファン 護幻フーファン”。ハオラン、シュユーと同じくあの方に仕え、驚いたことに主力船の護衛を担当しているのだとか。子供でありながらその類稀なる才能を見出されスカウトされた。クラスは妖術師で、相手を術中に陥れ翻弄する、本人の身体的な能力不足を仲間に補ってもらい、フィールドを掌握する戦い方をする。

 一通りの自己紹介を終えると、ハオランはグレイスに近づいて行き何かコソコソと話を始める。だが、別段隠すほどの事でもないのか、薄ら聞こえるような声で話している。

 「彼の・・・シンさんのクラスであれば、皆さんの任務を簡単にしてくれるはずです。協力を頼んでみては如何ですか?」

 「へぇ・・・、アンタが薦めてくるなんて珍しい・・・。よっぽど変わったクラスなんだねぇ、それは面白そうだ」

 彼女にシン達の協力を薦めるとハオランはこれでお暇する事を全員に伝え会釈し、その場を後にし店から出て行く。そのすぐ後、グレイスがシン達の元へ歩み寄ると、先程彼が言っていた任務のことについて、協力を求めてきた。

 「アンタ達、取引しないかい?何でも面白そうな話を探してるようじゃないか。アタシの仕事を手伝ってくれたらアタシの知ってる話をしてやるよ。それと報酬も支払う、ちょいと重要な案件だからね・・・それなりの物を出すよ。どうだい?」

 グレイスの申し出はシン達にとって願ってもないことだった。有力な情報を持っていそうなレース参加者の彼女から話が聞けるなら、断る理由はない。恐らくこの誘いを断れば、彼女から話を聞き辛くなってしまう上、あまり良い好感度を得ることは出来ないだろう。

 三人は少し相談した後、意見が一致し彼女の申し出を受け入れることにした。

 「分かりました。俺達で力になれるのなら」

 「決まりだね!こっちの二人はチン・シーから借りた力強い味方で、一緒に仕事をする仲間だから、仲良くやっておくれよ!」

 グレイスの口から、また知らない人物名が飛び出した。恐らくそのチン・シーと言う人物こと、ハオランやシュユー、フーファン達が“あの方”と呼ぶ主人なのだろう。

 「宜しくお願い致します」

 「よろしくおねがいしますです!」

 落ち着いた様子で礼儀正しくお堅いお辞儀をするシュユーと対照的に、子供らしく元気いっぱいに身体を折り曲げ、勢い良くお辞儀をするフーファン。三人も挨拶をすると、シンがグレイスの言う“仕事”について質問すると、何やら雲行きの怪しい話になってくる。

 「それで、グレイスさん。その仕事というのは?」

 「アタシ達がする仕事ってぇのは、簡単に言うと“盗み”だよ。停泊場に止まってるある海賊の船に忍び込んで、アイテムを回収、或いは処分すること。勿論バレたらお終いの隠密の仕事だ」

 ここでハオランが言っていた“シンのクラス”がこの任務に最適だと言った意味が分かった。隠密の仕事はアサシンのクラスの十八番、誰にも見られず誰にも悟られない正にピッタリのクラスだった。

 「その海賊というのは・・・?」

 「それが、なかなか厄介な相手でねぇ・・・。頭が切れて凶暴な極悪非道の男、“ロッシュ・ブラジリアーノ”って海賊さ」
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