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士気がもたらすモノ
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何かを待っている時間というのは、その時の心の状態で長さが違うものだ。嫌なものを待っている時は早く、楽しいもの、待ち遠しいものを待ち望んでいると中々その時は訪れない。今正にシンとグレイスの心境は後者であり、いつ戻ってくるかも分からない船の持ち主の動向が気になる中、合鍵の完成を待たなければならない。
シュユーの鍵作成が始まってから二人は部屋の物陰に身を潜め、ただ静寂の時を過ごしていた、流れるのは焦りから来る彼らの冷や汗のみ。死霊の徘徊する上層階で、その者達の探索の息吹にも気を回さなければならないのが、更に焦燥感を煽る。
「まだか?あとどれくらいかかる?」
止まったような時の中で思わず痺れを切らしたシンが、シュユーに作業の進展を伺う。感情に左右されていなければ出来上がっているような時間ではないことが、分かるはずなのだが、現場で身の危険を晒す彼らに取ってはそんなことを考える余裕も、冷静さもなかった。
「まだだ、もう少し待ってくれ。今、全速力で作っている最中だ」
急かすシンの言葉から、緊迫している状況が手に取るように伝わってくる。危険な状態だからこそ、落ち着いた判断をしなければならない。少しでも彼らの心境を穏やかにするため、もう少しで出来上がるとゴールをチラつかせることで、落ち着いてもらうよう返答に気を使うシュユー。
だが、運命とは何と皮肉なものか、悪い知らせというものは立て続けに来るものだ。その頃、町の高台で監視の目を光らせていたツクヨから、船に潜入いている彼らの元に更なる悪報が入り、焦燥感を加速させる。
「町の方から手下を連れて歩いてくる海賊のような男が、停泊場方面に向かっている!あれがロッシュ・・・なのか?」
シンやミア、そしてツクヨはロッシュという海賊としての名は知っているものの、彼を見たこともなければ、どんな容姿の者なのかも知らされていなかった。
「貴族のようなパーマが当てられた髪に、豪華な装飾が施された身の丈に合っていない程大きな海賊マント、そして鷹のように凛々しく鋭い目つきをしている男がロッシュだ。どうだ?その停泊場へ向かってくるという男に何か当てはまるものはあるか?」
潜入している現場の二人に代わり、鍵を作っているシュユーがロッシュの特徴について語ると、暫くの間ツクヨから連絡が途絶える。どうしたのかと返事を煽ると、声を荒立てたツクヨがそこから見える男達の様子を答える。
「間違いない!ロッシュだ!今の特徴通りの男が先頭を歩いている!のんびりとした様子ではないな・・・。何か目的地を定めて向かっているような足取りだ。まさかバレたのかい!?」
通信の会話はミアやフーファンにも伝わっており、ツクヨのバレてしまったのかという問いに対する潜入隊の返事を黙って待った。海賊船周辺や船上に慌てた様子はないが、別の探知に引っかかってしまったという恐れも十分にあり得る。
「いや・・・そんな筈は・・・。確かに想定外の出来事はあったが、バレている様子はないぞ・・・。なぁ?グレイス」
「あぁ・・・そんな筈は・・・。それとも鍵穴を調べた時か?接触型の探知スキルでも仕掛けられていたのか?・・・ダメだ、分からない。何故こんなにも早くロッシュが戻ってくる?」
合鍵の作成を依頼した時間と、ロッシュが自身の海賊船へ向かい始めた時間が妙に一致していることが、シンとグレイスを更なる混乱へと誘う。あの男のことだ、どんなトラップを仕掛けていたとしてもおかしくはないと、グレイスが語る。自分達が上層階、船長部屋に入ってから行った行動を改めて思い返すも心当たりはない。
その時、妖術に集中していたフーファンが彼らを落ち着かせる見解を述べ、一同はロッシュ帰還の理由が何であろうと、今は出来ることを素早くこなすしかないと、落ち着きを取り戻すことができた。
「私達の作戦がバレたのなら、彼らは足早に戻ってくる筈なのではないでしょうか?ツクヨさんの報告だと、船に向かっているであろうことは分かりますが、急いでいる様子は見受けられなかったんですよね?それならきっとまだバレてない筈です!落ち着いて、今は出来ることからやっていきましょう。見張りの皆さんも、何か動きがあったらすぐに報告お願いしますです!」
「そうだな・・・、しっかりしろよ?シン。キミのスキルであれば大丈夫だ。何かあればアタシらがタイミングを教えるから。最悪の場合はすぐに脱出してくれ」
シンとの付き合いが長いミアは、彼のアサシンとしての動きやスキルを信頼している。どんなに窮地に陥っても、彼には別の道へと向かう架け橋を作ることが出来る。まして潜入に関しては、右に出る者はいないほど優位に 立てるクラスなのだ。それを今一度彼の心に蘇らせるミアの言葉は、他の誰よりも彼の心を奮い立たせた。
「あぁ・・・ありがとうフーファン、そしてミア。もう大丈夫だ・・・、必ず成功させてみせるさ」
他でもない現場で任務を全うしている者達の士気が上がれば、別働隊や指示を出す部隊の士気も上がるというもの。いくら指揮官が優秀でも、動く者達の士気が低ければ作戦は上手くいかないのと同じように、シンの少し見栄を貼った強気な発言は、それを聞いていた者達の気持ちを活気づかせた。
シュユーの鍵作成が始まってから二人は部屋の物陰に身を潜め、ただ静寂の時を過ごしていた、流れるのは焦りから来る彼らの冷や汗のみ。死霊の徘徊する上層階で、その者達の探索の息吹にも気を回さなければならないのが、更に焦燥感を煽る。
「まだか?あとどれくらいかかる?」
止まったような時の中で思わず痺れを切らしたシンが、シュユーに作業の進展を伺う。感情に左右されていなければ出来上がっているような時間ではないことが、分かるはずなのだが、現場で身の危険を晒す彼らに取ってはそんなことを考える余裕も、冷静さもなかった。
「まだだ、もう少し待ってくれ。今、全速力で作っている最中だ」
急かすシンの言葉から、緊迫している状況が手に取るように伝わってくる。危険な状態だからこそ、落ち着いた判断をしなければならない。少しでも彼らの心境を穏やかにするため、もう少しで出来上がるとゴールをチラつかせることで、落ち着いてもらうよう返答に気を使うシュユー。
だが、運命とは何と皮肉なものか、悪い知らせというものは立て続けに来るものだ。その頃、町の高台で監視の目を光らせていたツクヨから、船に潜入いている彼らの元に更なる悪報が入り、焦燥感を加速させる。
「町の方から手下を連れて歩いてくる海賊のような男が、停泊場方面に向かっている!あれがロッシュ・・・なのか?」
シンやミア、そしてツクヨはロッシュという海賊としての名は知っているものの、彼を見たこともなければ、どんな容姿の者なのかも知らされていなかった。
「貴族のようなパーマが当てられた髪に、豪華な装飾が施された身の丈に合っていない程大きな海賊マント、そして鷹のように凛々しく鋭い目つきをしている男がロッシュだ。どうだ?その停泊場へ向かってくるという男に何か当てはまるものはあるか?」
潜入している現場の二人に代わり、鍵を作っているシュユーがロッシュの特徴について語ると、暫くの間ツクヨから連絡が途絶える。どうしたのかと返事を煽ると、声を荒立てたツクヨがそこから見える男達の様子を答える。
「間違いない!ロッシュだ!今の特徴通りの男が先頭を歩いている!のんびりとした様子ではないな・・・。何か目的地を定めて向かっているような足取りだ。まさかバレたのかい!?」
通信の会話はミアやフーファンにも伝わっており、ツクヨのバレてしまったのかという問いに対する潜入隊の返事を黙って待った。海賊船周辺や船上に慌てた様子はないが、別の探知に引っかかってしまったという恐れも十分にあり得る。
「いや・・・そんな筈は・・・。確かに想定外の出来事はあったが、バレている様子はないぞ・・・。なぁ?グレイス」
「あぁ・・・そんな筈は・・・。それとも鍵穴を調べた時か?接触型の探知スキルでも仕掛けられていたのか?・・・ダメだ、分からない。何故こんなにも早くロッシュが戻ってくる?」
合鍵の作成を依頼した時間と、ロッシュが自身の海賊船へ向かい始めた時間が妙に一致していることが、シンとグレイスを更なる混乱へと誘う。あの男のことだ、どんなトラップを仕掛けていたとしてもおかしくはないと、グレイスが語る。自分達が上層階、船長部屋に入ってから行った行動を改めて思い返すも心当たりはない。
その時、妖術に集中していたフーファンが彼らを落ち着かせる見解を述べ、一同はロッシュ帰還の理由が何であろうと、今は出来ることを素早くこなすしかないと、落ち着きを取り戻すことができた。
「私達の作戦がバレたのなら、彼らは足早に戻ってくる筈なのではないでしょうか?ツクヨさんの報告だと、船に向かっているであろうことは分かりますが、急いでいる様子は見受けられなかったんですよね?それならきっとまだバレてない筈です!落ち着いて、今は出来ることからやっていきましょう。見張りの皆さんも、何か動きがあったらすぐに報告お願いしますです!」
「そうだな・・・、しっかりしろよ?シン。キミのスキルであれば大丈夫だ。何かあればアタシらがタイミングを教えるから。最悪の場合はすぐに脱出してくれ」
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「あぁ・・・ありがとうフーファン、そしてミア。もう大丈夫だ・・・、必ず成功させてみせるさ」
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