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遅れてきた実行犯
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先行して行ったハオランの後を追い、船を全速力で走らせる。先に戦場で計画の準備を行っているであろう仲間を待たせていることと、ツバキの作ったボードならもっと早く向かえるという証明を目の当たりに、気持ちが急かされるデイヴィス。
暗殺の実行を行う主役が大遅刻とは何とも格好がつかない。それだけならまだいいが、折角協力してくれたロバーツやフィリップス、そして共に現地へ向かってくれているシンプソン達に申し訳が立たない。
「もっとスピードは出ないのか?」
「無茶を言うなよ。それによぉ、焦る気持ちも分かるが、足並みを揃えるのもチームワークだろ?」
「それはッ・・・、はぁ・・・確かに。すまねぇな、頭でも冷やしてくるわ・・・」
操舵室の椅子に腰掛け、熱心に手元を動かし集中しているツバキが、振り返ることもなくデイヴィスを言葉を戯言のように受け流す。少年にさえ、冷静になれと促されてしまった彼は、自分でも気持ちが先走っていることに目を向け、途端に我に帰る。
一歩一歩、操舵室から離れていく彼の足音に、操縦桿を握っていたツクヨがチラリと瞳だけ動かし、同じく操舵室の椅子に腰掛け、モニターと正面に見える景色を交互に見ていたシンの方を見る。
彼の視線に気づき、今のデイヴィスとツバキのやり取りを聞いていただろと言う視線を送っているツクヨの視線に気づき、デイヴィスが出て行った扉の方を一度だけ見て、再びツクヨと目を合わせる。
まだ視線を逸らさずにいたツクヨの意図を汲み取り、シンは重い腰を上げて彼の後を追い、操舵室を出て行った。計画実行の時が迫る中で、焦る気持ちに急かされるのはデイヴィスだけではなかった。
シンのスキルでキングの船に潜り込む手筈となっている為、重要なポジションに割り当てられてしまったシンもまた、ミアと交互に見張りをしている中、休憩の為船内に戻って来ていたのだが、全く気を休めることが出来ていない様子だった。
誰かと話すことで少しは気持ちが楽になるだろうと、ツクヨは彼に気を回したのだ。それに、シンがそわそわする度にツバキが僅かに頭を動かしているのが視界の端に映っていた。
「アンタ・・・若いくせに随分と気が回るんだな・・・」
「ははは・・・、まぁ・・・それなりに歳食ってるからね」
少年らしくない物言いをするツバキと、見た目のキャラクターは若いが、シン達の中で一番人生経験の豊富なツクヨの、奇妙な絵面が展開される。ウィリアムと暮らしていたツバキから、そのような言葉が出るのは理解できるが、反対に見た目が明らかに若いキャラクターをしているツクヨから、そんな返しが来ることに少し驚くツバキ。
「まぁ乗りかかった船だし、出来る限りのことはするつもりさ。海賊にお得意様を作っておくの悪い話じゃぁねぇ。それに・・・俺も同じようなもんだしな・・・」
「同じ・・・?あぁ、レースで結果を出すってこと?それならもう大丈夫じゃないかな?何より優勝候補のチン・シーさんのところのハオランに、お墨付きを貰ってるんだ。きっと話題になる」
「アイツはファンクラブが出来るほど人気者だしな・・・」
皮肉を織り交ぜて話すツバキと、そういえばグラン・ヴァーグの街で多くの女性に囲まれていたハオランを目撃したことを思い出すツクヨ。少し顔を上に上げ、その時の光景を蘇らせる。
「ファンクラブって言うの、初めて見たよ。あんなにモテたら人生楽しいだろうなぁ・・・」
「それ・・・、本気で言ってる?」
「いや、何も考えてない発言だった・・・」
「だろうな。あれじゃ外の街でロクに楽しむことも出来ねぇし、いろんなことに気を遣っちまうだろうよ。でも、アイツはそんな人の思いにもちゃんと応えようとするから・・・」
急に声のトーンを落とし、熱心に動かしていた手を止めるツバキ。造船技師のスキルを磨く彼でも、そんな色恋沙汰に興味があるのだろうかと、珍しがるツクヨが興味本意で聞いてみる。
「おや?少年もあんな風にチヤホヤされてみたいってぇ?」
「・・・・・」
てっきり怒るだろうと予想していたツクヨは、少年の沈黙という思わぬ反応に、これは地雷を踏んでしまったかと反省し、すぐにフォローしようとした。しかし、そんな彼の言葉を待たずしてツバキが口を開く。
「・・・多くの人“良く“思われるのはいいことだ・・・と、思う。俺の周りにはじじぃや、弟子の奴らしかいなかったからな・・・」
母親の愛情を知らず、その母親さえ生きているのか分からないツバキにとって、女性に囲まれ黄色い声援を浴びるということに感じることは、ツクヨのものとは違っていたのだろう。
船内の窓からは荒れる海と、黒々とした雲海に稲光が走っているのが見える。ミアからの報告はないが、彼女も大丈夫だろうか。操舵室を出た後、デイヴィスの姿は見えなかったが、どうやら甲板の方へと上がっていく足音が聞こえた。
音を頼りに進むシン。丁度その時だった。彼が気にかけていたミアから、船内の全員へ向けて外の様子を報告する無線が入ったのだ。慌てているような様子はなく、落ち着きはあるものの非現実的なものでも見たかのような、動揺がその声から伝わる。
「雲の中に何かいるぞ!・・・あれは・・・蛇か?巨大な蛇の身体のようなものが見える・・・!」
一瞬、彼女が言っていることを想像することが出来なかった。大抵のことは、言葉を介して脳に伝わり、どんなものか頭の中で映像化されたり想像したりするものだが、“雲の中にいる大きな蛇“ではサイズ感すら想像が出来なかった。
足早に甲板へ向かうシンは、ミアの言葉をその目で確かめる為外へ出ると、船内ではそれ程大きく聞こえなかった雷鳴があちこちで鳴り響いており、砲撃や爆発の音が遠くで木霊していた。
暗殺の実行を行う主役が大遅刻とは何とも格好がつかない。それだけならまだいいが、折角協力してくれたロバーツやフィリップス、そして共に現地へ向かってくれているシンプソン達に申し訳が立たない。
「もっとスピードは出ないのか?」
「無茶を言うなよ。それによぉ、焦る気持ちも分かるが、足並みを揃えるのもチームワークだろ?」
「それはッ・・・、はぁ・・・確かに。すまねぇな、頭でも冷やしてくるわ・・・」
操舵室の椅子に腰掛け、熱心に手元を動かし集中しているツバキが、振り返ることもなくデイヴィスを言葉を戯言のように受け流す。少年にさえ、冷静になれと促されてしまった彼は、自分でも気持ちが先走っていることに目を向け、途端に我に帰る。
一歩一歩、操舵室から離れていく彼の足音に、操縦桿を握っていたツクヨがチラリと瞳だけ動かし、同じく操舵室の椅子に腰掛け、モニターと正面に見える景色を交互に見ていたシンの方を見る。
彼の視線に気づき、今のデイヴィスとツバキのやり取りを聞いていただろと言う視線を送っているツクヨの視線に気づき、デイヴィスが出て行った扉の方を一度だけ見て、再びツクヨと目を合わせる。
まだ視線を逸らさずにいたツクヨの意図を汲み取り、シンは重い腰を上げて彼の後を追い、操舵室を出て行った。計画実行の時が迫る中で、焦る気持ちに急かされるのはデイヴィスだけではなかった。
シンのスキルでキングの船に潜り込む手筈となっている為、重要なポジションに割り当てられてしまったシンもまた、ミアと交互に見張りをしている中、休憩の為船内に戻って来ていたのだが、全く気を休めることが出来ていない様子だった。
誰かと話すことで少しは気持ちが楽になるだろうと、ツクヨは彼に気を回したのだ。それに、シンがそわそわする度にツバキが僅かに頭を動かしているのが視界の端に映っていた。
「アンタ・・・若いくせに随分と気が回るんだな・・・」
「ははは・・・、まぁ・・・それなりに歳食ってるからね」
少年らしくない物言いをするツバキと、見た目のキャラクターは若いが、シン達の中で一番人生経験の豊富なツクヨの、奇妙な絵面が展開される。ウィリアムと暮らしていたツバキから、そのような言葉が出るのは理解できるが、反対に見た目が明らかに若いキャラクターをしているツクヨから、そんな返しが来ることに少し驚くツバキ。
「まぁ乗りかかった船だし、出来る限りのことはするつもりさ。海賊にお得意様を作っておくの悪い話じゃぁねぇ。それに・・・俺も同じようなもんだしな・・・」
「同じ・・・?あぁ、レースで結果を出すってこと?それならもう大丈夫じゃないかな?何より優勝候補のチン・シーさんのところのハオランに、お墨付きを貰ってるんだ。きっと話題になる」
「アイツはファンクラブが出来るほど人気者だしな・・・」
皮肉を織り交ぜて話すツバキと、そういえばグラン・ヴァーグの街で多くの女性に囲まれていたハオランを目撃したことを思い出すツクヨ。少し顔を上に上げ、その時の光景を蘇らせる。
「ファンクラブって言うの、初めて見たよ。あんなにモテたら人生楽しいだろうなぁ・・・」
「それ・・・、本気で言ってる?」
「いや、何も考えてない発言だった・・・」
「だろうな。あれじゃ外の街でロクに楽しむことも出来ねぇし、いろんなことに気を遣っちまうだろうよ。でも、アイツはそんな人の思いにもちゃんと応えようとするから・・・」
急に声のトーンを落とし、熱心に動かしていた手を止めるツバキ。造船技師のスキルを磨く彼でも、そんな色恋沙汰に興味があるのだろうかと、珍しがるツクヨが興味本意で聞いてみる。
「おや?少年もあんな風にチヤホヤされてみたいってぇ?」
「・・・・・」
てっきり怒るだろうと予想していたツクヨは、少年の沈黙という思わぬ反応に、これは地雷を踏んでしまったかと反省し、すぐにフォローしようとした。しかし、そんな彼の言葉を待たずしてツバキが口を開く。
「・・・多くの人“良く“思われるのはいいことだ・・・と、思う。俺の周りにはじじぃや、弟子の奴らしかいなかったからな・・・」
母親の愛情を知らず、その母親さえ生きているのか分からないツバキにとって、女性に囲まれ黄色い声援を浴びるということに感じることは、ツクヨのものとは違っていたのだろう。
船内の窓からは荒れる海と、黒々とした雲海に稲光が走っているのが見える。ミアからの報告はないが、彼女も大丈夫だろうか。操舵室を出た後、デイヴィスの姿は見えなかったが、どうやら甲板の方へと上がっていく足音が聞こえた。
音を頼りに進むシン。丁度その時だった。彼が気にかけていたミアから、船内の全員へ向けて外の様子を報告する無線が入ったのだ。慌てているような様子はなく、落ち着きはあるものの非現実的なものでも見たかのような、動揺がその声から伝わる。
「雲の中に何かいるぞ!・・・あれは・・・蛇か?巨大な蛇の身体のようなものが見える・・・!」
一瞬、彼女が言っていることを想像することが出来なかった。大抵のことは、言葉を介して脳に伝わり、どんなものか頭の中で映像化されたり想像したりするものだが、“雲の中にいる大きな蛇“ではサイズ感すら想像が出来なかった。
足早に甲板へ向かうシンは、ミアの言葉をその目で確かめる為外へ出ると、船内ではそれ程大きく聞こえなかった雷鳴があちこちで鳴り響いており、砲撃や爆発の音が遠くで木霊していた。
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