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現実よりも大切な
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黒い雲海の中から顔を覗かせる蟒蛇の身体は、眺める分には美しい水鏡のような鱗を連ね、文字通り雲の海を泳ぐように穏やかな風の流れを作る。次から次へとやってくる鱗には、海上で戦っているのであろう海賊船が映っている。
「ミアッ!これは一体・・・」
「分からない。強いて言うなら“いつの間にか現れた“だ。遠くの方で海から姿を見せていたのは君も知っていただろ?その後だ、何か雷のようなものが海上から放たれて、上方を見たら既にそこにあのデカブツがいたんだ」
彼女の言う通り、雲の中にはシン達が遠目で見た巨大な蛇のモンスターの身体があった。雲の上へ移動したのか、はたまた空を飛び始めたのかと、釘付けになる視線を無理やり剥がし、海の方を見渡す。
するとどう言うことか、海の方にも同じような蟒蛇の姿があり、依然として海上の海賊船による砲撃や魔法の攻撃を受けていた。
「これは俺の見間違いか?もしかしてあの巨大なモンスターは二体いる・・・?」
「どうだろうな。身体の色や模様、鱗なんかに違いは見当たらない。あまりの巨体で海と空を繋いでいるのかもしれない・・・」
あまりにも想定外のレイド戦。これ程大規模なものは、シン達も経験したことがなかった為、例えこれがゲームの中の話であっても、一体どこから手をつけていいのか分からず、ただただ呆然としてしまう。
そんな彼らの後ろから、何処に隠れていたのかと言うほど静かに現れたデイヴィスが、遅れて来た後続組がまずすべき事を、呆然とし開いた口が塞がらない二人に話し始める。
「まずは先に戦っている連中の動きを見るんだ。どれだけ先に到着してたかは知らねぇが、少なくとも俺達よりはあのモンスターのことを知ってる筈だ。何か戦い方や弱点なんかを掴んでいる奴がいても不思議じゃぁねぇ」
先人の知恵というにはあまり時間の経過はないが、先に戦闘を初めている彼らがシン達よりも知識を得ているのは当然のこと。しかも、あの中にはデイヴィスのかつての部下や友人達もいる。
情報を共有出来る者がいるということは、シン達にとって同じスタートラインに立てるチャンスだ。これ程大きな標的であれば、遅れて来たシン達にもダメージを稼ぐ余地は十分過ぎる程あるだろう。
だがデイヴィスが気になっているのは、エイヴリーやキングがいるであろう中で、未だに討伐や撃退が成されていないことにある。これまでのレースの経験上、最後の関門であるレイド戦は、その殆どがエイヴリー海賊団やキングのシー・ギャング、そしてチン・シーの大船団により、先に討伐や撃退されていることが多かった。
稀にレイドモンスターが残っていることがあるが、それは彼ら優勝候補の海賊達が、これ以上ポイントが必要ないと判断し、早々にゴール地点を目指してしまうケースの場合だけだった。
故に、レイド戦で彼らと共闘することなど皆無に等しい。この光景自体が非常に珍しいことであることを、レース初参加のシン達は知る由もない。
「まずはロバーツの海賊船を見つける。もし見つからないなら、フィリップスの海賊船でもいい。見張りはここで終わりだ。これからは俺が甲板で周囲の状況を見る。それにアイツら海賊船は俺やシンプソン達じゃねぇと分からねぇだろうしな」
「分かった。この先はアンタに任せるよ。何かあったら呼んでくれ」
彼女にしては随分とあっさり引き下がったなと、不思議に思っていたシン。デイヴィスの前でその真意を聞くことはなかったが、見張りを任せ船内へ戻るミアへついていくことを彼に告げ、シンは再び船の中に戻る。
操舵室へ向かっているのか、その道中足取りを遅くした彼女が、後からついて来ているシンと合流し、デイヴィスの指示に従った訳をシンに話してくれた。
「君は表情に出やすいな・・・。そんなに私がデイヴィスの指示に従ったのがおかしかったか?」
「気づいてたのか・・・。いつも気が強いミアが珍しいなと・・・」
「そんな風に思ってたのか?まぁ、何も難しい話じゃないさ。レースのことや身内との連携を何も知らない私らよりも、彼がやった方がスムーズだろってだけのことだよ。・・・それに・・・」
顔を背け視線を泳がすミア。何かを言いかけたのだろうが、今シンにそれを伝えるべきではないと判断したのか、彼女は口を噤んでしまいそれ以上は語らなかった。
「それに・・・?」
「いや、何でもない。それより君も準備をしなくていいのか?彼をキングの船に連れて行くのは、そのアサシンのスキルでだろ?くれぐれも見つからないようにしてくれよ。面倒ごとを持ち込んでの旅は危険だからな」
「あぁ、分かってる。気をつけるよ・・・」
ミアは心配していたのだ。それはシンの身を案じてのこともあるが、何よりもこれからの三人の旅を危惧していたのだ。彼女はまだ誰にも話してはいないが、今体験しているこの奇妙な現象に、現実の世界以上の充実感を感じていた。
いつ終わるか、いつまで続くか分からない旅だが、例えこれが良くないことへ向かうものだとしても、一度こんな体験をしてしまっては、目を背けたくなるような現実には戻りたくなくなってしまうものだろう。
「ミアッ!これは一体・・・」
「分からない。強いて言うなら“いつの間にか現れた“だ。遠くの方で海から姿を見せていたのは君も知っていただろ?その後だ、何か雷のようなものが海上から放たれて、上方を見たら既にそこにあのデカブツがいたんだ」
彼女の言う通り、雲の中にはシン達が遠目で見た巨大な蛇のモンスターの身体があった。雲の上へ移動したのか、はたまた空を飛び始めたのかと、釘付けになる視線を無理やり剥がし、海の方を見渡す。
するとどう言うことか、海の方にも同じような蟒蛇の姿があり、依然として海上の海賊船による砲撃や魔法の攻撃を受けていた。
「これは俺の見間違いか?もしかしてあの巨大なモンスターは二体いる・・・?」
「どうだろうな。身体の色や模様、鱗なんかに違いは見当たらない。あまりの巨体で海と空を繋いでいるのかもしれない・・・」
あまりにも想定外のレイド戦。これ程大規模なものは、シン達も経験したことがなかった為、例えこれがゲームの中の話であっても、一体どこから手をつけていいのか分からず、ただただ呆然としてしまう。
そんな彼らの後ろから、何処に隠れていたのかと言うほど静かに現れたデイヴィスが、遅れて来た後続組がまずすべき事を、呆然とし開いた口が塞がらない二人に話し始める。
「まずは先に戦っている連中の動きを見るんだ。どれだけ先に到着してたかは知らねぇが、少なくとも俺達よりはあのモンスターのことを知ってる筈だ。何か戦い方や弱点なんかを掴んでいる奴がいても不思議じゃぁねぇ」
先人の知恵というにはあまり時間の経過はないが、先に戦闘を初めている彼らがシン達よりも知識を得ているのは当然のこと。しかも、あの中にはデイヴィスのかつての部下や友人達もいる。
情報を共有出来る者がいるということは、シン達にとって同じスタートラインに立てるチャンスだ。これ程大きな標的であれば、遅れて来たシン達にもダメージを稼ぐ余地は十分過ぎる程あるだろう。
だがデイヴィスが気になっているのは、エイヴリーやキングがいるであろう中で、未だに討伐や撃退が成されていないことにある。これまでのレースの経験上、最後の関門であるレイド戦は、その殆どがエイヴリー海賊団やキングのシー・ギャング、そしてチン・シーの大船団により、先に討伐や撃退されていることが多かった。
稀にレイドモンスターが残っていることがあるが、それは彼ら優勝候補の海賊達が、これ以上ポイントが必要ないと判断し、早々にゴール地点を目指してしまうケースの場合だけだった。
故に、レイド戦で彼らと共闘することなど皆無に等しい。この光景自体が非常に珍しいことであることを、レース初参加のシン達は知る由もない。
「まずはロバーツの海賊船を見つける。もし見つからないなら、フィリップスの海賊船でもいい。見張りはここで終わりだ。これからは俺が甲板で周囲の状況を見る。それにアイツら海賊船は俺やシンプソン達じゃねぇと分からねぇだろうしな」
「分かった。この先はアンタに任せるよ。何かあったら呼んでくれ」
彼女にしては随分とあっさり引き下がったなと、不思議に思っていたシン。デイヴィスの前でその真意を聞くことはなかったが、見張りを任せ船内へ戻るミアへついていくことを彼に告げ、シンは再び船の中に戻る。
操舵室へ向かっているのか、その道中足取りを遅くした彼女が、後からついて来ているシンと合流し、デイヴィスの指示に従った訳をシンに話してくれた。
「君は表情に出やすいな・・・。そんなに私がデイヴィスの指示に従ったのがおかしかったか?」
「気づいてたのか・・・。いつも気が強いミアが珍しいなと・・・」
「そんな風に思ってたのか?まぁ、何も難しい話じゃないさ。レースのことや身内との連携を何も知らない私らよりも、彼がやった方がスムーズだろってだけのことだよ。・・・それに・・・」
顔を背け視線を泳がすミア。何かを言いかけたのだろうが、今シンにそれを伝えるべきではないと判断したのか、彼女は口を噤んでしまいそれ以上は語らなかった。
「それに・・・?」
「いや、何でもない。それより君も準備をしなくていいのか?彼をキングの船に連れて行くのは、そのアサシンのスキルでだろ?くれぐれも見つからないようにしてくれよ。面倒ごとを持ち込んでの旅は危険だからな」
「あぁ、分かってる。気をつけるよ・・・」
ミアは心配していたのだ。それはシンの身を案じてのこともあるが、何よりもこれからの三人の旅を危惧していたのだ。彼女はまだ誰にも話してはいないが、今体験しているこの奇妙な現象に、現実の世界以上の充実感を感じていた。
いつ終わるか、いつまで続くか分からない旅だが、例えこれが良くないことへ向かうものだとしても、一度こんな体験をしてしまっては、目を背けたくなるような現実には戻りたくなくなってしまうものだろう。
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