World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
420 / 1,646

リスクマネジメント

しおりを挟む
 デイヴィスの余計な一言により、芳しくない出会いとなってしまった二人。何故少年が機嫌を損ねているのか、そもそも機嫌が悪いのかさえ気にしている様子のないデイヴィス。それに引き換え、初対面でいきなり子供扱いされたことで、一人前の造船技師を志すにはまだ幼いと言われているかのような劣等感突き付けられたツバキは、鋭い視線を彼に向ける。

 「こいつがあの“ウィリアム・ダンピア“の弟子か?」

 「チッ・・・!またじじぃの客か?俺はじじぃを超える技術者だ!このレースでそれを証明してやる!」

 少年の鬼気迫る闘争心に何か感じるものがあったのか、ツバキを見る目が変わるデイヴィス。一人の“漢“を見るように、彼は少年を煽りその技術をお目に掛かろうと誘導する。

 「ほぅ・・・。それじゃぁその、次世代の技術者の腕前とやらを見せてもらいたいものだな」

 ツバキは作業道具を置き、ついて来いと言わんばかりに親指で船内へと案内する。一先ずデイヴィスのことはツバキに任せ、シンとミアはツクヨの元へ向かう。そして島での出来事と、デイヴィスの持ち掛けてきた計画のこと、そしてそれが自分達にどんな影響を及ぼすものなのかを説明した。

 彼は二人の話を聞き少し考えた様子を見せると、各々がこちらの世界で果たそうとしている本来の目的を達成するには、いつ何時に襲って来る刺客の存在は必ず邪魔になる。そう話すツクヨは、大勢の助力を得られる今こそ障害を取り除くチャンスだと、デイヴィスの計画に賛成した。

 失敗のリスクは勿論ある。だがデイヴィスは、極力シン達による第三者の協力の影を匂わせないようにすると言ってくれている。あくまで潜入までの手助けをするだけ。ならば挑戦するだけの価値はある。

 「彼がそのキングという人物の暗殺に成功しようがしまいが、私達の存在は組織に知られないと言うのだろ?ならば今後の為にも、一枚噛んでおくべきだと思うよ。ただでさえ先の見えない私達の目的に、更に誰とも分からない邪魔が入るのは危険だ・・・。排除できる可能性があるリスクは、排除していくべきだ」

 三人の内、唯一現実世界で社会に溶け込んでいたツクヨ。それは宛らビジネスの取引かのように、不安要素を取り除いていこうという意思があった。図らずとも会社の為に身を粉にして働いてきた日々が、こちらの世界へも影響を与えていたのだ。

 だが彼の場合、それが裏目となって絶望の人生へと転落する結果を招くこととなってしまった。今回、彼のそうした仕事への姿勢が吉となるか凶となるか。賛成派の意見を参考に、レースに詳しく船や海にも通じるスペシャリストであるツバキ。彼の意見を聞き、最終的な決断をしようと考えるシン。

 彼らが話し合いをしていると、船のすぐ側から聞き覚えのあるモーター音のようなものと、海を裂く小さな波を立てる存在を目にする。それはシン達がここまでの道中で、幾度となく救われたツバキの新たな船の形である、魔力を用いたボード状の乗り物に乗るデイヴィスの姿だった。

 「凄いな!何だこの手足のように操縦できる乗り物はッ!?こいつがあればッ・・・」

 「アンタも大したモンだな!俺の傑作にこうも簡単に乗れるようになっちまうなんてな。少しは考えが変わったかよ!」

 どうやらデイヴィスが、ツバキのプライドに火をつけたようで、彼の自信作であるボードの説明と乗り方をデイヴィスに教え、その技術力を身体を張って体験しているようだった。

 シンとツクヨが、酔っていたとはいえ一晩掛かった操縦を、デイヴィスはツバキから話を聞いただけで何も問題なく操縦出来ていた。少し複雑な思いもありながら、二人のそんな様子を見て、何とか和解が出来たのかとホッとするシンとミア。

 二人はツクヨと合流し、ボードの乗り心地を味わっているデイヴィスとツバキの元へと向かう。最も重要視するべき有識者の見解。果たして彼は、デイヴィスのキング暗殺計画に賛成か反対か。その判断に三人の心も緊張を高めていた。

 甲板から船内を通り、海へボードを送り出す船底へ三人がやって来る頃、丁度ボードの試し乗りから戻ったデイヴィスとも合流し、一同が同じ場所に集まる。そして話を始めたのは、少し遅れて合流したデイヴィス本人だった。

 「これは良い物を知った。是非ともアンタの力を借りたい」

 「あぁ?なんの話だ?」

 それまでボードの操縦を楽しみ、笑顔さえ浮かべていた彼が神妙な面持ちへと変わり、本題をツバキに語る。

 「俺はシー・ギャングのキングを暗殺する。その計画にアンタのボードと、彼のアサシンの力が必要なんだ・・・。協力してくれないか?」

 「なッ!?・・・正気かアンタ!?キングってあの・・・は?出来るわけねぇだろそんな事ッ!」

 やはりそうなるだろうと、その場にいた誰もが想像した通りの反応だった。その後、デイヴィスの口から他にもキングを討ち取ろうとする者達の存在や、根回しをしていたことを付け加えるが、ツバキの表情が晴れることはなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...