182 / 1,646
狂気の海峡レース
しおりを挟む
レース会場には続々と参加者の船や召喚獣などが集まって来ている。その中には、共に潜入任務をこなしたグレイスの海賊船や、シュユーとフーファンの所属するチン・シーの船団、そして優勝候補と名高いシー・ギャングのキングに、マクシムや行動を共にしていたヘラルトが加入したエイヴリーの船団など、会場を沸かせる大物達も揃っている。
そして一際目立っていたのが、晴れ渡る天候で何故かその者の船周辺にのみ霧を発生させているフランソワ・ロロネーの海賊船。異様な光景に、距離を空けようとする参加者にちょっかいを出しているロロネーが警備の者達に制止され、注意を受けている様子が見てとれる。
彼と同じく、悪逆非道で有名と言われているロッシュ海賊団は、ロロネーとは真逆で随分と大人しくしている。だが、その静けさが返って不気味だと、会場にレースのスタートを見に来た観客達が話している。
他にもシン達が情報収集で得た、聞き覚えのある海賊、ギャング、賞金稼ぎなどが見当たったが、それよりもシン達の気を引いたのは、一人でレースに参加していて、彼らと同じ乗り物を所持しているハオランだった。
どうやら彼は、単独でレースにエントリーしているものの、道中で得たレアアイテムや名高い武具などを、主人であるチン・シーの元へ還元するのだそうだ。勿論、ゴールする事で得られる賞金や商品も彼女への贈り物となることだろう。
会場がざわつき出し、セレモニーでも司会を務めていた男が会場へと入ってくると、港のあちこちに設置されたモニターにその姿をお披露目する。
「皆様!本日は天候にも恵まれ、遥々このグラン・ヴァーグにお集まり頂き、誠にありがとうございます。大変長らくお待たせいたしました。凡ゆる者達の、凡ゆる者達による、凡ゆる者達の為のデスレース、フォリーキャナルレースの開催です!」
会場に集まった参加者や観客、そして町からその様子を見守る観光客や住人達の雄叫びが辺り一帯に響き渡り、鼓膜を震わせる。視界がビリビリと歪んで見えるほどの大歓声を浴び、スタートに向けてのルール説明や最終確認が行われる。
「何だか緊張するね!」
お祭りのような雰囲気と、高揚した参加者達の熱気にあてられ、思わず声を漏らすツクヨ。そんな彼を尻目に銃のメンテナンスをしながら、自分達の目的を彼やシンに言い聞かすように話すミア。
「いいか?アタシらの目的は何も優勝や、大物の首じゃぁない。あくまでレースの道中に仕込まれたと言われている異世界への転移ポータルだ。無駄な戦闘はなるべく避け、目的の代物を手に入れたらさっさとゴールを目指す。いいな?」
「了解・・・。だが、ゆっくりもしていられない。転移ポータルの価値がどれ程のものか分からないが、他の奴らが目もくれないなんて事はないだろう。迅速な対応も求められる。もし優勝候補である三勢力の手に渡ってしまえば、それこそ厄介なことになる・・・」
シンの言う通り、この世界の住人にとっては俄かには信じ難い、異世界への転移ポータルという胡散臭い代物など、他の財宝や貴重な武具に比べれば求める者は少ないかも知れない。だが、もしそれがシン達以外の者に渡ってしまった場合、その者から譲り受けるか奪うしかない。
交渉の余地があるとするならば、グレイスやチン・シー、ハオラン辺りだろう。彼らならば友好な関係を築けているので、条件次第で譲ってくれる可能性が高い。
問題はキングとエイヴリーの一大勢力の手に渡った場合だ。その大所帯から、道中の財宝を総なめにしようと部隊を分散させて行動するに違いない。キングとは面識があるものの、あの人間性を見てまともな取引が成立出来る未来が想像できず、条件に何を言い出すか分からない。
エイヴリーに至っては面識すらない。ツクヨとツバキが彼の幹部であるマクシムと繋がりがあるが、それだけで話が通るとも思えず、転移ポータルとツバキの一件は何の関係もない為、彼もそこに協力的になってくれるとは限らない。同じ理由でヘラルトを通じて交渉する線も無いに等しい。
最悪なのは、ロッシュやロロネーといった者達のてに渡ることだろう。交渉など考えるだけで無駄であり、尚且つ彼らのような者が転移ポータルを入手すれば使用してしまう展開も大いに想像が出来る。何をしでかすか分からない者を現実世界に行かせる訳にはいかない。何としてもそれだけは避けなければならないだろう。
そんなことを考えているうちに、司会の話が終わり間も無くレース開始の合図が出される。
「お待たせしました。いよいよ準備が整いましたので始めたいと思います。皆様、心の準備は出来ましたでしょうか!?それでは希望と狂気に満ちた海峡横断レースの幕開けですッ!よーい・・・・・」
息を飲む瞬間。司会の溜めが入り、会場は先ほどまでの熱気が嘘のように、一気に静かになる。自らの心臓の音が一定のリズムを刻みながら合図を待つ。
そして、フォリーキャナルレース開始の知らせを轟かせる銃声が、晴れ渡る空へと放たれた。
「スターーートッ!!! フォリーキャナルレース開始ぃぃぃッ!!!」
無数に打ち上げられる花火や紙吹雪、蛍の光のような淡く発光する球体が宙を舞い、海を渡る者達を盛大に送り出す。
勝者には希望や夢に満ちた光を、敗者には死を。狂気の海峡レース・・・開幕。
そして一際目立っていたのが、晴れ渡る天候で何故かその者の船周辺にのみ霧を発生させているフランソワ・ロロネーの海賊船。異様な光景に、距離を空けようとする参加者にちょっかいを出しているロロネーが警備の者達に制止され、注意を受けている様子が見てとれる。
彼と同じく、悪逆非道で有名と言われているロッシュ海賊団は、ロロネーとは真逆で随分と大人しくしている。だが、その静けさが返って不気味だと、会場にレースのスタートを見に来た観客達が話している。
他にもシン達が情報収集で得た、聞き覚えのある海賊、ギャング、賞金稼ぎなどが見当たったが、それよりもシン達の気を引いたのは、一人でレースに参加していて、彼らと同じ乗り物を所持しているハオランだった。
どうやら彼は、単独でレースにエントリーしているものの、道中で得たレアアイテムや名高い武具などを、主人であるチン・シーの元へ還元するのだそうだ。勿論、ゴールする事で得られる賞金や商品も彼女への贈り物となることだろう。
会場がざわつき出し、セレモニーでも司会を務めていた男が会場へと入ってくると、港のあちこちに設置されたモニターにその姿をお披露目する。
「皆様!本日は天候にも恵まれ、遥々このグラン・ヴァーグにお集まり頂き、誠にありがとうございます。大変長らくお待たせいたしました。凡ゆる者達の、凡ゆる者達による、凡ゆる者達の為のデスレース、フォリーキャナルレースの開催です!」
会場に集まった参加者や観客、そして町からその様子を見守る観光客や住人達の雄叫びが辺り一帯に響き渡り、鼓膜を震わせる。視界がビリビリと歪んで見えるほどの大歓声を浴び、スタートに向けてのルール説明や最終確認が行われる。
「何だか緊張するね!」
お祭りのような雰囲気と、高揚した参加者達の熱気にあてられ、思わず声を漏らすツクヨ。そんな彼を尻目に銃のメンテナンスをしながら、自分達の目的を彼やシンに言い聞かすように話すミア。
「いいか?アタシらの目的は何も優勝や、大物の首じゃぁない。あくまでレースの道中に仕込まれたと言われている異世界への転移ポータルだ。無駄な戦闘はなるべく避け、目的の代物を手に入れたらさっさとゴールを目指す。いいな?」
「了解・・・。だが、ゆっくりもしていられない。転移ポータルの価値がどれ程のものか分からないが、他の奴らが目もくれないなんて事はないだろう。迅速な対応も求められる。もし優勝候補である三勢力の手に渡ってしまえば、それこそ厄介なことになる・・・」
シンの言う通り、この世界の住人にとっては俄かには信じ難い、異世界への転移ポータルという胡散臭い代物など、他の財宝や貴重な武具に比べれば求める者は少ないかも知れない。だが、もしそれがシン達以外の者に渡ってしまった場合、その者から譲り受けるか奪うしかない。
交渉の余地があるとするならば、グレイスやチン・シー、ハオラン辺りだろう。彼らならば友好な関係を築けているので、条件次第で譲ってくれる可能性が高い。
問題はキングとエイヴリーの一大勢力の手に渡った場合だ。その大所帯から、道中の財宝を総なめにしようと部隊を分散させて行動するに違いない。キングとは面識があるものの、あの人間性を見てまともな取引が成立出来る未来が想像できず、条件に何を言い出すか分からない。
エイヴリーに至っては面識すらない。ツクヨとツバキが彼の幹部であるマクシムと繋がりがあるが、それだけで話が通るとも思えず、転移ポータルとツバキの一件は何の関係もない為、彼もそこに協力的になってくれるとは限らない。同じ理由でヘラルトを通じて交渉する線も無いに等しい。
最悪なのは、ロッシュやロロネーといった者達のてに渡ることだろう。交渉など考えるだけで無駄であり、尚且つ彼らのような者が転移ポータルを入手すれば使用してしまう展開も大いに想像が出来る。何をしでかすか分からない者を現実世界に行かせる訳にはいかない。何としてもそれだけは避けなければならないだろう。
そんなことを考えているうちに、司会の話が終わり間も無くレース開始の合図が出される。
「お待たせしました。いよいよ準備が整いましたので始めたいと思います。皆様、心の準備は出来ましたでしょうか!?それでは希望と狂気に満ちた海峡横断レースの幕開けですッ!よーい・・・・・」
息を飲む瞬間。司会の溜めが入り、会場は先ほどまでの熱気が嘘のように、一気に静かになる。自らの心臓の音が一定のリズムを刻みながら合図を待つ。
そして、フォリーキャナルレース開始の知らせを轟かせる銃声が、晴れ渡る空へと放たれた。
「スターーートッ!!! フォリーキャナルレース開始ぃぃぃッ!!!」
無数に打ち上げられる花火や紙吹雪、蛍の光のような淡く発光する球体が宙を舞い、海を渡る者達を盛大に送り出す。
勝者には希望や夢に満ちた光を、敗者には死を。狂気の海峡レース・・・開幕。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる