World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
229 / 1,646

天から垂れる蜘蛛の糸

しおりを挟む
 鎖を纏い斧を突き立てたその身体目掛け、別の物には目もくれず一直線に降った雷が、とてつもない光をビカビカとシャッターのフラッシュのように、辺りを真っ白の空間へと変える。

 そしてその真っ白なキャンパスに、まるで描き殴られたかのような黒い人型のシルエットが見える。天を仰ぎ、雄叫びでも挙げているかの如く震える影。それが雷の衝撃によるものなのか、彼自身の震えなのか判断は出来ない。

 雷撃の放った光が収まると、ルシアンの見ている光景には自分と同じく熱に焦された男の姿と、甲板に発火した炎の火の粉が待っている景色が広がっていた。生死の境を彷徨う壮絶な戦いの果てに迎えた結果がこれだ。

 炎に蝕まれた船の上。ヴォルテルのスキルにより甲板は酷い有様だ。生き残った船員達は負傷者の手当てと救助を行い、救援ボートにて味方船を目指して行ったようだ。その道中、海へ投げ出された者や自ら飛び込んだ者達を可能な限り拾ってくれていた。

 「おいおいおいッ・・・!何だ今の光はッ!?」

 「雷だ、あの辺りだけ妙に暗かったのはそういうことだったのか」

 ルシアンの乗る囮船を目指していた二人の目にも当然、今の雷鳴と稲光は見えていた。しかし、事情の分からぬ二人にはそれがスキルによるものなのか、単なる海の天候の気まぐれなのか。将又、意図的に狙っていたものなのか判断がつかない。

 「んなこたぁ分かってんだよッ!問題はアレが誰の仕業だってこった。ルシアンのおっさんは調合師のクラスだ・・・。意図的に作り出した可能性だって十分あんだよ。・・・ただ相手が誰なのかが分からねぇ、そのクラスもな・・・」

 シルヴィの言う通り最も危惧するべきは、あれ程の雷撃をスキルで放てる相手であるかどうかだ。あんな威力の雷撃を容易く撃たれては、たまったものではない。彼女の額から流れる汗を見れば、その危険性が言わずもながら伝わってくるようだった。

 雷属性の攻撃は非常に早く、視認してから避けるなど到底不可能。しかし、スキル発動までの準備や前動作が分かりやすく、事前に対策は出来る。

 それでも、先程の雷撃を目のあたりにしてしまうと、最早対策をする必要性があるのか甚だ疑問だ。対策諸共、一瞬にして焼き払われてしまうのが目に浮かぶ。

 船に近づくにつれ、その船体の輪郭がぼやける蜃気楼のような空間の揺らめきが見えるようになって来ると、甲板から燃え上がる炎が火の粉を巻き上げているのが視界に飛び込んできた。

 「船が燃えてやがるッ・・・おいッ!もっと早く動かねぇのかッ!?」

 「無茶言うな、これでも全力だよ」

手遅れになる前に、何としてもルシアンの救出を成功させなければ。急かされる気持ちと不安が二人の足を早める中、船では瀕死の男が神の雷に撃ち抜かれた男の最後を見取ろうとしていた。

 鉄壁の防御力を誇り、凡ゆる攻撃を跳ね除けてきたヴォルテルであったが、その鎧を剥がれてから徐々にダメージが通るようになり、そして最後には積み上げてきた布石が功を奏し、致命的な一撃を入れることが出来た。

 しかしその代償は大きく、ルシアンもまた戦うことは愚か、満足に動き回ることすら出来ない状態へと追いやられ、あんなに大勢乗っていたこの船にも、残すところ甲板で黒々と焼かれた二人の男のみとなっていた。

 雷撃で身を焦がしたその男は、不気味といっていいほどにピクリとも動かず、シルヴィの鎖に拘束されたままの体勢で立ち尽くしている。

 肺を巡る空気がむせ返りそうになる熱を帯び、飛び火した炎が甲板に散らばる残骸と船員の亡骸を焼き尽くしていく。全身に力が入らず、皮肉にもヴォルテルによって床にひれ伏されたことで、煙から身を守ることで辛うじて呼吸出来ているルシアン。

 暫くの間、立ち尽くすヴォルテルの様子を伺っていたルシアンだったが、どうやら動く様子のないその男を尻目に、シルヴィが救援に来ている方向へと這いずりながら移動を始めた。

 その道中、仲間の遺体がまるで助けを求めるように、目を開いたまま恐怖の表情でこちらを向いているのを目撃する。彼らの助け無くしてここまで戦うことは出来なかった。だが、そんな彼らをここに置いていかねばならない状況がルシアンの心を蝕んでいく。

 当然、彼らは既に助かることはない。例え自身が健全な状態で彼らの身体を運んでいこうと、何をすることも最早叶わない。彼の行動を咎める者など誰もいない。それでも、彼らの姿をその目に映すたびに、彼らとの他愛のない日々の思い出が蘇って来る。

 今は辛くとも、彼らの死が無駄ではなかったことを証明する為にも、何としても残された仲間の元に帰らなければ。そんな思いだけが、今の彼の身体を動かす原動力になっていた。

 船の端まで辿り着き、海の方を眺めると既に目と鼻の先までシンとシルヴィを乗せたボードがやって来ているのが見えた。

 「おいッ!誰かいるぞ!・・・あれは・・・まさかッ、ルシアンかッ!?」

 助けに来た仲間の姿が、これ程までに頼もしく安心出来るものなのだと痛感し、安堵が彼の心と思考を緊張から解き放つ。

 そんな中、彼は気付かなかったが、背後で鉄の切れる音と共に甲板に鉄製の連なった物がジャラジャラと打ちつけていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...